いきなりステーキが人手不足と無縁なワケ

プレジデントオンライン / 2019年3月20日 15時15分

「いきなり!ステーキ」海外1号店でステーキを食べる米国人男性=2017年02月23日、アメリカ・ニューヨーク・マンハッタン(写真=時事通信フォト)

急成長を遂げてきた「いきなり!ステーキ」で客離れが起きている。既存店売上高が昨年4月から9カ月連続で減少しているのだ。この業態は廃れてしまうのか。フードアナリストの千葉哲幸氏は「これまでの数字が良すぎた。同社は他社が苦しむ人手不足とは無縁で、まだ成長余地はある」という――。

■鳥貴族と同じ理由で、いきなりの客離れ

ペッパーフードサービスが運営する「いきなり!ステーキ」は、肉ブームに乗って急成長、急拡大を続けてきた。ところが、最近になってその勢いが衰えてきた。2018年12月の月次報告によると、既存店売上高が前年同月比で13.8%減、2018年4月から9カ月連続で減少している。

客離れの最大の原因となっているのは、やはり値上げだろう。かつては1g当たり5円程度だったのが、最近は6.9円くらいにまで上がってきている。基本的な300gの価格でいうと、1500円から2070円にまで上がったことになる。「うまい、安い、早い」といわれた「いきなり!ステーキ」だが、いくらステーキでも2000円超えは「安い」とはいえないのではないだろうか。

かといって、仕入れ原価などが上がってきている中、値上げすること自体は避けては通れず、安易に戻すわけにもいかない。仮に価格を元に戻しても、提供する肉の質が下がれば、「昔のほうが美味しかった」と長期的な客離れを招きかねない。ちなみに焼き鳥居酒屋の「鳥貴族」も同じように値上げで業績を落としており、同社も価格を戻す動きはない。

■人手不足の飲食業界で採用に困らないワケ

人口減少社会になった日本では、薄利多売のシステムで長続きすることは難しい。長期的に成長していくためには、値上げと共に付加価値を生んでいくことが必須だ。一時的に売上は落ち込むだろうが、「今は耐え時」といえるだろう。

実際、ペッパーフードはこれまで何度も危機に直面したが、そのたびに一瀬邦夫社長のもと、創意工夫によって乗り越えてきた経緯がある。一瀬社長は「危機感もまた、私にとって前に進むためのエネルギー」と語っており、現在の既存店の数字については、「前年が絶好調だったことの反動が大きい」と言っている。つまりそれだけ2017年の数字が良すぎたということでもあり、「いきなり!ステーキ」は急成長のフェーズから安定期に入りつつあるわけだ。

飲食業界は総じて流行り廃りのサイクルが早く、どこも慢性的な人手不足と物件探しに苦しんでいる。しかし、「いきなり!ステーキ」はそのいずれにも困っていない。人材募集の説明会を開けば参加者の90%以上が応募するなど、就職市場での人気は非常に高い。なぜなら、月給50万円保証を謳ったり、採用時に30万円の支度金を用意したり、さらには入社後のベースアップも早いなど、待遇面が充実しているからだ。

■「いきなり!アイス」発売の真意

また、経営企画室の新設や「いきなり!ステーキ」事業部の拡大など、組織改編にも取り組んでいる。これによって新たなポストや管理職が多く生まれ、昇進・昇格が早いことも社員のモチベーションにつながり、採用面での強み、会社の活性化になるわけだ。

物件についても、デベロッパーや小売業から出店要請が絶えず、2018年は200店以上も出店した。19年もペースは落とさず、210店を計画しているという。こうしたポテンシャルを考えれば、「いきなり!ステーキ」にはこの先、まだまだ成長の余地があるといえるだろう。

業態自体も進化を続けている。私は「業態は生き物である」が持論だが、それだけ多種多様に変わっていくのが飲食業界である。ペッパーフードサービスもこれからはステーキだけでなく、様々な業態にチャレンジしていくのではないだろうか。

例えば、昨年末から一部の店舗で「いきなり!アイス」という商品を販売し始めた。同店初となるデザートメニューだが、これは単なる商品ラインの拡大ではなく、新しい業態を想定してのことだと一瀬社長は語っている。これがもし大ヒットするのであれば、アイスクリーム店を始めることになるかもしれない。

■「肉の仕入れルート」を生かさない手はない

店のスタイルも、これからは立ち食い形式だけでなく、着席して食べるローテーブルも導入していくだろう。既に都心の店舗では始まっており、滞席時間が長い分、客単価は既存店の倍以上の5000円前後を想定している。アペタイザー(前菜)から始まりデザートまで楽しめる、いわばアッパーステーキレストランのディスカウンターのような新しい業態を検討しているようだ。さらには、フィットネスクラブと組んで、レストランとマシンルームを同一店内に設置するアイデアもある。体作りに必須な良質のたんぱく質を、トレーニング後すぐに取れるようにしようという、これもまた今までにない新しいスタイルの店といえるだろう。

個人的な意見を言わせてもらうならば、肉の切り落としなどを活用したビーフシチュー店などもアリなのではないかと考えている。肉の仕入れルートは既に確立しているのだから、それを活用しない手はない。

出店ペースが非常に速いことを懸念する声もある。しかし、売り上げが良くない不採算店舗を、こうした新業態の店に切り替えていくような戦略を採ることもできるだろう。業態が違えば客層も違う。同じチェーン同士で客を取り合うことにもならずに済むはずだ。

■海外での飛躍に必要な一手は何か

もちろん競合もいる。しかしそれは、既存のステーキチェーンなどではなく、例えばダイニングイノベーションが運営する、1人焼肉の「焼肉ライク」などだ。同店は1人で焼肉を楽しむという、これまでになかった新しい需要、新しい市場を開拓し、成長・拡大を続けている。「いきなり!ステーキ」もまた、立食スタイルの「俺のシリーズ」からインスピレーションを得て、高級品であるステーキを安く手軽に食べるスタイルを新しく生み出した企業であるから、ライバルも同様に、新しい業態を開発できる企業になってくるだろう。

「いきなり!ステーキ」は、これまで海外展開も積極的に進めてきた。2018年9月に米国ナスダック市場に株式を上場し、米国内に11店を出店している。立ち上がりは鳴り物入りであったが、不振店が顕在化したことで、7店舗を撤退し、残り4店舗のうち2店舗を「ペッパーランチ」に転換することを発表している。「いきなり!ステーキ」の海外展開の構想は修正が迫られている。

ペッパーフードサービスという会社自体、「いきなり!ステーキ」によって飲食チェーンとして一段上のステージに上がった印象がある。これからさらに成長していくためには、「いきなり!ステーキ」に並ぶもう1本の柱を作る必要があるだろう。

(フードアナリスト 千葉 哲幸 構成=衣谷 康 写真=時事通信フォト)

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