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作家に学ぶ、働きながら自分の本を出す法

プレジデントオンライン / 2019年3月22日 11時15分

ある程度、職場の環境には慣れた頃「仕事とは別に、もっと学びたい!」「自分の経験を生かして、誰かの役に立つことがしたい」。そんな想いを抱えたまま働いている女性は決して少なくないだろう。そんな女性たちの向上心溢れる想いを具体化するための、実践的なノウハウを教えてくれる場がある。それが、大人の学び舎「自由大学」だ。

■向上心溢れる女性の学び舎「自由大学」

欧米で始まったデザイン家具のカルチャーを日本に根付かせた、「IDEE(イデー)」創業者の黒崎輝男が、イデー代表を退任後、「物質的には十分豊かになったこの時代に必要なのは学びである」として、「自由に学び、自由に教え合う組織」を目指す「自由大学」を構想。この構想に賛同した若者数名が創立コアメンバーとなって、2009年6月に東京・世田谷区池尻で開校したのがはじまりだ。(2014年より現在の表参道へ)

ここでは、ひとつのテーマについて1回90分・全5回で学ぶ講義スタイルで、これからの生き方や働き方などをテーマにした、ユニークで実践的な講義が行われている。受講可能な講義概要は自由大学HPのトップページで随時更新中。各講義の教授は、テーマになっている働き方や生き方に関して実績のあるプロが務めているため、専門的なスキルが身に付きそうだ。

早速、働く女性の受講率が高いという2つの講義を体験受講してみた。前編では「自分の本をつくる」講義の受講レポートをお届けする。

■10万部作家が教える「自分の本をつくる方法」

講義「自分の本をつくる方法」 教授 深井次郎さん

本来は1回目から受講するのが決まりだが、特別にお願いして、第4回目と5回目の講義に参加させてもらった。この講義の目的は、文字どおり、受講生が本を書いて出版するためのノウハウを身に付けることにある。教授は、自由大学の総合ディレクターとして創立時から関わってきた深井次郎さん。「自由の探求」がテーマのエッセイ本「ハッピーリセット」など、累計10万部の著作を持つプロの作家だ。自由大学で、出版に関する講義を担当して10年になる。

講義室に入ると、どんと置かれた大きな長机を囲んで、15人ほどの受講生が講義の始まりを待っている。不思議な緊張感が漂っており、私語もなく、全員が同じ冊子に真剣な表情で目を落としていた。

何の冊子かと尋ねると、この講義のために深井さんが作ったオリジナルテキストだという。

見せてもらうと、「本は5冊以上でないと書店で平積みされないので、必ず5冊以上納品してもらう」に始まり、「具体的な事前告知の方法」「出版後、最も押さえるべき書店名」など、本を出すことはもちろん、出したあとに、最低限1度は重版がかかるための実践的な教えと情報が詰め込まれている。この教科書をもらえるだけでも、授業料を払う意味がありそうだ。

受講者のほとんどは20~40代の女性で、職種はさまざま。「既に何冊か料理の本を出しているが、どうしても出したいタイ料理のレシピ本の企画が出版社で通らないので、企画書の作り方を学びに来た」という人もいれば、「本は作りたいが、テーマはまだこれから」という人もいて、本作りの経験値も各人各様だ。

■完全オリジナル教材で学ぶ「心を動かす表現」

時間になり、深井さんが教室に現れ講義が始まった。冒頭は質問タイムだ。「インタビュアーへのアポの取り方は?」に始まり、「出版社へ提案書を持ち込む方法は?」「印税はどんなしくみになっている?」など、一人ひとりがぶつける疑問に、深井さん自身の経験に基づいた具体的で実践的なアドバイスが送られる。

質問が止むと、「今日は20ページから」と講義がはじまった。今回の講義のテーマは「心を動かす表現を生み出すには」。テーマに沿って、効果的な表現の型や、出版社への提案書づくりのコツが紹介されていく。

「一番重要なのはタイトルと出だし。当たり前ですが、1行目が面白くないと2行目は読んでもらえません。一行目はなるべく短く、食べやすく!」など、文章作りの基本から話が始められる。そして、「僕が素晴らしいと思った1万5000冊の本を独自に分析した結果、本のタイトルは『問いかけ系』『勝手に決めつけ系』『チラリズム系』などの、12パターンに分類できることがわかりました。今回はそれらの特徴と例をご紹介します」など、ここでしか聞けない本づくりの貴重なノウハウが惜しげもなく披露されていく。

紹介する書籍のタイトルがユニークだと、深井さんが「これは気になっちゃうでしょー!」や「これ何!?」とツッコミを入れながら話を進めるので、そのつど教室内が笑い声に包まれた。誰もが真剣だが殺伐とはせず和やかな雰囲気に包まれているのが、この講義の特徴であり魅力になっている。

個人的にも勉強になり、大きくうなずかされたのが、「書き始める前にまず、これから書こうとする内容を1行で、“問いと答え”に整理してみてください。その1行を睨んでみれば、それを膨らますことで面白くなる話なのか、本当は書く必要がない内容なのかが分かります」という「QA法のススメ」。書き始める前にその内容の是非をチェックできる。これは本づくりに限らず全ての企画について、形にする前に「本当に形にすべきかどうか?」を判断できる良い手法である。

こんな風にして、最後まで、内容が濃くて学びの多い講義が、明朗な声でスピーディに続けられた。印象深かったのが、参加者たちがメモを取る音だ。「自分が受けたいからお金と時間を使って学びに来た」という本気の姿勢がひしひしと伝わってくる。

第5回の講義が終わり、トイレ休憩。だが、誰一人教室を出る者はなく、休憩時間も、黙々と教科書のページや発表資料を繰っている。

■第6回は発表会! 最終講義が本づくりのスタート

最終第6回目の講義は、受講生たちが、それまでの授業で固めた「作りたい本の概要」と「本作りに向けての今後3カ月の作業計画」を、皆の前で話す発表会だ。

マインドフルネス、英会話、料理、キャリアの作り方など、作りたい本のテーマや内容は各人各様。発表を聞いていると、なんと、この講義を受けるために沖縄から来た! という受講生もいたので驚いた。

中には、先ほどの深井さんの講義を聴いて、考えていたテーマが本当に本にするべきものなのか迷いが生じた受講生もいたようだ。「まとめた資料がここにあるんですが……今日の第5回目の講義を受けて、このままでは発表できないなと思いました。これから1カ月ほどかけて、あらためて自分のこれまでの経験を棚卸しし直して、3カ月後までに、新たな概要書を作り直してきます」。こう述べた受講生に対して、他の参加者からエールの拍手が送られた。

スタート地点に戻って出直すことになったようだが、真剣に講義に向き合ったからこその決断だったのだろう。ちなみに、この講義では、終了した後も、過去の受講生を含むコミュニティが作られており、その後の作業の進捗にフォローやアドバイスをもらえる機会も確保されている。

すべての発表が終わり、深井さんから受講生一人ひとりに卒業証書が手渡され、そのまま横の部屋で打ち上げパーティが始まった。講義前や休憩中の静けさと打って変わり、みんなよく喋り、よく笑う。

■書くことは「小さな社会貢献」にもなりうる

どのような想いで10年間も講義を続けてきたのか? 深井さんに話を聞いた。

「書くことは、誰かの役に立とうと願う行為。贈与であり、小さな社会貢献にもなりえると思っています。大きな社会貢献は難しくても、書くことなら誰にでもできますよね。例えばあなたが勇気を出して告白した失敗談で、まだ会ったことのない遠い街の誰かが少し笑顔になったりする。ぼくはそういう贈与精神であふれる出版界であって欲しいんです。SNSによって一億総作家の時代になりましたが、誰かの幸せを心から願って書く人が増えれば、増えた分だけ、世の中がさらに明るくなるのではないでしょうか。いきなり本作りはハードルが高いという人も、ぜひSNSやブログで、自分の経験や誰かの役に立ちそうなことを、文章にしてアウトプットすることをおすすめします。キーワードは、“誰かのためのアウトプット”です」

今までの自分にとっては当たり前の経験や興味の積み重ねを、誰かのためになればと、文章にしてアウトプットすること。それが思いがけない力になって、自分自身の人生だけでなく、見ず知らずの誰かの人生も豊かにする。前向きに学ぶ姿勢と新しい環境に飛び込む行動力さえあれば、そんな未来を作ることが誰にでも可能になるんだと実感させてくれる講義だった。

(浅田 喬子)

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