残業禁止に不満タラタラな人の「言い分」
プレジデントオンライン / 2019年4月4日 9時15分
■仕事時間が短くても楽しむ方法
部下を残業させるな、働き方を変えろと言われ、困惑している管理職の方がたくさんいらっしゃいます。ただ、意識の持ち方さえ変えれば仕事のやり方も一新するのかと言えば、そんなこともありません。人間は環境が変わらなければ、意識も変わらないものだからです。実際、仕事のやり方は変わっていないという方もいらっしゃるはずです。
たとえば会議時間を減らしたいとします。いくら会議を減らせ、効率的に会議をしろと号令しても、会議を主催する人は「自分の会議は大事だ」と思っています。ほかの人が「その会議は不要だ」と言えば、主催者は「この会議の意味がわかっているのか!」と怒るでしょう。ほかの人も嫌われたくないからと仕方なく参加します。その結果、会議の数も時間も従来と変わらないのです。
一番効果が出るのは、夜中のうちに経営者が指示して会議室を半分に減らすことです。いままで10部屋あった会議室を5部屋に、半分なくしてしまうのです。朝社員が出勤すると会議室が半分になってしまっていて、仰天するわけです。これは工夫するしかないと思うでしょう。
働き方改革も同じです。残業させるな、効率的に働けと、ただ言っていても何も変わりません。一番効果があるのは、たとえばノー残業デーを週1日から3日に増やすことです。社員みんなが、いままで週4日は残業できたのに2日しかできなくなった、どうしようと考えはじめ、その結果働き方にイノベーションが起きるのです。
働く時間が減った分、何をやって何をやらないかの選別も必要になってきます。それは常に考えなければいけません。僕は若いころ上司から仕事を頼まれたら、「この仕事はなぜ自分がやらなければいけないのか」「何が仕事の目的なのか」を徹底的に考え抜きました。それで目的や、やる理由が腹落ちしたら、今度はどうやったら最短でできるかを考えます。自分の案を考えたあとで先輩にいままでどうやっていたのかを聞く。自分の手法と先輩の手法を比べて、自分のほうが勝っていれば「よっしゃ勝った。1勝や」と、先輩のほうが優れた手法だったら「1敗。まだまだやな」と自分で星取表を作っていました。これをやりはじめると仕事が楽しめるようになるのです。「今日は3勝1敗や。ちょろいな」とかね。
■残業禁止で、やりたい仕事ができません
会社は2020年の自動運転実用化の達成を目指すと宣言しています。その実現に向け担当分野で全力を尽くしたいのですが、22時になると帰れと言われてしまいます。もっと働きたいです。
【回答】
その働き方は自己満足にすぎません。開発など頭を使う仕事は1日に2時間×3~4セットが限界です。これは世界の脳科学者が解明しています。たしかに仕事に長時間没頭したり、徹夜したりすると達成感は得られます。しかし、これは脳がホルモンを出して脳自体を守る仕組みで、モルヒネに似た「幸せホルモン」が脳を麻痺させているのを達成感と勘違いしているだけ。実際、どれだけ創造性につながっているかは大いに疑問です。
米国のシリコンバレーで開発の仕事に携わっている人と話していると、「30年間、毎日3時間以上働いたことはない」とか「5時間以上働くのは無理だな」と言う人がたくさんいます。創造的に働いている人の実際の労働時間は意外と短いのです。まずは、脳科学の見地からもっと脳の使い方を学んでほしいですね。
また、働く時間に制限を設けることで、仕事の生産性を上げ、自分の成長につなげることもできます。何年かけてもいいから自動運転の開発をしてくれと言われたら一生実現しません。人間、制限を加えられるから、仕事のやり方を工夫する。そうでなければ仕事のやり方は変わりません。人間は基本はナマケモノで、何も変えたくない動物ですからね。
■部下が正解しか求めず、なかなか成長しない
部下を早く帰さなければならず、仕事を任せるときにやり方の答えを細かく教えるようになりました。部下も毎回答えを求めてきます。本当は自分で試行錯誤するなかで成長してほしいのですが、余裕がありません。
【回答】
管理職失格ですね。早く辞表を出したほうがいい(笑)。部下に残業をさせられなくて、部下を育成する時間がなくなったというのでは管理職の本分を果たしていません。使える時間のなかで時間配分するのが管理職の仕事ですから。
管理職に余裕がないのは、上司が「無限大」の幻想にとらわれているから。時間は無限で、部下もいっぱいいる。どんどん仕事を頼んだらいい。これが無限大の幻想です。そんな上司に「考え方が間違っている」と言っても理解できないでしょうから、こちらも「無(む)・減(げん)・代(だい)」の作戦で対抗します。
何をするかと言えば、まずは上司の指示を「無」視する。上司は思い付きで話していることも多いので、同じことを3回言われるまで無視してみる。それでも指示されたらその仕事の量を「減」らします。10枚のレポートも、2枚で十分だと思うなら2枚に減らすのです。そして最後の「代」は使いまわし、代替です。資料をゼロからつくるのではなく、極力以前作成した資料を使う。もしかすると日付だけ替えて流用できる場合もあるかもしれません。この「無・減・代」で自分の仕事の時間を3割カットできれば、その時間を部下の育成に使えるはずです。
■一斉退社で社内の飲み会が増えました
会社で一斉退社の時間が設定されました。そのため上司や先輩と一緒の時間に会社を出ることが増え、その流れで飲み会に誘われることが増えました。本当はあまり行きたくないのですが……。
【回答】
嫌な飲み会はどんどん断ればいいんです。断ると出世に響くような会社なら辞めて、転職するほうがマシです。そんな会社はいるだけ無駄でしょう。現在は団塊世代が毎年200万人退場するのに、新社会人は90万人しかいません。相当な労働力不足が起きているので、辞めてもすぐに次の仕事が見つかりますよ。
頻繁に飲み会に誘う上司や先輩にも問題があります。就業時間後のコミュニケーションは残業そのもの。根本的に考え方が間違っています。僕の場合、仕事で部下と一緒に移動するときやランチの機会にコミュニケーションを取っていました。あとは「困ったら相談に乗るよ」と言えば十分。わざわざ飲みニケーションを設ける必要はありません。
このグローバル化の時代、会社にはさまざまな文化や習慣、思想を持った人たちがいます。たとえば部下がイスラム教徒だったらどうしますか。もちろん部下をよく観察して、飲みたがっているとわかれば連れていくのはかまいません。けれど部下のなかにお酒が飲めない人がいる、あるいは上司と飲みに行くのが嫌な人もいるというごく当たり前の想像力を欠いた人は即刻、管理職を辞めたほうがいいと思います。
■トラブル対応で毎週土曜日に出勤
システムを導入したクライアントからの対応に追われています。チームメンバーには残業上限以上に仕事を頼めないため、結局自分でやって平日は終電かタクシー帰宅。土曜日も毎週出勤しています。
【回答】
クライアントの要求は100%のまなければいけないと勘違いしているのではありませんか。仕事のできる人で、クライアントの言うことを1から10まで聞いている人はいません。できないことはできないとハッキリと言えばいいのです。これはボーイフレンド、ガールフレンドの関係とまったく一緒。相手の要求を100%聞けばいい関係がつくれるわけではありません。当面はいいかもしれませんが、そのうち人間関係が壊れてしまいます。嫌なことは嫌と明言してはじめていい信頼関係が築けるのです。
チームメンバーに仕事を頼まず、自分で対応しているという仕事のやり方も管理職失格です。それではプロジェクトの先行きを考える時間も、部下を育成する時間もなくなってしまいます。先ほどお話しした「無・減・代」の手法でいまチームで抱えている100の仕事を今後も継続しなければいけないのかを洗い直すことをお勧めします。100の仕事が90、80に減れば、その分余裕が生まれます。
部下に仕事を振れないから自分が仕事を引き受けるのは、無・減・代ができないと自ら白状しているようなもの。管理職としては問題です。いまからやり方を変えてください。
※相談者の名前は仮名です。
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立命館アジア太平洋大学(APU)学長
1948年、三重県生まれ。京都大学を卒業後、72年、日本生命へ入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2008年に退職。同年、ネットライフ企画(現ライフネット生命)を設立。社長、会長を務め、17年に退任。18年より現職。
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(立命館アジア太平洋大学(APU)学長 出口 治明 構成=Top Communication 撮影=大槻純一)
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