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"全員号泣"中目黒の保育園のすごい運動会

プレジデントオンライン / 2019年5月4日 11時15分

コビープリスクールかみめぐろ(撮影=石橋素幸)

運動会のフィナーレで、園児、保育士、保護者の全員が号泣するという保育園がある。全国で32施設を運営し、約3000人の子供を預かるコビーアンドアソシエイツでは、職員がプロとして運動会を準備する。そのため保護者に手伝いを求めることはない。ノンフィクション作家の野地秩嘉氏は「現場には感動があった」と語る――。

■「割れる食器」だから大切に扱うようになる

保育施設「コビープリスクールかみめぐろ」は東急東横線中目黒駅から歩いて12分の場所にある。通っている子どもは生後57日の乳児から就学前児童までの85人(2019年2月現在)。朝7時15分から夜の9時まで保育している。

施設の特徴をひとことで言えば、「大人が働いているところより、はるかにいい環境」であり、しかも、子どもたちは大人より、いいものを食べて一日を過ごしている。

同園をはじめ、全国で32の保育施設を運営し、約3000人の子どもたちを預かるコビーアンドアソシエイツ(以下、コビー)の代表取締役、小林照男は「子どもたちには“ホンモノ”が必要です」と言う。

「食事は栄養バランスはもちろん、本物のおいしい料理を食べてもらいます。当グループのシェフは銀座東急ホテルの総料理長でした。本物の料理を作ってきた人です。また、食器も、陶器やガラスです。プラスチックではありません。陶器やガラスだから落としたら割れます。だからこそ子どもは食器を大切に扱うようになる。当グループではおいしいものを食べて“ホンモノ”に触れて、感性を磨く保育、教育をしています」

■保育士は“カッコいい大人”でなければならない

コビープリスクールよしかわステーションの節分行事食(写真提供=コビーアンドアソシエイツ)

ガラス張りの調理室は「キッチンスタジオ」と呼ばれ、子どもたちは調理風景を間近に眺めることができる。そこからいい香りが漂いはじめると、冷たいものは冷たく、熱いものは熱いうちに、厳選食材を使った料理が提供される。大企業に勤めるビジネスパーソンでも、これほどしっかりと毎日食事をとってはいないだろう。日々、ジャンクフードとコンビニ弁当で生きている大人にとっては理想の食事がそこにある。

保育士たちはシャツにチノパンという制服を着ている。加えて女性保育士は自分の好きな色とりどりのスカーフを巻いている。エプロンやジャージーも持っているけれど、ずっと着ていることは許されていない。そして、園長はジャケットを着用している。

「子どもは毎日、一緒にいる保育士たちを見ています。だから保育士は“カッコいい大人”という存在でなくてはならない。ですので、コビーではみんな一日中ジャージー姿で過ごすのではなく、きちんとした服を着て保育をしています」(小林)

ほかにも、コビーの各園では「“カッコいい大人”である先生がお手本」だ。

たとえば食事の際、保育士の先生だって、嫌いなものはある。しかし、お手本だから残したりはしない。

「うわぁ、ピーマンっておいしいなあ。先生はピーマンが大好きだ」と言いながら食べる。すると、ピーマン嫌いの子どもたちも少しは食べてみようという気になる。

「残さないように食べなさい」と叱っても、子どもは嫌いなものを食べようとはしない。

■お昼寝スペースには蚊帳、壁面には植物

また、あいさつでも保育士は子どもたちの手本だ。子どもたちの前では両手の指をピシッと伸ばし、ほぼ直角に頭を下げる。すると、子どもたちは真似をする。

コビー各園の保育士は子どもが「ああいう大人になりたい」という存在でなくてはならない。そういう保育士を育てるのがコビーの方針なのである。

そして、このほかにもチャレンジングな試みをいくつも導入している。

毎日、子どもたちの様子を写真に撮り、玄関にある大きなモニターで見せる。保護者が迎えに来たときにそれを見れば子どもが園で過ごしていた様子がわかる。

お昼寝スペースには蚊帳を吊って、子どもが安眠できる環境を整えている。各室の照明にも配慮し、朝の明かり、昼寝の明かり、夕方の明かりと、時間ごとに変えている。朝の明かりは外光が十分にあるので、最低限に。昼寝の明かりは、お母さんの子宮の中のようなイメージで薄暗く。夕方は、外が暗くなり寂しさが出てくるので、明るめにして、子どもが寂しさを感じないように……。

園庭がない代わりに、室内の壁面には本物の植物を植え、水を循環させるシステムを整えている。

大人が過ごすスマートオフィスよりもはるかに居心地のいい空間であり、環境だ。

■子どもと同じ気持ちになって感じる

コビーアンドアソシエイツの小林照男代表(撮影=石橋素幸)

小林代表は「保育現場の仕事で重要なのは共感です」と言う。

「子どもが何か感じたとき、もしくは表現しようとしているときに、そばにいる大人(保育士)がそれを見守るのではなくて、子どもと同じ気持ちになって一緒に感じたり表現したりすることです。それが子どもと大人(保育士)の『共感』なんです。同じ気持ちになること、それができる環境にすることがわたしの仕事でもあります」

小林は「いちばんわかりやすい例が運動会です」と断言する。

「わたしは運動会(コビースポーツフェスティバル)の打ち合わせの際に保育士たちに強く言います。『いいか、真剣にやるんだぞ』と。『遊びじゃないぞ』と。

大人(保育士)は、仕事として運動会に臨んでしまい、その感覚で運動会を行いがちです。そして仕事を優先させてしまい、『子どもと共感する』ことを忘れがちになる。それではダメだ、気持ちと覚悟だと……」

保育園や幼稚園の運動会と言うと、いい意味でほのぼのした雰囲気、悪い意味でゆるい雰囲気をイメージしてしまう。しかし、コビー各園の運動会では保育士の気合がまったく違う。

■運動会のイメージを「最高の思い出」にする

保育士がエンジンで気合を見せつける(写真提供=コビーアンドアソシエイツ)

「わたしが保育士の表情、姿勢、立ち位置、目線の向け方、競技に参加していない者の座り方、さらにはマイクの持ち方、そこに流れる音楽まで綿密に指示し、チェックして運動会に臨みます。運動会はもっとも子どもと保育士が共感できるイベントですから、それを盛り上げるように演出しています。

たとえば、競技やダンスごとのフィールドの準備、用具出しやライン引きはすべて保育士が行います。一般的には両親に手伝ってもらうところがほとんどです。ですが、当園ではライン引きにもプロの手際を要求していますから、運動会プログラムの合間に用具出し、ライン引きをしているのを保護者に見ていただきます。すると、あまりの手際のよさに、保護者から拍手をいただくこともあります」(小林)

コビーの各園の運動会では開会の数十分前から、保育士が円陣などで気合を見せつける。気合十分の保育士のパフォーマンスもプログラムに入っている。閉会後は帰宅する園児、保護者を全員で見送る。最後の一人が見えなくなるまで、徹底的に見送る。会場の後片付けは見送りがすんでから行う。裏方の作業を見せずに、運動会のいいイメージを「最高の思い出」、お土産として持ち帰ってもらうためだ。

■住宅メーカー社員「サービスの原点を見させていただいた」

コビープリスクールの運動会(写真提供=コビーアンドアソシエイツ)

「運動会では、幼い子どもたちが感情をストレートに表現します。そこに一緒にいて共感するのが保育士の仕事であり、共感する場がわたしたちの仕事現場なんです。

ですから『一緒に悔しがって、一緒に喜んで、そして最後には、一緒に感動して涙を流せるように仕事をしよう』という言葉が生まれてきました」(小林)

わたしも一度、見学したことがある。確かに、わたしの子どもたちが通っていた保育園とは少し違うのが同園の運動会で、フィナーレでは園児や保育士、保護者が号泣していた。これは聞いた話だけれど、数年前には、運動会を見に来たおじいちゃん、おばあちゃんが感激して、翌日、感謝の手紙とともに保育園のポストに現金5万円を寄付してきたという。

保育園の運動会が人の心を動かしたわけだ。もうひとつ、運動会を見て、感動したビジネスパーソンもいる。見学後、ある住宅メーカーの社員は「ここまでやるかというサービスの原点を見させていただいた」と園に手紙を送ってきた。地元銀行の支店長は「ほかの保育園にはない、コビーの強さですね」と感想を漏らし、ついでに同園に「融資させてください」と言ってきた。

コビーの現場には感動がある。保育、教育は知識の移転でもなければ、毎日同じことをくり返すことでもない。心がふるえる一瞬をみんなで一緒に体験することが本当の保育であり、教育だ。(敬称略)

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野地 秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。

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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉 撮影=石橋素幸 写真提供=コビーアンドアソシエイツ)

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