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新しい「経済圏」が日本にこそ必要な理由

プレジデントオンライン / 2019年4月25日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/metamorworks)

消費者が主体的に参加するデジタル経済圏「トークンエコノミー」が、世界で注目を集めている。だが日本は、仮想通貨への規制が強化され、乗り遅れ気味だ。日本ブロックチェーン広告協会理事長の高榮郁氏は「日本の独自文化の価値を高めるために、トークンエコノミーの導入は欠かせない」と説く――。

※本稿は、高榮郁『トークンエコノミービジネスの教科書』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■20年前から変わらない日本のビジネス手法

私たちがインターネットという技術に出会い、ワールド・ワイド・ウェブという入り口からウェブにアクセスできるようになって、約20年が経ちました。

1990年代に登場したインターネットによって、私たちは時間や場所から解放され、eコマース(電子商取引)サイトで買い物をし、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を利用して友人や有名人などさまざまな人たちと交流することができるようになりました。

さらに、10年ほど前に登場したスマートフォンによって、いつでも、どこにいてもつねにインターネットに接続できる環境が整ったことで、いまや私たちの生活の中でインターネットはかつてないほど身近なものとなりました。

ではその一方で、ビジネスの手法は、この20年間でどれほど変化したでしょうか。

テレビで放送されるCMや街中の屋外看板などでは、大手ブランドの広告だけでなく、アマゾンや楽天市場などのIT企業の広告も増えてきました。また、広告を掲載する場所にも新たにインターネットというメディアが加わり、いまやウェブサイトやスマートフォンのアプリを閲覧すると、たくさんの企業広告を目にします。

しかしこれらの広告は基本的に、企業から消費者に対して一方的に送りつけられるという形式であり、「企業→消費者」というマーケティングの構図は、インターネット以前の時代と大きく変化していません。

■世界ではトークンエコノミーが進行している

このような企業を主体とした一方向的なマーケティングを脱却する1つの手段として、ブロックチェーンを活用した、新たなデジタル経済圏「トークンエコノミー」を構築することがあげられます。

コインチェック事件などで、日本では仮想通貨(暗号資産)に対するネガティブなイメージが先行してしまいました。しかし世界では、医療業界、金融業界、広告業界など、非常に多くのジャンルでブロックチェーンを活用したプロジェクトが進行中です。

これらのプロジェクトでは、消費者の貢献度合いに応じて独自のトークンによるインセンティブを設け、消費者の積極的な参加を促す仕組みを用意することで、活発で持続的なプラットフォームが構築されています(これをトークンエコノミーといいます)。

■「ネム」盗難事件で法規制が厳格化

しかし、日本でブロックチェーンを活用したビジネスをはじめようとすると、資金決済法などのハードルがあります。

高榮郁『トークンエコノミービジネスの教科書』(KADOKAWA)

2018年1月に仮想通貨取引所のコインチェックから約580億円相当の仮想通貨「ネム」が盗難された事件を契機に、仮想通貨交換業者の登録が厳しくなりました。さらに、2019年3月15日に閣議決定された資金決済法などの改正案では、仮想通貨への規制強化がもりこまれました。

持続可能なトークンエコノミーを構築する際、発行するトークンが「法定通貨や他の仮想通貨(=トークン)と相互交換可能」ということは重要です。しかし、これを行おうとすると、資金決済法に従って、仮想通貨交換業者としての登録が必要になります。しかし、いまの日本ではその登録が簡単にはいきません。

一方で「日本円での売買は一切しない」というトークンであれば、資金決済法の適用外となり、この場合、仮想通貨の際に求められる登録は不要です。イメージとしては、JR東日本のSuicaや、セブン&アイ・ホールディングスのnanacoなどのような「電子マネー」の設計が近いでしょう。つまり、「法定通貨で購入し、決済手段として使用できるが、法定通貨へは交換できない」というトークンです。

※2019年4月時点のものであり、今後法律などが変更される可能性があります。

■日本は仮想通貨後進国になってしまうのか

といっても、これまた一筋縄ではいきません。資金決済法では「電子マネー」についてのルールも規定しており、設計によっては、内閣総理大臣の登録を受けることなどが必要になります。こうした手続きの煩雑さが、日本でのトークンエコノミーの発展を阻害しているともいえるのではないでしょうか。

本来は決済手段であるビットコインなどの仮想通貨が、投機の手段とばかり捉えられてしまったり、詐欺まがいのICOなどが横行してしまったりしたのは残念です。

しかしこのままでは、世界に先駆けて仮想通貨の先進国になっていた日本が、後進国に成り下がってしまうのではないか……と懸念を感じてしまいます。韓国や台湾、東南アジア諸国で、先進的なブロックチェーンプロジェクトが進められているにも関わらず。

ただ、海外の事例を見てみると、実は、日本にこそ適しているブロックチェーンを活用したビジネスの形がたくさんあると考えています。

■「おもてなし」にブロックチェーン技術

バブル崩壊後、日本が30年近くも低迷している間に、アジア諸国はすさまじい経済成長を遂げ、2018年の世界の手取り給与ランキングでは、日本は韓国(4位)にも負けて8位まで転落してしまっています。

最近の日本は、長年にわたる経済の低迷や、超高齢社会に向かう閉塞感などによって「負けグセ」がついてしまい、経済指標で周辺国に負けてしまうことに鈍感になっているのではないかと感じています。

現在、日本を含め世界では、18世紀後半の産業革命から2000年前後のITバブル時代を経て、ブロックチェーン時代に突入するという、大きなパラダイムシフトが起きようとしています。

昨今の日本の経済では、「効率化」や「コスト削減」ばかりが注目され、日本の経営者の多くは「何かを排除する」ことばかりに気を取られているように感じます。

しかし、ブロックチェーンが可能にするトークンエコノミーでは、そこに参加する人それぞれが互いの価値を評価し合い、それに対する対価を循環させる、「共生の経済圏」を確立することができます。

さらに、いま日本が力を入れている観光の分野でも、このトークンエコノミーの導入は欠かせません。トークンエコノミーの経済圏はトークンでの取引であり、ブロックチェーンを活用した場合、インターネットを通じての決済も容易です。そのため、外国からの観光客にとっても使いやすいといえます。

また、ブロックチェーンの技術を活用することで、日本の特徴である「こだわり」や「おもてなし」という、目に見えにくい価値が評価されやすくなるのではないかと考えています。

■評価されにくかったものの価値を高める

良くも悪くもガラパゴス化され、外部とは異なる独自の文化を生み出してきた日本。独自の文化であるがゆえに、国際標準では評価されにくいものや価値を測りにくいものがたくさんあります。

たとえば、京都の寿司職人が静かに握る寿司には、その平均単価をはるかに超える価値があると評価する外国人がいます。1980年代、ソニーの「ウォークマン」は一世を風靡しましたが、その古いタイプのものは、いまやリサイクルショップでも売れないのが現状です。一方で、「当時の定価以上の価値がある」と、トークンで購入する外国人もいるかもしれません。

そういったこれまで評価されにくかったものの価値を、ブロックチェーンを活用して、より高めていけるのではないでしょうか?

工業化によって封印された日本の「こだわり」の価値が、トークンエコノミーによって評価されていく――。このような世界は、ひとりでつくり上げることはできません。多くの人がトークンエコノミーの可能性に気づき、同じ志を持つ仲間を見つけ、試行錯誤を続けながらトークンエコノミーという新しい世界を開拓していく必要があります。

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高榮郁(こう・よんう)
ロケットスタッフ代表取締役
ソフトバンク系企業、MOVIDA JAPAN等を経て、2010年、ロケットスタッフを創業。スマートフォン向けマンガアプリを展開し、月間アクティブユーザー50万人のサービスへと成長させる。2018年1月、ブロックチェーンを活用したオンライン広告取引プラットフォーム「ACA Network」を立ち上げる。2018年7月、一般社団法人日本ブロックチェーン広告協会を設立し、オンライン広告業界のために活動中。

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(ロケットスタッフ代表取締役 高 榮郁 写真=iStock.com)

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