頭の良い人がいちいち英単語を覚えない訳
プレジデントオンライン / 2019年5月15日 9時15分
※本稿は、山口揚平『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■「輪郭」を明らかにすれば物事が理解できる
「物事を理解するとはその輪郭を明らかにすること」
これは私が絵の先生に教わったものだ。対象を正確に描くためには、対象そのものではなく、輪郭と周辺を描きなさいということを意味する。
輪郭を明らかにするためには4つの切り口がある(図表1上)。
2.対象がもたらす結果・意味を考察する
3.対象の下位概念を分解して、より具体的な内容を詳しく考察する
4.対象の上位概念、またはその上位から見つめた対象と同レベルにある対象物を考察する
今紹介したこの4つの切り口を、「英語」の輪郭をつかむことに応用すると、次のような方法が考えられる(図表1下)。
2.ネイティブの文章構成や発話を感覚的につかむことに注力する
3.分厚い文法書と辞書の内容を自分なりに整理する
4.ラテン語を勉強する。またはそこから分化した英語以外のインド・ヨーロッパ言語(スペイン語、フランス語、ドイツ語など)の違いの発見に努める
理想はこの4つの切り口をすべて考えること。それが英語習得の最短方法だと思う。何かを考えるときに最も重要なことは「垣根を設けないこと」である。
■頭の良い人ほど単語を覚えない
英語学習のつながりで話をすると、単語の覚え方に、「語源」から覚える方法がある。単語の根源的意味を知っていれば、知らない単語の意味も推察できる。
たとえば「sub」の意味は、「下(の)」である。「subway(サブウェイ)」の意味は、sub(下の)way(道)で「地下鉄」、「submarine(サブマリン)」は「海の下」で潜水艦、「subliminal(サブリミナル)」が「潜在(下の)意識」と類推できる。
さらに本質を考える人は、アルファベットごとの意味も知っている。
たとえば、bは存在や肯定、向上、成長などを意味し、dは欠乏や否定を表す。だから単語の頭にbが使われていれば、自然に「ああ、何か肯定的、前向きな意味なんだな」と感じることができるし、d~とくれば「なんとなく、悪い意味だぞ」と推測できる。抽象性は高いが、本質的であるからこそ応用がきくのである。
頭の良い人は、極めてメタ(抽象的)な本質をいくつか押さえており、そこから枝葉末節の問題を難なく解決してしまうものなのだ。
■本質を見抜くための「3つの要素」
メタ思考の最終的な目的は本質を見抜き、核心を突く代替案を見つけることである。では「本質的」とは何かと言うと、3つの共通する要素があることがわかる。
それは「普遍性(応用がきくこと)」「不変性(時が経っても変わらないこと)」「単純性(シンプルであること)」だ。こういった本質を押さえると、その後応用できる可能性が高くなる。考えたことが本質的かどうかについては、この3点を検証してみるとはっきりするだろう。もしも考えたことがこの3つの要素を持ちえない場合は、さらに本質的なものが存在することがわかる。
ここではこの3点について、もう少し詳しく説明しよう。
1 普遍性
普遍性とは応用がきくこと。ある分野についてその本質(原則)をつかんでしまえば、他の様々な問題は芋づる式に解決してしまうような解のことである。
2 不変性
本質は時が経っても決して錆びることがない。本質的思考によってつかみ取った答えは、過去、そして未来永劫に通用するものとなっている。明日の結論が今日の結論と違うのであれば、まだ思考が十分ではないという証しである。
3 単純性
ものの本質は、いつ何時も、とてもシンプルなものである。これは物事の本質を理解しようと努めるうえで非常に重要なことで、この世の中は一見複雑に見えても想像以上にシンプルで、本当の問題は最終的には1つしかないのだ。問題が2つも3つもあるということは、もっと考えるべきことが残っている証しである。
■違和感があるのは核心を突いていない証拠
3つの要素以外にもう一つ付け加えるとすれば、自分なりの思考の結晶を見て「ちょっと気持ち悪いな」と感じたら、まだ核心を突いていないということだ。その違和感は、「もっと先に到達可能な本質があるから、もう少し頑張れ」と教えてくれているのだ。逆に言うと、そうした違和感を感じ取る能力を持っていることが重要で、それがないと本質的な解を得ることは難しい。
以上が本質的に共通する要素であるが、自分がつかみ取ったものが「完全な本質(ものの真理)」でないからと言って、今の段階で気にする必要はない。もし何らかの世の中の本質をつかむことができればノーベル賞を受賞し、歴史に偉大なる功績を残すことができるかもしれない。だがまずは本質「的」な問題をつかむだけでも、思考を伴わずに行った短絡的行動に比べれば、圧倒的な効果が期待できる。
■表出的な問題への対策は「対症療法」にすぎない
多くの人は何らかの成果を挙げようとして様々な問題に対処しようとする。しかし、そうした問題は大抵の場合、テコで言う「支点に近い部分」に位置する表出的問題である。表出的問題への対策のことを対症療法というのだ。
メタ思考ではテコの支点からより遠い本質的問題に対して、したたかにメスを入れる。つまり、核心を突くということは「ここを変えれば最も大きく動くだろう」というレバレッジ・ポイントを見つけることである(図表2)。
レバレッジ・ポイントを見抜くことは、当たり前だが簡単ではない。ただ、そうかと言って表出的問題ばかりに手をつけるのもコスパが悪すぎる。
■目に見える問題にはできるだけ触れてはならない
目に見える問題は取り組みやすいが、それに対して一生懸命対処しても、結果として得られる成果は小さい。しかも物理的に相当大きな力を加えなければならないし、それで一定の成果を挙げたとしても、問題の根源にメスを入れていないので必ず新たな問題が出てくる。そして結局、モグラ叩きをするかのように、延々と表出してくる問題に取り組まなければならないのだ。
しかもモグラ叩きでは、「苦労>成果」という法則が成り立つ。レバレッジ・ポイントであるスイッチを切らなければ、いつまで経っても問題はなくならない。
よって、見えている問題にはできるだけ手を触れてはいけないし、仮にその場しのぎが必要だったとしても、目の前に見える氷山の下にある大きな氷の固まりを常に意識しなければならない。
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事業家・思想家
早稲田大学政治経済学部卒。東京大学大学院修士(社会情報学修士)。専門は、貨幣論、情報化社会論。1990年代より大手外資系コンサルティング会社でM&Aに従事し、カネボウやダイエーなどの企業再生に携わったあと30歳で独立・起業。劇団経営、海外ビジネス研修プログラミング事業をはじめとする複数の事業、会社を経営するかたわら、執筆・講演活動を行っている。
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(事業家・思想家 山口 揚平 写真=iStock.com)
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