なぜ"昭和トップ"は働き方改革を憎むのか
プレジデントオンライン / 2019年5月22日 6時15分
■企業で女性管理職が増えない理由
アメリカやイギリス、シンガポールなどで管理職における女性の割合が30%を超える中、日本はいまだに12.9%です(図表1)。なぜ、女性管理職が増えないのでしょうか。
日本でも1986年に男女雇用機会均等法、2017年に女性活躍推進法が施行され、政府も女性管理職を増やすよう呼びかけていますが、女性活躍推進法には罰則がなく、企業での速い変化は期待できそうにありません。内閣府が掲げた「2020年までに女性管理職(指導的立場の女性)を30%に」という目標も達成できないことは明らかです。
女性管理職は増加傾向にはありますが、その増え方がゆっくりすぎるのです。その理由のひとつは、会社の社長や役員たちには現在50〜60代の男性が多く、まだ古い価値観を引きずっており、社員に向かって仕事に100%コミットしろと求めがちなことが挙げられると思います。効率的な仕事ではなく、汗をかくことで認められ、「残業しないのはやる気がないからだ」と考える。
調査データでも、残業した人の方が出世できるという傾向が出ています。そうすると、女性は家庭での責任も重いので、出世コースからは弾かれるということになりがちです。これまで男性が仕事に集中し出世できたのは、そんな働き方をサポートしてくれる主婦の存在があったから。まずは、効率的であろうがなかろうが、仕事に入れ込んだ方が評価される、そんな評価システムと働き方を変えることが必要ですね。
■体力がない人がトップにつくべき⁉
「24時間働ける」ような体力を持つ人が出世してしまうと、どんなことが生じるでしょうか。考えられるのは、そういった人がトップに立つと、同じように仕事に全力投球できない人のことが理解できず、組織全体が「体育会系」の文化に染まってしまうことです。「なんで残業できないの」「なんで残業くらいでそんなに疲れてるの?」となるわけです。
いっそのこと、体力のない人にトップに立ってもらったほうが、組織改革は進むのではないでしょうか。というのは、一度体を壊した経験を持つ人なら、無茶な働き方をして体を壊す人の気持ちがわかるかもしれないからです。
いずれにしろ、男性でも女性でも、家庭の責任のために仕事に全力投球できない人、不利な条件を背負った人、こういった人々への配慮・想像力が欠けているような経営者の時代は終わりつつあると思います。
■30年前にやるべきことを、今やっている
日本社会の変化が遅い理由に、政治の問題もあります。
例えば2019年に入り、欧州連合(EU)の欧州議会が、男性が育休を最低10日間取得するという新ルールに暫定合意した、という報道がありました。日本でもそういった施策はありだと思いますが、余裕のある大企業はともかく、利益率の低い中小企業は現場が回らなくなりますから、難しいでしょう。
一方で、政府が少子化対策のためにそれでもやるという決断をすべきとも言えます。そもそも政治家とはそういった影響も覚悟して決断すべきで、新しい制度によって副作用が出たときにちゃんとケアするのが政治というものなのです。ところが、今の政治家は「軋轢(あつれき)やひずみが出そうだからやめておこう」と対策を先送りにしがち。本当の政治家がいないのです。
各省庁で働く人たちは対策を考え提案しているのですが、政治家が責任を負って実行しない。例えば、所得税の配偶者控除をなくすという案が一時期検討されましたが、結局廃止には至りませんでした。それも与党が選挙のことを考えて、それも与党が選挙のことを考えて配偶者控除を受けている層の反発を避けたからではないでしょうか。配偶者控除は、主な稼ぎ手(たいていは男性)の所得が高いほど有利なもので、さらに夫の所得があまり高くないので女性も共働きである程度稼いでいるような家庭には適用されません。そういう意味で、逆進的な税制だと言えます。
日本の少子化に関する政策はすべて手遅れになってから実行されていて、本来は30年前にやるべきことを今やっているという印象です。これでは当然、出生率は上がっていきません。
■男女平等は実現できるか
149カ国中110位というジェンダーギャップ指数(図表2)を見れば分かるように、日本は男女平等への動きがかなり遅れています。ただ世界各国を見ても本当に平等になっている社会は存在しないので、男女が平等な社会というのは、残念ながら近い将来にはやってこないと思います。
もちろん平等に近づいているか遠ざかっているかと言えば、近づいてはいるわけですが、日本ではそのスピードがゆっくりすぎる。もちろん、政治も変わらないといけないし、よりよい社会を実現するためには身近にいる人々の意識を変えなければいけない。その意識を持って、一人ひとりがやれることを少しずつやれるようになればいいと思います。
(立命館大学教授 筒井 淳也 写真=iStock.com)
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