カリスマ社長伝授「正しい飲み会の作法」

プレジデントオンライン / 2019年6月1日 11時15分

飲み会をすると、社内の風通しがよくなり、離職率も下がる。社長に情報も上がってくるという。カリスマ社長が伝授する「正しい飲み会の作法」とは。

■メーカー社長が驚いた「社内飲み」の効果

「飲み会をするようになってから、目に見えて社内の仕事がスピードアップしました。特に、予期していなかったことが起きたときのリカバリーが速くなりましたね」

そう語るのは、精密板金業を営む、旭工業の橋本明秀社長だ。橋本社長は3年前から武蔵野の小山昇社長の指導を受けており、その一環で2018年から社内に「飲みニケーション」の制度を取り入れたところ、すぐに効果が出た。

橋本社長が18年から行ってきたのは、幹部社員と1対1で飲む“サシ飲み”と、社内に13あるチームの懇親会。それぞれの飲み会を社長が主催し、そのための経費も会社持ちだ。橋本社長は18年1年間で約60回の社内の飲み会に参加したという。それまでは社員と飲むのは社内行事で2、3回だった。

「私に届く報告の件数も桁違いに増えました」

社内の雰囲気も一変して明るくなったという。社員に笑顔が増え、電話対応や接客態度も変わった。社員同士や、社員と社長の距離も近くなり、離職率も格段に減った。飲み会をやるだけで、ドラスティックな変化が起こったのだ。

働き方が多様化する中で、社内における人間関係も希薄になりがちな昨今、様々な職場で昔ながらの飲み会を推奨する動きが出ている。日立ソリューションズが一般社員と部長、課長と役員など、階層が違う人と飲む際に1人3000円程度を補助する「段々飛び懇談会」を設けているほか、Sansanでは過去に飲んだことがない他部署の人との飲み会に、1人3000円を補助する「Know me」という制度を設けた。社内に社員同士が酒を酌み交わせるバーを設置する動きもある。

こうした動きに先駆けて、社内での飲み会を会社の公式行事として導入したのが、ダスキンのレンタル事業等で成長してきた武蔵野だ。同社では上司と部下が1対1で飲む“サシ飲み”を義務化しており、各部門で行う懇親会も業務の一環として開催している。飲み会の経費はすべて会社が負担しており、そのための経費は年間3000万円を超える。一方で武蔵野では社内旅行などのイベントなどにも力を入れており、それらも合わせれば6000万円超という巨額の経費をかけている。

驚くのはその成果だ。同社には約800人の従業員が働いているが、この取り組みによって9年間幹部の退職者ゼロ。3年間新卒退職者ゼロ。人手不足で優秀な人材を確保できず、ようやく採用した社員の離職率も高い他の中小企業では考えられない数字だ。

同社のトップは多数の著書で知られるカリスマ経営者の小山昇氏。小山社長は2000年代の初頭から、中小企業における社内コミュニケーションを活性化するうえで、飲み会の重要性に気づき、社内制度として活用してきた。以後、20年近くの試行錯誤によって「成果を上げる正しい飲み会」の方法を確立し、マニュアル化している。現在、武蔵野ではそのノウハウを学びたいという全国の経営者のために、「経営者コミュニケーション実践塾」というセミナーを開催。期間は半年で、各企業に武蔵野式の「成果を上げる正しい飲み会」が定着するよう、職場で指導するコンサルティングも含まれる。

■飲み会研修に潜入してみた

新宿駅に近い高層ホテル。窓から東京の街が一望できる会議室では、定員10人の席が経営者たちで埋まっていた。まずは参加者による1人4分の自己紹介タイム。参加者の中には関東近県だけでなく、九州や北陸など遠方からの経営者の割合も多い。それぞれの経営者が日ごろから、自らのコミュニケーション能力の足りなさを痛感していることを吐露し、社内の人間関係が希薄になっていることを憂いていた。

この後、登壇したのは武蔵野の矢島茂人専務だ。矢島専務は「飲食は人をゆるます」という言葉を紹介。ともに食事をすることで、人は相手に信頼と安心を持ち、無防備になるため、本音を語りやすくなると説明。その飲食の力を社内コミュニケーション向上に役立てることを経営者は真剣に考えるべきだと力説する。

武蔵野が運営する「経営者コミュニケーション実践塾」●(左)武蔵野の矢島茂人専務。「飲食の力を社内コミュニケーション向上に役立てる」。(右)武蔵野経営サポート事業本部コミュニケーションサポート事業部部長の三根正裕氏。武蔵野流の「サシ飲み」の流儀を伝授。

一方で、上司や経営者は相手が話しやすくなるよう、細心の注意を払い、そのための環境を整えることが必要だと主張。最も重要なのは、自分が話すのではなく、相手に話してもらうこと。矢島氏によると、飲み会は6人を原則とする。経営者や上司の両脇に1人ずつ座り、向かいに3人が並ぶという配置だ。これは互いにお酒を注げる距離を保つことを重視してのことだという。参加者はそれぞれにメモ帳かタブレット端末を持参。重要なことはその場でメモできる環境も必須だという。ここで最近開催されたという「グループ懇親会」の模様が動画で紹介された。

懇親会はまず、それぞれの参加者による3分の自己紹介から始まった。驚いたのは自己紹介で各人が、今月の営業報告や部下の業績などを数字で報告していたことだ。それだけではない。今後の課題や伸び悩んでいる部下のことまで報告し始めた。その一つひとつに矢島専務が「お!」とか「へ~」と合いの手を入れる。「今期は目標を達成しました」といった報告には、「よくやった、頑張った」とすかさず褒める。硬軟交ざった報告が終わった1時間後。会の締めとして、1人30秒ずつ、その場での学びについて報告し終了。

「上司はその場が明るくなるように、リアクションも大きめにすることが大切。面白い表現は復唱すること」と、聴く側の態度や意識を入念に伝えた。

次に登壇したのは、武蔵野経営サポート事業本部コミュニケーションサポート事業部部長の三根正裕氏だ。三根氏は、武蔵野が最も重視するサシ飲みの流儀を伝授。サシ飲みとは上司と部下が1対1で食事をすることで、武蔵野ではこの部下とのサシ飲みを部門長に義務化しているという。サシ飲みのルールは主に4つあるという。

①自慢話・説教禁止
②酒の強要禁止
③22時30分までには終了
④2次会は禁止

場所の設定や話の進行も順番が決まっている。スケジュールを決めるのは上司の役目で、場所を予約するのは部下の仕事。互いにあらかじめ家族や母親、友人などの情報から、趣味や経験したアルバイト、特技まで、様々な項目を埋める「自己開示シート」を記入し、提出しておく。

まずは上司がシートの項目から1つを取り上げて、5分ほど話をし、部下も同じ項目の話をする、といった順に対話を始める。その要領で複数の項目について1時間以上、じっくりと話をすることもルールのうちだ。さらに乾杯のときは2人で写真を撮ることや、部下はその日のうちにお礼のメールを入れることも、ルール化されている。

サシ飲みだけでなく、その他の懇親会、飲み会に共通したルールもある。まず、その日に誘うのは禁止。前もって互いの日程を決めて計画しなければならない。またお店は毎回同じ場所にすること。店を変えてしまうと不満のタネになってしまうからだ。2人で食事した写真とお店の領収書を添付した、報告書を提出することも義務づけている。まるで飲み会が仕事のようだ。果たして実際はどんな雰囲気なのか。

■ド直球の質問が小山社長を襲う

19年3月9日午後5時半。「かに道楽」新宿本店。この日の夜、武蔵野の社長質問会が行われると聞いて、同席した。会場には様々な部門から選ばれた、部長、課長、平社員まで、肩書もバラバラの10名が会場に集まっている。

幹事の「乾杯!」のひと声で小山社長を囲む社長質問会がスタートすると、さっそく社長の左手の女性社員が質問を開始。いきなり「私のライバルは佐々木さんなんですけど、勝つにはどうしたらいいですか?」と言う。ド直球の質問だ。小山社長は「え? 佐々木さんに勝つの? だったら絞め殺しちゃったら?」と返して会場はいきなり笑いの渦だ。「数字を見ていくこと。そうじゃないと勝てないよ。はい次」と、順に質問が繰り出されていく。それに小山社長が瞬時にアドバイスをしていくという流れだ。店長になって3カ月の若手の男性が「新人店長が最優先でやることは?」と質問すると、「みんな歓迎してくれただろう?」「はい、袋叩きにあってます(笑)」「それ、武蔵野ではまともなことだから。もうすぐ1人入るから、その人が来たら“いじめて”あげなさい。はい次」。

仕事上の悩みに関するド直球なものから、極めてプライベートなものまで、社員たちは遠慮なく小山社長に質問を投げかける。

横で聞いているだけではよくわからないのだが、当の本人は安心した顔に変わる。社長が答えるたびに、質問者だけでなくメンバー全員がメモを取る。目の前のカニ鍋をつつく暇などない。

■極めてプライベートな質問まで飛び出した

そうしてひと回り、ふた回りと1人ずつ、質問を社長に投げかけていくのだが、驚くのはその質問の中に「部下が3年後に部長になりたがっています。何をしてあげたらいいでしょうか」「男性の部下に結婚を勧めたいが彼にその気がありません」「マンションを買いたいがどんな物件がいいでしょうか」といった、部下に関するかなり立ち入った質問から、極めてプライベートな質問まで飛び出したことだ。だが小山社長は平然とアドバイスをし続ける。

30分間、最初のグループの質問に答えた後、小山社長は席を移動してもう1つのグループの真ん中に座る。新たなメンバーを相手に質問タイムがスタート。社内結婚をした夫に関する相談をした女性には、「あなたの旦那さんは、あなたにイライラするでしょう?」「そうなんです!」「あなたと正反対の性格なんだよ」といった人間学にも発展していった。そうして約1時間の間に60~70の質問に矢継ぎ早に答えた後、小山社長は数万円のお金を隣の女性社員に預けて、「お疲れ様。ゆっくりやってね」と退散した。

「社長にズバッと答えていただいて気持ちよかったです」(女性社員)、「社内でもお会いすることはあるのですが、この場でしか聞けないこともあるので、貴重な時間でした」(女性部長)と、質問した社員たちはすがすがしい顔だ。

これは飲み会なのか。それとも会議なのか。不思議な気持ちに包まれてしまったが、社員の人たちが本音で話していたことは確かだ。社長と社員の関係がここまで近いことに、驚きを隠せなかった。この距離の近さが、離職率の低さの秘密なのだろう。

▼酒を飲んで一流になる人、二流に落ちる人

■酔った若手の「衝撃のひと言」

平成に入って間もなくの頃でした。社員教育をしようと試みても、みんな勉強するのが嫌だから逃げちゃうんですね。それで夜に懇親会でお酒を飲みながら勉強会をするようになったんですが、その懇親会にはアルバイトも入っていたんです。ある日のこと懇親会でお酒を飲んで、そのまま荻窪のサウナに行ったとき、1人のアルバイトがこう言ったんです。「実はこの会社、入るのやめようと思ってたんです」と。理由を聞いたら、「ここで働いてお金をもらえるか不安だったんですよ」。実はその頃、当社は家賃を抑えるために安い物件を借りていました。その建物がみすぼらしいから、お金をもらえないのではと不安になったというのです。

小山 昇氏

私はそれをきっかけに、全営業所を見栄えのいい場所に移しました。するとそれをきっかけに業績がぐんと上がったんです。それがターニングポイントでした。結局、人は酔って裸の付き合いほどに近くならないと、本音を語らないんです。

最初はデタラメに懇親会をしていたのですが、会社が大きくなると、私1人では全部やっていられなくなったので、各部署にやり方を伝えて、社内で横展開していきました。そしてたくさん失敗を重ねて、ノウハウを蓄積してきました。

たとえば人数は自分を入れて6人までにするとか、毎回同じ店にするというルールも、数々の失敗を重ねながらノウハウにしてきたことです。

私はもう70歳を超えましたが、65歳になるまでは、社内の公式事業として年間66回の懇親会すべてに出ていました。そのおかげで非常にコミュニケーションがいいですよ。コミュニケーションの基本は飲みニケーションです。お酒を飲めばバカなことも言えるし、部下と上司が本音で話せます。

うちは会社説明会で、事前に「お酒が飲めない、あるいは、お酒を飲みに行くのが好きじゃない男性は、採用しません」と明言しています。

■一流は飲み会でしゃべらない

飲み会で話題にしてはいけないことはありません。誰だって仕事のことも大切だけど、家庭のことも大切です。それをうちは全部オープンにして話しています。ウソで固めた人生は楽しくないでしょう。楽しくないと会社じゃないし、楽しくないと人生じゃないと私は思っています。年間の飲み会の経費だけで3000万円を超えていますが、惜しくないです。ふつうの会社は飲み会を福利厚生費と見るのですが、私は経理上の扱いは別として、「教育研修費」だと思っています。そう考えれば、高くないですよ。結果、離職率が激減して社員が定着し、社内結婚の数も激増しました。

一流の人は飲み会を教育と考えます。だから自分がしゃべるより、相手にしゃべらせるよう細心の気づかいをします。二流は自分がしゃべりたいことをべらべらしゃべるだけ。時々酒乱がいるんですが、これは三流以下です。会社によってはお酒を飲む人やギャンブルをする人を敬遠するところもあります。しかし経営も仕事もある意味ギャンブルだし、結婚だってギャンブルですよ。だから社員もギャンブルの発想ができないとダメですね(笑)。

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小山 昇(こやま・のぼる)
1948年、山梨県生まれ。東京経済大学卒。85年武蔵野入社、89年から現職。700社以上の経営指導を手がける。国内で初めて日本経営品質賞を2度受賞(2000年、10年)する優良企業に育てる。

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(ジャーナリスト 大島 七々三 撮影=榊 智朗)

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