「定時に帰る」で社長になった人の共通点
プレジデントオンライン / 2019年5月21日 9時15分
■「わたし、定時で帰ります。」を実践し大出世した人がいる
テレビドラマ「わたし、定時で帰ります。」(TBS系火曜22時)が人気だ。
ウェブ広告会社の主人公の女性社員(吉高由里子)が、残業体質のはびこる職場の軋轢(あつれき)に耐えながら自分の信念を毅然(きぜん)と貫く姿勢に、同世代を中心とした視聴者の共感が集まっているようだ。
「働き方改革」で残業削減が進み、以前に比べれば定時退社のしやすい雰囲気になってはいる。しかし、周囲が残業しているのに、自分だけ定時退社できる勇気のある人はまだ少ないのではないか。だから主人公にエールを送る視聴者が多いのだろう。
残業する理由は、大きく以下の3つに分かれる。
(1)仕事が終わらない
(2)帰りにくい雰囲気がある
(3)残業代がほしい
これらとは別に「仕事が好きでたまらない」という人もいるかもしれないが、これは(3)の「残業代がほしい」と同じく、残業に積極的な意味を見いだしているので、定時退社できずに苦しむ人の範疇には入らないだろう。
■定時に帰りたいのに「仕事が終わらない」「帰りにくい」
問題は、定時に帰りたいのに、(1)の「仕事が終わらない」、(2)の「帰りにくい」という人だ。
(1)の「仕事が終わらない」は悩ましい。仕事が終わらない理由として「しなくてもよい仕事を押しつけている会社」と「本人の非効率な仕事のやり方」の2つが考えられる。
前者については、本来1日の法定労働時間の8時間以内に収まる仕事(工数)を与えるのが基本だ。だが、社員の減少による人手不足や業務量の増大によって残業を余儀なくされている人も多いのではないか。こういう会社では、いくら個人でがんばって仕事をこなしても「定時退社」はそもそも無理な話だ。早く帰ろうものなら袋だたきに遭いかねないブラック企業度が極めて高い。
一方、後者の「本人の非効率な仕事のやり方」については工夫の余地があり、定時退社も可能だ。
(2)の「帰りにくい」のはいわゆる「つきあい残業」だ。
以前は上司より先に帰ると「人事評価が悪くなる」と気にする人もいたが、今では逆に残業時間が長い人が疎まれる傾向にある。仕事でやることをやっていれば上司や同僚の顔色をうかがう必要もないし、本人に勇気があれば解決する問題だろう。
■「就職してから40年以上、定時退社を信条」のCEO
もしかすると定時退社を続けると、将来の昇進に悪影響があるのではないかと懸念する人がいるかもしれない。そんな心配は杞憂(きゆう)だ。残業しないで社長になった人はいくらでもいる。たとえば、井上亮オリックスグループCEOはこう言っている。
「私は就職してから40年以上、定時退社を信条としている。顧客との夜の会合などを除けば過去3回しか残業はしていない」(日本経済新聞2017年4月4日付朝刊)
また、伊藤忠商事の岡藤正広会長CEOも『プレジデント』(2015年8月3日号)で「その日の仕事はその日に仕上げて、翌日には持ち越さない……(残業するのは)年に2回の繁忙期に1週間ずつぐらい」と発言している。
■定時退社で出世する人の仕事の仕方とは
定時退社でも出世できる人は、どこが違ったのか。
筆者はかつて2人の元社長に聞いた話を思い出した。その1人が、神戸製鋼所専務を経て、子会社の神鋼電機(現シンフォニアテクノロジー)社長・会長を務めた佐伯弘文さん。佐伯さんはこう話してくれた。
「成果を上げる以外にないですよ。どんなことをしようがとにかく成果を上げた人が勝ちなんです。長時間働いても成果が上がらなければあかんのです。だから、私は成果を上げれば文句はないだろうと就業時間中は集中的に効率を上げて仕事をしました。そしてやることをやって定時になったらパッと切り上げて遊びに出かけました」
とはいえ、当時は残業が当たり前の時代だ。上司に目を付けられ何か文句を言われなかったのか。
「あまり言われなかったですね。あいつはあんなもんだろ、と思われていたかもしれませんね。私の性格はゴーイング・マイウェイ、いわゆる我を通す性格ですから、何も気になりませんでした」
要するに上司や周囲がどんな目で見ようと、やることをやって成果を出せば問題はないということだ。
■周りにどう思われても定時に帰るという信念を貫いた
もう1人、東レの取締役を経て東レ経営研究所の社長を務めた佐々木常夫さんも、課長になってから家庭の事情で定時退社を実行した。佐々木さんはこう話していた。
「上の人は結果さえ出してくれればどうでもいいのです。長時間仕事をやっている人を評価するというのはウソです。私が課長になったときに部長に『私はこういうやり方で残業を減らします。結果を残します』と宣言しました。上に結果を出すので残業しませんと言えば、仮に自分がヒマであっても仕事を与えようとすることもありませんし、実際、仕事も増えません。やはり上とのコミュニケーションをちゃんととっておくことも大事です」
その後、佐々木さんは見事に残業を減らし、課の生産性も上げた。上司も驚いたらしい。それでも当時の東レでは残業しない課として浮いていたらしい。佐々木さんは「残業しない変わったやつがいるなと思われていましたし、東レのマイノリティと呼ばれていました」と語る。
佐伯さんと佐々木さんに共通するのは成果を出すことと、周りにどう思われても定時に帰るという信念を貫いたことだ。そして、変わり者のレッテルを貼られても出世を果たした。
■「パワーポイントに5時間もかけるのはムダ」
では、定時に帰る仕事術とはどんなものか。佐々木さんはこう語る。
「ちゃんと考えて工夫することをしないで、与えられた仕事を惰性でそのまま(1から順番に)やっているから時間が長くなるのです。ちゃんと考えて、この仕事はやるべき仕事なのか、やらないでもよい仕事なのか、またどのぐらい時間をかけてやる仕事なのかを決めてからとりかかることです。どんな仕事でも全部やるから長くなってしまう。タイムマネジメントの要諦はいかに仕事を切るか、どの仕事を捨てるかです。たとえば手書きでやれば早く書けるのに、パワーポイントでやろうと思って5時間もかけたりする。ムダなことをやっているのです」
佐伯さんも筆者に取材に似たような発言をしていた。
「周囲を見ていて一番気になったのはムダな仕事をいっぱいしているなと思ったこと。会議があれば長文の議事録を作るとか。議事録は半ページでもいいのです。仕事のプロセスにムダな時間を割くよりも、どういう成果を上げるかを考えて仕事に取り組むことです」
言われて見れば当たり前のことかもしれないが、日々惰性で仕事をしている人にとっては、つい見落としがちになる重要な指摘だ。
周囲の誰にもよい顔をされようと丁寧にやるだけが仕事ではない。定時に帰るには今日やるべきこと、翌日でもやれることなど、仕事の軽重を自分の頭の中で考え、メリハリをつけて仕事をすることが重要なのだ。
(人事ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=宇佐美雅浩)
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