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カタカナを多用する人の英語がヘタな理由

プレジデントオンライン / 2019年6月24日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/scyther5)

「コンプライアンス」や「ガバナンス」といったカタカナ英語を多用する人がいる。だが、そういう人は英語が堪能かといえば、そうでもない。明治大学の小笠原泰教授は「カタカナ英語では、言葉本来の意味が分からなくなる。たとえばナイーブ(naive)という言葉は日本語と英語で意味が違う」と指摘する――。

※本稿は、小笠原泰『わが子を「居心地の悪い場所」に送り出せ 時代に先駆け多様なキャリアから学んだ「体験的サバイバル戦略」』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■英語学習は「好き嫌い」で判断すべきではない

「デジタル・テクノロジー革新と融合したグローバル化」の進行によって、世界中の人々の移動や、ネット上でのコミュニケーションが活発化するなかで、異なる母語を持つ人々が、相互理解や合意形成を行うための共通言語の存在は、必要不可欠です。このような共通言語をリングア・フランカ(Lingua franca)と呼びます。これが現在の英語です。グローバルな社会において、英語が最も取引コストを低下させる言語であるということです。

現代のリングア・フランカである英語を使えるか使えないかは、将来の自分の選択肢を広げられるかどうかの実利の問題であり、好き嫌いで判断すべき問題ではありません。筆者は、「多様性を前提とするグローバル化する社会」で生き抜くには、母語も英語も両方大切であり、二者択一的に捉えるべきではないと思います。

より直截的な言い方をすれば、国境を自由に越えて、より多くの個人と個人がつながっていくグローバル社会において、急速に権威と統制力を失っていく国家に依存することなく、自らを助け、より多くの仲間に助けてもらい(信頼と互恵と互酬)、より良い人生を生きるためのネットワークをつくるために必須なものが英語であるということです。

進歩の著しい自動翻訳に期待する人もいますが、英語等の欧州言語と違い、単語の分節が不明確な日本語は、コンピュータが構文解析と意味解析とを分けて行うことが難しいこともあり、ビジネスなどで求められるレベルのコミュニケーションを自動翻訳で実現するには、まだまだ時間がかかるでしょう。したがって、技術革新によって、そう遠くない将来には自動翻訳が可能になると考えることはリスクが高いと思います。

■いちいち日本語に訳しているようでは使えない

英語はツールだという発言もよく耳にします。しかし、英語をツールと言っている人も、日本語をたかが言葉であり、ツールだと言ってのける人は少ないのではないかと思います。これは、いかにも明治時代の和魂洋才的な思考と言えますが、この翻訳的な発想では、英語は使えるようになりません。英語の文章や会話を理解するときに日本語に訳しているようでは、グローバル社会の現場では使いものになりません。

これは理解のスピードの問題ではなく、そもそも日本語と英語とでは、それぞれにない概念が存在し、言葉の抽象度も異なるので、翻訳の発想で日本語を介在させることは、むしろ有害なのです。

実は外国語の習得とは、単なるコミュニケーションツールの獲得ではなく、もう一つの思考形態の獲得に他ならないのです。言語は思考形態を規定するからです。多くの場合、主語の「私」を使わない日本語と、主語である「I」を必ず使う英語、「~ではないと思う」という直接の否定形を使わない日本語と「do not think~」という直接の否定形を使う英語という、このような日常的な違いから、思考の組み立ては異なっているのです。

西欧的論理思考とは、一般的には「デカルトの三原則」といわれる「把握」「分析」「(再)統合」と、その基礎となる「分類の三原則」といわれる思考を指します。

この「分類の三原則」とは何か? 1つ目は「全体性の原則(存在するすべてのものが一つの秩序のなかに完全に統括され、外部に何も残らず、漏れのないようにすること)」です。2つ目は、「排他性の原則(その秩序のなかで、互いに重複して分類されるものがないこと)」。最後は、「非超越性の原則(分類の基礎が同じ「階」=抽象レベルにあり、「階」を超えた分類基準が存在しないこと。例を挙げれば、ネコとイヌはよいが、ネコとチワワはNG)」のことを指していると考えてよいと思います。

■英語を学ぶことは、日本的な思考から離れること

残念ながら、このような個のレベルでの一貫性を担保するために境界を拡大していく西欧的論理志向の原則に対し、相互協調的自己構造と、際限なく細分化を行う「内向きな」思考傾向を有し、概念定義が曖昧で抽象概念への感度が低い日本語を母語とする日本人は、うまくフィットすると言えないのが現状です。

とりわけ日本人が弱いのは、欧米人には当たり前の「非超越性の原則」です。これは、抽象度の低い日本語に起因し、日本人の思考形態に埋め込まれた特性であると思われるので、特に意識することが必要です。

そもそも、日本人の英語が上達しない根本的な原因は、完璧主義や内気ではなく、「伝えるべき意見や主張を持たない」ことであることを自覚する必要があります。伝えるべき意見がなければ、苦労しても英語がうまくなりたいとは思いません。

この意味で、英語を第2の思考形態として獲得し、日本語を外して考えることができるようになることが、この欧米的論理思考を身につける近道であると思います。これは、日本的思考の相対化を可能とし、想像力を高め、日本的思考の限界も認識させてくれるはずです。英語を単なるツールと捉えていては、これはできません。もったいない限りです。

■カタカナ英語を使ってはいけない

英語を習得するにあたっては、以下の3つのことをまず実践してほしいと思います。

1.「カタカナ英語」は使わない

カタカナは、意味がわからなくても使えるので便利です。その利便性によるのか、昨今の日本社会ではカタカナの氾濫が止まりません。「コンプライアンス(compliance)」や「ガバナンス(governance)」など枚挙にいとまがありません。

また、ある英語の単語を本来の意味でない使い方をしてしまって誤解を与えるという問題もあります。例えば、「ナイーブ(naive)」は日本語では「純真な」という良い意味で使われますが、英語では「幼稚な」といった悪い意味で使われます。

2.英和辞典と和英辞典は使わない

英和辞典ではなく、まず、英英辞典と類語辞典で、英単語の意味を調べる癖をつけてください。日本で英語と思われている単語でも、英語では使わないものや意味やニュアンスが違うものはかなりあります。英英辞典や類語辞典を使っていれば、そのような誤解は防げますし、自然と英語の語彙も増え、用例も見るので、言い回しも覚えるようになります。

もし、日本語でカタカナ英語を使う場合でも、英語の意味を英英辞典や類語辞典を使って確認してから使うべきです。そうすれば、本来の意味やニュアンスと異なることに気づく機会が増え、自然と日本語の奇妙なカタカナ英語を使わなくなると思います。

■議論できない「暗記スピーチ」をやめる

英和辞典の代わりに英英辞典や類語辞典を使うことに慣れたら、和英辞典を使うことをやめてみましょう。和英辞典を使うことのデメリットは2つあります。

1つは、和英辞典では、日本語を英語の単語を使って説明をしようとしますが、結果として、英語的に理解不能であるケースが多々生じることです。もう1つは、英語で伝える場合、自分の意見や主張を組み立てる際に、最初から英語で考える癖をつけられないことです。英語は英語で完結するようにすることが重要です。

3.暗記の英語スピーチはやらない

日本人は暗記が大好きなようです。スピーチも暗記ものの一つと考えているので、学生から総理大臣までスピーチをするときは、原稿を読む、あるいは暗記することが普通ですが、あれはいただけません。暗記スピーチには2つの問題点があります。

1つ目は、一方通行であること、2つ目は暗記することで臨機応変に対応することができないことです。実際、一方通行のスピーチは、途中での質問は想定していないので、もし途中で質問され、中断されてしまうと、すんなり再開することは難しく、巻き戻しになったり、内容が途中で飛んでしまったりするのではないでしょうか。

また、質問を反映するなど聞く人の関心に応えたり、会場の雰囲気に合わせたりすることも困難で、臨機応変に内容の変更をすることも難しくなります。何より、暗記スピーチは一方通行で双方向性はないので、英語で議論するなどの現実的な場面では役に立ちません。

■やる気を維持するために必須の3原則とは

何であれ、何かを身につけるためには、モチベーション(やる気)は非常に重要です。やる気を持つためには、自己の成長が前提の「面白い」でなければいけません。

やる気を維持するために必要なのが、目的、自律、熟達の3つであるといわれています。目的は明確で、多様化を前提としたグローバル社会で選択肢を増やして生き残るためには英語を身につける必要があるということです。

自律に関しては、教室で一方的に教わるだけでなく、自分で何らかの工夫をしてみることが重要です。例えば、議論に消極的な姿勢を解消するために、まずは仲間をつくり、テーマを決め、言葉の定義を行って、日本語で議論をしてみることから始めてみてはどうでしょうか。

また、せっかく大学で外国人と知り合いになったら、とにかく英語でしゃべってみましょう。しゃべれば何がしか得るものがありますが、しゃべらなければ何も得ることはできません。自分の意見や主張を持ち、それを発言する場を自分で積極的につくることが重要です。

3つ目の、熟達を感じるとは、英検など資格試験の等級よりも、よりうまく自分の意見や主張を伝えられ、より有効なフィードバックを得られるようになったと感じること、つまり、語彙、話し方、論理の組み立て方の進歩や話の幅の広がりを感じられることであると思います。

■利害が絡むビジネス英語は意外と丁寧

まず、英語で伝えたい意見を持つことが必要ですが、その後は、意見の背景となる話題やテーマを広く持つことが必要になります。その話題やテーマについて言いたいことがあれば、その話題やテーマについて一層勉強するはずですし、海外では、どのように考えられているのか、どのような議論が行われているのかに興味を持つはずです。

小笠原泰『わが子を「居心地の悪い場所」に送り出せ 時代に先駆け多様なキャリアから学んだ「体験的サバイバル戦略」』(プレジデント社)

常に興味を持って考えていれば、思考は広がるものです。これは、日本語においても全く同じです。そのために、日々の小さな一歩の積み重ねが意味を持ちます。毎日ちょっとしたことを続ける複利計算の考え方です。

まずは、大学の図書館で、英字新聞の見出しを毎日確認してみてください。ウォールストリートジャーナルあたりが良いでしょう。それを日本の新聞の一面と比べてみましょう。そして、興味のありそうな記事を一本読んでみてください。その時、英和辞典を使わないことも重要です。

慣れてきたら、ビジネスウィークなど英語の雑誌の記事を1ページ読んでみましょう。自宅で時間のある時に、英国のBBCとアメリカのCNNを見比べ、時事問題に対する報道のスタンスの違いを、日本の報道との比較も含めて探ってみるのも良いでしょう。

小説が好きであれば、それを読むのも、語彙と言い回しの引き出しを増やすのに有効です。この日々の成果を、英語で議論をするときに使ってみてください。少しずつかもしれませんが、うまくなったと感じることができるはずです。

ビジネスでの英語は難しいのでは、という不安があるかもしれませんが、実は意外と大丈夫なのです。なぜかといえば、ビジネスでは利害が絡むので、英語でうまくしゃべれなければ、相手が聞き返してくれますし、うまく聞き取れなければ、相手はゆっくりしゃべってくれるからです。学生時代に人間関係を構築できる程度の英語を身につけていれば、社会に出た後のビジネスでの英語は、それほど心配する必要はないのです。

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小笠原 泰(おがさわら・やすし)
明治大学国際日本学部教授・トゥールーズ第1大学客員教授
1957年生まれ。東京大学卒、シカゴ大学国際政治経済学・経営学修士。McKinsey&Co.、Volkswagen本社、Cargill本社、同オランダ、同イギリス法人勤務を経てNTTデータ研究所へ。同社パートナーを経て2009年4月より現職。主著に『CNC ネットワーク革命』『日本的改革の探求』『日本型イノベーションのすすめ』『なんとなく日本人』『2050 老人大国の現実』など。

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(明治大学国際日本学部教授・トゥールーズ第1大学客員教授 小笠原 泰 写真=iStock.com)

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