日本攻撃が大好きな韓国大統領との付き合い方
プレジデントオンライン / 2019年8月21日 19時15分
■「日本にその気があるのなら、関係改善の用意がある」
日本の「終戦記念日」に当たる8月15日、韓国では毎年日本の統治からの解放を記念する「光復節」の式典が開催される。
忠清南道(チュンチョンナムド)天安の独立記念館で行われた式典で、文在寅(ムン・ジェイン)大統領はこう述べた。
「日本が対話と協力の道へと進むならば、われわれは喜んで手を取る」
この発言は何を意味するのか。おそらく「日本にその気があるのなら、韓国も悪化した日本との関係を改善する用意がある」といったところだろう。
あくまでも日本次第と前置きしながら、日本との対話と協力を求めている。文氏は事態を収拾したいようだ。日本を強い口調で批判してきたこれまでの文氏の発言と比べると、かなり軟化している。
これまでの文氏の日本批判の発言を拾ってみよう。
■言いたいことをよくこれだけ言えたものだ
→「われわれは二度と日本に負けない」「加害者である日本が盗っ人猛々しく騒ぐ状況を決して座視しない。日本も大きな被害を甘受しなければならない」
8月5日、大統領府の青瓦台(チョンワデ)で開いた首席秘書官・補佐官会議。
→「過去を記憶することができない国」「経済力だけで世界の指導的地位に立つことができない」
8月8日、日本が輸出管理を厳格化していた半導体材料の一部に輸出許可。
→「変わらないのは不確実性が依然としてある点だ」
8月12日、青瓦台での首席秘書官・補佐官会議。
→「われわれの対応は感情的ではない」
8月13日、青瓦台での昼食会。
→「(輸出管理の厳格化は)日韓両国による友好と協力の努力に鑑みて実に失望することであり、残念だ」
こうやって振り返ると、15日の光復節での発言の穏和さが理解できると思う。それにしても一方的に言いたいことをよくこれだけ言えたものだ。その表現には、北朝鮮の自国擁護の声明と似たところがある。
■日本攻撃が好きでそれが正義だと思っている
文氏が大統領に就任して2年余りが経過する。昨年10月には元徴用工問題の韓国大法院(最高裁)判決の確定、11月には慰安婦財団の解散発表、12月には韓国海軍によるレーダー照射事件と、日韓関係は戦後最悪の状態が続いてきた。
文氏だけでなく、歴代の韓国大統領は内政維持に反日感情を利用してきた。だが文氏の言動を見ていると、日本を攻撃することが好きなようにしか思えない。つまり日本攻撃が正義だと思っている節がある。
そんな文氏が、光復節で穏和な発言をしたことは重要だ。今回は歴史認識問題での直接的批判も避けていた。韓国メディアは「光復節の演説としては異例」「演説の中で経済発展を何度も主張」と報じている。文氏は対日関係の悪化によって韓国経済が打撃を受けていることに危機感を抱いたのだろう。
■「早急に韓国と和解すべきだ」という意見に左右されてはダメ
これは日本にとって大きなチャンスだ。日本は文氏の発言をうまく捉えてさらに韓国を軟化させたい。相手国の意に沿うように動いたとしても、最後は自国の利益を狙うのが外交だ。わが身の肉を切らせて相手の骨を断つような戦術を使うべきである。それができてこそ本物の外交だ。
ただし焦りは禁物だ。「このままでは日本と韓国の対立がどう収まるのか分からない。早急に韓国と和解すべきだ」という意見もあるようだが、ここはじっくりと慎重に韓国の出方を見定めてかかる必要がある。
8月3日付の朝日新聞の社説は「日本と韓国が国交を開いてから半世紀あまり。その歩みの中で両国関係は今、最も厳しく、危うい領域に入りつつある」と書き出す。見出しも「対立する日韓 交流の歩みも壊すのか」である。
どうやら朝日社説は日韓双方に襟を正すよう求めていくようである。
「安倍政権はきのう、輸出手続きを簡略化できるリストから韓国を外すことを閣議決定した」とホワイト国からの韓国の除外に触れ、「自治体や市民団体などの交流行事は中止や延期が相次ぐ。7月の半導体材料の輸出規制もあわせ、今後の運用次第では韓国経済を深刻に苦しめ、日本の産業にも影響がでかねない」と指摘したうえで日本政府に対し、こう要求する。
■日本と韓国は振り上げた拳をどの辺りで下ろすのか
「両国関係に決定的な傷痕を残す恐れがある一連の輸出管理を、日本は考え直し、撤回すべきだ」
朝日社説に言われるまでもなく、日本と韓国は振り上げた拳をどの辺りで下ろそうかと真剣に考えているはずある。
韓国政府に対してはこう主張する。
「一方、文在寅政権は対抗策として、安保問題で日本との協定を破棄する検討に入った。だが北朝鮮が軍事挑発を続けるなかで、双方に有益な安保協力を解消するのは賢明な判断とは言えない」
「文大統領は、ここまで事態がこじれた現実と自らの責任を直視しなければならない。きのう『状況悪化の責任は日本政府にある』と語ったが、それは一方的な責任転嫁である」
朝日の主張の通りだ。このまま日韓関係が悪化していけば、喜ぶのは北朝鮮だ。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長はすでに文氏を見下している。金正恩氏が相手にするのは、アメリカのトランプ大統領だけだ。もう韓国大統領の仲立ちなどいらない。金正恩氏はトランプ氏に直接、書簡を送れるし、メールだって出せる。そこを文氏はどこまで理解できているのか。
■「当たり前のことすら遠慮してきたのが従来の対韓外交だった」
文氏は経済的にも外交的にも追い込まれている。文氏が頼れるのはアメリカを介して同盟状態にある日本のはずである。
同じ8月3日付で産経新聞は大きな1本社説(主張)を掲載している。
「政府が、安全保障上の輸出管理で優遇措置を取る『ホワイト国』から韓国を外す政令改正を閣議決定した。妥当な判断である。韓国の反発に揺るがず、国家の意志を貫いたものとして支持したい」
書き出しからして分かりやすい主張である。
「韓国には、日本から輸出された、軍事転用の恐れがある物資の管理体制に不備がある。その改善に向けた信頼ある行動も期待できない。そのような国の特別扱いをやめるのは当然である」
「こうした当たり前のことすら遠慮してきたのが従来の対韓外交だった。それをいいことに文在寅政権は反日的行動を重ねてきた。だが、もはや韓国の日本に対する甘えは許されない。そこを明確にした点でも、今回の決定は大きな意味を持つ」
韓国が日本に甘えてきたことは事実である。ただ日本も韓国をあえて甘えさせることで、高度経済成長を成し遂げ、国際社会での地位を築き上げてきたのである。したたかだったと思う。今後の韓国との外交でもそうしたしたたかさが必要だ。
■「徴用工訴訟は無関係」という産経社説の的外れ
産経社説はこう韓国を批判していく。
「ホワイト国からの除外は、先に決定した半導体材料の輸出管理厳格化に続く第2弾だ。ホワイト国であれば、軍事転用が可能な品目の輸出手続きを簡略化できる優遇措置を受けられる」
「韓国は日本側の一連の措置を、もっぱら『徴用工』訴訟をめぐる対抗措置ととらえ、世界貿易機関(WTO)ルールに反すると批判している。だが、こうした指摘は的外れである」
「安全保障上の輸出管理は、大量破壊兵器などの拡散を防ぐ措置であり、これを適正に運用することは、国際社会に果たすべき日本の責務だ。自由貿易に反するどころか、これを悪用させないためにも欠かせない」
「輸出管理厳格化に続く第2弾」「安全保障上の輸出管理」「国際社会に果たすべき日本の責務」と続くと、思わず産経の韓国批判を鵜呑(うの)みにしてしまうが、今回の問題の直接の始まりは、徴用工訴訟にあることは間違いない。産経社説の「こうした指摘は的外れ」のほうが的を外している。
■産経社説のように韓国批判ばかりしていても先は見えない
さらに韓国批判は続く。
「しかも、国交の基盤である日韓請求権協定に反しても一向に改めようとせず、慰安婦問題の日韓合意も一方的に破った。海外で日本を貶める悪口を広め、自衛隊機には火器管制レーダーを照射した。これでもかというほど反日行為を重ねながら、特別扱いだけは続けよというのは虫がよすぎる」
「韓国は、日本側の根深い不信感を直視しなければならない。その上で輸出管理体制の不備を改めるのはもちろん、国と国との約束を守り、信頼に足る国として振る舞う必要がある」
「それとは正反対の反応をとる文政権には失望せざるを得ない」
「日本製品の不買運動などが広がる情勢を捉え、国内向けに強硬姿勢を演出する思惑もあろうが、もっと冷静になってはどうか」
この沙鴎一歩も、韓国の文在寅大統領の器は小さく、その小ささは鼎(かなえ)の軽重すら問えないほどだと思う。しかしそんな人物を相手に四苦八苦せざるを得ないのも外交の現実である。
産経社説が韓国をとことん批判するのは分かる。しかし批判ばかりでは先が見えない。このままでは日韓関係は悪化の道をたどるばかりだ。日本と韓国にとって良くない。
産経社説にはどうしたら日韓関係を改善できるかについて具体的に論じてほしかった。次は建設的な主張を期待したい。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)
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