千葉大停電でも「想定外」を繰り返す東電の甘さ

プレジデントオンライン / 2019年9月20日 6時15分

2019年9月13日、台風15号の影響で発生した千葉県での大規模停電の復旧見通しについて記者会見する東京電力パワーグリッドの塩川和幸技監(左)と持田明彦配電部長代理 - 写真=時事通信フォト

■まったく当てにならない「復旧の見通し」

9月8日から9日にかけて関東地方を襲った台風15号による千葉県の大規模停電は、10日余りたった9月19日になっても3万戸以上で復旧しておらず、住民は電気のない生活を余儀なくされている。停電から数日は猛烈な暑さとなり、冷房が動かないために熱中症になる人が続出するなど、二次被害も広がった。

そんな中、停電地域の住民の怒りを買ったのが、東京電力の復旧見通しの発表がまったく当てにならなかったことだ。52万戸が停電していた10日の段階で、東電は「復旧は11日以降」としていたが、11日になって「被害が想定以上で、見通しが甘かった。復旧は13日以降になるが、1週間はかからない」とした。その段階でも38万戸が停電したままだった。

ところが、13日になると「復旧は最長で27日ごろ」と再修正した。「経験したことのない規模の倒木で現場に入れず、復旧作業に時間がかかっている。過小な想定をしていた」というのが理由だった。この時点で17万戸が停電していた。

確かに被害は予想を超えるものだった。千葉市では最大風速35.9メートル、最大瞬間風速57.5メートルを観測するなど、猛烈な風が吹き、記録的な暴風雨となった。千葉県内では、住宅などの屋根瓦などが飛ばされる被害が続出した。

■「復旧は11日以降」が物語る東電の社風

君津市では送電線をつなぐ鉄塔2基が倒壊した。風速40メートルを基準に鉄塔は造られているといい、局地的に猛烈な強風が吹いたことをうかがわせる。

とはいえ、東電の発表はあまりにも杜撰(ずさん)だった。最初の発表だった「復旧は11日以降」という表現はまさに東電の社風を物語っている。9月27日でも11日以降であることに違いはない。迅速な対応をするので、すぐに復旧できるという「責任回避」の意識、「事態を軽く見せたい」という意識が働いていたのだろう。希望的観測だったと言ってもいい。

だが、利用者からすれば、それは何の役にも立たない。いつ復旧するかが知りたいわけで、そこで「11日以降」と言われれば、11日か12日には復旧すると考えるのが人情だ。初めから1週間は停電が続くと言われれば、千葉県外に一時避難するなど対応も取れた。つまり、情報の出し方が利用者目線からかけ離れていたのだ。

復旧想定が何度もズレたことへの言い訳も、また東電の体質を物語っている。またしても「想定外」を持ち出したのである。

「想定外」という言葉は、東京電力福島第一原子力発電所の事故が起きて、何百回使われたか分からない。想定外の津波が来て、想定外の全電源喪失が起きた。水蒸気爆発で原子炉が破壊されることになるとはまったく思わなかった。自然災害で防ぎようがなく、自分たちには責任がない、と言わんばかりだった。その「想定外」をまたしても理由にしたのだ。

■福島原発の「想定外」は認められた

ちなみに福島第一原発の事故をめぐって強制起訴された勝俣恒久・元会長ら3被告への東京地裁の判決が、停電が復旧していない最中の9月19日に言い渡された。

検察がいったん不起訴としたものを不服として強制起訴に持ち込まれたもので、検察官役の指定弁護士が、無罪を主張する3人に禁錮5年を求刑していた。検察官役側は、原発の主要施設の敷地の高さである10メートルを超す津波は予測できたのに対策を怠ったことが事故を招いたと主張、業務上過失致死傷罪に当たるとした。焦点は、巨大津波を具体的に予見できたか、対策を講じていれば被害は避けられたか、だった。まさしく「想定外」という主張が妥当かどうかが争われたのだ。

結局、東京地裁は、勝俣元会長らの責任を問うことはできないという判決を下した。「想定外」だったという主張を認めたわけだが、多くの被災者の心情からすれば、納得のいくものではなかっただろう。

話を戻そう。今回の大規模停電も「想定外」の自然災害だったので、東電としてはいかんともし難かった、という話で終わるのだろうか。

なぜ、被害を正確に把握できなかったのか、復旧予測の立て方は適切だったのか、停電地域の住民への情報伝達のやり方は正しかったのか、そもそも、なぜ鉄塔が倒れることになったのか、今回の停電を機に、きちんと検証をすべきではないのか。そのためにも「想定外」で済ませてはならないだろう。

■中立的な役割を担う「東京電力パワーグリッド」

現在の東京電力グループのあり方が、今回の対応遅れに影を落としていないかも検証すべきだ。

記者会見に出てくる役職員が「東京電力」ではなく、「東京電力パワーグリッド」という聞きなれない会社であることを不思議に思った人も多いに違いない。実は、東京電力は2016年4月に持株会社体制に移行、「東京電力ホールディングス(東電HD)」に社名を変えた。その上で、燃料・火力発電事業を行う「東京電力フュエル&パワー(東電FP)」と、送配電事業は「東京電力パワーグリッド(東電PG)」、電気の小売りを行う「東京電力エナジーパートナー(東電EP)」を、いずれも100%子会社として分割・設立した。

電力自由化の流れで、発電事業者や電力小売り事業者が相次いで新規参入。発電から配送電、小売り供給まで「垂直統合」されていた東京電力は、川上、川中、川下に形の上では分かれたわけだ。

その分割の象徴とも言える会社が「東京電力パワーグリッド」で、他の事業者にも送電線網を解放する役割を担っている。つまり中立的な役割を担うことが求められているのだ。今回、強風によって倒壊した送電線の鉄塔や、町中の電信柱、配電線を維持管理するのは、この会社の役割なのだ。

■自主的に経営できる独立性を持っていない

だが、問題は、この会社が自主的に経営できる独立性を持っていないことだ。親会社である東電HDは福島第一原発事故の処理と賠償責任を負い続けている。国が設立した「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」が議決権の過半を持つ実質的な国有企業だ。

東電PGはその子会社で、原発事故への法的責任は直接は負っていないものの、収益の中から毎年1200億円余りを負担する契約を結ばされている。また、東電HDの借入金1兆円の債務保証もしている。つまり、実質国有の東電HDから自立できない仕組みになっているのだ。

東電PGの仕事の大半はインフラ事業である。送電線網を整備・保守するために多額の設備投資が必要になる。今回の台風被害でも多額の復旧費用がかかることになる。東電PGは今回の鉄塔倒壊について、老朽化などが要因ではないとしているが、この会社にとって、設備の更新は最も重要な仕事である。

要は、原発事故処理と補償という今後いくらかかるか分からない、負の遺産の一部を背負わされる東電HDの傘下にあって、利益を上げ、設備投資を続けていけるかどうか、という問題なのだ。

■競争激化で設備投資に回せるお金が減っている

かつて東京電力は毎年1兆円を超す巨額の設備投資を行ってきた。ピークだった1993年には1兆7000億円にのぼった。国の公共工事に連動する「第二の公共工事」の色彩が強かったが、2017年は6000億円にまで減っている。「総括原価方式」と呼ばれる確実に利益が上がる電気料金を独占的に適用できた時代には、設備投資に振り向けられるだけの十分な収益が確保できていた。それが電力自由化の流れの中で、電力料金の競争が激化し、設備投資に振り向けられる資金が減ってきているわけだ。

もちろん、電力の自由化自体を否定するわけではない。競争によってエネルギー供給サービスの利便性を高め、価格を抑えることは、消費者にとってプラスになる。電電公社からNTTを生んだ通信の自由化が、その後の通信サービスの多様化を生み、巨大ビジネスに成長したことを考えれば、電力・ガスを中心とするエネルギー・ビジネスにも未来を感じる。

だが、東京電力グループに原発事故の責任を負わせる一方で、前向きの設備投資にも資金を投じろというのは無理があるのではないか。事故直後、東電をいったん破綻処理すべきだという意見もあったが、東電への巨額の貸付金を抱え、社債を保有していた大手銀行などの反対で、形上、東電を存続させた。その、無理くりのスキームが、ここへ来て、本気で事業投資できない子会社を生んでいるのではないか。

今回の不手際を「想定外」の事態だから仕方がない、と水に流すのではなく、東電という会社グループの在り方をも再検証する機会とすべきだろう。

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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。

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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

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