離婚で年金分割、実際どのくらい損をするのか
プレジデントオンライン / 2019年11月10日 6時15分
■年金分割とは
公的年金は、保険料を納めることによって受け取ることができるもの。したがって、保険料を支払っているということは、将来、受け取る年金の権利を積み立てているともいえる。
離婚する際には夫婦で築いた財産を分けるのが基本であり、それと同様に、婚姻期間中に築いた年金分は、夫婦の共有の財産といえる。婚姻期間中に支払った年金保険料によって将来受け取る年金は、夫婦の共有のもの、というわけだ。
そのため、年金は夫婦で分け合うことができる、ということになる。
■分割できるのは厚生年金の一部だけ
会社員や公務員は厚生年金に加入しており、老後に受け取れる年金は、国民年金(基礎年金)と厚生年金である。このうち、離婚で分割できる年金は、「厚生年金」の部分だけで、国民年金部分は分割されない。
また、分割されるのは、あくまでも「婚姻期間中の記録」に対応する部分のみで、独身時代や離婚後に収めた保険料に対応する部分は分割されない。例えば同じ歳のカップルで、30歳で結婚し、45歳で離婚した場合、30~45歳までの15年の間に納めた保険料から得られる厚生年金が分割の対象で、20~29歳、46歳以降に納めた保険料に対応する分は分割されない。
共働きで、妻、夫とも会社員の場合は、妻、夫それぞれの婚姻期間中の厚生年金を分けることになる。具体的には、給料が多かった方が相手に分ける形で、性別は関係なし。妻の方が高収入なら、妻の年金の一部を夫に分けることになるのだ。
例えば、婚姻の妻の報酬月額が50万円。夫が30万円だった場合、妻から夫へ10万円を分けることになる。
ただし、第3号被保険者(専業主夫・妻)以外の場合は「合意分割制度」といい、分割するかどうかや、分割する割合については双方の合意が必要となる。ポイントは分割しないと決めてもいい、ということで、分割する立場の人も、分割を受ける立場の人も、しっかり覚えておきたい。
分割するのであれば離婚から2年以内に年金事務所で手続きをする。また割合について合意に至らない場合は、裁判所に訴え、裁判所が割合を決める。
■専業主夫や専業主婦の場合は……?
夫が専業主夫や妻が専業主婦の場合は「3号分割」といい、共働きの会社員カップルとはルールが異なる。3号とは、会社員や公務員の厚生年金加入者(2号)の配偶者がいる、専業主夫などのことである。
3号分割では、2008年4月1日以降の記録分については、双方の合意がなくても(一方の意思で)分割でき、割合は一律で2分の1と決められている。妻が会社員、夫が専業主夫の場合でいうと、婚姻期間中の妻の報酬に対応する厚生年金の2分の1が、問答無用で夫の年金になる、というわけだ。
しかも、長らく家庭内別居の状態で家事もしてもらっていないという場合や、相手が働かないので離婚する、相手の不倫が原因で離婚するなど、自身に落ち度がないと思えるケースでも、相手が3号であれば分割を拒否できない。
これも離婚から2年以内に手続きが必要となる。
■妻が自営業、夫が会社員では?
前述のとおり、分割の対象となるのは厚生年金部分なので、自営業者やフリーランスなどで厚生年金部分がない場合(国民年金のみの場合)は、年金分割はない。
では、妻が自営業、夫が会社員というカップルが離婚すると……?
夫の合意があれば、妻は夫の厚生年金を分割して受け取ることができる。合意が必要だが、交渉は可能、というわけだ。
■年金を分割すると、「離婚貧乏」になるかも
離婚すると、元パートナーの年金の半分をもらえると思っている人もいるが、厚生年金部分だけだし、婚姻期間中のみが対象なので、半分もらえるというのは勘違い。金額も思うほど多くはない。実際、どの程度を分割することになるのか、妻が会社員、夫が専業主夫のカップルでみていこう(夫が会社員、妻が専業主婦でも同じ)。
例えば、婚姻期間が15年、その期間の平均標準報酬額が50万円だった場合、婚姻期間分の厚生年金は年間49万3300円。分割で夫に分ける年金は約25万円、月額2万円程度となる。厚生年金の一部だけなので、それほど多くはないのだ。
夫自身の年金(国民年金)が6万5000円とすると、分割で受け取る分を足しても8万5000円万円程度で、老後の生活費としては厳しい。また妻としては年金が25万円減ることになり、影響がある。
年金については、「離婚貧乏」になる可能性が高いといえる。
■年金分割より、自身の年金を増やそう
とはいえ、お金のために離婚しないというのは考えもの。年金を分割する側から考えれば、離婚するなら離婚時期が早い方が分割の対象となる額を抑えることができる。
また相手が3号で、「いずれ離婚になるかも…」という場合は、相手に婚姻中に働くことを勧める、というのも得策だ。相手が厚生年金に加入して2号被保険者になれば、合意なしの分割ではなく、分割には両者の合意が必要になり、話し合いに持ち込むことができる。
逆に、自身が3号被保険者で、相手が会社員など、分割してもらう側ならどうだろう。その場合、3号の状態をキープして3号分割制度を利用するという考え方もある。ただし、離婚まで長期戦になる場合や、年齢が若い人が離婚する場合は、早くから働いて厚生年金に加入した方が、自身の年金を増やすことに繋(つな)がり、有利になる場合もある。離婚すれば働くのが一般的で、それなら年金分割にしがみつかずに、早くから経済的自立を目指した方がポジティブでいいかもしれない。
また分割した分の年金が受け取れるのは、自分の年金を受け取り始めるとき。まだまだ先のことであり、離婚後の当面の生活資金としてあてにすることはできない。
いずれか一方が年金事務所に相談すれば、分割の対象となる額を試算してもらえるので、離婚が頭をかすめたら、試算を依頼してみるのもいい。額が分かれば具体的な作戦も立てやすいかも。
相手が3号(専業主夫や専業主婦)であれば2分の1は分割、会社員同士なら多い側が少ない側に合意があれば分割、ということを覚えておこう。
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経済エッセイスト
複雑なお金に関わる動きを簡単に読み解くことに定評がある。関西大学卒業。社会保険労務士、ファイナンシャルプランナーなど多方面で活躍。『100歳までお金に苦労しない定年夫婦になる!』など著書多数。
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(経済エッセイスト 井戸 美枝 写真=iStock.com)
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