「できない自分」に安心安住する残念な人の特徴
プレジデントオンライン / 2019年12月1日 9時15分
■ラグビー日本代表のスクラムが打ち破ったのは「心の壁」だ
ラグビーワールドカップにおける日本代表の活躍は、見事なものだった。
強豪国を次々と撃破し、不可能ともいわれていた決勝トーメント進出を決めた。準々決勝で敗れはしたものの、その闘いぶりは日本のファンだけでなく世界に衝撃を与えた。
特に高く評価されたのは、どんなに苦しくても諦めないその「精神性」と、お互いに協力し合ってゲームを進めていく「規律」だった。
今回の大会で、日本のラグビーは目に見えない「限界」を破ったといえる。今後、ますますの発展を期待したい。
ラグビーのようなスポーツを観戦することで、私たちはインスパイアされる。自分たちの仕事、人生にも役に立ったり参考になったりする考え方、行動のあり方を受け止め、取り入れるきっかけになる。
今回の日本代表の闘いぶりから学ぶことは、いかに脳の「リミッター」を外すかということだろう。自分で自分の限界を決めてしまっているケースがあまりにも多いのだ。
アスリートの方とお話しすると、「体の限界よりも脳の限界のほうが先にくる」と証言される方が多い。
身体の潜在能力としてはまだいけるのに、その前に、脳が制約をかけてしまっているのである。
■脳のリミッターがある
なぜ、そのような脳のリミッターがあるのか。1つの「安全策」なのだと説明することができる。潜在能力を十分に発揮することは素晴らしいことのようで怖い。脳がバランスを崩したり、思わぬことが起こったりするかもしれない。
何よりも、心理的には「できない自分」が「できる自分」になることが不安である。人間には、「できる自分」になってしまうことから逃げる傾向があるのだ。
人間の欲求に階層があるという説で広く知られるアメリカの心理学者、アブラハム・マズローは、自分の能力を発揮することを恐れる傾向を「ヨナ・コンプレックス」と名づけた。旧約聖書の中で、自分の使命を果たすことから逃げようとしてしまう預言者、ヨナにちなんでこの名前がつけられた。
「できない自分」でいることは残念で困ったことのようだが、一方で「安定」はしている。「できない自分」が「できる自分」になってしまうと、世界が変わってしまう。何よりも、自分が変わる。
「できる自分」になって、自分や世界が変わるのは不安だから、「できない自分」のままでいい。そんなふうに現状維持をよしとする傾向が、私たちの中にはある。
ラグビー日本代表も、もし、「ティア1」と呼ばれる強豪国には勝てないという固定観念にとらわれていたら、今回の快挙はなかったろう。固定観念から自由になり、脳のリミッターを外すことで、見事、「ティア1」の強豪国を次々に破ることができたのである。
ラグビー日本代表のインタビューを聞いていて印象的だったのが、いかに自分たちが苦しい練習を重ねてきたか、充実したチームの時間を過ごしてきたかという自負にあふれていたことだった。
「できない自分」が「できる自分」になるためには、努力というスクラムで心の壁をぐいぐい押して打ち破っていくしかない。
積み上げた時間、重ねた努力は裏切らない。ラグビー日本代表の闘いぶりに感動した今こそ、自分自身の限界を破る鍛練を始めるよい機会ではないだろうか。
少しずつ、着実に。
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脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞。『幸せとは、気づくことである』(プレジデント社)など著書多数。
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(脳科学者 茂木 健一郎)
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