開票率たった1%で「当確」を打てるカラクリ
プレジデントオンライン / 2020年1月5日 11時15分
■開票率1%で「当選確実」を打てるカラクリ
衆議院選挙などの国政選挙では、テレビ局が特番を組んで開票速報を流す。そのときに開票率1%で「当選確実」が出ることがあり、なぜそんな開票率で当確が打てるのか不思議に思う人も少なくないのではないか。
当確を出すためには、「その候補者が確実に勝っている」というデータによる裏づけが報道機関に必要だ。このデータを得るために行っているのが、出口調査や事前取材、世論調査などだ。
では、どうやって開票率1%の段階で当確と判断しているのか。これは統計学の「区間推定の理論」を使うと理解できる。聞き慣れないかもしれないが、区間推定は正規分布をもとに考える推定の方法だ。ご存じのように正規分布のグラフは、左右対称な山型の曲線をしている。よく偏差値で説明されるが、真ん中の一番高いところ(平均値)が偏差値50になる。
そして、正規分布には次のような性質がある。中央の平均値から左右それぞれに1.96倍した区間内の確率は0.95になる。つまり、山全体を100としたとき、山の両端の0.025分をそれぞれ切り取った残りの大半部分が「確率0.95」を意味するということだ。推定の世界ではこれを「信頼度」といい、「信頼度95%」と表現する。
■区間推定の理論
この区間推定の理論を使うと、図の公式が成り立つ。これは「データ全体(=母集団)からn個をランダムに取り出し、そのn個のデータのうち性質Aを有するデータの比率をrとするとき、データ全体における性質Aを有するデータの比率X」を求める式だ。
式の「1.96」が、先ほど説明した正規分布の「1.96倍」のことで、この式は「信頼度95%」に基づいているという意味である。
たとえば、全投票者のうち1000人分を開票した段階で、600人がA候補者に投票したことがわかったとしよう。すると「n=1000」、「r=600÷1000=0.6」となり、式に当てはめて計算すると、答えは「0.56≦X≦0.63」になる。わかりやすく言い換えると、「95%の確かさで、A候補者の支持率が56%以上63%以下だと推定できる」ということだ。
つまり、当確を出すために信頼度95%が必要だとすれば、開票した1000人分のうち600人がA候補者に投票していることが判明した時点で、A候補者の支持率は56~63%と半数を占めているので、当確が打てるというわけだ。仮にこの選挙の投票者の総数が10万人だったとすれば、その1%である1000人分を開票しただけで、A候補者の当確を打てるということになる。
ただし、ここで注意が必要なのは、あくまでも「信頼度95%で当選と推定できる」ということだ。すべての票を開票したら落選だったということもありうる。つまり誤報だ。実際、当確が出た候補者が落選する例は近年の選挙でもあった。
また、この式を使って推測するときには、開票された票がランダムに選ばれたものでなければならない点も重要だ。開票された1%がA候補者の支持基盤の地区に偏っていた場合、式は成り立たなくなる。先述したように当選確実と報じられて候補者の陣営では大喜びしていたのに、最終結果で落選してしまったケースがあったとしたら、原因としてそのようなことが考えられるのだ。
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1980年、宮城県生まれ。東京理科大学理学部第一部数学科卒業後、東北大学大学院理学研究科数学専攻修了。代々木ゼミナール講師を経て現職。著書に『身近なアレを数学で説明してみる』がある。
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(海上自衛隊数学教官 佐々木 淳 構成=田之上 信)
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