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プレゼン上手な人が実践する"沈黙のトリセツ"

プレジデントオンライン / 2020年1月1日 11時15分

弁護士 谷原 誠氏

沈黙は恐れるものではなく、使い方次第で「場」や「相手」をコントロールできる技だと知っておこう。

■ボロを出さない、弱みを見せない、弁護士流「沈黙の会話術」

お笑い芸人のように面白いトークができるようになりたい。物事を論理的に淀みなくスラスラと話したい。饒舌の時代に生きる私たちは、ついそう考えてしまう。

豊富な語彙で巧みに話すイメージのある弁護士という職業だが、谷原誠弁護士は、「会話や交渉が上手な人は、むしろ沈黙をうまく使いこなしている」と指摘する。

「実は情報量よりも沈黙や間をどう効果的に使うかが会話力アップのポイントなのです。言葉にしないこと、沈黙することで、よいコミュニケーションがとれることもあるのです」(谷原弁護士、以下同)

わかりやすいのがスピーチやプレゼンテーションといった一対多の場合。慣れない人は、情報を詰め込み、早口になりがち。しかも、無言の時間が不安なので、「え~」とか「あの~」と意味のない音を連発する。いわば、そのトークは余白のない絵、改行のない文章だ。これでは相手に伝わらない。

「カーネギーの『話し方入門』でも、話の前後に沈黙を置くことを推奨しています。沈黙で聞く人の注意を引きつけてから、重要なことを話す。逆に重要なことを言ってしばらく黙る。スティーブ・ジョブズやオバマ前大統領などスピーチの達人、売れっ子芸人、名司会者などのパフォーマンスを思い浮かべればわかるように、話の上手な人は、タイミングのいいところで間を置き、聴衆を引きつけてから話を展開しています」

次にどんな言葉が飛び出すのかと期待を高める無言の時間。キーワードの後の沈黙は、聴衆の頭にイメージが浮かぶには、それなりの時間がかかることを知っているからだ。

「シーンとした状態を嫌って『え~』と繋いでしまうと沈黙のドラマチックな効果は発揮されません」

プレゼンの最大の目的は説得。言葉数が多ければ伝わるわけではない。必要なのはメリハリ、緩急だ。

■沈黙は営業トークにも使える

沈黙は営業トークにも使える。売り場で販売員に商品のメリットを一方的に説明されても、買う気が全然起きなかったという経験は誰にでもあるはず。

「買う側としては、頭の中を整理する時間が欲しいわけです。販売員は説得しようといろいろな理由を挙げるよりも、必要なことを伝えた後は、静かに黙って、内容が相手の頭と心に徐々に浸透するのを待ったほうが説得しやすいのです。

一方的にまくしたてる営業マンが多いのは、沈黙が生まれた瞬間に断り文句を言われたり、電話を切られたりすることを恐れているからです」

同じことは一対一の会話にもいえる。言葉に重きが置かれている現代では、沈黙に居心地悪さを感じる人は多い。結果、余計な言葉を発しすぎて、コミュニケーションエラーが起こっているのではないか、と谷原弁護士は指摘する。

「会話が途切れる=人間関係も途切れるという強迫観念が強いのかもしれません」

口は災いのもと。厄災を招かないまでも、フレンドリーな印象をアピールしたかっただけなのに、馴れ馴れしいと受け取られたり、おしゃべり好きな口の軽い人と思われたりすることもある。

「新たな人間関係を築くには会話しかありませんから、初対面のときは努力して話す必要があります。しかし、なにか喋り続けていないと落ち着かない……という心理でいると、言わなくてもいいことや、言ってはいけないことまで口にしかねません。特に交渉の場などでは、余計なことを口にしたり不利なことを口走り、失敗を招くことにもなります」

つまり、沈黙に耐えられないから話すというのは、人間関係を築くための会話ではなく、自分の不安を解消するための会話でしかないわけだ。

「要は沈黙をどう捉えるか。沈黙は必要以上に怖がらなくていいし、沈黙をプラスの方向で使うという考え方もあるわけです」

例えば、相手が早口で畳み掛けるように話す場合。好意的に喋ろうとすると、私たちは無意識に相手のテンポに合わせてしまう習性がある。しかし、意識して、少し間を置くことで、あわてず進めましょうと会話のテンポをコントロールすることもできる。また、意見が食い違い、売り言葉に買い言葉でヒートアップしそうなときは、少し黙ることにより、怒りを沈静化することもできる。

■沈黙を避けるには、質問力を磨け

とはいえ、黙ったままでは人間関係は築けない。自分から話すのが苦手なら、相手に話してもらえばいい。「発言を引き出すには質問することです」と谷原弁護士。

「質問の鉄則は、相手が答えるまで沈黙して待つこと。私たちは質問されると、答えを思考します。答えに少し時間がかかったからといって次の質問をしたり、話題を変えたりするのは質問の作法に反します」

いい質問で場の雰囲気をよくし、相手に好かれることもあれば、答えにくい質問が居心地の悪い沈黙を生むこともある。質問は相手が答えやすいこと、答えるのが嬉しそうなことを尋ねるのが基本。つい「どうして?」「なぜ?」と質問しがちだが、これには注意が必要だ。

「なぜ? という問いに対する答えは『~だからです』と論理的な組み立てが必要になります。頭のなかで文章を作らなければなりません。これは結構なストレスなのです」

なるほど、子どもに「なんで、なんで?」と質問責めにあったときのイライラはそういうわけだったのか。

20年以上の弁護士活動で無数の交渉を経験してきた谷原さんだが、交渉するときは質問が7割、自分の意見が3割くらいを心掛けているという。実感しているのは、「質問をして、相手の話を黙って聞いてから説得したほうがいい」ということ。まず相手の話を理解しようという姿勢でじっくりと聞き、「あなたが言いたいことはこうですか?」と確認する。で、確認が取れたら、「では、私の話を聞いてもらえますか」と切り出す。相手は自分の言いたいことは言ったので、この人の話を聞いてあげようという気持ちになるのだという。

最後に沈黙のトリセツを。沈黙は効果的に使うとコミュニケーションが円滑になる半面、機嫌が悪そう、気難しそう……といった誤解を生むリスクもある。だから、沈黙は笑顔とセットがよいと谷原弁護士。

「人間関係の基盤となるのは、好意と信頼です。これを得るには、まずあなたが相手に好意を持ち、相手を信頼すること。沈黙は誤解されるリスクもありますから、相手への配慮を忘れないことが大切です」

▼この沈黙のしぐさはNG
・相手に体を斜めにして対する
相手の話を批判的に聞いている印象を与える。
・体を揺らしながら聞く
貧乏ゆすりは癖でも、相手は会話に集中できない。
・腕を組む
腕を組む姿勢は拒絶を意味するので相手は話しにくい。
・踏ん反り返った姿勢
偉そうな態度に見られてしまう。
・目を合わせない
すぐに目をそらすのも相手を不快にさせる。
・スマホをいじる
話を聞いていない印象を与える。
・髪の毛を触る
相手を軽んじている、集中して聞いていない印象を与える。

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谷原 誠(たにはら・まこと)
弁護士
1968年、愛知県生まれ。明治大学法学部卒業。みらい総合法律事務所代表パートナー。著書に『「沈黙」の会話力』『「いい質問」が人を動かす』ほか。

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遠藤 成(えんどう・せい)
フリー編集者
出版社を経て独立。運動とは無縁の人生だったが、40代後半にランニングにハマり、フルマラソンの自己最高は3時間42分。一番好きなランニング小説は『遥かなるセントラルパーク』(トム・マクナブ)。

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(フリー編集者 遠藤 成)

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