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生活困窮率の高い地域と「豚肉食」の露骨な相関

プレジデントオンライン / 2019年12月10日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nito100

生活に困窮する人は豚肉をよく食べる。これは統計的な事実だ。それでは全国各地の「肉の好み」と「生活困窮度の高いエリア」に関連はあるのか。統計データ分析家の本川裕氏は「東の豚、西の牛、九州の鶏という傾向だけでなく、西日本では困窮者でもあまり豚を食べず、東日本では裕福な者も豚を多く食べることがわかった」という――。(前編/全2回)

■生活が困窮した人は牛肉や鶏肉より、豚肉をよく食べる

生活に困窮する人々が一般と比べて何を多く食べ、何をあまり食べていないかを、この連載の第1回に紹介し反響を呼んだ。その際、私が示したのは、「困窮者は牛肉や鶏肉より、豚肉をよく食べる」というデータだった。

肉の好みでは、「牛肉は西日本で好まれ、豚肉は東日本で好まれる」といわれる。そこで今回は前後編に分け、前編では、肉の地域分布と「困窮者は豚肉を多く食べる」という事実との関係について、後編では「西の牛、東の豚」という地域構造の由来について考察していきたい。

まず、第1回の記事をごく簡単におさらいしよう。

■最安価の鶏肉より割高な豚肉を好む傾向がある

図表1では、食料に困ったことのある困窮者(この1年間に食料に困ることが「よく+ときどき」あった者)が平均と比べてどんな食品を多く、あるいは少なく摂取しているかを総括的に示している。

図を見ると、困窮者は大きな食品群別には、米や小麦などの比較的安価で手に入る穀物製品を多く食べる一方、肉、魚、果物と値段の張る食品ほど食べる量が少なくなっている。やはりおなかを満たす点に重点が置かれていると推測できる。

穀類の中では、米もうどん・中華そば、パスタといった小麦製品もよく食べられているが、パンやそばはそれほど食べられていない。やはり少し割高だからであろう。

魚介類の中では、高級魚のたい、まぐろ、えび、かにはあまり食べられておらず、あじ・いわしなどの大衆魚や水産缶詰の消費が多くなっている。

肉類の中では、牛肉の消費は少なくなっている。やはり、値段の高い食品には手が届きにくくなっていると思われる。ただし、豚と鶏を比較すると鶏のほうが安価であるのに、むしろ、豚の消費のほうが多くなっている。

■「安い鶏より料理がしやすく合理的だ」

これは、一見、不思議な現象である。

私は、生活に忙しい困窮者は健康に良いといわれている鶏肉より、おいしい豚肉につい手が伸びるからではなかろうかと考えていたが、前回の記事に寄せられた読者コメントの中に、「鶏より豚のほうがおいしく食べるための料理がしやすく、忙しい生活の中では安い鶏よりかえって合理的だ」といった意見があり、なるほどそうかもしれないと思った次第である。

次に、こうした生活状態に応じた「肉の選択」と「地域的な肉の好み」とがどういう関係にあるのかを探っていこう。

■「東の豚、西の牛、九州の鶏」という嗜好分布

図表2は、家計調査の結果から作成した牛肉、豚肉、鶏肉の年間支出額の多い県庁所在市の全国15位までのランキングである。牛肉は支出額の多い順に、奈良市、和歌山市、京都市……と続く。豚肉は、さいたま市、横浜市、新潟市……。鶏肉は、大分市、福岡市、大津市……。上位の市は、全国の中でもそれぞれの肉が好きな地域であると考えられよう。

図表3は、図表2で示した県庁所在市の嗜好が県を代表していると仮定し、この結果を都道府県マップに示した分布図である。

これを見れば、豚肉は北陸地方や東海地方より東の東日本では好まれており、牛肉は西日本のうち近畿や中四国で特に好まれ、鶏肉は西日本の中でも九州全県に鳥取・岡山・滋賀を加えた地域で好まれていることが明らかであろう。

■東日本の豚肉好き、西日本の牛肉好きが極めて明らか

これは、実際の家計の支出から見た肉の嗜好であるが、人々の意識ではどうなっているだろうか。少し古いデータになるが、日本経済新聞社の食の地方性を話題にしたWEBサイトにおける読者投票で「肉といえば何の肉か」の意識を探った結果のデータを図表4に掲げた。

これを見ると、県民の意識上からも東日本の豚肉好き、西日本の牛肉好きが極めて明らかである。ただし、鶏肉消費の本場の九州でも肉といえば鶏肉とまでは考えられておらず、むしろ、肉といえば牛肉という意識であることが分かる。

さらに細かく言えば、北陸の富山、石川や南関東の東京、埼玉、神奈川は、牛肉より豚肉の消費が多い点が目立っているのに、意識上は「肉といえば牛」という西日本の嗜好を示している。実際の消費を越えて意識上は牛肉優位の考え方が根強いといえよう。

■豚肉を好む地域は貧しい地域なのか?

以上の統計データから、「困窮者が多い地域で豚肉が好まれている」と言うことはできるかと問われれば、そう断言することはできない。

関東と近畿の2エリアで比較してみると、食の好みは、関東は豚肉、近畿は牛肉であることは明らかだが、関東より近畿のほうが困窮者が少ないとは言えない。困窮者が多いのは、3大都市圏より地方圏だと考えられるが、肉の嗜好マップとこの区分は一致しない。

ここまでの考察で「地域的な肉の好み」と「困窮度別の肉の好み」とは必ずしも一致しない、という結論では筆者は満足できない。そこで、もう少しデータ分析を深めてみよう。

■家族が必要とする食料が買えなかった経験がある世帯の率を調査

図表1で参照したのは厚生労働省の「国民健康・栄養調査」のデータだった。「食料に困ったことがあるか?」という質問に対する回答を分析したものだが、このデータでは地域別の困窮者の割合は分からない。

それが分かるのは、同じ厚生労働省の社会保障・人口問題研究所による「生活と支え合いに関する調査」である。正確に言うと、この調査でも都道府県別のデータは得られないが、地方ブロック別のデータは得られる。そこで、「地方ブロック別の食料困窮者割合」と「豚肉比率」との相関図を作成した(図表5参照)。

なお、豚肉比率は、2人以上の世帯1世帯あたり1カ月の支出金額における生鮮肉の牛・豚・鶏肉に占める豚肉比率のことを指し、困窮世帯比率は、過去1年間に経済的な理由で家族が必要とする食料が買えなかった経験が(よく+ときどき)あった世帯の比率を指す。

また、豚肉比率は、県庁所在地だけでない県別のデータが得られ、地方ブロック別の値を求めることができる「全国消費実態調査」(総務省統計局)の結果を使用した。

■北海道・東北、九州・沖縄で豚肉比率が高い

これを見ると、豚肉比率(縦軸)は東日本で高く、西日本では低いという傾向が認められる。ただし、東日本でも西日本でも、各地方ブロックを細かく見ると、困窮世帯比率(横軸)が高い地域ほど豚肉比率が高くなるという特徴も認められる。

すなわち、東日本の中では、困窮世帯比率が高い北海道・東北で豚肉比率が最も高く、最も困窮世帯比率が低い東京圏で豚肉比率は最も低くなっている。

西日本では、困窮世帯比率が最も高い九州・沖縄で豚肉比率が最も高くなっている。もっとも西日本では、最も豚肉比率が低いのは四国であるが、四国がもっとも困窮世帯比率が低いわけではなく、東日本より両指標の相関度は低くなっている。

中京圏は東日本と西日本のちょうど中間の位置を占めている点も興味深い。

このように、肉の好みは東西の文化的な嗜好の差のほうが大きい。西日本では困窮者でもあまり豚を食べないのに対して、東日本では、裕福な者も豚を多く食べるのである。

ただ、こうした文化的なバイアスを取り除いてみれば、困窮者ほど豚肉を食べるという傾向が確かに認められるのである。(後編に続く)

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
1951年神奈川県生まれ。東京大学農学部農業経済学科、同大学院出身。財団法人国民経済研究協会常務理事研究部長を経て、アルファ社会科学株式会社主席研究員。「社会実情データ図録」サイト主宰。シンクタンクで多くの分野の調査研究に従事。現在は、インターネット・サイトを運営しながら、地域調査等に従事。著作は、『統計データはおもしろい!』(技術評論社 2010年)、『なぜ、男子は突然、草食化したのか――統計データが解き明かす日本の変化』(日経新聞出版社 2019年)など。

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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)

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