実は「危機管理」が苦手だった菅官房長官の実力

プレジデントオンライン / 2019年12月9日 18時15分

参議院予算委員会で菅義偉官房長官(左)と話す安倍晋三首相=2019年10月15日、国会内 - 写真=時事通信フォト

■「ポスト安倍」の本命という声も上がっていたのに…

半年前に「令和おじさん」として大注目を集め、つい先日までは、「ポスト安倍」の本命という声も上がっていた。ところが今、菅義偉官房長官の株が大暴落している。

「桜を見る会」の問題で連日記者団の追及を受けて立ち往生。明らかに自信のなさそうな回答を繰り返している。第2次安倍政権が誕生以来、7年間、鉄壁のスポークスマンを演じ続けてきた菅氏はどうしてしまったのか。

菅氏は原則として1日に2回、午前と午後に首相官邸で記者会見を行う。月曜日から金曜日まで週5日だから、単純計算で1年に600回、この7年間で4000回以上会見をこなしてきたことになる。

サービス精神が旺盛というわけではないが、手堅い受け答えは定評がある。官房長官は政府全体のスポークスマン。質問は国政全般、国際情勢、そして社会問題からゴシップに至るまで質問を受けるが、よどみなく答える。

■秘書官が「差し紙」をした回数は11回で史上最多

それが、最近、明らかに変わった。例えば12月4日午前の記者会見。「桜を見る会」の招待者名簿のバックアップデータを巡るやりとりで、何度も回答に詰まっている。

「ちょっとお待ちください」と自信なげに語っている間に、秘書官が回答案を紙に走り書きし、菅氏の元に走る。紙を左手で受け取った菅氏は、目を紙に落としてそれを読みあげる。秘書官が紙を差し出した回数は11回に及んだ。

これまでも、想定外の質問があった時に秘書官が差し紙することが皆無だったわけではないが、11回は「史上最多」だ。しかも、発言は「~というふうに聞いています」というような語尾が多く、頼りなさそうなのだ。

■永田町で流行語になっている「差し紙」

6日の記者会見では、TBS報道特集の金平茂紀キャスターが会見に登場。「国民から疑問・不満や憤りの声が非常に高くなっている。政府が国民に対して説明責任を十分に果たしているのか、それとも幕を引いていいんだとお考えか」と質問。最後に「官僚の差し紙なしでお答えいただきたい」と痛烈な皮肉もつけ加えた。

菅氏はぶぜんとした表情で「果たしていると思っている」と言い返したが、内心忸怩(じくじ)たる思いだったのは想像に難くない。「差し紙」は今、永田町でちょっとした流行語になっている。

どうして菅氏は、こうも「変貌」してしまったのか。理由はいくつかある。まず、文書の電子保存のようなテーマに明るくない。例えば記者会見では電子データの保存方法について内閣府が採用している「シンクライアント方式」などへの質問が飛び交う。71歳の菅氏が言いよどむのもやむを得ない部分もあろう。

ただし「桜を見る会」の問題は内閣府および内閣官房の問題。菅氏の所管だ。「得意ではないから答えられない」では済まされない。

■最大の原因は「安倍氏しか答えられない問題が多い」こと

そもそもこれまでの「森友学園」「加計学園」や各閣僚のスキャンダルなどは、文部科学省、財務省、経済産業省などの問題が問われた。菅氏はこれまで記者会見では大づかみに全体像を理解して答えておいてあとは「○○省に聞いてください」と投げればよかった。しかし「桜を見る会」は他に振ることはできない。つまり、もともと詳細な問題について対応する力量は乏しかったのかもしれない。

今回の「桜を見る会」の問題の特殊性は、安倍晋三首相が「主役」であるということだ。高級ホテルで行われた前夜祭の収支は、本当のところどうなっているのか。桜を見る会では誰が「首相枠」で推薦されたのか。安倍氏しか答えられない問題は多い。

だが、安倍氏が予算委員会などで説明責任を果たす場面はない。結局、菅氏は安倍氏の身代わりとして矢面に立たざるを得ない。9日に国会が閉会してからは、さらに菅氏の負担は高まることになるだろう。

■政治部記者にとって菅氏は「絶対的存在」ではなくなった

もう1点、見逃せない点がある。記者団の追及が格段に厳しくなったのだ。官房長官の記者会見に出席するのは内閣記者会に所属する政治部記者が中心だ。永田町にも霞が関にもにらみを利かせ、マスコミ操縦術にもたける菅氏に対し、政治部記者、特に「番記者」と呼ばれる菅氏担当の記者たちは気後れしていた。不用意な質問をして不興を買うと、情報をもらえなくなるという恐怖心があったのだ。

数カ月前まで菅氏の会見というと、東京新聞社会部の望月衣塑子記者が厳しい質問を菅氏にぶつけて注目を集めた。それは番記者たちが菅氏のご機嫌を損ねないような「緩い」質問をしていたから、目立ったという側面がある。

だが、今は違う。朝日、毎日、東京など政権に批判的な新聞社だけでなく民放テレビ局なども競い合うように菅氏に厳しい質問をぶつける。記者たちは「桜を見る会」の問題が、これまでのスキャンダルとは次元が違うことを感じ取っているのだ。政治部記者にとって菅氏が「絶対的存在」ではなくなっている。

政権寄りの論調が多い産経新聞でさえ、8日の朝刊で「鉄壁答弁崩れ菅長官に綻び」という記事で「菅長官の答弁が変遷するなど対応のまずさが目立ち、政権の強みとされてきた危機管理の綻びを印象づけた」と辛口の論評をしている。

■安倍内閣を「全く支持できない」が急増している

「桜を見る会」では、安倍氏が火だるまになり、政権を支えてきた菅氏のメッキがはがれた。菅氏を「ポスト安倍のナンバーワン候補」という声は消え、辞任論さえもくすぶる。

JNNが12月7、8の両日に行った世論調査で安倍内閣の支持率は前回比5.2ポイント下落し49.1%。5割を割り込んだ。

「支持しない」層を分析すると「あまり支持できない」は31.0%で1.5ポイント減っているのに対し「全く支持できない」が16.8%で7ポイントも上がった。「全く支持できない」層は今後、支持に戻ることはないだろう。このデータからも「桜を見る会」は安倍内閣の屋台骨を揺るがしていることが分かる。

(プレジデントオンライン編集部)

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