"絶体絶命"韓国経済に止めを刺す文在寅の思惑

プレジデントオンライン / 2019年12月10日 11時15分

写真=AFP/時事通信フォト

文在寅政権は逆方向に進んでいる

輸出依存度の高い韓国経済は、世界的な貿易量減少の影響もありかなり厳しい状況を迎えている。トランプ大統領の保護主義的な政策や中国経済の減速などを受けて、ここから先、韓国が短期間で輸出を増やして景気持ち直しを目指すことは難しいだろう。

韓国の金融・財政政策にも限りがある。政策金利は過去最低の水準にある。利下げの余地・効果とも限定的だ。財政出動をさらに増やすと、韓国自身の信用力の低下=ソブリンリスクが高まることもあるだろう。

文政権が経済の安定と持続的な成長を目指すにあたって、構造改革の重要性は高まっている。既得権益層に経済的な利権が集中してきた韓国にとって、経済格差を是正し、将来への希望を高めるためにも、改革案をまとめ、実行する意義は大きいはずだ。

ただ、左派の政治家として存在感を示してきた文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、企業向けの規制緩和などを行い企業経営を支援するとは考えづらい。反対に、同氏は労働組合などの支持を維持するために、韓国経済の成長期待を下押しするような政策を進めてしまっているように見える。

安全保障に関しても、文政権の政策は目指されるべきものとは異なる方向に向かっていると考えられる。この状況が続けば、韓国では世論の分断が深刻化し、経済はさらなる低迷を迎える恐れがある。

景気減速を食い止める術がわからない

足元、従来型の韓国の経済運営は行き詰まりつつあると考えられる。輸出の落ち込みがそれを示唆している。

過去の景気循環を振り返ると、世界的に需要が後退する局面において、韓国では半導体関連の企業などが設備投資を増やした。その後、米国や中国の景気が上向き、世界の需要が高まるとともに韓国の輸出が増加した。それによって韓国経済は成長を遂げてきた。輸出依存型の経済運営を維持するために、過去の保守派政権は、財閥企業の経営を重視してきた。

しかし、この発想で韓国経済が全体としての安定感を取り戻し、さらなる成長を目指すことは難しくなっているとみる。一つの大きな要因として、韓国経済にとって最大の輸出先である中国経済が減速していることがある。

中国政府は財政・金融政策の両面から景気の下支えを重視している。中国人民銀行は金融機関向けの資金供給を増やしている。また、中国政府は減税策も導入している。にもかかわらず、成長率は低下し、債務問題が深刻化している。中国経済が依存してきた固定資産への投資も鈍化している。

新車販売台数も落ち込んでおり、内需も低迷気味だ。「どのようにすれば景気減速を食い止めることができるかわからない」というのが中国共産党政権の本音だろう。

■中国の需要は当てにならない

韓国にとって、中国の需要を当てにして景気回復を目指すことは現実的ではなくなりつつあると考えられる。それに加え、韓国と中国の経済的な関係も大きく変化している。韓国から調達してきた半導体などのIT関連分野において、中国は自国企業の競争力を高めようと国家総力で取り組んでいる。

その実力は無視できないと考えなければならない。米国政府が中国のIT先端分野での覇権強化を警戒し、通信機器大手のファーウェイや、監視カメラ大手のハイクビジョンに制裁を発動したことは警戒感の裏返しだ。中国の需要を取り込み、半導体輸出などによって成長を実現してきた韓国経済は行き詰まりというべき状況を迎えている。

この状況下、構造改革の重要性が高まっている。韓国経済が落ち着きを取り戻して国力を高めるためには、国全体で新しい発想を実現し、半導体などの輸出に代わる経済成長の源泉を手に入れなければならない。

また市場原理に基づいて成長期待の高い分野にヒト・モノ・カネが再配分するためには、時代に合わなくなった法規制などを見直したい。規制を緩和、あるいは新しいルールを策定することで民間の活力向上を目指すべきだ。

サムスンは5G関連の需要で業績反転か

経済運営の行き詰まり懸念に加え、韓国では格差問題も深刻だ。文政権は、最低賃金の引き上げや、高齢者の短期雇用の増加に取り組んだ。それは既得権益層には有利だ。一方、就業していない若年層を中心に雇用と所得の環境は厳しさは増しており、韓国の内需を冷え込ませる一因とみられる。

韓国の小売企業の業績などを見ると、個人消費を取り巻く環境の厳しさがうかがえる。韓国の百貨店やディスカウントストア運営企業の業績や株価は不安定に推移している。とくにディスカウントストア業界では、業績不振が鮮明な企業もある。価格帯の低い店舗での購入を控える人が増えるほど、韓国の経済環境は厳しさを増していると考えられる。

また、韓国経済を見わたすと、半導体に代わる付加価値創出の源泉が見当たらない。サムスン電子では5G関連の需要によって業績反転の兆しが出つつあるようだ。

同時に、同社は有機ELパネル分野などで中国企業が仕掛ける価格競争にも対応しなければならない。ほかの電機関連企業の業況は依然として不透明だ。くわえて韓国の電機業界は、半導体の材料や製造装置をわが国に依存している。

新しい産業の育成などを通して、国民全体がより公平に成長を実感するために、政府が企業の賛同を取り付けつつ、改革を進めることは重要だ。改革に背を向けたまま、韓国が経済の安定と成長を目指すことは難しいだろう。

文政権の政策運営に対する不安

改革を進めるためには、文大統領が経済状況を立て直しつつ、人々の多様な考えや主張を調整し、国を一つにまとめなければならない。しかし、文氏がそうした考えを重視するとは想定しづらい。

文大統領は労働組合や市民団体を主要な支持基盤としている。同氏にとって支持者の意向に背を向けることは、政治生命のみならず、大統領任期を終えた後の人生を脅かすことになるだろう。韓国では政権交代の都度、歴代の大統領などが逮捕されたからだ。文氏はその展開を避けなければならない。

そのため同氏は、徹頭徹尾、“南北統一”“反日”を政策の根底に据えている。土壇場で日韓GSOMIAの破棄は回避されたが、当初、文氏が協定破棄を重視した背景には市民団体などの強い意向があったとみられる。一方、保守派はGSOMIAの維持を求めた。米国からの強い働き掛けもあり、最終的に文政権は渋々、GSOMIAを延長したというべきだろう。

この状況は、韓国の世論が二分されていることを示している。南北統一に関しても世代間で意見が分かれているようだ。若年層には、「南北統一のために自国の負担が増えることは耐えられない」との考えが多い。

不安要素は増大するばかり

それでも構わず文氏は南北統一を目指している。文政権下、改革の進展は期待しづらい。文氏の経済政策には、さらに世論分断を深刻化させる側面がある。最低賃金引き上げは、韓国の雇用を減少させた。労働争議や安全保障面への不安から、韓国から脱出する企業も増えている。

企業の海外脱出が増えれば、韓国の雇用・所得環境は一段と厳しさを増し、格差問題は深刻化するだろう。やや長めの目線で考えると、韓国の政治家が世論をまとめ、社会全体で新しい発想の実現を目指すことは、これまで以上に難しくなる可能性がある。

文大統領の経済や安全保障などの政策は、こうした不安要素を解消するのではなく、増大させているように見える。世界経済を支えてきた米国経済の減速や、米中貿易摩擦の激化などが鮮明化した場合、韓国の社会・経済はさらに厳しい状況を迎えることが懸念される。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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