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イオンを創った女が「男女を区別」していた理由

プレジデントオンライン / 2020年1月2日 11時15分

「弟を日本一にする」。イオングループ創業者・岡田卓也の実姉・小嶋千鶴子は、その言葉通り、家業の岡田屋呉服店を日本最大の流通企業に育てた。『イオンを創った女の仕事学校』(プレジデント社)の著者・東海友和氏は「小嶋は相当早い時代から、女性を戦力化するための施策を講じていた」という――。

■頭に「女」がつく言葉を嫌った理由

小嶋は職業・肩書・役割のあたまに「女性」「女」が付く言葉を嫌った。

たとえば女性経営者・女優・女性記者・女流作家等々である。この言葉の響きには本来男がすべきなのに女性がしているという珍しさや一段ひくい立場のという意味を感じるからである。

小嶋は取材におとずれた雑誌の編集長(女性)が、「小嶋さんは仕事もして結婚されて家庭のこともなさっているので驚きました。とても立派ですね」という言葉に、小嶋はすかさず「何が立派なもんか。当たり前やないの、そんなこと」と言い、有夫の婦という言葉を引き合いに、女性の地位について語ったことは過去にも紹介した。

こんにち社会がかわり、女性の権利が認められる世の中にあってもこの差別意識はあまり変わっていない。

ジャスコ時代に、女子4年生大卒社員を採用した際にも記者から「小嶋さんが女性だから女性に理解があるのでは」という問いかけに対して、「そんなものは関係ない。意欲と能力が必要なだけや」と言い切ったのである。

■終身雇用制の終わりを予見していた

小嶋は『あしあと』(※)の中で、こう言っている。

※小嶋千鶴子自身が、81歳の時に刊行した自伝。一般には販売されず、イオングループ現役社員に配布される。

「4年生大卒者について見ると、入社時点で男女の能力差はないといってよい。今の需給関係からいって、相当質の良い女子大卒者が採用できるはずである」

続けて、「しかし、女性の場合、最終的には家庭に入ることを目的にしている人が圧倒的に多い。経営上から見ても、今しばらくは続くであろう終身雇用制の中での男子労働者と、この女子短期労働者の組み合わせはマイナスではない」。

1997年に書き記したものである。

いまから20年以上前に終身雇用の終わりを予見しているかのような視点に加えて、当時の女性はまだ結婚ということへの思いが強かったのであろう。

■子育てを終えた「奥様社員」を募集

にもかかわらず、小嶋は女性が故の視点と企業経営者の視点で、相当早い時代から、この女性を戦力化するための数々の施策を講じている。

「女性で一番問題になるのは出産です。出産ということがなければ、能力的にも仕事の遂行上も、男女に差をつける理由は全くありません。しかし出産という事実がある以上、区別しないわけにはいかないのです」と言う。

すでに昭和30年後半には、これからの女性の社会進出がなされることを予見して、今では珍しくないが、「パートタイマー」の導入をいち早く行っている。

さらに、子育てを終了した女性に対しては「奥様社員」と称した社員募集を実施して、高学歴でかつ意識の高い奥様を社員化したのである。その後パートタイマーから社員(契約制社員)への道を開き、仕事の埋め合わせ的な存在から一定の条件を満たしており、なおかつ意欲と能力のある者対して安定した社員への道を開いた。

■主婦たちには「消費者の目線」があった

「就業した主婦の多くは、折から“産業化”を進める企業の内部に直接参加する機会を得て、自ら組織社会の一員となった。同時に自ら扱う商品を通じて、自らの目で技術革新の実態を把握し、社会の変化そのものを家庭生活の中に吸収することができた」

つまり、

「主婦たちは自らの健康や生命に深い関わりのある食料品や、毎日の生活で使用する家庭雑貨や家電製品の販売を実体験することができた。これによって、社会に対する目、商品に対する目を養い、消費するだけの生活体験から販売する側の立場、あるいは生産製造の過程まで踏み込んだ多くの知識を得ることになった」

のである。

そして、

「内部からの消費者代表としての発言は、それなりの重みがあり、問題解決への参画にもなった。その多くは表面にこそ現れていないものの、日本の消費財の質的向上という社会的な要請に対して、彼女たちが果たしている貢献を見逃すわけにはいかない」

と評価している。

そういった奥様社員たちの中には、管理職に登用されて定年まで就労された方もいた。

まさに、女性ならではの特質を経営に活かしたのである。

■ジョブローテーションで戦力に育て上げる

ただ、その前提として、“女子社員をどう戦力化するか”といった問題意識もあった。

「開店以来、ずっと同じ女子社員だけという店をたまに見かけるが、新しい女子社員の入社、あるいは異動がないと、店に新鮮な感じがなくなり、顔なじみだからいいという特定のお客さまだけになってしまう。新しいお客さまは決して増えない。同一職場で一定の勤務年数が経過した者、あるいは一定の年齢に達した人に対しては、ある種の刺激を与え、いわば人事のリフレッシュを行う必要がある」
「異動の対象になった人には、職場を変わることがその人たち自身の仕事の領域と可能性を広げ、大きなプラスになるのだということを事前に十分説明しておく必要がある」

として、本人の意識を向上させ、ジョブローテーションによって戦力として育て上げることも行った。

■「経営者の妻」だからできることがある

企業とは違い、個人商店や農業・漁業などにおいては、女性が働くことが当たり前である。女性をなくして成り立たない産業・家業・業種は昔からあるし、特にスタートアップ企業では夫の片腕として当然のごとくその任を負うことも多々ある。

だが、手足だけの労働から、組織として大きくなるにつれてそれに相応した知識や技量が求められる。社長の奥さんだからその任が務まるという話ではなくなる。

小嶋は退職後、経営者の妻たちを集めて勉強会を開いた。『貞観政要』などの読み合わせを行ったり、会議の進め方、傾聴の仕方など具体的なスキルまでをその場で勉強したりしていた。みな、すでに自身の会社で肩書きをもっているような方々である。

あるとき私に、「本当に理解し経営者として務まるのはたった一人やな」とつぶやいたことがある。

すでに肩書きはみな社長・副社長・専務・財務部長などと立派であるものの、意識・能力はまったく伴っていなかったのであろう。

■「キャリアウーマン」は好きではなかった

これはなにも女性に限ったことではないが、社会で働く人、特に肩書がつく人たちには単なる「気張り」ではなく、より一層覚悟、能力が求められる社会であることは間違いない。一言でいえば、比率・飾りの任用や甘えのない世界である。

経営するとは、それほど難しく、覚悟・能力を必要とし、態度変容が必須なのである。

小嶋は、女性の「出産・育児」に対して配慮を示すものの、片意地はった「キャリアウーマン」活動には賛意を示さなかった。人は等しく職業をえらぶ権利があり、それを果たすにはあくまでも本人のそれなりの意思と能力が伴わなければならないという考え方であったからである。

いまでは女性の権利や社会参加はめざましいものがある。特に高学歴女性の意識変化は多様になり、その生き方もいろんな選択肢があるようになった。特に職業的にはほとんどの分野でその進出が何ら違和感なく受け入れられるようになった。

■「経営者とは自分より事業を優先できる人」

「これからは女性の時代だとか、今まで経験したことのない高齢化社会がやってくるとか、世間ではいろいろなことがいわれています。婦人の社会参加が今まで以上に活発にならないと、社会の機能維持が難しいともいわれています。そのときになってからあわてたのでは遅いのです。今からその展望に立って、女性をどのように育てていくか、女性はどのように仕事に取り組んでいくかを真剣に考えなければならないと思います。」

東海 友和『イオンを創った女の仕事学校 小嶋千鶴子の教え』(プレジデント社)

出産それに続く育児については、夫の理解はもちろんのこと、育児中の法的整備や施設整備、企業のそれに対する特別の人事制度環境整備が今以上になされなければならない。

また育児期間終了後の社会復帰(再就職)にむけてのブラッシュアップへの温かい支援が必要である。

それには、女性自身が行政や政治などの意志決定機関に参画するという決心と実行力が必要と小嶋は言う。

ただし、前提はあくまでも経営者であり、社会の一員としてである。

経営者、社会の一員として、男も女もない。小嶋は「経営者とは自分のことより事業を優先することができる人」と言っている。

その覚悟を持ち、意識・態度を変容し、学び、その一念で事に当たる女性こそが、小嶋が求めている女性であろう。

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東海 友和(とうかい・ともかず)
東和コンサルティング代表
三重県生まれ。岡田屋(現イオン株式会社)にて人事教育を中心に総務・営業・店舗開発・新規事業・経営監査などを経て、創業者小嶋千鶴子氏の私設美術館の設立にかかわる。美術館の運営責任者として数々の企画展をプロデュース、後に公益財団法人岡田文化財団の事務局長を務める。その後独立して現在、株式会社東和コンサルティングの代表取締役、公益法人・一般企業のマネジメントと人と組織を中心にコンサル活動をしている。著書に『イオンを創った女』(プレジデント社)、『イオン人本主義の成長経営哲学』(ソニー・マガジンズ)、『商業基礎講座』(全5巻)(非売品、中小企業庁所管の株式会社全国商店街支援センターからの依頼で執筆した商店経営者のためのテキスト)がある。

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(東和コンサルティング代表 東海 友和)

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