「仕事おやつ」はなぜガムからグミに変わったか
プレジデントオンライン / 2019年12月29日 11時15分
■社会人の「仕事中の小腹満たし」として人気に
少子高齢化や消費不振で、景気のよい話が少ないが、中には伸びている分野もある。菓子業界における「グミ」はそのひとつだ。
「2018年1~12月のグミの市場規模は、当社推計で674億円と『700億円』に迫る見通しです。2002年が約200億円でしたから、当時に比べて3倍以上に市場が拡大しました」
首位ブランド「果汁グミ」を持つ、明治の吉川尚吾さん(カカオマーケティング部・カカオコンフェクショナリーグループ課長補佐。グミを含めたお菓子を担当)はこう話す。
好調を実感するのが、コンビニの売り場だ。一等地と呼ばれる“レジ前”でも陳列幅を広げている。この半年で複数の店をのぞくと、フックがけの「グミ」が圧倒し、他に「梅」「大粒ラムネ」「甘栗」などがあった。これらは社会人が仕事中の小腹満たしで食べる“大人おやつ”需要も大きい。特に女性からの人気が高く、筆者の周囲でもこんな声が聞かれた。
「実は私、あらゆるおやつの中で、グミが1番好きです」(30代の女性会社員)
「机の引き出しに、非常食としてグミを常備しています」(医療機関勤務の女性)
「『果汁グミ』も好きですが、最近のマイブームはローソンの『やわらか黒おしゃぶり昆布』、それから種抜きの『干し梅』です」(20代の女性会社員)
昔は子どものおやつだったグミが、なぜ、大人も楽しむようになったのだろう。
■「健康的、手が汚れにくい、コスパよし」
「仕事中に食べるおやつとしては、世の中の変化も大きいと思います。職場環境や商品にもよりますが、執務中に何か食べても、とがめられない時代になりましたから」(吉川さん)
例えば、昼食時や残業時以外は自席でカップ麺を食べられる会社は少ないだろう。以前も別の記事で紹介したが、気分転換や小腹満たしのお菓子として、グミには次の優位性がある。
(2)一定の腹持ちで、後ろめたさが少ない
(3)手が汚れにくい
(4)パパッと簡単
(5)1回当たりのコスパがいい
それぞれ簡単に説明すると、(1)は果肉や果汁由来の品が多く、メーカーも訴求に力を入れる。例えば「果汁グミ ぶどう」(明治)は、パッケージの表に「くだもの食べよう。」「ぶどう果汁100」「着色料不使用」を明示。裏には「噛むコラーゲン2700mg入り」と記す。
「コラーゲンを訴求し始めたのは2000年ごろからで、現在のマークは2012年に入れました。どうせ食べるなら、おいしくて少しでも身体にいいものを、の視点で訴求しています。ちなみに、果汁グミの顧客層は女性が約7割、男性が約3割。30代と40代が中心です」
杉山ひかりさん(カカオ開発部)はこう説明する。ちなみに吉川さんも杉山さんも営業出身。かつては自社商品を取り扱う問屋や小売りとも直接向き合ってきた。
■日本で最初のグミは明治の「コーラアップ」
(2)は果汁などをゼラチンで固めており、腹持ちがよい。また仕事中という後ろめたさもあり、例えばかみ続けるガムは周囲の目が気になる。
(4)は気分にもよるだろう。「エネルギーを補給したい」ときにゼリー飲料やエナジードリンクを飲む人もいる。個別包装の栄養機能食品を食べる人もいる。そうした“見えない競合品”に比べ、(5)で記したように、グミはコストパフォーマンスに優れているのだ。
ここまでグミが一般に浸透したのは、明治の役割が大きい。
「日本でグミが発売されたのは1980年で、当社の『コーラアップ』でした。そして『果汁グミ』発売が1988年。当時から若い女性に訴求していました。それが健康意識の高まりや仕事中の忙しさも手伝い、ここまで市場が拡大したのです」(吉川さん)
もともと女性訴求で、それに健康志向が加わり、現在も約7割が女性なのだろう。
■どのメーカーも1番人気は「ぶどう味」
グミの人気に火をつけた「果汁グミ」発売から31年。2000年以降は各社から果汁系や飲料系のラインアップも増えた。味は大きく分けて「果汁系」(約60%)とコーラやソーダなどの「飲料系」(約24%)だという。
現在、競合も含めた「グミの売れゆきベスト3」はこうなっている。
(1)「果汁グミ」(明治/シェア14.0%)
(2)「ピュレグミ」(カンロ/同9.2%)
(3)「フェットチーネグミ」(ブルボン/同7.7%)
※2018年12月~2019年11月 インテージSRI:SUPER+CVS+DRUG/全国の調査データ
ちなみに「グミ」の人気フレーバーは、昔から変わらない。
「一番人気はぶどう味(グレープ)です。ゼラチンとの相性がよく、ジューシーさが感じられるのでしょう。どのブランドもぶどう味が強く、『果汁グミ』も『ぶどう』が1位で、2位『温州みかん』の約2倍売れています」(杉山さん)
なお、カロリーは「果汁グミ」のぶどう(1袋51g)で167キロカロリー、同温州みかんで169キロカロリーとなっている。特に高カロリーとはいえないが、前述の「やわらか黒おしゃぶり昆布」は28キロカロリーだった。
■弾む、硬め、優しい…かみ心地はさまざま
一方、実際に食べた場合の“かみ心地”は商品によって違う。
例えば、国内で競合する「フェットチーネグミ」(ブルボン)は、商品パッケージでも「アルデンテな“弾む”噛みごこち!」を打ち出す。実際に口にすると、かみがいがある食感。「ピュレグミ」(カンロ)もきちんとしたかみ具合だ。
外国製で人気の「ハリボー(HARIBO)」(原産国ドイツ。取り扱いは三菱食品)は硬い。グミのパイオニアとして知られ、欧州ではおなじみのブランド。日本にもファンがいる。
一方「果汁グミ」は触っただけでも違い、口にすると優しいかみ心地だ。
「当社の『コーラアップ』は硬めですが、『果汁グミ』は柔らかすぎず、硬すぎず、多くの人に心地よい食感だと思います」(杉山さん)
明治が行った消費者調査では「間食で求めること」は、「かみ応えが欲しい」という回答が目立った。かむことを重視する人も多いが、若者を中心に咀嚼(そしゃく)力が弱まったと指摘される現代。適度なかみ心地は、各社も意識しているようだ。
また、かつて社会問題となった「こんにゃくゼリー」もそうだが、特に幼児や高齢者がかまずに飲みこんだ場合は事故につながりかねない。各メーカーは、1個の大きさを工夫しつつ啓発活動を続けている。明治の「コーラアップ」パッケージ裏には「のどに詰まらせないよう、少しずつよく噛んでお召し上がりください」と赤系文字が記されていた。そこまで硬くない「果汁グミ」も同裏に「よく噛んでグミを食べよう」と記してある。
■次なるねらいは外国人向けのプロモーション
冒頭で紹介したように、これだけ市場が拡大したグミだが、課題も残る。
ひとつは、明治の調査によると「グミの購入率は約40%」(2018年度)にとどまること。100%に近いチョコレートに比べると愛用者は多くないが、逆に訴求次第で可能性が広がる。
また、日本で暮らす外国人も増加し、訪日外国人も年間3000万人を超える時代だ。
そうなると、モノづくりやコトづくりでの消費者訴求も変わってくる。前者は「日本の生活者」で、後者は「より日本を知ってもらう消費者(予備軍)」といえよう。すでにメーカー各社は、2020年7月24日から始まる「東京五輪」も見据えている。
「当社の場合は、『東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会』(を含む期間)の乳製品・菓子部門で『ゴールドパートナー』になっています。契約カテゴリーは13あり、グミやチョコレートも入っているので、さまざまな訴求ができます」(吉川さん)
よく「グローバルでの活動」と言われるが、来年は特に、日本を訪れる外国人に向けた“いながらグローバル”(日本にいながらのグローバル活動)が大切になりそうだ。
「例えば『果汁グミ』の食感は外国製のグミにはありません。また、定番品の『ぶどう』『温州みかん』『いちご』『もも』は、それぞれの果物の形をしています。こうした独自性を含めた、消費者訴求も考えているところです」(杉山さん)
ブランド全体では年間売上高が90億円近くになり、国内における“メガブランド”の目安とも言われる100億円に近づいた「果汁グミ」。国内外で喫食体験者を増やせば、さらなる成長も期待できそうだ。
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経済ジャーナリスト
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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(経済ジャーナリスト 高井 尚之)
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