原油価格上昇が日本経済に悪影響を与える理由
プレジデントオンライン / 2020年1月16日 9時15分
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/I'm a graphic designer, photographer and 3D artist. Let me show you my creativity.
■「米国とイラン」の緊張関係と日本人の家計の関係
2020年に入り、米国とイランとの緊張関係が一気に高まりました。
米国がイランを空爆してソレイマニ司令官殺害し、その報復としてイランがイラク国内にある米軍基地にミサイルを発射。両国とも、「戦争は望まない」という点で一致し、戦争状態への突入は回避されそうですが、ドバイ原油価格はこの事態を受け、一時的に1バレル70ドル程度にまで値上がりしました。
日本経済は中東原油への依存度が高く、原油価格上昇に弱い。そのため日経平均株価も大幅下落しました。現在は、株価もある程度落ち着いていますが、原油価格の高騰は資源の乏しい日本の経済にとって痛手となることが改めて露呈しました。
2020年日本経済の最大の懸念は「米中摩擦」でした。幸い、この米中摩擦は緩和の方向に向かう兆しもあり、少し安心感がありますが、今後の日本経済を見る上では、「中東情勢」により強く目配せする必要が出てきました。
■原油価格上昇が日本に悪影響を与える理由
米国とイランとの緊張関係で株価が大きく反応した背景をもう少し詳しく分析しましょう。
前述したように、日本は原油高に弱い経済構造です。原油が高騰すると輸入物価とLNGの価格が上昇します。原油やLNGの輸入に占める割合の高い日本の場合、それが輸入物価に与える影響が極めて大きいのです。
もし、1バレル70ドルを超える状態が続けば、今後、ガソリン価格のみならず電気、ガス料金などの上昇、さらには、石油化学製品などの上昇は容易に想像できます。
図表1は日本の輸入量の多い中東産原油の指標であるドバイ原油価格(1バレル・US$)と輸入物価、企業物価、消費者物価(除く生鮮品)の数字(2018年1月~)を表したものです。
図表1を見ると、2018年3月にドバイ原油が70ドルを超えてから数カ月後に輸入物価が上がり始めたのがわかります。2017年のこの時期の原油価格は50ドル前後でしたから、かなり大きく上昇しました。
原油価格の上昇は船で輸送する関係から1、2カ月ほど遅れて輸入物価に影響を及ぼします。2018年8月には80ドルを超えていた原油価格ですが、年末に60ドル前後まで下がっています。輸入物価もそれに数カ月遅れて下落、その後は前年比で下落という状況が続きました。
原油を筆頭とする輸入物価に呼応して動くのが、企業の仕入れを表す「企業物価」です。企業の仕入れは、輸入物価の動きほどの大きさではありませんが、ほぼ輸入物価に連動して動いているのが分かります。そして、「消費者物価」も企業物価の動きほどではありませんが、連動していることもお分かりいただけるでしょう。
つまり、原油価格の上昇は輸入物価の上昇をもたらし、それが企業物価の上昇を通じて消費者物価に影響を及ぼすのです。消費者物価が上がれば、当然、モノは売れにくくなり、日本経済に悪影響を与えることになるのです。問題はモノが売れにくくなることだけではありません。
■物価上昇は「コストプッシュ型」か「ディマンドプル型」か
消費者物価の上昇の局面で重要なのが、物価上昇が「ディマンドプル」型か、「コストプッシュ」型なのかということです。
ディマンドプル型の物価上昇は、需要(ディマンド)が増えることで物価が上昇する、いわば、「健全な」物価上昇です。この場合には、企業業績も上がりやすく、働く人の給与の上昇も望めます。
しかし、原油価格上昇のような、コストプッシュ型の物価上昇の場合には、値上がり分のお金は、ほとんどが海外に流出するため、単に物価だけが上昇するということになります。
そうなれば、のちに説明するように給与が上がらない中でモノの値段が上がるわけですから、消費が下がり、景気全体が下がり気味になるということです。
一方、米国でも、原油価格の上昇は、ガソリン価格の上昇などで物価には悪影響となります。ところが、昨年、米国は原油の純輸出国となりましたから(*)、貿易収支の改善を通じて、米国経済には好影響となります。原油のほぼ全量を輸入している日本とは根本的に構造が違います。
*2019年9月の米国の原油および石油製品輸出量が輸入量を日量8万9000バレル上回り、統計を開始した1949年以来70年ぶりに月間ベースで純輸出国となった
■所得が上がらない中での物価上昇はきつい
図表2はこのところの日本における所得や雇用の状況を表しています。一人当たりの所得を表す「現金給与総額」は2014年度から上昇しています。しかし、そのレベルは年1%以下と低く、2019年に入ってからは、前年比マイナスの月も少なくありません。図表で現金給与総額の右隣の「所定外労働時間」が働き方改革の影響もあって減っていることが大きいと考えられます。
同じ図表の「完全失業率」は極めて低く、「有効求人倍率」もピークは過ぎていると考えられるものの、いまだに高い水準の中で、給与が伸び悩んでいるという状況なのです。
■今後の注目は中東情勢が日本「消費」に与える影響
ここまで日本経済が原油価格の上昇に弱いことを説明してきましたが、今は小康状態として、今後の焦点は米国とイランの対立により、どこまで原油価格が上がるのか、そしてそれがどれくらい続き、日本の物価に影響を及ぼすのかです。
日本の場合、家計の支出がGDPの半分以上(約55%)を支えていますが、その消費がどう動くかに注意が必要です。前述したように、コストプッシュ型のインフレは、消費にマイナスに働きます。所得が増えない中で、ガソリン価格などが上昇するわけですから、他の商品の消費が下がるわけです。
企業としては、輸入物価上昇にともなう仕入れ価格の上昇と、消費の減少のダブルパンチをくらう可能性があります。
図表3は家計の支出を表す「消費支出(2人以上世帯)」の前年比の数字です。2019年に入って比較的堅調に推移してきましたが、消費税増税の10月前後で大きく動いています。今後のこの数字に注目です。
米中摩擦緩和で2020年後半に景気が持ちなおすことを私は期待していますが、原油価格が今後高騰すれば、日本経済には大きな下押し圧力となります。大統領選を控えたドナルド・トランプ氏の動き、それに大きく関連する中東情勢や原油価格の動きからは目が離せません。
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小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』など著書多数。
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(小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO 小宮 一慶)
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