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ESGとSNSは食品高と戦争の一因

トウシル / 2024年4月23日 7時30分

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ESGとSNSは食品高と戦争の一因

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の吉田 哲が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
ESGとSNSは食品高と戦争の一因

異例ずくめの中東情勢、報復合戦が続く

 4月19日未明、イランで爆発が起きました。米国の一部メディアはこの爆発を「イスラエルによる攻撃」だと報じ、13日にイランが行ったイスラエル本土への攻撃に対する報復との見方が浮上しました。この時間帯、供給減少懸念が高まり原油相場は急反発しました。

図:イランとイスラエル、イランが支援するイスラム武装組織「抵抗の枢軸」の動き

出所:各種資料およびMap Chartを用いて筆者作成 イラストはPIXTA

 その後、イランの最高指導者は軍幹部との会合で、13日のイスラエルに対する攻撃を「国家と軍の意思を国際舞台に示した」とたたえましたが、19日のイスラエルによる攻撃と思われる爆発について言及しませんでした。言及を避けることで、深刻な対立を回避する狙いがあったとみられます。

 とはいえ、2024年に入り中東地域では、これまでイスラエルを擁護してきた米国が国連安全保障理事会でガザ即時停戦を求める決議で棄権したことを受けて、イスラエルの首相が両国の関係が「明らかな後退」と発言したり(3月25日)、イスラエルがシリアのイラン大使館を攻撃してイラン革命防衛隊の幹部を殺害したり(4月1日)、イランが直接攻撃を避ける暗黙のルールを破り、報復目的でイスラエル本土を攻撃したり(4月13日)、イスラエルがイランに直接攻撃をしたと報じられたり(4月19日)するなど、異例の事態が続いています。

図:2024年年初からのイスラエルを巡る動き

出所:各種資料より筆者作成

 イスラエルとイランは情勢悪化を望んでいないとする報道はあるものの、異例ずくめであることを考えれば、中東情勢はまだまだ混乱が続く可能性があります。決して、安心できる状況ではありません。

 米国という西側の大国を後ろ盾とするイスラエルと、非西側の急先鋒であるイランおよびイランが支援する複数のイスラム武装組織(ハマス、ヒズボラ、フーシ派、イラン・シリアなどで活動する民兵組織、イラン革命防衛隊など)の対立は、今後も続く可能性があります。

「西側と非西側の分断」が垣間見えるこの対立を終わらせることは、舞台が中東であることもあり、大変に(大変に)困難です。

産油国に絡む戦争は食品価格を押し上げる

 近年、原油相場は高止まりしています。2022年の短期的な急上昇の後、反落したため「安くなった」と受け止めた関係者は多いようですが、実際のところ、反落は短期で終わり、高止まりが続いています。このおよそ1年半の間、原油相場は80ドルを挟んだ上下10数ドルのレンジ相場で高止まりしています。

 今回の中東情勢悪化は、原油相場が長期視点の高止まり状態にある中で起きました。このため、原油高がもたらす負の影響が長引く懸念が強まっています。以下は、原油高がもたらす影響をまとめたものです。

図:産油国に絡む戦争勃発を起点とした食品価格高発生までの流れ

出所:筆者作成

 足元、中東情勢が悪化しているだけでなく、ウクライナとロシアの戦争が長期化しています。どちらも、世界屈指の産油国が絡んだ戦争です。こうした戦争は世界的な原油の供給減少懸念を強め、「経済の血液」とも言われる原油の相場に強い上昇圧力をかけます。

 原油相場が上昇すると、各種コストが上昇します。輸送、材料、電気、燃料などです。そしてそれらのコストが上昇すると、物価高(インフレ)が進み、それに見合った賃金を払う企業が増えて人件費が上昇します。こうした流れが、スーパーマーケットなどで売られている食品の価格を上昇させます。

 日本を襲っている物価高(インフレ)は、景気が良くて需要が旺盛であるために起きているデマンドプル(需要けん引)型だとは言いにくいでしょう。肌感覚で景気が良いと感じる人は多くないはずです。足元の物価高は、長期化している原油高が各種コストを上昇させて起きているコストプッシュ(原材料高)型なのです。

 中東情勢のさらなる悪化、ウクライナ・ロシアの戦争のさらなる長期化が見られれば、原油相場は高止まり、場合によってはさらなる高騰もあり得るでしょう。先述の通り、中東情勢が異例ずくめであることを考えれば、今後も原油相場の上振れ、それによるさらなる食品価格高には警戒しなければなりません。

食品価格高と戦争の共通の原因は世界分断

 筆者は、食品価格高と戦争には、共通の原因があると考えています。西側諸国と非西側諸国の間に存在する「世界分断」です。この分断がなければ、現在の食品価格高も戦争も、起きていないとさえ言えるでしょう。それくらい、「世界分断」は広範囲に強い影響を及ぼしています。

 世界分断がもたらす影響を図示したのが、以下です。分断があることで西側と非西側の代理戦争が勃発しやすくなりました。米国が支援するイスラエルと、イランが支援する複数のイスラム武装勢力「抵抗の枢軸」の戦争はその例です。

 ウクライナとロシアの戦争は、ウクライナが西側の代理、ロシアは非西側の代理ではなく、代表格が直接、戦争をしていると言えます。西側と非西側の分断は、こうした代理戦争のきっかけになっています。

 こうした「産油国に絡む戦争勃発」だけでなく「資源国の出し渋り」もまた、世界分断がきっかけで起きていると言えます。分断があることで、資源を多く持っている非西側の資源国は、西側に有利にならないような行動をすることがあります。原油の場合は「原油の減産」です。

図:「世界分断」が食品価格を高止まりさせた経緯

出所:筆者作成

 原油の減産は、OPECプラス(石油輸出国機構プラス)が原油価格をつりあげるために行っている、としばしば言われますが、このこと以外に、西側が有利にならないために行っている節があります。分断が生じていなければ、OPECプラスはここまでかたくなに減産を行うことはなかったでしょう。

 農産物は輸出制限です。表向きは自国の食の安全保障のため、とされることが多いですが、実態は西側への出し渋りである場合があります。西側に課された制裁への応酬の意味でロシアが各種農産物の出し渋りを続けています。2022年秋には一時、インドが小麦の輸出制限をかけました。

 非西側は、原油の減産や農産物の輸出制限という「出し渋り」を駆使することで、消費国が多い西側を強く揺さぶることができます。世界分断が存在する時代だからこそ、起きてしまうことだと言えます。それが、原油価格を高止まりさせたり、食品価格の上昇に拍車をかけたりしているのです。世界分断は物価高(インフレ)の元凶だと言えるでしょう。

世界分断は「ESG」と「SNS」で深化した

 西側に大きなダメージを与える物価高(インフレ)の元凶といえる世界分断は、どこから来たのでしょうか。「ESG(環境・社会・企業統治)」の考え方と、ポピュリズム(大衆迎合)を促す「SNS(交流サイト)」が、起点であると筆者は考えています。ESGとSNSがなければ、世界分断は起きていなかったかもしれません。

図:「ESG」「SNS」が「世界分断」を生み、深化させた経緯

出所:筆者作成

「純粋化すればするほど、不安定化する」と述べたのは、日本の著名な経済学者である岩井克人氏です。これは同氏が資本主義の本質について語った際に用いたフレーズです。「ESG」も「SNS」も純粋化の文脈上にあります。

「ESG」は2010年ごろから世界に広まり始めました。良いことをしている企業に投資をし、悪いことをしている企業から資金を引き揚げるなど、投資先を選別する際の、「正義と悪の線引き」のきっかけとなる考え方です。

 これにより、E(環境)に抵触する石油関連企業や産油国やS(社会)に抵触する専制的な体制を敷く国(ほとんどが非西側)を非難する声が大きくなりました。そしてその声が大きくなればなるほど、その対極にある西側の企業への投資が加速しました。

 その結果、非西側から西側への利益の移転が起きました(そして西側諸国の株価指数は大きく上昇した)。そして、西側と非西側の間に分断が生まれ、その分断が深まりました。西側が良いこと(正義)を求めて純粋化を進めた結果、かえって世界が不安定化してしまったと言えます。

「SNS」は、人類が望んだ技術革新の延長線上にあります。高度に発達したスマートフォンと世界中に張り巡らされたインターネット網を利用し、「つながりたい」という人の根源的な欲求を満たす「SNS」は、2010年ごろから急速に普及し始めました。

 その「SNS」は、2010年代に起きた北アフリカ・中東地域における民主化の波「アラブの春」や、2016年の英国のEU(欧州連合)離脱を問う国民投票、同年のトランプ氏が勝利した米大統領選挙などに、深く関わったと言われています。

 SNSが増幅させた「大衆の渦」によって、アラブの春では武力行使による政権転覆が起きました。また、国の行く末を左右する大規模な選挙では、民主主義の根幹を揺るがす、思わぬ結果が出ました。SNSは、特定のグループを強く批判する攻撃的なポピュリズムを増幅させて民主主義を脅かす装置、とも言えます。

 技術革新の方向性は基本的に純粋化です。速く、軽く、薄く、遠く、小さく、を目指すためです。その意味では、人類がSNSによる便利さを求めて純粋化を目指した結果、かえって世界が不安定化してしまったと言えます。

 先ほどの図、「「世界分断」が食品価格を高止まりさせた経緯」と「「ESG」「SNS」が「世界分断」を生み、深化させた経緯」を組み合わせると、以下のようになります。ESGとSNSが、食品価格高止まりの一因であると考えられます。

 食品価格を下げさせたければ、西側と非西側の分断を解消する必要があるわけですが、その分断を解消するためには、SNSとESGを止める必要があると言えます。ですが、すでに西側はESG投資と称して莫大(ばくだい)な資金を動かしてしまっていますし、つながりたいという根源的な欲求を満たすSNSを人類から取り上げることは不可能でしょう。

 世界分断はまだ続く、それがもたらす産油国に絡む戦争をきっかけとした供給減少懸念も、減産という名の出し渋りも続く、そして食品価格高も続く、このように考えるのが自然であると筆者はみています。補助金を付与したり、税金の仕組みや金利を調整したりすることで、ある程度、物価高を吸収することが可能かもしれません。

 しかし、足元の物価高がコストプッシュ型である上、西側と非西側の分断を解消しなければ、根本的な解決には至りません。

図:「ESG」「SNS」が食品価格を高止まりさせた経緯

出所:筆者作成

突出した高騰劇を演じるココアとコーヒー

 2020年の年初(コロナショック直前)と足元を比較すると、カカオが4.2倍、冷凍オレンジジュースは3.7倍、コーヒーは2.3倍、赤身豚肉は1.6倍、生牛は1.4倍、砂糖は1.3倍です。

 急騰劇が大きく報じられている金(ゴールド)が1.5倍、原油が1.6倍であることを考えると、原油などの大型商品に比べて市場規模が小さい農産物銘柄は、人知れず急騰を演じてきたと言えます。

 こうした農産物銘柄の高騰は、食品価格高の大きな要因です。世界分断がもたらす産油国に絡む戦争をきっかけとした供給減少懸念、減産という名の出し渋りとは別の要因です。

図:農産物価格の騰落率(2020年年初と直近を比較 米国の先物市場)

出所:Investing.comのデータを基に筆者作成

 こうした農産物相場を長期視点で下支えする材料には、少なくとも次の四つがあります。(1)異常気象起因の主要生産国での生産量減少、(2)嗜好(しこう)品を求める人口の増加、(3)ESG起因の生産者寄りの価格設定の普及、(4)長引く電気・輸送・燃料などの生産コスト上昇、などです。

 今後、原油相場の高止まりが長期化した場合、(4)が目立つことが考えられます。その時、(1)から(3)が同時進行していた場合、食品価格高はなお際立つ可能性があり、注意が必要です。

[参考]コモディティ(全般)関連の商品例

海外ETF(新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)成長投資枠活用可)

インベスコDB コモディティ・インデックス・トラッキング・ファンド(DBC)
iPathブルームバーグ・コモディティ指数トータルリターンETN(DJP)
iシェアーズ S&P GSCI コモディティ・インデックス・トラスト(GSG)

投資信託(新NISA成長投資枠活用可)

SMTAMコモディティ・オープン

(吉田 哲)

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