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なぜ東京の人気エリア「世田谷」で空き家が増え続けているのか

プレジデントオンライン / 2020年1月27日 15時15分

二子玉川駅周辺と多摩川より富士山(東京都世田谷区) - 写真=時事通信フォト

東京などの大都市で空き家が増えている。主要駅から離れた物件が売れなくなっているためだが、問題はこれだけではない。不動産コンサルタントの長嶋修氏は「2022年以降は大量の農地が市場に解放され、住宅の建設ラッシュが起きる。国が“新築優遇”を改めない限り、空き家は増え続けるだろう」と警鐘を鳴らす——。

■なぜ人口が多い大都市に空き家が多いのか

大都市に空き家が増えている。総務省によれば、全国で最も空き家が多い自治体は東京都世田谷区で4万9070戸。2位は東京都大田区(4万8080戸)、6位に東京都足立区(3万9530戸)と、上位に東京23区のマンモス都市が並ぶ。(住宅・土地統計調査・2018年)

「空き家問題」といえば人口減少や少子化・高齢化著しい地方などをイメージするが、いまだ人口増加を続けている大都市に多数の空き家が発生しているのはいったいなぜなのか。

ヒントは「利便性」だ。

都市部に空き家が増える理由の一つは「共働き世帯の増加」。夫婦2人世帯のDINKs(ダブルインカム・ノーキッズ)はもちろん、子供がいる世帯でも、保育施設に預けるなどして共働きを続ける傾向が顕著なのだ。1990年代には専業主婦世帯と共働き世帯の比率は拮抗(きっこう)していたが、いまや共働き世帯が圧倒的多数を占める。

これには、給与所得者の実質所得が年々下がり、共働きでないと生活が苦しいといった事情や、企業も勤務時間など働き方に柔軟性を持たせ共働きしやすい環境を整備しつつあるということもあるだろう。

専業主婦世帯と共働き世帯(1980~2018年)

■駅から1分離れただけで平米あたり1万8000円も下がる

通勤をはじめとする利便性について、妻は専業主婦で通勤は旦那1人なら多少の駅距離は許容できるが、2人とも働くとなると通勤はもちろん、買い物をはじめとする利便性が非常に重要になってくる。

東京都心7区(中央・千代田・港・新宿・渋谷・品川・目黒)の各駅から1分離れたときの中古マンション成約単価の下落率は、6年前は平米あたり8000円程度だったが、18年(5月末時点)では1万8000円に拡大しており、この傾向は歯止めがかかりそうにない。

駅からの徒歩距離 1分あたりの成約単価格差
図表=東日本不動産流通機構

都心でも都市郊外でも、そして地方でも、あらゆるところでこうした駅距離による資産格差のフラクタル構造がみられる。時間の経過につれ、駅から離れたときの不動産価格下落カーブはさらに急角度となっていても全く不思議ではないだろう。

新築マンションも同様に、その売れ筋は「都心一等立地」や「駅直結」「駅前・駅近」「大規模」「タワー」といったキーワードに代表されるマンション販売は比較的堅調なところ、「駅遠」「郊外」といったマンションは売れにくく、マンション用地の仕入れも「徒歩7分」を超えると慎重姿勢を見せている。

もう一つは「自動車保有比率」だ。東京都のそれは世帯当たり0.432台に過ぎず、低下傾向に歯止めがかからない。自動車の購入や保有の金銭的な負担回避やカーシェアの普及などが背景だろう。

自家用乗用車の世帯当たり普及台数
図表=自動車検査登録情報協会

■都市部の農地が大量に放出される「2022年問題」

こうした中、世田谷区をはじめとする大都市部には、駅から遠い物件が多く存在する。戦後の高度経済成長期にはニーズのあった立地でも、たとえ東京23区であっても利便性に難があれば敬遠されてしまうのだ。

この傾向にさらに拍車をかけそうなイベントが待っている。それは「2022年問題」だ。

「2022年問題」とは簡単にいえば、1992年の「改正生産緑地法」で農地並みの課税を認められた都市内にある大量の農地が、30年後の2022年以降、期限切れで放出されるリスクのこと。

この事態を踏まえ「条件付きで10年延長できる」「市民農園として貸し出せば農地並み課税のまま」といったさまざまな方策が打ち出されているものの、結局のところ都市農家がこの期限を延長するかどうかは「後継者がいるかどうか」といった問題に帰着する。

自治体が2017年前後に、農家に対して行ったアンケートによると、どこもおおむね「今のところ売る予定はない」といった回答が大勢を占めており、それを受けて政府や自治体もやや安心している節があるが、実はこれは油断ならないのだ。

というのも、2017年あたりにアンケートをとった時点では、2022年まではまだ5年もあり、子供などの後継者と今後のことについて話し合いを持っていないケースが相当数あり、その場合は「“とりあえず今のところは”売る予定はない」と回答している向きも含まれているものと思われるため。

■東京ドーム約700個分の農地に「新築一戸建て」が進出

筆者のフィールドワークの実感では、少なくとも農地全体の20%、多くて30%程度の農地が不動産市場に出てくる可能性があるのではないかとの感触を持っている。仮に25%の農地が市場に出てくるとなると、それはおよそ東京ドーム約700個分といった途方もない規模で、どれも超一等立地とはいえないものの、これらはすべて都市内に、都区部では練馬・世田谷・杉並・足立・葛飾・江戸川区など外周部に集中して分布している。

こうした農地が市場に出た場合、新築マンション用地にふさわしい立地や規模の土地はそうなさそうだが、一番ニーズがありそうなのが新築一戸建て建設用地。たとえ売らないとしても多くのケースで相続税対策としての新築アパートが建ちそうだ。なぜなら日本の税制は更地そのままで持っているより、そこにアパートなどの住宅を建てると、相続税評価額が大幅に減額となるためだ。

このように、いずれにしても住宅が大量に建設される可能性が高い。その結果はといえばおそらく地域によってまちまちで、住宅としてニーズのある地域では順調に販売や入居付けが進みそうだが、そうでないところでは販売・賃貸とも不調で周辺地域の不動産価格・賃料を押し下げる。

何より社会全体としてみれば大幅な住宅供給過剰となり、その結果は「弱い地域がさらに弱くなる」といった現象を引き起こしそうだ。とりわけ駅から遠い、築年数が古いといった競争力に欠ける住宅には、空き家増加の加速といった打撃をもたらすだろう。

■なんの目安もなく必要以上に新築を造りすぎている

それにしても、東京都は2035年まで世帯数が増加し続ける見込みなのに(国立社会保障・人口問題研究所)、なぜ空き家が増加し、今後もますます増え続けるのだろうか。

空き家増加の理由は簡単だ。「必要以上に新築を造りすぎ」なのだ。以前にも触れたが、経済協力開発機構(OECD)に加盟しているような普通の国は、ほぼすべて「住宅総量目安」や「住宅供給目標」といったものを持っている。

世帯数の現状と見通し、住宅数とその質がおよそ把握できるわけだから、5年なり10年の間にどのくらいの新築を造れば良いかといった目安を立てるのはそう難しいことではない。その目安に合わせて税制や金融をコントロールしていくのである。

わが国にはこうした目安が一切なく、ただ景気対策としての住宅政策が行われている。新設住宅着工戸数が減れば景気の足を引っ張るとして、常に新築住宅促進政策が過剰に行われてきたのだ。

全体計画は存在せず、住宅数について誰も管理していない状況なのだから、空き家が増えるのも当然といえば当然。高度経済成長期には、ただただ新築を造りまくればよかったが、もはや必要以上に造る意味はないどころか、空き家といった課題を生み出すフェーズでは、市場全体のコントロールが必要なはずだ。

■空き家が増えれば新築の経済効果など意味がない

産業連関表によれば、わが国では新築住宅建設には2倍以上の経済波及効果があるとされている。3000万円の注文住宅が一つ建てられれば、資材の発注、職人の給料、そしてそれらが消費にまわるなどして6000万円の効果があるというわけだ。しかし本当にそうだろうか。

実際にはそんなに効果があるはずがない。人口減少・世帯数減少局面では、新築が一つ建てられれば、その分以上に空き家が発生する。この空き家が放置されれば倒壊や犯罪の温床となるリスクが生まれ、景観として街の価値を毀損(きそん)する。こうした外部不経済がもたらすマイナスを差し引いたら、はたしてその経済波及効果はいかほどか。

しかし今のところ国は一向に住宅総量管理を行う気配がなく、新築住宅について過剰とも思える優遇を継続し、一方で空き家を量産している。住宅ローン残高の1パーセントを税金戻しする「住宅ローン控除」や、固定資産税・不動産取得税・印紙税の優遇を、租税特別措置としての特例を、もう何十年も続けているのだ。

おそらく国家が財政破綻し、無駄な金は使えないというところまで行かないと、このおかしな新築優遇は止まらないだろう。戦後のドッジラインのように、国家の補助金や国債発行に頼らない、身の丈の予算を組めるようになってからだ。

それまで無駄な公共工事のように新築は無計画に量産される一方で、空き家は増え街は無秩序に広がり、空き家対策はもちろん上下水道の修繕やゴミ収集などの行政サービス効率を悪化させ続けるだろう。

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長嶋 修(ながしま・おさむ)
さくら事務所 会長
1967年生まれ。業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「株式会社さくら事務所」を設立し、現在に至る。著書・メディア出演多数。YouTubeでも情報発信中。 新著に『100年マンション 資産になる住まいの育てかた』(日本経済新聞出版社)。

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(さくら事務所 会長 長嶋 修)

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