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50代でも「20代の上司はかわいい」と言えるフィンランド社会の余裕

プレジデントオンライン / 2020年1月30日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shapecharge

フィンランドの会社には年功序列がない。20代で管理職として50代の部下を持っていることもある。フィンランド大使館で広報を務める堀内都喜子氏が、日本人とは全く違うフィンランド人の働き方を紹介する——。

※本稿は、堀内都喜子『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

■嫌なことは社長にだって直接言える

フィンランドの仕事の文化で、どんなところが一番好き? と周りに聞いた時、ワークライフバランスと共に挙げられたのが、「職場での平等でオープンな関係性」だった。組織にはそれぞれマネージャー、経理、エンジニア、アシスタントなど、様々な肩書や役割分担がある。

だが、ある友人曰く「そういった違いが自動的にその人の価値の評価につながるわけではない。それよりも何をしたのかという事実や結果、どのぐらいスキルや知識を発揮したのか、倫理的にやったのか、周りとの協力はどうだったか。しかも、上司だけでなく、周りにいる人の目にはどう映っているのか。それがその人の価値を作っていくんです。同時に、経営陣は従業員の話に耳を傾けているし、従業員は自分たちの環境や仕事に影響を与えることができる。部下から見て改善点があれば、上司にフィードバックしたり、批判したりすることも難しくはありません」とのことだ。

1000人超の従業員のいるフィンランド企業で働く友人も、「私と社長の間には何段ものステップがあるのは事実だけれど、それほど階級的なものは感じられない。何か嫌なことや、改善点があれば、上司や社長にだって直接言える」と言う。

■できるだけメールのCCに入れない

私の知る限り、部下を信じ任せて、自分はできるだけCCに入れないでほしいという上司も多い。何か悩みや迷うことがあったら、直接相談にきてくれていいけれど、全てに伺いをたてる必要はなく、極力自分で考えて決めてほしいと言う。私の直属の上司はそのタイプで「メールが読み切れなくなってしまうから、極力CCに入れないで。口頭で相談や、進捗を報告してくれればいいから」と言う。

どちらのスタイルをとるにしろ、役職についていないスタッフであっても、組織のトップに声をかけて、話をしてもいい。むしろトップのほうから何かあったらいつでも声をかけてほしいという人が多い。それは相手がインターンであっても同じだ。

■インターンも会議で発言している

フィンランドの多くの企業や組織では、インターンを一定期間受け入れて一緒に働くが、インターンが会議で意見を言ったとしても、トップリーダーに話しかけたとしても、それは失礼には当たらない。むしろその積極性が高く評価される。それだけ組織の中は風通しがよく、上下関係はとてもリラックスしている。ただし、話を聞くのと、聞き入れるのとは違う。必ずしも意見が受け入れられるわけではない。

日本では、ある人と知り合いたい、連絡をとりたいという時、段階を踏んで人に仲介を頼んで近づくことが多い。現在の職場でも「フィンランドのこの組織の○○さんに連絡をとりたいので、仲介してください」という依頼は絶えない。

だが、私たちの答えは、「連絡先がわかっているのなら、どうぞ直接連絡をとってください」だ。仲介が全く意味のないこととは思わないが、直接連絡をとったほうが早いし、先方も時間がある限りはそういったことを嫌がらず、丁寧に対応してくれる。

■20代管理職が50代の部下を持つ実力主義

組織のリラックスした上下関係は、肩書だけでなく勤務年数や年齢、学歴、性別にも左右されない。そもそも流動的な労働市場で、転職も日本よりはるかに多いフィンランドの職場では勤続わずか数年でも長いほうに入る場合がある。長く働けば働くほど休日の日数などは多くなるメリットはあるが、日本のような年功序列はないし、実力や成果が重視される。

だから20代でも管理職に抜擢(ばってき)されることがあるし、入社してすぐに責任のある立場にたつこともある。20代で管理職として50代の部下を持っているとか、20代で銀行の支店長をやっているなどの話を初めて聞いた時は驚いたものだが、フィンランド社会を長く見ている今は、何の驚きもない。

現在50代で、20代のリーダーの下で働いている知人のエンジニアに聞けば、「僕は現場でエンジニアとして働きたいのであって、書類を作ったり会議に出たり、部下の管理なんてしたいと思わない。上司が自分の息子ぐらいでも嫌だと思わないし、可愛いよ。若くたって僕たちが支えていくさ」と返ってきた。

■フィンランドの内閣は女性の閣僚のほうが多い

さらに、最近は女性が責任のある立場にたつことも増えてきた。共働きが普通で、女性のほうが学歴が高く、学校の成績も優秀なフィンランドでは、就業率も女性のほうが高い。もはや「女性初」というニュースはほとんど聞かれないし、政治の上でも女性の大統領や首相がすでに誕生している。現内閣でも女性の閣僚のほうが多く、党首も女性の数のほうが多くなった。

公的機関では管理職やトップにつく女性の数は男性とほぼ変わらないところまできているが、一般企業では取締役や管理職につく女性の数はまだまだ半数にほど遠い。特にエンジニアリング会社や伝統的に男性が多い分野ではまだまだ女性の数は少ないし、プログラミングなどでも女性はまだ3割だ。男女による産業・職業の偏りや、企業のトップに女性が平均的に少ないこと、さらに平均賃金格差を減らすことはフィンランドのこれからの課題でもある。

ちなみにこの平均賃金格差というのは、同じ仕事をした場合に男女で格差があるという意味ではなく、男性はより給料の高い産業や地位にたっていることが多い一方、女性はそれよりも賃金が低い産業や、契約・時短勤務を一時期することが多いため、平均給与に差が出てしまう。

だが、サービス業など分野によっては女性が圧倒的に多い職場もあり、経営陣がすべて女性ということもある。まだ完全に男女共同参画が成し遂げられているのではないが、女性という性別は昇進の障壁にはならなくなっている。

■相手を信頼して任せてみる

このように、フィンランドでは男性でも女性でも性別にこだわらず、年齢が若くとも、勤続年数が少なくとも、とにかく相手を信頼して任せてみるという風潮がある。最初はあまりうまくいかなくとも、ダメな時はサポートする。そこに「女性だから」とか、「若いから」、「まだ入ったばかりだから」といった雰囲気や「期待しない感」や「下に見ている感」は微塵(みじん)もない。私自身も、フィンランド人の管理職やリーダー職についている人と話していて、相手が真摯(しんし)に技術的なことや、経営のことを、私にわかりやすく話してくれることが、日本ではあまり体験しないことなので、いつも不思議でしょうがなかった。

フィンランドの大学でアルバイトした時も、知り合って間もない私に、上司のフィンランド人の教授は大きな学会の司会と進行チェックをまかせてきた。ある意味無茶ぶりで驚いたが、同時にやってみようと前向きに感じたことも事実だ。そんな風に相手を信頼するフィンランドのマネージメントはとても心地がいいし、任されたほうは期待に応えようと気合も入る。

こういった上下関係を作らない風潮は政治でも感じられる。変革を求めてフレッシュな30代の女性政治家を党首に選んだり、大臣職に20代、30代のやる気溢れ、考え方も柔軟な若手政治家を選んだりしている。

■必ずしも会うことを重要視しない

さらに、日本とフィンランドの違いを感じるのは、日本人は関係作りを重視して、まず一回目は顔合わせ、その後何度も顔を合わせての報告を希望することが多いが、フィンランド人からすると挨拶だけの面談はいらないし、報告も基本メールか電話にしてほしいと考える点だ。

もちろん会ったからこそ発展することもあるし、顔を合わせる重要性はフィンランド人も知っている。ただ、会うと30分〜1時間は時間がとられてしまう。効率を考えると、たいした用件や議題もないのに、はたして会う意味があるのだろうかと感じてしまうのだ。だからこそ必ずしも会うことに必要性は感じないし、一度会ったら、その後はメールや電話でいいです、ということになる。

一方で、私がフィンランド人の会議や面談に立ち会って、少し残念に思うこともある。それはフィンランド人が、あまりスモールトークが得意ではなく、あっさりと挨拶と用件だけで終わりにしてしまうことだ。フィンランド人のスモールトークのなさは、よく海外から指摘されることだ。

■用件が済むとサッと帰る

しかも、用件が済むと「今日はありがとう。じゃあ!」と部屋から出てってしまう。用件が済んでいればまだいいが、話の途中で時間だからと席を立ってしまうこともある。

堀内都喜子『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(ポプラ新書)

日本的には世間話をしたり、お客様を玄関までお見送りして……と考えるところではあるが、そういったことは、フィンランド人はあまりしない。もちろんフィンランド人でも個人差があるが、あまりにあっさりとしていて「あれっ」と思ったり、相手が失礼に思っていないかなとビクビクしてしまうこともある。

その差はたとえるならば、バターケーキとカロリーゼロのゼリーほどの違いだ。だが、冷静になって考えてみると、打ち合わせや面談が長引くことなく、サラッと終わるのは確かに効率がいい。「もう終わり? 帰っちゃうの?」とフィンランド人の行動に驚かされる度、話が長引きやすい自分の行動を反省すると共に、少し見習おうと思うのである。

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堀内 都喜子(ほりうち・ときこ)
ライター
長野県生まれ。フィンランド・ユヴァスキュラ大学大学院で修士号を取得。フィンランド系企業を経て、現在はフィンランド大使館で広報の仕事に携わる。著書に『フィンランド 豊かさのメソッド』(集英社新書)など。

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(ライター 堀内 都喜子)

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