探し物で使う年間150時間は、どうしたら減らせるか
プレジデントオンライン / 2020年3月8日 11時15分
■探し物で使う年間150時間は、どうしたら減らせるか
机にうずたかく積まれた書類の山。そのまわりにはボールペンなどの文房具が乱雑に置かれ、引き出しも名刺などでゴチャゴチャだ。その結果、必要な資料などを探し出すのにひと苦労、というビジネスパーソンは少なくないだろう。そうした「探し物」に費やす時間は意外と多く、仕事の生産性を引き下げる一因になっている。
「かつてベストセラーになった『気がつくと机がぐちゃぐちゃになっているあなたへ』で著者のリズ・ダベンポートは、平均的なビジネスパーソンは探し物で年間150時間も浪費していると指摘しました。大手文具メーカーのコクヨの最近の調査でも、書類探しに年間80時間費やしているとのことですから、書類以外の文具や名刺、メールなどさまざまな探し物を加えると年間150時間というのはうなずける数字です。そうしたムダな時間を本来の仕事に使えば効率は上がるはずです」
こう話すのは、『捨てる時間術』の著者でもある不動産コンサルタントの若杉アキラさんだ。かつては連日終電で帰るような激務をこなしていた若杉さんだが、日常のあらゆるムダな時間を減らして、いまでは週3日働くだけのゆとりある生活を送っている。
「実は私も以前はよく探し物をしていました。不動産の仕事は扱う書類が多いので、机の上にどんどんたまっていきます。そして、以前は1分で処理できる書類を30分以上も探していることがありました。そこで書類を『未読のもの』『確認済みで自分が処理すれば終わるもの』『確認済みだが、顧客などのレスポンスが必要なもの』『後はファイルにしまうだけのもの』の4つに分類してみたのです。そして机の端に分類した書類の定位置をつくり、付箋でラベリングするだけなのですが、いまでは30秒程度で必要な書類を見つけられるようになりました」(若杉さん)
■全体時間の30%が探し物などでムダに
確かに、書類に限らずデスクまわりを常に片づけておけば、探し物で時間を浪費せずに済む。しかし、なかなか実行できないのも事実。
そこで片づけの極意を伝授してもらうべく、トヨタグループのコンサルティング会社OJTソリューションズを訪ねた。同社では元トヨタ自動車在籍のベテラン技術者がトレーナーとなり、豊富な経験を生かした業務の改善に向けたサービスを提供している。エグゼクティブ・トレーナーの権藤次男さんに、トヨタが探し物を嫌う理由について尋ねた。
「トヨタでは仕事を大きく3つに分けて考えています。たとえば、ボールペンを探す『ムダな作業』、そしてボールペンを取る行為である『付随作業』に時間を食うと、ボールペンで字を書くという本来やるべき付加価値を生む仕事である『正味作業』に注ぐ力がそがれてしまいます。通常、探し物をはじめとするムダな動きが全体時間の30%程度を占めているといわれています。トヨタではこのムダな動きを徹底的になくし、同時に付随作業を極力少なくすることで、利益を生む正味作業の割合を最大化するように努めています」
そして、そのムダをなくすための基本は「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」であり、トヨタのモノづくりを支える基本中の基本の考え方なのだ。特に整理と整頓の2つだけでも確実に実行すれば、多くのムダがなくなり、仕事の効率がアップすると権藤さんは太鼓判を押す。
一方で「ただし、注意点があります。整理・整頓がごっちゃになっている人が大勢います。整理とは要るものと要らないものを区別し、不必要なものは即刻処分することです。しかし、要らないものまできれいに並べて整理・整頓した気になってしまう。一方、整頓とは単にきれいに並べることではなく、必要なものを使いやすいように置き場を決めて明示することです」と権藤さんは釘を刺す。
■整理で大切な捨てる勇気
実は、その整理で最も大切なのが「捨てる勇気」なのだという。洋服などと同じで、「また使うだろう」という気持ちが働いたり、「捨てるのはもったいない」という心理が作用しがちだ。思い出の品などもなかなか捨てられないが、それらをスパッと捨てる勇気が求められる。
その際に必要か不必要かの判断は、「使用頻度」で決めるようにする。たとえば、半年以上、または1年以上使っていないものは捨てるというように自分で決めるのだ。「社内書類は会社によって法律上の関係などから保管の期間が違うと思いますので一概にはいえませんが、確認のうえで期限を決めて処分しましょう」と権藤さんはいう。
そして、整理の切り札として「赤札活動」もオススメだそうだ。トヨタでは現場のリーダーが定期的にさまざまな物品に対して、「使うもの」「使わないもの」「使えないもの」に分けて、後者2つに赤札を貼る。そして期限を区切り、チームの全員で判断して、残すか捨てるかを決めている。
これを自分のデスクまわりにも応用するのだ。終了したプロジェクトの書類やファイル、処分に迷っているものなどに赤い付箋を貼り、必要に応じて周囲の人の判断をあおぎながら、本当に使わないもの、使えないものを処分していったらよい。
■整頓のポイントは元の場所に戻すこと
そうやって整理で必要なものを残した後は、整頓だ。ここでのポイントの1つは、元の場所に確実に戻すこと。「そのためには、決められた置き場・置き方を明示しておくこと。そうすれば探す必要がありません」と権藤さんは話す。そのためにルールを決めて、迷わずに戻せる仕組みにしておく。
そのトヨタ流のユニークな仕組みの1つが「姿置き」だ。写真左の上下のようにそれぞれの文具類の形に枠を切り取り、その場所にきちんと置くように決めている。「その物の姿を保管場所に描いておくと、自然と元に戻されるようになります。このあたりに戻しましょうというのでは次第に乱れます」(権藤さん)。
また、整頓に関するトヨタ流テクニックのもう一例が、「ラインを入れる」というもの。書類のファイルを並べたときなど順番が変わらないように、きちんと並べた状態で、背のラベル部分に斜めのラインを一本入れておくのだ(写真右の下)。ファイルを別の場所にしまうとラインが凸凹になる(写真右の上)ので間違いに気づくという仕掛けである。
探し物で貴重な時間をロスするのはもったいない。整理・整頓で仕事の効率アップを図ろう。
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時間ミニマリスト
週3起業家、シニア不動産コンサルタント。1983年生まれ。週90時間労働で体調を崩し、時間のミニマル化を実践。著書に『最適な「人生のペース」が見つかる捨てる時間術』がある。
OJTソリューションズ・エグゼクティブ・トレーナー
1959年、鹿児島県生まれ。78年、トヨタ自動車入社、堤工場に配属。96年、広瀬工場に異動。2017年、OJTソリューションズに異動。スーパー、卸売業などを担当。
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(ジャーナリスト 田之上 信 撮影=石橋素幸、加々美義人)
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