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中国の3年分のセメント使用量は、アメリカの101年分を超えている

プレジデントオンライン / 2020年3月3日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sergey Sidorov

空気と水の次に必要な資源「砂」が枯渇しつつある。最大の原因は、中国などの新興国が大量のセメントを建築に使っているからだ。すでに中国が2011年~13年の3年間で生産したセメント量は、1901年~2000年の101年間にアメリカで生産した量を超えているという――。

※本稿は、ヴィルジニー・レッソン『グラフと地図で知るこれからの20年』(河野彩・山口羊子訳、原書房)の一部を再編集したものです。

■砂の採取量は砂ができるスピードをはるかに越えている

バカンスや夕日に欠かせない砂浜が消えようとしている。

いまの子どもたちの孫世代は波にのまれる砂のお城を見られなくなるのだろうか? 砂浜が消えるという予想はファンタジーではない。年々道路や建物や発電所が建てられるたびに海底がこそげとられるにつれて現実になりつつある。

資源をより継続的に管理していくために人類が軌道を修正しない限り、ある資源が空気や水と同じくらいほぼ生命にかかわるものになるだろう。

その資源とは砂だ。

世界規模で見ると、砂と砂利は空気と水の次にもっとも必要とされている資源だ。しかし空気や水と違って、今日、世界の砂の採取量は砂ができるスピードをはるかに越えている。

■中国の3年分のセメント使用量は、アメリカの101年分を超えている

砂は少量であっても多かれ少なかれ希少な鉱物を含んでいるので商品価値があり需要がある。たとえば南アフリカの砂には金とダイヤモンド、スマトラ島沖の砂には錫(すず)、「黒い砂浜」に堆積している鉄分の多い砂にはチタンが含まれている。ガラス産業や電子工学や宇宙工学の分野では、シリカという非常に強度があり再利用しやすい素材が入っている石英を含む砂も用いられる。

しかし世界規模で見ると、砂はとりわけ骨材(コンクリートの調合に必要な砂利や砂)として建物や地面の整備に使われている。砂の採取量を量るのは難しいので、世界のセメント使用量をもとに、コンクリートをつくるときに加えられる骨材の量を考慮して算出してみよう。

実際のところ、建築産業はセメント1トンあたり6~7トンの砂と骨材を使用している。それをふまえて計算すると、建築業での現在の骨材世界消費量は高さと幅が27メートルの壁×赤道の長さ分と等しい。

海岸整備と道路の盛り土にも数百万トン、アスファルトの敷き替えとコンクリートの道にも砂や骨材が使われている。トータルで世界の骨材年間消費量は約400億トンにまで増えている! アジア諸国の経済と都市の成長を見ると、これでも暫定的な数字にすぎないだろう。

注記1※
中国が2011年~13年の3年間で生産したセメントは約66億トン。これは1901年~2000年の101年間にアメリカで生産した約45億トンを超える量だ。(図表1参照)

セメントの生産

注記2※
各国におけるコンクリート工業で消費される年間の砂の量を、「先進国全体:中国」で比較すると以下の通りとなる。(図表2参照)

2000年「32億5000万トン:47億1300万トン」
2010年「39億トン:100億7500万トン」
2020年(推定)「45億5000万トン:117億トン」

1990年~2050年にコンクリート工業で消費される砂の量(単位:100万トン)

■沿岸部と海の砂の採掘で生態系破壊「魚の産卵場所がなくなる」

最近まで、採掘場と川は世界の砂の需要に応えるのに充分だった。

しかし、消費の伸びと大陸での資源衰退によって沿岸部と海で砂の採掘がおこなわれるようになった。ナトリウムの腐食作用は建物をもろくするので、沿岸部と海で採掘された砂は洗わなくてはならない。このときに大量の淡水を必要とする。

同時に海砂の採掘はその場所の生態系を破壊する。自然や生物的ファクターは砂と密接な関係があるからだ。骨材の採掘によって生じた水の濁りは、ときにはある区域でトロール漁業ができなくなるくらいに海の植物相と動物相にいくつもの影響を与える。同時に採掘地の底の地形変化が波の流れを変え、ひいては海底の堆積物のバランスや沿岸部の侵食の速度やデルタの地形まで変えてしまう。時が経つにつれて別の影響も現れてくる。

たとえば、遠洋性生物(サバ、マグロなど)の食物連鎖に欠かせない底生生物(ウサギなど)の減少、産卵場所としての海底の破壊、稚魚がまとまって暮らしている場所の破壊などだ。

建設業における砂の消費量(単位:トン)

■世界の75~90パーセントの砂浜が縮小

海砂の採掘が生物の育成と再生産の活力にダメージを与えていけば、じきに砂浜が消える日が来るかもしれない。すでに世界の75~90パーセントの砂浜が縮小している。

海砂の採掘の増加に加えて、温暖化によって海面が上昇しているからだ。そもそも、とりわけ大量のエネルギーを使うセメントの生産は破壊的なサイクルを拡大してきた。1トンのセメントを生産するごとに0.9トンの二酸化炭素が排出される。セメント産業は、世界の温室効果ガス排出量の5パーセントを生んでいるのだ。

川での鉱山開発の結果が広がると、環境に与える損害も大きくなる。

骨材の採掘は水のPH値と水質を悪化させながら川沿いに広がって水の流れに悪影響を及ぼし、川べりの侵食を加速させ、帯水層の貯水力を減らして大規模な洪水を起こりやすくさせ、干ばつと被害を激化させる。世界の人口が増えて淡水の需要が増えているだけに、こうした出来事はいっそう気がかりだ。

■増える島、なくなる島

砂の採掘は環境に負荷をかけるのと同様に、人間、とりわけ発展途上国の人にも損害を与えている。発展途上国では、違法な活動を規制したり統率したりする手段を国家がもっていないことが多いからだ。

骨材は空気や水と同じく、たいていの場合、金のかからない資源だ。しかし、骨材の採掘には2倍のコストがかかる。増加している沖での採掘のコストと、とりわけほかの経済分野に与える影響という意味でのコストだ。

砂の採掘が著しく増えている発展途上国において、生態系破壊の最初の二次的な犠牲者は漁業従事者だ。たとえばインドネシアでは、海底の集中的な砂の引き揚げ作業がすでにかなりのサンゴ礁を破壊している。多くの種の遠洋性生物や底生生物の暮らしはサンゴに依存していて、現地市場に魚の96パーセントを供給している伝統的な漁師の収入は、つまりサンゴの状況に左右されるのだ。

砂浜で直接おこなわれる採掘や沖での採掘のせいで砂質の入り江の侵食が進んでいるなかで、漁業の次に危険にさらされるのは観光業だ。

■アラブ首長国連邦は砂の大半をオーストラリアから輸入

このメカニズムは、とりわけ旅行客がホテルで長時間を過ごすモロッコのような国で密かに進んでいる。そのホテル自体も沿岸部の砂地の上に採取した砂を使って建てられている。しかし危険が迫っていてもなお、どの地域も砂を節約していない。オーストラリアやアメリカのフロリダ州では、すでに定期的に人工的な盛り土をおこなわなければ90パーセントの砂浜が消滅する可能性があるというのに……。

時を同じくして、過度の砂の採掘によってアラブ首長国連邦やシンガポールのような豊かな国や土地の足りない国が国土を増やせるようになった。

たとえば、ドバイのパーム・ジュメイラをつくるためには120億ドルをかけて3億8500万トンの砂と1000万立方メートルの岩が輸入された。ドバイ自体の資源が枯渇しているうえ、砂漠の砂は建築に使うには凸凹が足りないので、タワーや住宅や会社……そして新しい島を建設するためには骨材の大半を輸入しなくてはならない。

Palm Jumeirah ,ドバイ,アラブ首長国連邦
写真=iStock.com/Nikada
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nikada

今日、アラブ首長国連邦はそうした砂の大半をオーストラリアから輸入している。ここ20年でアラビア半島に骨材を輸出しているオーストラリアの3500以上の会社は利益を3倍に伸ばし、毎年オーストラリアに50億ドルをもたらしている。

■砂の大量採掘で「伝統的な漁業区域の決定的な喪失」

一方でシンガポールは、東南アジア、とりわけインドネシアから砂を輸入している。

2015年、シンガポールとマレーシアはフォレスト・シティという新しい「エコロジーシティ」の建設計画を発表した。敷地面積1370ヘクタールの新しい都市は、ジョホール海峡のマレーシア側の4つの人工島の上につくられる。

420億ドルをかけて2035年に完成する予定のフォレスト・シティには6万2000の雇用、70万軒の住宅、ショッピングセンター、インターナショナルスクール、ホテル、病院ができる。この都市は独自の入国システムまで備えている。

フォレスト・シティがエコロジカルで持続可能な都市だとしても、1億6200万立方メートルの砂を必要とする計画そのものは環境にダメージを与えるだろうという見解で識者は一致している。

また、このプロジェクトを請け負っている会社が「伝統的な漁業区域の決定的な喪失」が進み、海底草原とマングローブが傷つくという衝撃的な研究結果を出した。すでにマレーシアの漁師は漁獲量が減っているのはジョホール海峡の開発工事のせいであると異議を申し立てている。

海底ネプチューン草ポジドニア海洋水中
写真=iStock.com/Damocean
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Damocean

■インドネシアでは24の島が砂の採掘によって地図から姿を消した

インドネシアでは、すでに24の島が砂の採掘によって地図から姿を消した。砂の大部分はシンガポールへ輸出された。シンガポールの国土面積は700平方キロメートルもないが、人口密度は世界一高い。シンガポールがおこなった40年間で130平方キロメートルもの領土拡張は、1960~2010年に3倍になった人口に対処する決め手になった。

シンガポールはさらなる人口問題解決のために、2030年までに100平方キロメートル以上領土を広げようとしている。河川や海岸や砂浜に与える影響など、砂の輸出に関するあらゆる事態を憂慮した周辺諸国(カンボジア、インドネシア、ヴェトナム、マレーシア)は、2002年からシンガポールへの砂の輸出を禁じている。

シンガポールはこの障害から逃れて計画を続行するために、ブラックマーケットの砂に手を出さなくてはならなくなった。

■インドでは砂の密輸業者が「権力」を握っている

規制が甘く管理がうまくできていない多くの発展途上国では、需要が増えるにつれて利益も増える砂の採掘がインフォーマルセクターの発展に一役買っている。

ヴィルジニー・レッソン『グラフと地図で知るこれからの20年』(河野彩・山口羊子訳、原書房)
ヴィルジニー・レッソン『グラフと地図で知るこれからの20年』(河野彩・山口羊子訳、原書房)

たとえばモロッコでは、砂の総採掘量の40~50パーセントが海岸での違法採取によるものだ。密輸業者はあちこちの海岸を岩だらけの景色に変えてしまった。

インドでは砂の密輸業者が国でもっとも権力を握っている。というのも、密輸業者は8000か所以上の非合法の砂浜から砂を採取し、実質的に建設産業のすべてを牛耳っているのだ。

建設業はインドの経済発展とインフラや住居が求められている恩恵を受けて非常に成長しているので、密輸業者の利益は政府や警察や公権力に「資金提供」できるほどに増えつづけている。

また、それほど後ろ暗い仕組みではないが、スペインなどの国で不動産バブルを維持できているひとつの理由は「骨材の原価の安さ」である。建設業界が資源の希少化と生態系に与える衝撃の対価を骨材に払わなくてはならなくなると、建築水準は低くなり、結果的に国は借金に対してより慎重になるだろう。

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ヴィルジニー・レッソン 歴史学、国際関係学、地政学修士
地政学と未来学に関する研究施設レパック研究所を主宰。フランスとアメリカで国境なき医師団の理事を9年間務める。国際機関や、地方自治体を対象に定期的に講演、講師などもつとめる。3人の子供の母親。邦訳書に『2033年 地図で読む未来地図』(早川書房)、『地図で読む世界情勢』( CCCメディアハウス)などがある。

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(歴史学、国際関係学、地政学修士 ヴィルジニー・レッソン)

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