「1秒で死期の近さを自己診断」自宅でできる"指輪っかテスト"
プレジデントオンライン / 2020年4月12日 11時15分
■放っておけば老化が加速し、死亡リスクも高まる
外出頻度が減って1人で家に閉じこもりがち、歩くのが遅くなった、食事中にむせることが多い――最近、あなたの親にそんな兆候はないだろうか。それはもしかすると「フレイル」かもしれない。フレイルとは加齢に伴って心身が“衰えた”状態。健康と病気(要介護)の中間的な段階で、早く気づけば本人次第で再び「健康」に戻れるが、放っておけば老化が加速し、要介護につながって死亡リスクも高まる。
フレイル予防研究の第一人者である医師で、東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授は「対策をとれば、フレイルを先送りできる」と説明する。
「フレイルには筋力低下のような身体の虚弱(フィジカル・フレイル)、認知機能低下やうつ傾向などの精神心理性虚弱(メンタル・フレイル)、社会との関わりが希薄な社会性の虚弱(ソーシャル・フレイル)が存在します。比率が高いのは、筋力や歩行速度が衰える身体面。ぜひ親御さんに、現在の自分の筋肉量を簡単にチェックできる『指輪っかテスト』を勧めてほしい」
■生涯使える自分専用の「健康物差し」
飯島教授らが考案した「指輪っかテスト」は、親指と人差し指で円をつくり、足のふくらはぎの一番太い部分を囲むというもの(図1)。ふくらはぎには余計な臓器がなく、皮下脂肪もつきづらいため、全身の筋肉量が反映されやすいと考えられる。
指輪っかテストをすると、ふくらはぎを(指で)「囲めない」「ちょうど囲める」「隙間ができる」の3パターンに分かれるが、隙間ができてしまう人は要注意。筋肉が衰えている可能性が高いという。さらに驚くべきことに、自立高齢者を対象とした最新研究では、ふくらはぎを指で「囲めない」群と比較し、「隙間ができる」群は4年間で死亡リスクが3.2倍も高まったのだ。
「ふくらはぎの太さは全身状態を多方面から表します。『囲めない』群と比べ、『ちょうど囲める』群と『隙間ができる』群は、握力や歩行速度などの身体能力や睡眠の質、食事摂取量、口腔の健康度が劣ります」(飯島教授)
ちなみに各々の指輪っかのサイズは、大柄な人は大きく、小柄な人は小さいというように身長に比例し、さらに5年後も10年後もそのサイズが変わらない。飯島教授は「背中が丸くなって身長が縮んでも使える、生涯不変のマイ(My)物差し」と話す。
それでは自分の親が何だか痩せてきた、指輪っかテストも芳しくない状態である場合、子供である現役世代にできることはあるのだろうか。
「『まさか痩せようと思っていないよね?』と聞いてください。持病がないのにコレステロールを気にして肉を避けるなどの偏食傾向がないかどうか。私が全国各地で調査をしていると70代の約6割近くが痩せようとしています。
たとえば54歳の私と、もうすぐ80歳になる男性がいたとします。どちらも腹が出ているからダイエットに取り組み、お互いに3キログラム落としたとしましょう。けれど、そこで起こる現象はまるで違う。私がダイエットをすると脂肪を中心に減りますが、80歳男性は筋肉が落ち、免疫力や身体能力の低下につながってしまうんです」(同)
人生のステージによって「ギアチェンジ」が必要という。大まかに中年期ではメタボ対策が重要で、カロリーをセーブすることで肥満や動脈硬化を防ぐ。しかし「高齢者は“現役以上”のタンパク質摂取」がフレイル予防になることを知っておきたい。年とともにタンパク質摂取→筋肉量増加への変換効率が悪くなるためだ。
タンパク質は一日に、体重1キログラムあたり1グラム以上必要とされる。つまり体重60キログラムの人は60グラム以上のタンパク質摂取となるが、目指すはその1.2~1.5倍にあたる70~90グラムだ。
「ステーキ200グラムに含まれるタンパク質量がどれくらいかわかりますか。たった35グラム程度です。高齢者で一日にステーキを2枚食べるのは難しいでしょう。魚や卵、大豆製品など多くの種類から摂る必要があります」(同)
管理栄養士の望月理恵子さんは「運動直後のタンパク質摂取」を勧める。
「ちょっと散歩に行った後や体を動かした後にタンパク質を摂ると、筋肉の修復源として体内で効率的に使われ、筋肉増強に役立ちます。豆腐などの植物性タンパク質の吸収は70~90%と少なめですが、肉や魚、乳製品などの動物性タンパク質は90~99%と吸収されやすい。動いた後や、臓器が活発に動いている日中は動物性タンパク質、臓器の活動が低下する夕食は植物性を中心にするといいでしょう」
■友人と外食するような人は、フレイルになりにくい
肉を食べると、どうも胃がもたれやすいというときは、「酸っぱいもの」で胃酸の分泌を促したり、消化力を高めたり胃の修復作用があるキャベツや山芋を肉より前に食べるという手も。
それも無理という高齢者は、ゼリータイプのタンパク質補給でもいいが、常用しないこと。「噛む」ことで唾液が分泌され、唾液中のパロチンという成分が筋肉や骨の発達を促進する。
「身体面のフレイルには口のまわりの筋肉の衰えとして、オーラルフレイルも含まれます。白身魚、うどん、豆腐など噛む必要性が少ない、のみ込みやすいものばかりを食べていると、咀嚼筋が衰えて一層噛めなくなるという負の連鎖が起きてしまう」(飯島教授)
飯島教授は多くの研究を分析し、オーラルフレイルにつながりやすい6項目をチェックリストにしている(図2)。オーラルフレイルの人は口腔機能が正常の人と比べて、死亡や要介護認定のリスクが2倍以上。誤嚥性肺炎などの疾患も併発しやすくなる。
食事環境も重要だ。「1日1回は誰かと食事をする」群より「いつも1人で食べる」群のほうがうつ傾向が高い。ここでポイントは「独居」が危ないのではない。独居でも、友人と外食するような人は、フレイルになりにくい。
「同居家族がいるにもかかわらず、いつも孤食であると、うつ傾向、栄養状態や食品種類の多様性の低下、歩行速度などの身体能力まで低下しているという研究結果でした」(同)
■高齢者の健康で運動以上に大切なもの
そしてもう1つ、飯島教授が行った研究で興味深いものは、約5万人の自立高齢者を対象に(1)身体活動、(2)文化活動、(3)ボランティア・地域活動の有無と、フレイルのリスクに関する調査だ。(1)から(3)まですべて行っていない人は、すべて行っている人と比較するとフレイルになるリスクが16倍も高い。それも恐ろしいが、注目すべきは(1)の運動習慣だけ持つ集団より、(2)と(3)の習慣を持つ集団のほうがフレイルになっているリスクが低かったのだ。
「たとえ運動習慣がなくても、ほかの2つを継続的に行えば健康体を維持できる可能性が高い。歌うのが好きならみんなでカラオケを楽しめばいいし、囲碁が好きなら囲碁クラブへ。その過程で身体活動が増えるでしょう」(同)
つまり、家庭内でも地域でも他者とつながり、「ソーシャル(社会性)」を失わないことが最重要課題。
現役世代が親世代にできることは、治療が必要な病のサポートだけでなく、フレイルの概念を教えてあげること。そして食事の内容よりも、時々、一緒に「食卓を囲む」こと。親が要介護の期間を短く、ゆるやかに穏やかに年を重ねられることで、親子で相続の話ができる時間も延びていく。まずは子が“親の衰え”に気づく必要がある。
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東京大学高齢社会総合研究機構
管理栄養士
Luce(ルーチェ)代表
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ジャーナリスト
1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『週刊文春 老けない最強食』(文藝春秋)、『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)など。
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(ジャーナリスト 笹井 恵里子 図版作成=大橋昭一)
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