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「マスクの高値転売禁止」で転売ヤーが次に狙っている商品

プレジデントオンライン / 2020年3月12日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Urupong

マスクの品薄が問題になる中、政府は3月15日以降のマスク高値転売を禁止した。マスク転売で大金を稼いでいた山田信行氏(仮名)は、「マスクは禁止となりましたが、コロナで稼ぐ方法はまだまだあります」と語る。その呆れた言い分を聞いた――。

■マスク転売ヤーの手口

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、品薄状態のマスクがインターネット上で高額転売されている。それに対し、政府は3月15日以降、ネット上の取引を含めてマスクの高値転売を禁止した。これに違反した場合、1年以下の懲役か100万円以下の罰金が科せられる。

これにより、新型コロナに乗じた転売ヤーの火事場泥棒的な荒稼ぎは収束すると思われる。だが、転売を副業とする会社員の山田信行氏(仮名)は、「マスクは禁止となりましたが、コロナで稼ぐ方法はまだまだあります」と語る。

山田氏は1月末頃、新型コロナウイルスが原因で中国・武漢が閉鎖されると同時に、品薄になり始めたマスクを買い占めに動いたという。

「私は専業の転売ヤーと違い、平日は会社に拘束されているので、店舗まわりなどはできません。そのためアマゾンのアカウントを架空の住所で複数作成しました。同一住所で複数のアカウントを運用すると、すぐにアカウントが削除されてしまうためです。受け取りはコンビニにすれば問題ありません。こうして量産したアカウントを使い、購入に個数制限のあったマスクを複数入手しました」

もちろん、これだけでは手に入れられる数には限度がある。そのためA氏が次に目をつけたのが、「楽天市場」だ。

「1月末の時点で『楽天市場』内のショップは、個数制限が定められていないショップもありました。極端な話、一度に100個のマスクを発注することも可能だったわけです。50枚入りの箱マスクを200個注文することができたショップもあり、かなりの仕入れができましたね」

■マスク転売禁止で、転売ヤーが次に売るのは…

山田氏は楽天とアマゾンを中心に、300箱以上のマスクを購入した。これらはすべてメルカリとヤフオクで売りさばき、1カ月あまりで100万円以上をマスク転売によって稼ぎだしたという。

しかし、3月10日の閣議決定により、小売店やインターネット通販などで購入したマスクを、取得価格より高く転売すると違法となる政令改正が行われた。マスク転売が事実上不可能となったが、山田氏はまだコロナウイルスに便乗した“商売”をやめるつもりはないという。やはり、コロナウイルスで需要の高まった“手ピカジェル”のような消毒液を転売するつもりなのだろうか。

「それは稼げない人の考え。まだ規制が入っていないとはいえ、消毒液や除菌剤などは、専業の転売ヤーだけではなく一般人とも取り合いになる上、どこの通販サイトでも購入規制がかかっており、大量に仕入れるのは難しい。今から参入するのは賢いとはいえないですね」

山田氏の口から出たのは、一連の騒動とは一見関連性のない2つの単語だった。

「私が狙っているのはキャッシュレス決済とサッカーの組み合わせ。新型コロナの感染拡大防止のため政府がイベントの自粛を要請していますよね。その影響でさまざまなスポーツやコンサートが中止や延期となっていますので、そのチケット払い戻しを狙うのです。この方法で今もっとも効率よく稼ぐことができる組み合わせが、『au PAY』と『サッカー』なのです」

■延期が決まってもチケットが買える状態になっていた

au PAYは現在開催中の「誰でも!毎週10億円!もらえるキャンペーン」で購入金額の最大20%がポイント還元されることが話題となり、キャンペーン初日には換金率が高い切手やSIMフリーのiPhoneを求めて、郵便局やビックカメラに長蛇の列ができたことは記憶に新しい。

そして、Jリーグは2月25日に、3月15日までに予定していた全ての公式戦94試合の開催延期、後日3月9日には「4月3日までの再開を目指す」と再開延期を発表した。

それにもかかわらず、3月10日時点まで、3月18日に開催予定の浦和レッズVSベガルタ仙台の試合や、女子サッカー・なでしこリーグで3月21日に開催予定のジェフユナイテッド市原・千葉レディースVSセレッソ大阪堺レディースの試合は、購入可能だった。

チケットの払い戻しは、クレジットカードのように決済のキャンセルではなく、現金で払い戻しされる。そのため、キャッシュレス決済事業者からは「正常に決済が行われた」扱いとなり、ポイントバックは正常に行われるという。

■「現金で返金される」ことを利用して…

延期による払い戻しが濃厚なサッカーのチケットをau PAYで購入すれば、使った金額は全額現金で返ってくるため、ノーリスクで購入時のキャンペーンポイントを獲得することができるはずだと山田氏は語る。

その現場を山田氏は私に見せてくれたが、チケットの予約から購入まではわずか数分。au PAYの1日の還元上限ポイントである6000ポイントに達する金額、3万円が一瞬で決済された。

実際に山田氏が発券したチケット。彼の目論見通りにことが進めばチケットは現金での返金となり、手元にはキャッシュレス決済のポイントだけが残る
撮影=網田 和志
実際に山田氏が発券したチケット。彼の目論見通りにことが進めばチケットは現金での返金となり、手元にはキャッシュレス決済のポイントだけが残る - 撮影=網田 和志

「これを毎日繰り返せば、ノーリスクで日々6000ポイントを獲得することができる見込みです。もちろん、マスクをかき集めたときと同じように、複数のアカウントを今回のために用意しました。200万円分は買いたいですね。もくろみ通りに行けば、40万円のもうけになるはずです」

この方法はau PAYで支払い可能で払い戻しが濃厚な興行であれば、サッカー以外でも流用することが理論上可能だ。

「たとえば、3月9日にプロ野球公式戦の延期が発表されましたが、3月20~22日に開催予定だった西武VS日本ハムの試合はまだチケット購入可能です」と山田氏は言う。
(編集部註/3月12日11:00時点)

■悪質転売ヤーの言い分

政府のイベント自粛要請による保証は一切なく、ウイルスによる延期は保険適用外と公言している保険会社も多い。そんな危機的状況に追い込まれた主催者に対して、チケット払い戻し経費を増やし、事業者に負担をかける行為に対して、山田氏に罪悪感はないのだろうか。

「罪悪感は一切ないです。少し前に話題となった老後2000万円問題があったように、おそらく私の世代は2000万円以上の資産がないと安心した老後は送ることができないと思います。だから機会があれば、少しでも稼ぐつもりです」
「SNSなどで『転売ヤーは死刑にしろ』のような乱暴な意見を目にしますが、転売ヤーを批判したところで、自分にマスクが行き渡るわけでないことは、誰だってわかることです。SNSで暴論を振り回して気持ちよくなっているだけの人たちに比べたら、転売でもうけを得るための仕組みを必死で考えている私のほうが、人間に与えられた知性を有効に使っていると思います。叫んでも何も改善しないことを必死になってほえている人たちは、犬や猫と同類だと思っています」

■世の中が複雑になるほど「抜け道」が増えてしまう

山田氏は表情を変えること無く、言葉を続ける。

「3月15日以降のマスク転売は違法となりますので、マスクの転売を今後行うつもりはありませんが、それ以前のマスク転売やこのポイント獲得方法は犯罪にならないと私は考えています。資産運用や本業が終わった後に行うアルバイトと同じ合法的な稼ぎ方だと考えています。ただそれらと違うのは、結果が自分でコントロールできない資産運用より安全で、最低賃金に近い時給で働かされるアルバイトより、安定して効率よく稼ぐ手段だと思います」

山田氏の手口は、とうてい称賛されるような行為ではない。観戦を目的とせずチケットを大量に発券する行為は、法律に違反する可能性もある。

しかし、肝心のイベント主催者はまだ延期となるチケット販売を継続している。対策を怠る限り、転売ヤーのような存在だけが利益を享受できる構図は一切変わることはなく、健全化されることはないだろう。

山田氏は、最後にこうも語っていた。

「今回使ったau PAYのようなQR決済など、社会を構成するものは増えていると思います。世の中が複雑になればなるほど、組み合わせ自体も増えていく。私のような人間にとっては、荒稼ぎをするチャンスが増えた世の中になったと思いますね」

山田氏の言葉を認めるのはしゃくではあるが、彼のような人間を「自分たちにない能力や思考力を持っている」と認め、ある種の“ホワイトハッカー”として利用するような社会に変化していくことが必要な局面に来ているのかもしれない。

(ジャーナリスト 網田 和志)

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