JR九州社長「いい加減で行動力のある奴が最強だ」
プレジデントオンライン / 2020年4月11日 11時15分
■成功の秘訣は大雑把な性格と自由な心
坂本龍馬は決して頭の切れる人物ではなかった。私はそう思います。
たとえば、龍馬が師と仰ぐ勝海舟との逸話。よく小説では、龍馬が勝海舟を暗殺しに行って、逆に諭されたというように書かれていますが、実際に2人は息が合ったのでしょう。勝海舟は幕府の人間ですが、龍馬は幕府や薩摩、長州とか、そういった派閥みたいなものを、あまり気にしていなかったのだと思います。龍馬は「利用できるものは利用してしまえ」と考えるところがある一方、自分と反対の意見があったら、わかってもらうまで「ああでもない、こうでもない」と説得しようとする人間です。
派閥に属さず、自分は自分。そんなことができるのは、彼が緻密な発想ができるタイプではなかったからではないでしょうか。物事を深く考えるタイプには龍馬のような行動はできないはずです。龍馬にいい加減なところがあってこそという気がします。
■龍馬のような生き方は羨ましい
発想が自由で、少しいい加減。それはビジネスにも必要な要素です。いくら「初志貫徹」を掲げても、自分が思い描いていたルート通りにいくというのは、世の中、まずありえない。計画からずれるたびに悩んでいたら、前に進めなくなります。がんじがらめに思い悩むよりは、大雑把なほうがいい。私なんかもそういう意味では、かなりいい加減な男です。緻密ではないという意味で。龍馬のような生き方は羨ましいのですが、実際にできるかというと難しい。だからこそ、龍馬に憧れる人が多いのでしょう。
当時「世界を目指す」と言った龍馬。夢物語的に言うのは簡単です。しかし、龍馬はしっかり実現させました。日本初の商社「亀山社中」を設立し、「貿易」「武器輸入」という、実業という形をもっての実現です。
彼は実際に外国に行ったことはありません。しかし、ビジネスの実務に裏付けられた彼の考え方は、後年いわれるグローバル感覚そのものです。
歴史の流れに翻弄されながらも、歴史をつくった人間として、龍馬は大きな魅力があります。
彼の持つもう1つの凄さは、圧倒的な行動力。鉄道がない時代に、高知から全国あちこち飛び回ることができたのは、なんとも不思議です。船も馬も使っていたとはいえ、あのような長い距離を「ちょっと西郷さんに会いにいってくる」なんてパッと動いてしまうなんて。
JR九州は、薩長同盟150周年記念の際「薩長ウォーク」というイベントを開催したことがあります。鹿児島から山口まで28日間かけて歩こうという企画です。私は、最初と最後だけ参加しましたが「よくこれを28日もやるね」というくらい長い距離なんです。どれだけ大変だったのか実感し、そして龍馬の見事な行動力を、身をもって感じることができました。
鉄道といえば、日本で初めて鉄道が開業したのは1872(明治5)年、区間は新橋―横浜間です。
ですが、実は模型も含めると、蒸気機関が日本に初めて入ったのは1853(嘉永6)年。ロシアの艦艇が蒸気機関の模型を積んできて、それを幕府の人間が見た。それが日本人との初対面だったようです。翌年、2度目の黒船来航のとき、ペリーが将軍へのお土産として、SLの模型を持ってきた。それを佐賀鍋島藩の技術者が真似して作り、藩邸で動かした記録があります。
1865(慶応1)年には長崎で、スコットランド商人のグラバーが、本格的な機関車を走らせました。PRのために、客車に人を乗せて600メートルほどの距離を引っ張っていったと伝えられています。その1865年というのが……そう、龍馬が長崎で亀山社中をつくった年です。その頃、すでに長崎入りをしていて、龍馬は仕事をしていたと思うんですよ。ということは、グラバーの機関車も見たのではないでしょうか! 龍馬の日記には書かれていませんが、彼ほどの行動力なら見ていただろうと私は予想しています。
■とにかく、一番風呂に入れ! 行動あるのみだ
「一番風呂に入れ!」。JR九州が民営化して以降、私が常に言い続けている言葉。つまり先駆者になれということです。「誰かが先にやって、うまくいったら私もやります」と考える人は多いのですが、私は「誰よりも先にやること」が重要だと考えています。
誰よりも先に行動するということは、失敗も多いです。しかしその失敗が糧となり、次の成功を引っ張り出すことができます。同じ失敗でも、人の真似をして失敗したら「下手くそ」と言われるだけですが、「一番風呂」なら取り組んだこと自体を評価されます。だから大いに失敗していい。その経験は絶対に役立つはずです。
「一番風呂」に入るためには新しいアイデアが不可欠ですが、残念ながら、アイデアを生み出すのに秘訣などはありません。まずは龍馬のように、行動あるのみ。行動しなくては「次はどうやったらいいか?」「何を目指せばいいか?」と、次の一歩がわかりません。失敗しても、行動に移したからこそ、次の一手が打てるものです。
「何かをやってみて世の中が変わる」、あの感覚を体験することが重要だと思います。同じステージで「ああでもない、こうでもない」と悩んでいると、だんだん閉塞してきます。そんなときは何か1つ変えてみる。そうすると見える風景も変わってきます。回り道かもしれませんが、そこから次の新しいアイデアが生まれるのだと考えます。
私は好きが高じて、社内で「JR九州龍馬会」という龍馬ファンの集いを結成しました。きっかけは全世界のファンを束ねる組織「全国龍馬社中」の理事の方から、企業名を冠した龍馬会があるのを教えてもらったこと。主な活動内容は、龍馬を語る飲み会です。現在130人くらいメンバーがいて、2020年で10周年になるんですよ!
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JR九州代表取締役社長執行役員
1953年生まれ。福岡県出身。東京大学工学部卒業。龍馬を好きになったきっかけは『竜馬がゆく』(司馬遼太郎)ではなく、『龍馬の黒幕』(加治将一)という本だったと語る。
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(JR九州代表取締役社長執行役員 青柳 俊彦 構成=澤 静 図版作成=大橋昭一)
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