コロナ不安を煽り続ける「羽鳥慎一モーニングショー」を検証する
プレジデントオンライン / 2020年3月25日 17時15分
■韓国政府のスキャンダルを連日報じ、嫌韓を煽ってきた
最近、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日・平日8:00~)の視聴率がいいそうだ。同時間帯のライバルは、日本テレビの「スッキリ」、フジテレビの「とくダネ!」、TBSの「グッとラック!」だが、それらを視聴率で圧倒しているという。
私には、韓国ものをよく取り上げる番組だというイメージしかない。朴槿恵前大統領が逮捕される時や、文在寅大統領の腹心の曺国(チョ・グク)が法相に就任した時など、韓国のテレビかと見紛うように、熱心に曺国批判を連日していた。
この番組には、テレビ朝日社員の玉川徹氏がコメンテーターとして出演しており、評価が高い。玉川氏は「韓国ヘイトはいけない」といっているようだが、自分たちが毎日、長時間、韓国のスキャンダルを報じることで、嫌韓を煽ってきたのではないかという反省は、私が知る限りないように思う。
今回の新型コロナウイルス報道にしても、一番熱心なのは「モーニングショー」のようだ。これは私の印象だが、「モーニングショー」を含めたワイドショーが、コロナ感染への恐怖を必要以上に煽り、それに踊らされて、人々はマスクやトイレットペーパーを買い漁っているのではないのか。
視聴率が取れるからだというのは分かる。だが、芝居っ気たっぷりの感染症専門家という女性教授をスター気取りにさせ、これでもかと、コロナの恐怖を垂れ流し続けるのが、メディアの正しいあり方なのだろうか。
正確な情報を自ら取材して、それを検証してから視聴者に伝え、国民が正しく怖がるようにリードすることこそが、今メディアがやらなくてはいけないことだと思う。だが、見ないで批判するのは失礼なことだと思うので、3月13日金曜日から20日金曜日までの「モーニングショー」を全て録画して、見てみた。
■よく飽きもせず、同じことをやり続けられるものだ
約90分×6日=540分。メモを取りながらの視聴は、考えていた以上の苦行だった。他のワイドショーは見ていないが、これほど新型コロナウイルスだけを延々やり続けているのは、ここだけだろう。
日々の内容には後で触れるが、見終わった感想をいうと「素人たちの井戸端会議」である。これは悪口ではない。ワイドショーというものはそもそも、そういうものなのである。
だが、これだけははっきりいえる。この番組を見ていると、コロナについての雑学には詳しくなるが、世の中で起きている他の大事なことは、ほとんど分からないということである。
しかも、よく飽きもせず、同じことをやり続けられるものだと感心する。ため息がでた。中でも、大変だろうなと思うのが、8時20分ごろから始まる詳細なパネルを使った解説である。
パネルは、放送の少し前に作っておくのだろう。羽鳥MCがパネルを指して説明しながら、次々にコメンテーターや、「コロナの女王」といわれるようになった白鴎大学の岡田晴恵教授に、お伺いをたてながら進行していく。
時々、玉川氏が、現在のパネルより先の話をしようとすると、羽鳥が慌てて、その話は次ですからと止めるのがおかしい。
始まる前に、入念な打ち合わせがあるのだろう。この8日間に、イタリアやスペインは感染患者が増え続け、アメリカも、トランプがあわてて強引なコロナ対策を推し進めようとしているが、日本は、患者が少しずつ増えてはいるが、専門家会議が恐れているようなオーバーシュート(爆発的な感染拡大)は起きていないようである。
岡田教授は、感染症の専門家なのだろうが、いっていることは、「私の考え」と前置きしているように、参考意見を述べる程度にとどまっている。彼女は、簡易でいいから、病院の前に「発熱外来」をつくれというのが持論のようで、何かというと、「発熱外来」を連呼する。
■むやみにPCR検査を増やすと感染を広げる
玉川氏も、こうしたものを早急に作れ、韓国のようなドライブスルー検査をやれ、大阪の吉村洋文知事の、コロナ患者を4段階に仕分けするという考えが、すこぶるお気に召しているようで、何度も、こうしたものを他の都市でも作るべきだと主張している。
だが、3月22日に放送されたNHKスペシャル「“パンデミック”との闘い」で、最前線にいる医師は、日本が他の国、イタリアやスペインのようにならないのは、PCR検査をしないためだといっていた。
世論は、PCR検査を国民の多くにせよというが、これをやると逆にコロナの感染を広げることになるというのである。不安になった人々が検査をしてくれと押しかければ、感染者から医者や看護師、また来た人たちへと次々に感染していくから、手の施しようがなくなるというのだ。
日本では、感染者と感染源を特定し、そこから広がっていかないように封じ込めるやり方が功を奏し、今のところオーバーシュートは起きていない。だが、何かのきっかけで起これば、それを止めることはできず、あっというまに爆発的に感染者も死者も激増してしまうというのである。
私は、コロナについての知識がないので、どういうやり方が正しいのか、判断することはできない。だが、たしかに国民全員にPCR検査をすれば、発症してはいないが陽性の人は爆発的に増えるだろう。そうなれば、日本中がパニックに陥り、あっという間に医療崩壊が起きるだろう。
■「現金支給だけでなく消費税をゼロに」とのご高説
さて、「モーニングショー」の構成はこうなっている。3月13日、金曜日。トランプ大統領が東京オリンピック・パラリンピックを1年延期したほうがいいといった、愛知県蒲郡市のカラオケパブに50代の感染者が来店して女性従業員と濃厚接触していた、マスクの転売が禁止されるのに、ヤフオクではマスクが高値で出品されている。そうした映像を流した後、8時29分から、羽鳥MCが現れ、岡田晴恵氏や、コメンテーターを映し出す。
この日は、東京オリンピック開催は無理ではないかと、吉永みち子氏が口火を切る。玉川氏は、「中止や延期はIOC(国際オリンピック委員会)が決めるのではなく、アメリカのNBC(テレビ局)だ」と、引き継ぐ。
その後、株の暴落やインバウンドの減少、企業活動が制限されて景気が落ち込むため、4月に経済対策のための補正予算を組むといわれるが、現金支給のほかに消費税をゼロにするぐらいのことを考えなくてはいけないのではないかという、ご高説が飛び交う。
吉村大阪府知事が感染者を4段階に振り分ける独自の案を出したことに、皆が「合理的だ」と評価する。
この日の朝、石川県能登地方で震度5の地震が起きた。だが、私が見ていた限りでは、このニュースは扱わなかった。
■取材せずに伝聞情報だけで議論する危うさ
3月16日、月曜日。感染者がイタリアで2万人を超え、世界で16万人を超えた。トランプが国家非常事態宣言を出した。山手線の高輪ゲートウェイ駅に、開業日の切符を求め5万人が殺到。アナウンサーが「マスクを付けてない人もいます」と中継。
29分から岡田氏登場。3月1日に厚労省から、軽症者は自宅で療養も可という通達が出ているが、通達ってものすごい量が来るから、各自治体が、その中から何が重要なのかを選び、周知するのはなかなか難しいという話に。
この日も、五輪をやるのか延期かの議論に。コロナウイルスはいったん終息したと思っても、ウイルスは残るから、今年の開催は心配だと岡田氏。
19日に専門家会議があり、その後、会見があるから、そこで見解を出して、政治が判断するはずだ。イベント自粛というが、どういうイベントはいけないのか、クラシックの音楽会はしゃべらないからOKなのかなど、議論は踊る。
岡田氏が、日本人の致死率が2.1%というのは高すぎる。これからもっと感染者は増えるのではないかと発言。
この中で、新聞を引用することがよくある。3月26日から福島で聖火リレーが始まるが、このリレーを自粛すると、日刊スポーツから引用。
その後、五輪がどうなるかを、東京スポーツから引用。私は東スポの情報が間違っているなどというつもりはないが、なぜここで東スポなのか?
見ている限り、ワイドショーというのは取材力が弱い。というより、取材せずに、新聞などからの伝聞情報だけで議論するというところに、危うさを感じる。
この日もみんなでいいっ放しで終わり。
■自宅隔離したら家族全員が発症した
3月17日、火曜日。安倍首相が、G7の首脳と電話会談して、五輪について「完全な形で実現する」ということで合意したと語った。ニューヨークは飲食禁止に。フランスの感染者は5000人超えで、シャンゼリゼも人通りがほとんどないという現場レポート。
タイではサルが町を占拠しているという映像。陽性患者を診た病院が、「ここはコロナの病院だ」と風評被害に遭った。ウエディング業者も花屋も、キャンセル続きで悲鳴。
リフォーム専門店もトイレやキッチンが中国から届かず、入居者も困惑。朝日新聞の世論調査で、五輪について「延期がよい」が63%。(同社が21、22両日で行った世論調査では、73%に増加した)
家庭内で1人が感染すると、別の部屋に隔離しなければいけないのだが、実際には難しい。埼玉県越谷市の6人家族のケースでは、高校生の娘が発症して、みんなが感染してしまったという。
身近で感染者が出たらどうするか。実際には、受け入れ先もなく、自宅に一緒にいれば、感染は避けられない。
だが、政府も、厚労省も、何ら手を打っていない。どうするんだ! 思わずテレビに向かって、そう叫んだ。
3月18日、水曜日。アメリカではコロナ蔓延で、銃がバカ売れ。韓国の宗教団体が、口に入れた容器を使いまわして、感染拡大。
国内の若者たちは、オンライン呑み会開催。SNSで、コロナのために解雇されたという書き込みが増えている。
■イギリスの対策は「抗体を持つ人がバリアとなって終息させる」
8時26分。岡田氏、淡い春色のセーターで登場。この女性、毎日、洋服を替えとるな。疲れが顔に出ている。休んだらいいのに。一度休んだら、二度と出られないなんて心配しているのかな。
テレビとは離れて、日本とは違うイギリスの対応の仕方を、週刊新潮(3/26号)から紹介する。日本とは対照的な政策をとっていると、新潮が報じている。ジョンソン首相は、今後さらにみなさんの愛する人を失うことになるだろうと、国民に覚悟を求めた。
だが同時に、医療専門家などを同席させ、「科学に基づき、適切なことを、適切なタイミングでやる」と、国民に安心も植え付けたというのである。さらに、政府の首席科学アドバイザーが、「全ての人の感染防止は不可能であるし、望ましいことでもない。なぜなら、人口の何割かの人々がウイルスに対して免疫を持つことが、将来、我々自身を守るために必要だからである」と語った。
この意味は、「抗体保持者が60%を超えたあたりから彼ら自身がバリアとなり、感染を終息させるという考え方」(在英国際ジャーナリストの木村正人)だそうだ。
政府や専門家というのは、こうした科学的な説明をして、国民に安心感を与えなくてはいけないと、私は思う。
■現金給付vs消費税減税で激論
後半に、片山さつき参院議員と藤井聡京大教授が登場。片山氏は、経済対策には現金給付が先。藤井氏は、消費税減税を絶対にやれと主張。
片山氏は、1人5万円、それに貸し付け、家賃などの延納を認める。藤井氏は、それだけではダメ。6月から消費税をゼロにしろ。片山氏、そんなに速くはできない。藤井氏、最短2カ月でできる。再び上げるときは、自動的に上げられる法案を通しておけばいい。
玉川氏、膵炎などの治療薬であるナファモスタットというのが、コロナウイルスに効くといいだす。効くのか効かないのかという段階ではないようだが。
ここでも、発熱外来、ドライブスルーをやれという話に。
3月19日、木曜日。蒲郡市のカラオケに行った50代の感染者が死亡。元々肝臓がんだった。同じ部屋にいた女性も感染。
感染者が見つかったため、公表した病院が風評被害で大変。クルーズ船に乗っていた陰性の人は、帰宅してから、マンションの住人から、「外出を控えろ」といわれているという。
羽鳥MCが出てきて冒頭、スポーツジムへ通っている夫婦の顔写真を、了解なしで出してしまったことをお詫び。
北海道知事が、緊急事態宣言を終了発言。
■こんなことをここで議論しても、どうなるものではない
ようやく終わりごろ、週刊文春の相澤冬樹大阪日日新聞記者の大スクープ「森友自殺財務省職員 遺書全文公開『すべて佐川局長の指示です』」をやる。
玉川氏は、「明確に佐川氏の指示。どちらが信用できるのか、もう一度検察は捜査しろ」と発言する。時間にして10分そこそこ。こんなニュースは、コロナに比べたら小さい小さいと考えているのだろう。
3月20日、金曜日・祝日。昨夜行われた専門家会議の発言を巡って議論。尾身茂副座長の「オーバーシュート」の危険はまだあるというのが焦点。
なぜか、元時事通信というより、安倍首相のポチとして名高い、田崎史郎氏が出演。早速、日本には法律がないから、(コロナでも)規制ができないと、安倍ちゃん寄りの発言。
大規模イベントは主催者側が判断という専門家会議のいい方に、無責任だという声しきり。
吉村大阪府知事が、兵庫県知事に相談もなく、両県を行き来しないようにといい出したことに、「どういう根拠があるのか」(玉川氏)、長嶋一茂氏が「この人若いね」と決め台詞。
田崎氏は安倍首相の心は、五輪延期だが、どこまで延期するのかは決まっていないと発言。
決める権限は日本にはなく、IOCが決める。来年か再来年か、ああだこうだいっているが、こんなことをここで議論しても、どうなるものではないと、辟易しながら見ていた。
■玉川氏は「多少エキセントリックだが賢い」
ここまで書いてきたように、「モーニングショー」を見ていると、この世にはコロナ騒ぎしかないと思えてくる。失礼ないい方になるが、コメンテーターは素人だから、根拠に基づいた発言ができない。
唯一の専門家である岡田氏は、発熱外来以外は、専門的知識をあまりひけらかさない女性のようだ。安倍政権や厚労省のコロナ対策の遅れについて、専門家の立場から手厳しい批判が聞きたかったのだが。この番組を1週間見続けたが、新型コロナウイルスとは何なのか、いまだによく分からない。
ワイドショーというのは、この程度だと切って捨てるのは簡単だが、コロナウイルス問題は専門的知識が要求されるから、ワイドショーという枠で取り上げるのは、かなり無理があるのだろう。
鋭い突っ込みをするといわれている玉川徹氏も、こうした問題は不得手なのだろう、「さすが玉川」と手を叩きたくなる発言はなかった。
玉川氏は、多少エキセントリックだが、羽鳥MCとのやりとりの間合いがいい。政治でも経済でも、芸能でも、何についても一家言もっている人のようだが、やはりテレビ朝日社員という枠からははみ出ない、分をわきまえた賢い人だと思う。
この番組を見続けて、詳しくなったのは、岡田氏の着ている洋服と、コロナウイルスというのは、まだ何も分かっていないということであった。
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ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)などがある。
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(ジャーナリスト 元木 昌彦)
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