志村けんさん「コロナ死」した後の残念すぎるプロセス

プレジデントオンライン / 2020年4月8日 13時15分

三陸鉄道開業30周年記念企画展のオープン記念イベントに登場したコメディアンの志村けんさん=2014年6月3日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

3月29日、タレントの志村けんさん(70)が、新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなった。遺体はすぐに火葬され、遺族は骨を拾うこともできなかったという。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳氏は「葬儀は遺族の後悔や悲しみを癒やす唯一の手段だ。コロナ禍が終息したときには、ぜひ盛大なお別れの会を開いてほしい」という——。

■志村さんの遺族が「骨も拾えないし、顔も見られない」法的理由

タレントの志村けんさんが、新型コロナウイルス感染による肺炎で先月末に亡くなった。兄の知之さんが志村さんの遺骨を抱え、取材に応じる姿が印象的だった。

遺族は志村さんを病院で看取ることができず、遺体はすぐに荼毘に付された。火葬場での最後の見送りもできなかった。報道によれば、遺骨になって自宅に戻った志村さんの、簡単なお弔いが営まれたという。知之さんは「骨も拾うことができないし、顔も見られない」「本当は盛大に送ってあげたかったのに、こんなことになって悔しい」と話していた。

平時であれば志村さんほどの著名人なら、数千人規模のファンや関係者が葬儀会場に駆けつけ、別れを惜しんだのではないか。残念な限りである。所属事務所はコロナ騒ぎが終息した際には「お別れの会」を設けることを発表した。しかし、それがいつになるかはわからない。

■志村けんさんだけではない「コロナ死」した後の残念すぎるプロセス

志村さんだけではない。全国的に感染者数が増え続け、死者数が増加していく中、「コロナ死」はひとごとではない。恐怖を煽(あお)るわけではないが、すでに誰もが死のリスクを負っていると、腹をくくる必要がある。

また、コロナ感染が原因で亡くなった方の遺族は、死後の措置をどうすればいいのか。葬送は、遺族の心のケアにとって、とても大事である。ここでは通常の葬送の手順と、コロナ感染による死亡後の葬送の手順の違いについて解説し、遺族の心の整理のつけ方について述べていきたい。

まず、死亡場所についてのデータを示したい。

半世紀以上前と現在とでは、多くの人の最期を迎える場所が逆転している。厚生労働省の調査によれば、1955年では自宅死が77%と大多数を占めていた。だが、2018年では病院・診療所で亡くなる割合は74%、高齢者施設内での死亡は11%。自宅死は14%にすぎない。

かつての自宅死の場合、すぐに菩提寺の僧侶が駆けつけて、枕経を唱えたものだ。そしてそのまま自宅か菩提寺で、通夜、葬儀が行われた。葬儀が終われば霊柩車に乗せられて出棺。火葬場でも簡単な炉前読経があり、そして荼毘に付された。骨壺に納められた遺骨は自宅に戻り、その後は初七日法要が営まれる。これが一般的な死後の手順であった。

しかし、現在では多くが施設死になっている。施設死の場合、葬儀社が遺体を引き取り、葬儀会館や遺体安置施設に安置されることが多い。最近では葬式をしない直葬が急増しており、「すぐに火葬してほしい」と願う遺族も少なくないようだ。しかし、原則的には24時間以内の火葬はできないことになっている。

これは「墓地、埋葬等に関する法律(通称:墓埋法)」の第3条に、「埋葬又は火葬は、他の法令に別段の定があるものを除く他、死亡又は死産後24時間を経過した後でなければ、これを行ってはならない」と規定されているからだ。

■通常は「死後24時間経過」しなければ火葬できない理由

なぜ、死後24時間経過しなければならないかといえば、いったん死の判定を受けた者が「蘇生するかもしれない可能性」を完全に排除するためである。その昔は、24時間以内に蘇生したこともあったようだ。

日本の葬儀
写真=iStock.com/SetsukoN
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SetsukoN

実際には、通常の死後の手順を踏んでいれば必然的に24時間は経過する。枕経から通夜、葬式まで3、4日はかかるからだ。しかし、直葬や、一部地域での「骨葬」(後で詳述)の場合は火葬までの時間がぐっと短くなる。だから、「どこかに24時間」安置する必要がある。近年、都会では遺体安置施設が数多く建設されているのは、こうした直葬が増えているからだ。

しかし、志村さんの場合は24時間以内に火葬された。

■志村けんさんが死後24時間以内に荼毘に付された事情

これは、墓埋法の条文にある「他の法令に別段の定があるもの」に該当するからである。「他の法令」とは「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」第30条の規定のことである。

同規定によれば、「感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある死体の移動を制限し、または禁止することができる」と定め、「24時間以内に火葬し、又は埋葬することができる」としている。

対象とする感染症は、エボラ出血熱(一類感染症)、コレラ・細菌性赤痢・ジフテリア・腸チフス(二類感染症)、腸管出血性大腸菌感染症(三類感染症)など。そして、新型コロナウイルス感染症も同規定に含まれることになった。

だが、誤解を避けるために述べておくが、「24時間以内に火葬しなければならない」ということではない。例えば、遺体を透明の納体袋で包むなどして、感染拡大防止策が取られていれば、通常の葬式をやっても差し障りはない。実際に神戸市では、納体袋をすでに用意し、複数の病院に配布を始めているという。

■新型コロナで亡くなった人は「24時間以内火葬」が多い

だが、現実的には新型コロナウイルス感染症で亡くなった方はすぐに火葬されることが多いことだろう。

先に遺骨にしてから葬式をすることを、「骨葬」という。骨葬は孤独死などで遺体の状態が悪い場合、あるいは海外などで死亡した場合に実施されることがある。

骨葬は一見、イレギュラーな対処法のように思えるが決してそうではない。実は北関東や長野などの一部地域では骨葬のスタイルを取っている。

三陸鉄道開業30周年記念企画展のオープン記念イベントに登場したコメディアンの志村けんさん=2014年6月3日、東京都港区
三陸鉄道開業30周年記念企画展のオープン記念イベントに登場したコメディアンの志村けんさん=2014年6月3日、東京都港区(写真=時事通信フォト)

骨葬は、かつて養蚕が盛んだった地域の葬送文化の名残りである。地域の人が死んで、葬式の準備に駆り出されてしまえば蚕の面倒が見られなくなる。とはいえ、火葬を急がなければ遺体が痛む。そんな心配を回避するために先に骨にしておき、蚕の世話を済ませた上で、心を落ち着けて葬式をしたのだ。

ほかに東北の豪雪地帯などでも骨葬をするところは多い。大雪では参列者が参集しにくいという理由である。各地の葬送は、非常に合理的に考えられているのだ。

したがって、先に火葬することが仏教的におかしいなどということはないのだ。志村さんの場合、万が一、遺体からの感染を防ぐため、緊急避難的な措置として骨葬にせざるを得なかったが、戦前などでは天然痘などが流行した時に、骨葬が行われたケースもあったと聞く。

故人と最後の対面ができなかった遺族は、なかなか心の整理がつけられるものではないだろう。ぜひとも、コロナの流行が収まったのちに盛大に志村さんのお別れの会を開いていただきたいと思う。葬儀こそが、遺族の後悔や悲しみを癒やしてくれる唯一の手段なのだから。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『仏教抹殺』(文春新書)など多数。近著に『ビジネスに活かす教養としての仏教』(PHP研究所)。佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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