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「1カ月休業で5カ月の利益が消える」一目で分かる飲食店の収益構造

プレジデントオンライン / 2020年4月22日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/HAKINMHAN

■このままなら夏までに約半数の店がつぶれる恐れ

はじめまして。飲食店の経営やプロデュースを中心に活動している、周栄行(しゅうえいあきら)と申します。

先日書いたnote「なぜコロナウイルスは飲食店を殺すのか」が多くの人の目に触れることとなりました。今回の記事は、こちらのnoteに加筆・修正したものになります。

2020年4月7日、新型コロナウイルスの感染拡大によって緊急事態宣言が発出されました。その前の2~3月の時点で、すでに多くの飲食店が相当なダメージを負っていました。そして今回の緊急事態宣言で少なからぬ飲食店が致命的な状況に陥っています。

私たち飲食店関係者は今、本当に苦しいジレンマに苛(さいな)まれています。お客様や従業員の健康や命を守るためには自粛はやむを得ない。しかし自粛が続くと、お客様に満足のいくサービス提供することも、従業員の雇用を維持することも、そして事業を継続することもできません。

現在飲食店が立たされている苦境についてはすでにさまざまなメディアでも語られています。しかし、なぜそこまで苦しそうなのか、現在進行形でどれくらいのダメージを負っているのかは、飲食業に携わっている方たち以外にはあまりピンとこないかもしれません。

この先この状況が続いた場合、あくまで私見ですが、夏までに4~5割程度、仮に年内いっぱい続いた場合は7~8割以上の飲食店が営業を続けて行くことが困難な状態になるでしょう。

今回のコロナショックで飲食店に何が起きているのか、なぜこんなに苦しい思いをしている飲食店が多いのか、日本における飲食店の収益構造を含めて、数字を踏まえた上でなるべく簡潔に解説できればと思います。

少しでも飲食店の苦しさや現状が伝われば幸いです。

■「30席、客単価3000円」のお店で計算してみる

単刀直入に言うと日本における飲食店は基本的に薄利多売です。業界では、一般的に5年残るお店は2割、10年残るお店は1割と言われています。これは日本の飲食店の競争過多な状況や、長く続いたデフレなどに要因があります。

業種業態によって違いますが、飲食店の収益は、「FLコストで60%前後が適正」と言われています。このFLコストというのは、

F=食材原価
L=人件費

です。これをそれぞれ30%前後程度に抑えるようにするのがセオリーです。

分かりやすいように、東京都心部における客席数30席、客単価3000円くらいで、そこそこお客さんの入っている架空の居酒屋を例として考えてみましょう。

飲食店の売り上げは、

月売り上げ=客数×客単価×営業日数

で表されます。そして、かかるコストは、食材原価・人件費・家賃を筆頭に、光熱費や広告費(食べログなど媒体の掲載費用など)、雑費などがあります。ざっくりとしたシミュレーションは以下の表をご覧ください。

飲食店における基本構造シミュレーション

上記以外にもいろいろなコストがかかってきますので、実際の営業利益はもう少し下がります。一般的に営業利益で5~7%前後です。飲食店の上場企業でも3~4%あたりが中央値になります。こうして見ればものすごく利益率の低い業界であることはご理解いただけるかと思います。

■もし、1カ月の売り上げが半減したら?

それでは、コロナウイルスはどのような影響を数字上でもたらすのでしょうか。先ほどの架空の飲食店の売り上げが半減した場合をシミュレーションしてみます。

売り上げが半減した場合のシミュレーション

平時に得られる営業利益約2カ月分の赤字になりました。

店舗を回す人は最低限置かねばなりませんし、社員の人件費は削れません。アルバイトを削ったとしても、抑えられる人件費には限度があります。そして、家賃は基本的にどんなに売り上げが下がっても変わりません。今、コロナの影響で大家さんとの交渉も増えていますが、大家さん側にも懐事情がありますから、容易なことではありません。

売り上げが半分になると、このお店の場合は2カ月分の営業利益が吹っ飛びます。つまりこのお店の場合、4カ月の間売り上げが半減すると、その後の8カ月間は通常の売り上げに戻ったとしても、その1年間の営業利益はほぼゼロになります。固定費が厚く、利益が薄い飲食店の厳しい現実です。

コロナのダメージは、日本国内の飲食店においては2月ごろから顕在化し始め、3月に顕著になりました。実際に私の経営する銀座のある商業施設内のお店は、コロナの影響で2月の売り上げは通常時の半分、3月は4分の1になりました。そして4月は商業施設が休業したので実質ほぼゼロになります。

銀座や浅草など、インバウンド比率が高かったエリアは特にダメージが大きいです。海外からのゲストの流れがほぼストップしてしまっているのでこれも当然です。そして、ビジネスエリアの飲食店も在宅勤務やテレワークの影響で甚大な影響を受けています。

■1カ月休業しただけで5カ月分の利益が消える

今回の緊急事態宣言によって、多くの商業施設が2020年5月6日まで休業を発表しました。そして、東京都では飲食店営業は原則20時までとなりました。これを機に、5月6日まで営業を中止するというお店はかなり多くなりました。仮に、先ほどのお店で1カ月の売り上げが完全に止まった場合は以下のようになります。

1カ月の売り上げが完全に止まった場合

たった一月で5カ月分近くの営業利益が無くなりました。お店の営業が1カ月止まるということは、飲食店にとってものすごく大きなダメージであることはお分かりいただけたかと思います。

今年に入ってから4カ月で飲食店は大きなダメージを負っています。資金に乏しいお店や会社はすでに廃業に追い込まれているところも増えてきました。一般的な飲食店はそこまでキャッシュを積んでいません。1.5~3カ月程度の運転資金しか持っていないところが多数を占めます。

複数店舗を運営する会社やグループでも、増収増益を達成するためには店舗数を増やすことが成長のセオリーとされてきたので、新規出店をするために多くの借り入れをしている場合がほとんどです。キャッシュフローが止まると大手でも一気に苦境に立たされます。

何よりも厄介なのは、今回のコロナの影響がいつまで続くか分からないという先の見えなさです。これはこの後に続く借り入れの話にもつながります。

■政府は「融資のしやすさ」をしきりに強調するが…

各自治体によっても対応が違いますが、多くの場合、家賃などの固定費に関しては補償を受けることができません。一方で政府は無利子・無担保・無保証の融資を推し進めています。それによる足元のキャッシュフローや運転資金の確保については、しきりに強調しています。

しかしながら、飲食店における運転資金の借入金額には限度があります。運転資金の借り入れは経費に算入できないため、借入金の返済は税引き後の利益から支払わなければなりません。

※累積赤字がある場合は法人税はかかりませんが、ここでは運転資金の借り入れの返済の影響を分かりやすくするため、法人税がかかる前提で話を進めます。

どういうことか、先ほどのお店の例で説明します。

仮に2月、3月と売り上げが半減し、4月の売り上げがゼロになったとします。そして5月も戻りきらず、半減状態が続くとします。その場合、累積の赤字はざっくり350万円ほど、通常の年間の営業利益分くらいです。

この危機を乗り越えるために400万円を無利子で借り入れたとします。そして次の年にコロナを乗り越え、通常の時の利益を出すことができました。年間の営業利益は400万円ほどなので、これでなんとか借入金を返せるように見えます。

■終息が見えず、究極の選択を突き付けられている

しかしながら、ここから実効法人税率が35%ほど引かれるので、実際の返済原資は400×(1-0.35)=260万円ほどしかありません。400万円の運転資金の借り入れをした場合、返済するのにその後2年近くはかかります。

4カ月分の売り上げ減少を乗り越えるために借り入れても、その返済に約2年分の利益を必要とするわけです(※)。分かりやすくするために極端な例にしていますが、実際に飲食店は多かれ少なかれこのようなダメージを現在進行形で負っています。

そして、店を維持する分のキャッシュをいつまで積めばこの危機を乗り越えられるのか現時点では全く分かりません。いくら借り入れれば乗り切れるのか不透明なままに、当座をしのぐ借り入れをするのか、店を閉めるのかの選択を突きつけられ続けています。

この先、十分な補償がないままに「自粛」が続くのならば、おびただしい数の飲食店の屍(しかばね)が積み上がっていくでしょう。

※累積赤字を考慮しない場合

■デリバリーやテイクアウトは焼け石に水でしかない

今回の危機をデリバリーやテイクアウトなどで乗り切ればいい、という声もあります。もちろん、やらないよりはやったほうがマシでしょう。

しかし、そもそもデリバリーだけで落ちた分の収益が賄えるくらいであれば、最初からやっています。根本的にデリバリーをやるのに向いた立地やキッチンでない場合も多いですし、慌てて参入する店舗が増えすぎている現状では、いまさら始めたところでほとんどのお店にとっては焼け石に水です。

デリバリー費用も、例えばUber Eats(ウーバーイーツ)だと35%の手数料が取られます。そこから包材費用もかかりますし、基本的にデリバリーは実店舗以上に薄利になりがちです。

高級店のデリバリーやお持ち帰り弁当なども増えていますが、これも一時的な応援・ご祝儀的需要であり、持続性がないと考えています。実店舗の価値の本質はサービスや店の場も含めた総合的な体験にあり、それはデリバリーなどで真価を発揮できるものではありません。

■それでもなぜ飲食店はなくならないか

そんな利益率の低い業界でもなぜ、飲食店をやる人が多いのか? 人によってさまざまだと思いますが、根本の部分で共通しているのは、

幸福な場を作ることが楽しい

からではないでしょうか。気のおけない友人たち、家族や仲間と囲むおいしい食事には、人間の幸福の根源が詰まっていると私は思います。どんなに利益率が低くても、どんなに運営が大変でも、それでもやりたくなるくらいに飲食店は素敵なものだと私は思っています。

今回のコロナの影響でかなりの数の飲食店が廃業に追い込まれるでしょう。これはもはや変えようのない事実となりつつあります。

それでも私たち飲食店関係者は、また笑顔でお客様を迎えられる日のために、できうる限りの手段で生き延びようとしています。

ただ一つ、確かに言えることがあるとすれば、飲食店というものが歴史上に現れてから以降、この世から飲食店がなくなったことはない、ということです。

この危機を乗り越えることができた飲食店は、より一層本質的な価値をお客様に提供できるようになっていると信じています。飲食業界に携わるものの端くれとして、こういった発信を含めて、できることを粛々とやっていきたいと思っています。

今回のコロナ感染の一刻も早い終息を心より願っています。

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周栄 行(しゅうえい・あきら)
飲食店経営/プロデューサー
1990年、大阪生まれ。上海復旦大学、ニューヨーク大学への留学を経て早稲田大学政治経済学部を卒業後、外資系投資銀行へ就職。独立後は、飲食店の経営・プロデュースをはじめとして、ホテル、地方創生など、食を中心に幅広いプロジェクトに関わっている。

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(飲食店経営/プロデューサー 周栄 行)

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