1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

伝説のディーラーが「ほぼ全資産を円から米ドルに替えた」というワケ

プレジデントオンライン / 2020年4月23日 11時15分

衆院財務金融委員会で答弁する日本銀行の黒田東彦総裁(右)。左は麻生太郎副総理兼財務相=2020年3月24日、国会内 - 写真=時事通信フォト

コロナ禍で日本円と日本株が暴落の危機にある。元モルガン銀行日本代表の藤巻健史氏は「日銀は国債や株などを買って日本経済を支えているが、財務状況は悪化するばかり。景気悪化が長引けば、円暴落という最悪のシナリオも考えられる」という――。

■「日本円は決して安全資産とは言えない」

私は現在、金融資産のほとんどを円ではなく、ドル資産で保有している。それも今現在は長期債でも株でもなく短期のドル資産だ。あまりにドルに偏っているがゆえに、時々、資金繰りを間違えて昼食代の円にも困ってしまうくらいだ。

私は約15年間、米モルガン銀行(現、JPモルガン・チェース銀行)でディーラーを務め、「涙と冷や汗をかく」ことによって生活の糧を得てきたリスクテーカーだ。

負けているときどう耐えるべきかも熟知している。だから私と同じような偏った運用はお勧めないが、現在のような緊急時にはドル資産、それも現金に近い資産を、保険の意味で持つべきだ。

なぜなら、日本円は決して安全資産とは言えないからだ。

私は今の政府・日銀の財政・金融政策は間違えていると強く思っている。2013年に黒田日銀が始めた異次元緩和とは、ハイパーインフレを起こした経験から全世界で禁止されている財政ファイナンス(※)そのものだ。

※政府の借金を中央銀行が紙幣を刷ることによって資金調達をすること。

ハイパーインフレとはお金の価値が暴落すること。給料、年金は毎月上がると予想されるが、パンの値段は毎時間上がる。給料をもらった後、1日、2日は購入できても3日目からは餓死の危機が迫ってくる。日本はその一歩手前のところまで追い込まれているのだ。

■ハイパーインフレで日本円は紙切れになる

反発を承知して言うが、私は「日銀は倒産せざるを得ない」と思っている。もちろん中央銀行は社会に不可欠な存在だから、新しい中央銀行は創設される。しかし現に流通している円は単なる紙切れになる。円は現在の中央銀行である日銀の負債だからだ。

しかし、中央銀行といえども、つぶれた歴史がある。終戦後のドイツだ。当時の中央銀行(ライヒスバンク)は、第2次大戦で軍事費を調達したいヒットラーの圧力に屈し、異次元緩和を行った。その結果、終戦後にハイパーインフレを引き起こし、後始末のためにつぶされた。

その後新しい中央銀行(ブンデスバンク)を創設され、ハイパーインフレを鎮静化した。ハイパーインフレとは貨幣価値が失墜したことにより起こるものだから、貨幣価値を正常化すれば収まるのだ。

一番ひどい目にあったのは、最後まで旧紙幣を保有していた庶民だ。手元に残った紙幣は法定通貨ではなくなる紙くず化してしまったからだ。紙くずでは何も買えない。

「円の価値を担保するのは、物価上昇率と経常収支と外貨準備と対外純資産だ」などという人がいるが、違う。円の価値は日銀への信認が失墜すれば簡単に崩れ去る。

終戦後のドイツにおいて、経済実態が何も変わらないのに、健全な中央銀行(ブンデスバンク)を創設することにより貨幣価値が回復し、ハイパーインフレが鎮静化したことからもご理解いただけるかと思う。

■かつては優良経営を続けていた日銀

私が金融マンだった頃(2000年3月まで)の日銀は、「山のように何があっても動じないよう、日本経済の最後の砦となるよう」と自戒していた。

1992年10月発行の「日本銀行の機能と業務」という日本銀行金融研究所が発行した本がある。その本には「銀行券は日本銀行にとって負債(いわば、日本銀行の発行する債務証書)であり、日銀はそうした負債に見合う資産として、発行券発行額以上の発行担保物件を保有しなければならないことになっている。なお、これらの発行物件については、中央銀行の資産としての健全性に関して充分な注意が払われている」と書いてある。

元日銀マン氏に聞くと,入行時の研修でも、そう習ったそうだ。

実際、当時の日銀のバランスシート(1993年末)を見ると、規模は50.2兆円。現在の585兆円(2020年2月末)の12分の1だ。負債の大きな部分の41.6兆円は発行銀行券。資産は買入れ手形8.5兆円、国債31.4兆円で、負債に見合う資産をしっかり保有している。

その国債は政府短期証券(満期60日程度の資金繰り債)が19.2兆円、残りもほとんどが短期国債である。マーケットの動きで値段が大きく上下する長期国債は「成長通貨の供給」(※)と言って回収する必要のないお金を供給するときだけ、ごく少額買っていた。

※経済が成長していくとそれに見合ったお金を供給する必要がある。そうしないとお金が不足し、お金の価値が上がってしまう(=デフレ)。

お分かりのように、市場いかんで値段が大きく上下するような資産は保有していなかったのだ。日本銀行金融研究所が本に書いただけでなく、実際に資産の健全性に充分、注意していたということ。マーケットが激変しても日銀が債務超過になる可能性はほぼゼロだった。

■政府の借金を、日銀が肩代わりしている現状

日銀は2013年4月、デフレ脱却という大義名分のもと、異次元緩和を開始した。先述した日銀の「財務の健全性」原則の大破りを始めたのだ。正式には「異次元の量的質的緩和」という。量の拡大自身も大問題なのだが、質の面も大きな問題なのだ。

質的緩和の一番の問題は長期国債の爆買いを始めたこと。先に述べたように、私が金融マン(2000年3月まで)だった頃は、マーケットの動きで値段が大きく上下する長期国債などほとんど買っていなかった。このような商品の保有は資産の健全性に大きく反するからだ。

1%の金利上昇で短期国債の価格は少ししか下がらないが、長期国債は大きく下げる。影響が長期に及ぶ。そのように値が大きくぶれる長期国債の爆買いぶりがすさまじい。平成29年度、国は国債を141.3兆円発行し、日銀は市中から96.21兆円も購入している。

その大部分が長期債だ。市場規模の68%もの国債を購入している。その結果、保有額は急速に拡大し、今では国債発行残高の46%をも日銀が保有している。かつて国債は、銀行や保険会社を通じて、国民の預金や生命保険料で購入されていたと言えるが、今では日銀が紙幣を刷って(正確には日銀当座預金を増やして)購入しているのだ。

■累積赤字増への警告は鳴らず、財政規律は崩壊している

どんな市場でさえ、それまで存在していなかった買い手が突然現れ、市場規模の7割も買い上がれば値段は暴騰(=長期国債では金利急低下)する。

市場経済下では、財政赤字が積み上がれば国債の供給過多で長期金利が上昇し、累積赤字増加に警戒警報を鳴らすのだが、市場原理の働かない日銀の出現で、いくら国債を増発しても値段が下落(長期金利は上昇)しなくなった。

つまり、累積赤字増に対する警告が鳴らなくなったのだ。財政規律の崩壊だ。日銀の「国債爆買いの弊害」は財政規律の崩壊にとどまらず、日銀への信頼を根底から覆すリスクを発生させたと言っていい。

昨年9月末時点での日銀保有国債利廻りは0.26%だ。平均残存年数は6~7年だと思うので、10年金利に換算すれば0.3%くらいだろう。現在のゼロ%の長期金利がたった0.3%上昇すれば日銀は債務超過に陥る。0.3%など私のディーラー時代なら1晩で動く。

■日銀はたった0.3%の金利上昇で債務超過に陥る

コロナ禍による財政出動で、長期金利は近い将来、世界的に上昇が予想される、中央銀行が必死の買い支えをしているが、いつまで持つか?

4月15日の日経新聞経済教室で小林慶一郎慶大教授は「コロナ危機後の世界では、金利が正常化して80年代ごろの水準に戻るかもしれない」とおっしゃっている。80年代で長期金利が一番高かったのは80年4月の11%、一番低かったのは1988年の4.8%(年末の数字の比較)である。繰り返すが、日銀はたった0.3%の金利の上昇で債務超過に陥る。

日銀は長期国債市場だけでモンスターとなったわけではない。株の世界でも株のETFを爆買いし、今年中には、日本一の株主になるといわれている。世界の先進国で金融政策目的で株を購入している中央銀行など他にはない。

コロナ禍に対し世界各国の中央銀行が大型の金融政策発動を発表したが、そのなかにさえ株の購入案はどこにもない。株価下落で起きる中央銀行の信用失墜が怖くて、そんなものの保有は他の中央銀行には出来ないのだ。当然の感覚だ。

■コロナ禍による株価下落で日銀は危機を迎える

今年3月、日本株市場では、日経平均19000円という数字が大いに注目された。日銀の保有株に評価損が生じるかもしれない数字だったからだ。

その攻防戦で「日銀が株式市場に介入した、しない」が注目された。異常な世界だ。そして、日銀はますます深みにはまっていく。私のラフな試算では日経平均1000円の下落あたり1兆3000億円ずつ評価損が膨らんでいく。

日銀は、長期国債や株だけではなく、不動産市場にもリート購入の形で参画している。CPや社債の購入など、他の中央銀行が今回のコロナ禍で、法律を変えてやっと始めようという商品もすでに長い間、時限措置と称しながらも購入を継続してきた。

まさにあらゆる市場に参入し、市場をコントロールしようとしているのだ。市場原理の働かない機関が大きく参加している市場は資本主義の市場とはいえない。計画経済だ。計画経済はいずれほころびが出て崩壊することを歴史は物語っている。

今後、コロナ禍が収まらず、資金繰り倒産が続発すれば、株価は再度下落するだろう。そうなれば、日銀は再び評価損発生の危機に遭遇する。より怖いのは、保有額が莫大な国債の価格だ。今のところ何とか、債務超過を防いでいるが、崖っぷちにいるのが日銀だ。

■健康体には程遠い「世界最大のメタボ」

平時にバランスシートを膨らませ、世界最大のメタボになり、しかも利回りの低いのを買いあさったのが日銀だ。まさにジャンクフィードを食べあさってブヨブヨに太っているのが今の日銀だ。健康体とは程遠い。

債務超過が起これば日銀の信用は失墜し、発行する通貨は暴落が始まる。だからこそ、その「Xデー」に備えて保険の意味で、私はドルを買っている。

----------

藤巻 健史(ふじまき・たけし)
フジマキ・ジャパン代表取締役
1950年東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学にてMBAを取得(米ノースウエスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年米モルガン銀行入行。当時、東京市場唯一の外銀日本人支店長に就任。2000年に同行退行後。1999年より2012年まで一橋大学経済学部で、02年より09年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師。日本金融学会所属。現在(株)フジマキ・ジャパン代表取締役。東洋学園大学理事。2013年から19年までは参議院議員を務めた。

----------

(フジマキ・ジャパン代表取締役 藤巻 健史)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください