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コロナ禍でも「稼ぎ頭」をみつけた食品営業マンのダメモト発想

プレジデントオンライン / 2020年5月12日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

新型コロナウイルスの影響で多くの企業の売上が減少した。月間100万PVを誇る人気ブロガー、フミコフミオ氏が勤める食品会社も例外ではない。だが、フミコ氏は、ある「発想の転換」によって会社に活路を見出した――。

■飲食店向けの売上が「地獄の数字」に

新型コロナで日本中どこの業種も大変な状況になっている。僕が勤める会社も例外ではなく売上が悲惨なことになっている。

だけど、売らないものを売りものにするという発想の転換によって、生き残れる見込みが出てきた。今回はその話をさせていただく。

たいしたことはしていない。ただの思い付きだった。戦略や勝算もかけられるお金もなかった。無理やりに勝因をあげるなら、思いつきをそのまま実行したことだけだ。

僕は食品会社で働く営業部長だ。

弊社も、コロナ感染拡大にともなって、飲食向けの売上はガタ落ちである。3月の中旬時点で最悪な数字だったが、4月はより最悪な数字を記録するのは予想できていた(実際は地獄の数字になった)。取引先が休業してしまっては、売りたくても、売れない。本業の食品はしばらくダメだと諦めかけていた。

■ニュースを見て思い浮かんだのは不採算部門の存在

きっかけはニュースだった。

「どこどこの施設でコロナ感染が発覚しました。先ほど保健所の職員が立ち入り、現在は消毒作業が行われている」というありふれたニュースを見ていて、ふと、僕は気づいた。

確か消毒作業員が現場に入るまえに来ていたユニフォームだったと思う。そこにはキャッチ―なロゴと電話番号があった。公的な施設のはずだが、消毒をしているのは、明らかに民間の業者だったのだ。

「公的な施設は、保健所が消毒を行っている」という先入観があったので驚いてしまった。

その瞬間、僕はウチの会社にも衛生部門があったことに気づいた。以前、部門長クラスの会議で売上を上げていない部署として真っ先に名前があがっていたのだ。仕方ない。衛生部門は、飲食部門のおこぼれで社内的に仕事をもらっている部署で、外へむかって営業をかけていなかった。

店舗を開業する際、定期的に、清掃や消毒作業を社内部署から頼まれてやっている部署なのである。そもそも発足が本業のサポートからなので、売上を求められていなかったのだ。そして、売上がない事実を会議で上層部から突かれて「廃止」の声があがっていたのである。

■食材が売れないなら代わりに……

僕は衛生部門の消毒除菌作業を売ることを発想した。

「食材が売れないなら代わりに」という安易な思い付き。暇をもてあましていたので衛生部門の長のもとへ行き、「コロナ関連の消毒作業ができるか」「作業にはどれだけの人員と時間とコストがかかるのか」確認を取り、その席で「1㎡当たり○○円」というパッケージを作った。

できる限りシンプルにした。営業マンの勘である。ヤケクソである。

衛生部門の者は僕の思い付きには懐疑的だったが、「少しでも役に立てれば」というふうに協力してくれた。こんなふうに商品は決まった。

次は販路。積極的に営業をかけることはできない状況であった。お金も人もかけられなかった。ホームページに掲載はしてけれど問い合わせは数件しかなかった。

これでは商売にはならない。

他の売り物を考えはじめたとき、取引先から「オタクは消毒とかやってないの?」という問い合わせを受けて気づいた。販路はすでにあった。気付いていなかっただけだった。僕はこれまで開発してきた見込み客リストからターゲットを絞り出して、メールを送った。

■営業のメールは戦略的に

内容はたいしたものではない。「何か食材のことでお困りのことはありませんか?」というお伺い内容だった。

はっきりいって、こんな寒い内容の文面を送りつけられても、95%ゴミ箱行きである。ましてや今は新型コロナ騒動の渦中だ。確率は100%だろう。

本題は別にさりげなく仕込んでいた。

件名に「【消毒作業うけたまわります】」と謳い、メールの最後のテンプレ「○○株式会社 営業開発部 連絡先」の前に「【消毒除菌作業承ります。新型コロナ対応。即日対応。当日完了】」という一文を入れたのだ。

そう、サイレントDMである。ゴリゴリのセールスDMを送ってもよかったが、あえてその手は回避した。

理由は二つ、消毒作業という売り物の性質上、送った相手が「ウチの店が汚いってことかよ」という拒否反応を起こるのを恐れたから、そして時間や人員がかぎられているので相手からこちらへという流れを作りたかったからだ。

■本業の売上が減る傍ら、除菌消毒は圧倒的な受注を獲得

これがきっかけで問い合わせのメールが爆裂した。

4月になって本業の売上は地獄のようなダウンを記録しているが、除菌消毒作業の圧倒的な受注で生き残れる見込みは出てきている。

消毒作業は通常の飲食店や事業所で半日から1日で完了してしまうが、副次的な効果で、消毒後のコンサル契約や食材販売の交渉にも結び付けられている。コロナ禍が終わったあとの貢献につながるはずだ(これが目的でもあった)。

こうして弊社の消毒を売る作戦は成功した。

5月末まで予約でいっぱいの状況である。もともと小規模な部隊なので受注量に限りがあること、そして作業につかう資材(防護服や製剤)の使用量と在庫量のかねあいからいつかは活動限界点を迎えること、など課題はあるが大事なのはコロナ禍を生き残るめどが立ったということだ。

■かつての不採算部門に芽生えたプライド

売りものにしていなかったもの、売上ゼロが会社を支えるレベルの売上を叩き出したことの社内的なインパクトはあった。

部門長会議で「廃止」を訴えていたはずの69歳上層部は「廃止の決定を下さなかった」と謎アッピールをしている。文句をいうだけで何もしなかったことがご自分の評価につながると考えているらしい。

当該何もしていない69歳上層部から「キミはメールを送っただけじゃないか」と詰問されたのも意味不明だ。

主役は僕ではなく、実際に動いてくれた衛生部門だ。彼らの労をねぎらおうとドリンクの差し入れに行ったとき、「ここまで忙しくなるとは……前のほうが良かったです」と笑顔で恨みごとを言われた。

笑っていたので、当初は冗談と受け取っていたけれども、違った。

僕は疲れから貼りついたようになった表情を初めて見た。フル稼働。フル予約。かぎられた人員と資源。彼らは前とは面構えがちがっていた。会社を支えているのは俺たちというプライドが確かにそこにはあった。

■絶望する前にやることがある

売っていないものを売るという発想で、ウチの会社はなんとかサバイブをすることができそうだ。

今、多くの企業が苦しい状況にある。

特にウチのような中小企業は、本業しかやっていないところが多いはずだ。本業の売上が激減したら。ゼロになったら。絶望してしまう。

だがちょっと待ってほしい。

絶望する前に、先入観を排除して、これまでまったくやっていないことをやってみる。ヤケクソ、ダメモトでやれば怖いものはないはずだ。新型コロナより怖いものはない。

フミコフミオ『ぼくは会社員という生き方に絶望はしていない。ただ、今の職場にずっと……と考えると胃に穴があきそうになる。』(KADOKAWA)
フミコフミオ『ぼくは会社員という生き方に絶望はしていない。ただ、今の職場にずっと……と考えると胃に穴があきそうになる。』(KADOKAWA)

ピンチのときこそ、ビジネスの原点に立ち戻って、普段付き合いのある相手、顧客や見込み客が何を求めているか、相手を見ることが大事になる。

そして、今できることを、先入観や既存の価値観にとらわれずに、今やっていることの延長ではない別のものまで拡張して考えてみる。見ることは変えずに、考え方と手を変えていく。

そのうえで、もっとも大事なものは、周りにいる人たちの力になりたい、助けたいというパッションだ。

僕はこのあたりにコロナ禍を生き残るヒントはあると考えている。世の中が変わったら、それに対応して考え方を変えればいい。「何かできること」を制限しない柔軟さをもって立ち向かおう。苦しいけれど今こそ。

現場からは以上です。

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フミコ フミオ ブロガー
1974年2月、神奈川県生まれ。神奈川の湘南爆走族エリアに生息する中間管理職。「はてなブログ」の前身である「はてなダイアリー」で2003年からブログを始め、今では月間100万PVを誇る会社員ブロガー。独特な文章でサラリーマンの気持ちを代弁。ツイッター:@Delete_All ブログ

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(ブロガー フミコ フミオ)

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