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「テドロスで本当にいいのか」…中国のWHO侵略に、トランプがついにブチきれた

プレジデントオンライン / 2020年5月6日 9時15分

中国の習近平国家主席は2020年1月28日、世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイェソス事務局長と北京で会談 - 写真=Avalon/時事通信フォト

■トランプがテドロスに本気でキレている

米ドナルド・トランプ大統領が4月14日WHOへの拠出金停止を明言し、中国寄りの発言を繰り返すWHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェソス事務局長との確執が強まっている。共和党議員団は拠出金再開を巡ってトランプ大統領にテドロス事務局長辞任を提言し、米国のインターネット上の署名サイトでは辞任を要求する100万人以上の署名が集まっている状況だ。

トランプ大統領は新型コロナウイルスを中国ウイルスと呼んでおり、WHOを「中国寄り」として激しく批判している。実際、テドロス事務局長は隠蔽工作を行っている疑いが強い中国の対応を「透明性がある」と一貫して擁護し続けている。これに加えて、WHOの台湾に対する政治姿勢、中国への配慮と見られる二転三転した対応策の公表、同事務局長の出身国エチオピアが中国から多額の援助を受けている事実などもあり、米国では同氏のWHO事務局長としての適格性を問題視する声が強まっている。

筆者は中国政府やWHOの対応が透明性に欠けることには同意するものの、感染症の専門家ではないのでWHOの一連の対処策が正しかったかについての言及は控えたいと思う。

そこで、今回の論稿では、トランプ大統領とテドロス事務局長の対立を米中の国連における覇権争いの一環と見なしてその背景を説明していきたい。

■陰に陽に中国の国連における影響力は強める中国

現在、中国は国連の15の専門組織のうち4つの長を手中に収めている。UNIDO(国際連合工業開発機関)、ITU(国際電気通信連合)、ICAO(国際民間航空機関)、FAO(国際連合食糧農業機関)には中国人のトップが存在している。その他の組織も主要なポストに中国人が就任することも多く、陰に陽に中国の国連における影響力は強まる一方だ。そして、この中国による国連での影響力拡大に気が付かないほど米国人は馬鹿ではない。

実際、米保守系新聞ワシントン・タイムズは、2019年8月26日に「U.S. needs to respond to rising Chinese influence in the United Nations」という記事を掲載している。この時期は米中が貿易交渉で激しく罵(ののし)り合いを展開していた時期であるが、記事内容は中国が国連の重要ポストを奪っていることへの警戒を促す内容となっている。同内容は一部の専門家の間では過去から問題視されてきていたが、同紙に取り上げられることはトランプ政権にとっての世論工作として違った意味を持つ。ワシントン・タイムズは米国共和党関係者には愛読されており、トランプ大統領の執務室にも置いてあることで有名だ。

■中国の国連における影響力拡大の勢いは止まらない

ワシントン・タイムズは国防総省に近い安全保障関係のタカ派の人々に近いスタンスを取っており、トランプ政権の対中スタンスを知るには適した情報源の1つである。米国が現在問題視している武漢の生物化学研究所をウイルスの出所と疑う記事を最初に掲載した媒体も同紙である。中国が米国に研究所の調査を許可するはずがないので、その真偽のほどは不明であるが、同紙はトランプ政権が保守系の対中世論に関する観測気球を上げる役割の一部を果たすことがあると見て良いだろう。

トランプ大統領が国連の専門機関を批判する態度を見せると、すぐに自国優先主義とレッテルを貼る人々も少なくない。そして、国連における米国の地位の低下と中国の影響力拡大を懸念する話が語られることは最近のお決まりのパターンだ。

しかし、中国の国連における影響力拡大は米国大統領が誰であっても変わりないものだ。中国人が国連専門機関のトップに最初に就任したのは、07年WHO事務局長である。そして、上述のように13年UNIDO、15年ITUとICAO、20年FAOのトップが中国に奪われている。中国は米国大統領がブッシュ、オバマ、トランプの誰であってもお構いなしというのが実際のところだ。

■テドロス更迭に向けて大きく舵を切ったトランプ

また、中国の人権問題は元々悪名高いものであるが、18年にブルッキングス研究所がまとめた中国の国連における人権問題の戦略に関する報告書によると、近年中国は人権抑圧に関する国際的批判回避や人権問題に関する独自解釈の促進などを積極的に推進するようになったと指摘している。

このまま中国の影響力拡大を公に問題視しなかった場合、西側の自由民主主義国は権威主義国家によって、静かにジワジワと追い込まれたことだろう。したがって、トランプ大統領が強烈な形で国連の中国寄りの態度を糾弾したことは、中国との覇権争いの観点からも、中国の不透明な影響力拡大を阻止する観点からも妥当であり、むしろ過去の大統領が中国に対して甘すぎただけだと言える。

米国のトランプ政権がテドロス事務局長の更迭に向けて大きく舵を切ったため、英国やカナダなどからも賛同する声が上がり始めている。日本でも自民党の一部議員が同事務局長更迭に賛成する動きを見せている。

ただし、実際には中国に隣接する日本の地政学上の立場は複雑なものだ。

■日本は態度をはっきりと示さず

安倍首相は記者会見で「日本の分担金は削らずWHOを支える」「問題点があることも事実」「事態の収束後に検証すべき」と回答している。端的に言うと、非常に玉虫色に誤魔化した発言であり、これ以上の厄介事は後回しにする姿勢を示したと言えるだろう。

しかし、今後も米中双方がお互いの息がかかった専門機関のトップを吊し上げあう未来が訪れることは予想される。その中で日本政府も米中の覇権争いの最前線に立つ国として、いずれ旗色を鮮明にすることが求められるようになるだろう。その際、日本政府が取り得る道は三つ存在している。

第一の道は、日本が米国を中心とした国々と歩調を合わせて、国連で影響力を強める中国の影響力を弱めるように動くことだ。そして、日本の影響力がある国連加盟国に対して中国と距離を取るように促すことである。トランプ政権は現状の姿勢を貫くことは自明であり、仮に民主党政権になったとしても中国との覇権争いが激化する方向には大きな違いはないだろう。そのため、中国と敵対することで生じる安全保障面や経済面でのリスクを踏まえつつ、西側の自由民主主義国として筋が通った対応をしていくことになる。

■米中覇権争いの中で、日本は岐路に

第二の道は、覇権争いに触れずに国連への一定の支援を継続する現状維持の道を取ることだ。日本は中国批判の矢面には立たないことで、中国との軋轢(あつれき)が激しくなることを極力回避することになる。米国からの圧力は高まるであろうが、全ての対応に是々非々の姿勢を取ることで嵐が過ぎ去るのをひたすら待つということだ。その結果として、中国の影響力の拡大が継続するリスクがあることは言うまでもない。

第三の道は、日本の国連における役割自体を大幅に後退させることだ。消費税増税や新型コロナウイルス問題による景気後退は、日本経済に著しいダメージを与えるとともに、その劣悪な財政状況をさらに悪化させることになるだろう。そのため、国連も含めた国際協力からできるだけ手を引くことで、米中の覇権争いに関与しない姿勢を示すことだ。安保理常任理事国でもない日本が国連に対して過剰な支援を行う必要がないと判断するのも一考に値するだろう。

筆者は日本に経済的・精神的な力が残っているなら第一の道を選択する余地もあると思うが、現実の日本、そして安倍政権にその力はあるだろうか。米中覇権争いの中で、日本は岐路に差し掛かろうとしている。

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渡瀬 裕哉(わたせ・ゆうや)
早稲田大学招聘研究員
国内外のヘッジファンド・金融機関に対するトランプ政権分析のアドバイザー。米国共和党保守派やトランプ政権と深い関係を有する。

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(早稲田大学招聘研究員 渡瀬 裕哉)

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