娘2人とも「慶應医学部&バイオリニスト」おっとり母の助けない子育て術
プレジデントオンライン / 2020年7月5日 9時15分
※本稿は、『プレジデントBaby 0歳からの知育大百科2020』の一部を再編集したものです。
■慶應医学部5年生と2年生の姉妹はバイオリニスト。母の子育て法とは
クラシック音楽が静かに流れるリビング。アンティークの食器棚には、さまざまなトロフィーや盾が並ぶ。幼少期から国内外のバイオリンコンクールで数々の賞を受賞してきた小林姉妹の足跡だ。
現在は二人ともバイオリニストとして、プロのオーケストラと共演したり、母校で後進の指導にあたったりしているが、実は慶應義塾大学の医学部生でもある。姉の香音さんは5年生、妹の絵美里さんは2年生だ。
香音さんは小学校から、絵美里さんは幼稚園から、白百合学園に通っていた。高校生の頃には、すでに音楽活動をしていたから、受験勉強も大変だったに違いない。
音楽家のセミプロとして研鑽しながら、超難関大学に合格。それも姉妹で。音楽と勉強、どうすれば“文芸両道”に育てることができるのか。母親が猛烈な教育ママなのか、熱すぎるステージママなのか……。
「姉妹でコンクールに入賞し始めてから、どんな鬼ママなのかと噂されたことがありますが、実は一度も『練習しなさい』と言ったことはないんですよ。『勉強しなさい』と言ったこともないですね。むしろ『まだ練習してるの?』『勉強しないで遊びに行こう』と言っていました(笑)」
■当時、専業主婦の母親はひたすら観察して娘2人を育てた
そうおっとりと答えるのは、母親である聖子さんだ。実は聖子さんは、幼児教室講師や子育てアドバイザーなど各種資格を持ち、マザーリングコーチ(*)も行う幼児教育のプロ。
幼稚園受験や小学校受験に対して迷いや不安を抱える母親たちの相談にのっている。だから文芸両道の子育てか、と思いきや、子どもたちが小さい頃は専業主婦だったという。
「とにかく子育てが楽しくてしょうがなかったんです。出産前から『子どもはかわいいな』と思ってはいましたがいざ自分が産んでみると『子どもってこうやって大きくなるんだ』と、その日々の成長度合いに感銘を受けることばかり。この子は何をしようとしているんだろう、どうして泣いているんだろう、と子どものふとした瞬間を見逃さず、よく観察していました」
常に目の前の子どもに関心を持ち、観察すること。それが“文芸両道”の第一歩だったのだろうか。もっと詳しく聞いてみよう。
■「勉強しなさい」と言われなかった姉妹は慶應&国立大医学部合格
●Lesson1 子どもの様子をじっくり観察
聖子さんが最初の子、香音さんを観察するようになったのには訳がある。今でこそ素敵なレディーに成長した香音さんだが、赤ちゃんの頃は、繊細で神経質(つまり過敏)で、ちょっとした物音でも泣いてしまうような子だったという。イヤイヤ期も大変だった。離乳食をなかなか食べない、夜泣きも母乳をやめる1歳半まで続いたそうだ。
「初めての子育てはわからないことばかり。育児って本当に大変! と思いました。でも、赤ちゃんってこんなものかなと思いましたし、親としての私が試されているのかな、とも。当時、お仕事をしていなかった私にはたっぷり時間がありましたから、とにかく香音ちゃんをじっと観察したのです。あなたはどうしてそんなに泣くの? 何が気に入らないの? って。いろいろ試すうちに、香音ちゃんが笑顔になる瞬間があって、ああ、あなたはこうしてほしかったのね、ということがわかってきたんです」と聖子さん。
それは抱っこだったり、高い高いだったり。香音さんがなかなか食べないときは、聖子さんが楽しそうに食べる様子を見せることで解決した。気持ちのいい環境に落ち着くと、香音さんはニコニコ笑顔になり、すやすや寝てくれるようにも。聖子さんは、その様子をこまめにメモしていたという。どういうときに何をしたら喜ぶのか、ご機嫌が直るのか。
「香音ちゃんで鍛えられたおかげで、絵美里ちゃんのときは、もうラクラク子育てでしたね。もともと、笑って生まれてきたような子で、本当に手がかからなかった。これが逆だったら大変だったでしょうね」
聖子さんはそう笑うが、聖子流子育てはこれで終わりではない。
*本来「マザーリング」とは、母親が幼児に示す愛情行動のこと。「マザーリングコーチ」は、妊娠、出産、育児の時期の母親の精神的なストレスや不安を軽減するコーチングのこと。
●Lesson2 見守りと言葉がけ
「勉強しなさい」「練習しなさい」と一度も言われたことがないのに、音楽活動を続けながら慶應医学部に合格した小林姉妹(国立大の医学部にも合格したそう)。その秘訣を二人に聞くと、「時間の使い方を工夫しました。忙しい時期をずらしたり、すき間時間を利用したり。勉強と音楽、どちらかを選ぶことができなかったので、どっちもやるしかないって感じですね」(香音さん)、「私は姉の影響です。姉がやってきたから必然と」(絵美里さん)と言う。
小林姉妹のベースにある「諦めずに頑張れば、いつかできる」という自己肯定感は、聖子さんの見守りと言葉がけで育まれたものだ。
お座りができるようになった頃、香音さんがペットボトルに興味を持ったことがあった。
「小さな手にキャップをしっかりと握りしめて、一生懸命、ふたをしようとしていました。『ああ今、この子は指先を使って、何か学ぼうとしているな』と思い、いつものようにじっと観察していました。でも、なかなかできない。できなくて、ワーンって泣くのですが、それでも諦めずにずっとやっているんです」
癇癪を起こしてもまだやるわが子の姿を見たときに、聖子さんは、自分でできるまでやり続けたいのかなと感じたという。
「手伝うのは簡単ですが、ここは手を出さずに、子どもができるまで見守ることが大事なんじゃないかなと気づいたんです。自分でできたときに『できたね』『上手だね』って、一緒になって喜ぶと、本当に嬉しそうな笑顔を見せてくれました。どうしてもできなくて助けを求めてきたときは『こうしてごらん』と、少しだけヒントを与えたくらいです」
子どもが自分の困りごとを自分の力で解決したときに笑顔になる、この積み重ねを見ているうちに、親が子どもにどう接するべきか、おぼろげながらわかってきたという。
「まずは見守ること。それから言葉がけが大切ですよね。今日できなくても明日になったらできるかもしれない。それを信じて『香音ちゃんだったら、できるってわかっているよ』と声をかけると、子どもはやる気になるようです。何度も失敗して、悔しくて、またトライして、いつかできるようになる。その達成感や喜びが力になっていったようです」
■育児に上手に巻き込め「娘の弁当作りは16年間、夫が担当」
●Lesson3 姉妹とはいえ個性に合わせて
香音さんと絵美里さんは性格も気質もまるで違った。バイオリンへの向き合い方もそれぞれ。香音さんは感性豊かで天才肌。絵美里さんはコツコツと積み重ねる努力家タイプ。
「同じ親から生まれたのが不思議なぐらい真逆の性格でした。比べようがありませんが、そもそもその子その子に個性があるし、達成度も違います。姉だから妹だからという見方はまったくしませんでした。それぞれの名前で呼んで、その子に合わせた子育てをしてきましたね。言葉がけひとつとっても、香音ちゃんには『やればできる』と、とにかく励まして、できたら褒める。絵美里ちゃんは習ったらわりとすぐにできるので、できたことに対して『上手ね』『うまくできたね』と褒めるようにしていました」
姉妹で同じ道を選んだ二人、当然ながらライバル心が芽生えることもあったそうだ。しかし今は、互いにリスペクトし合う仲のよさだ。
「妹は基本的に性格がいいし、真面目。私は妹ほど真面目にできないので、80%までは簡単にいくけど、最後の20%を詰められずにポコポコと穴があく。妹は最後まできっちりと詰められるんです。ノートもすごくきれい」と香音さんが褒めれば、「私は何をするにも時間がかかるし、要領も悪いけれど、姉は要領もよくて、何でも自分の力で解決できてスゴイ」と絵美里さんが返す。
そんな二人が口をそろえるのは、親からああしなさい、こうしなさいと命令されたことがないということ。
「子どもを一人の人格として見たら、自分の思うようにさせようとは考えられませんでした。この子は今こうしたいんだ、じゃあそれをさせてやろうと、それぞれに思いましたね。もちろん大変な時期もありました。それを乗り越えるには、忍耐力が絶対に必要。私も子どもがいなければ、ここまでの忍耐力はつかなかったでしょうね(笑)」
●Lesson4 パパの力を大いに借りる
聖子さんが育児を心から楽しめたのは、夫・弘典さんの存在も大きかったそうだ。
「イクメンのはしりですよね。いわゆる恐妻家(笑)。身近に子どもがいなかったせいもあって、生まれるまでは、そんなに子どもが好きという感じでもなかった。私もそうですが、子どもが生まれたときから、こんなに変わるものなの、というぐらい変わりました。いろいろなことを手伝ってくれたので、私は子育てが大変というより、子どもってかわいいねと思える余裕が持てました」
子どもたちが小さい頃から、休日になると、弘典さんがプランを立てて、家族をあちこちに連れ出した。アスレチックや公園、いちご狩り、潮干狩り、牧場……、さまざまな自然体験で、体を思い切り動かした。
「体験に関しては、誰にも負けないぐらい家族で共有しました。子どもが科学に興味を持ったら科学館に連れていくとか、子どもの『なぜだろう』という知的好奇心を深めるような場所にもしょっちゅう行っていました」
それにしても、一体どうしたら夫をイクメンにできるのだろうか。
「ママはつい頑張って自分で何でもやりがちですが、何でもかんでも自分でできるって思わないことですね。子どもは夫婦で育てていくものですから『これお願いできる?』と『あれを買ってきてもらえる?』とか仕事をお願いする。そうすると自分で気づいて、子どものお世話をしたり、おむつを買ってきたり、何でもしてくれるようになりました」
小林家では、子どもたちのお弁当はパパが担当。幼稚園から高校まで、なんと16年間作り続けたそうだ。
「子育ては、お母さんの情緒が安定していないと十分に楽しめません。自分一人で抱え込まず、夫でも近所の人でも頼めることは頼み、子育てを気楽に考えることが大切なのではないでしょうか。子どもが小さいうちは先が見通せないので不安だらけですが、子どもの喜ぶことをやらせてやるのが一番。子どもの喜ぶ顔を見て、ママも幸せを感じられるようになるのだと思います」
■母親は全くバイオリンができないのに、娘をプロに育てられた理由
●Lesson5 自信を持てる軸をつくる
「私は関西出身なのですが、親が宝塚に憧れて、小さい頃からバレエや体操、ピアノなど、たくさんの習い事をさせてもらいました。でも、どれも広く浅くという感じで。ですから自分の子どもには、いろいろな選択肢から何か一つ得意分野を見つけてほしいと思っていました。それが自分の軸となって自信につながるものになったらいいなと」
小林姉妹も、2、3歳の頃から体操、バレエ、お絵かき、工作などたくさんの習い事をしてきた。香音さんがバイオリンを始めたのは6歳のとき。きっかけは、たまたま聖子さんの実家に子ども用のバイオリンがあったから、だそうだ。ピアノとは違って、どこにでも持ち運んで弾ける気軽さに引かれて、選択肢の一つになった。
子どもに合った先生を選びたいと探していたときに、たまたまチラシで見つけたのが、桐朋学園大学の「子供のための音楽教室」だった。
「その先生は、たとえば初めての曲にトライするときも『香音ちゃんがお花畑を走り回る感じを想像してみて』と、子どもがうまくフレーズにのって弾けるように言葉がけをしてくださいました。子どものモチベーションは、大人の言葉がけ次第だとつくづく実感しました」
3歳から始めていたバレエも大好きだったが、集団で演じることが多い。自分のペースで取り組めるバイオリンは香音さんの性格には合っていたようだ。よく褒めてくれる先生の影響もあり、めきめきと腕を上げていった。
先述したように、姉妹が頭角を現してからは、厳しく教育的な母親像が噂された。
「真逆なんですけどね(笑)。私は全くバイオリンはできないし、わからない。だから子どもたちには、先生のお話をしっかり聞いてくるように、とだけは言っていました。そうするとママに聞いてもダメだ、自分でやるしかないと、楽譜にポイントを書き込んだり、レッスンのビデオを見直したりして、だんだん自主的な練習方法に変わっていきました」
こうして、「勉強しなさい」「練習しなさい」を言わなくても文芸両道の姉妹が育ったのだ。
キャリアコンサルタント(国家資格)、マナー講師、幼児教室講師、子育てアドバイザー、マザーリングコーチとして、お母さまのための「エコール・ト・ママン」主宰。名門幼稚園、小学校受験個別指導、カウンセリングも。
(フリーライター 池田 純子)
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