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連載・伊藤詩織「性暴力を受け自死した娘が書いた日記。それを読んだ父親の苦悩」

プレジデントオンライン / 2020年7月25日 11時15分

バネッサさんの「尋ね人」のチラシや、ネットにあがる彼女の似顔絵(2020年6月、筆者撮影)。

■#FindVanessa「バネッサを探して」――

最近SNSで表題のハッシュタグをよく見かける。バネッサさんは2020年4月22日、所属していた米テキサス州の米軍基地内から姿を消した。そんな中、ゲイリー・ノーリングさんはSNSで彼女の捜索を呼びかける投稿を発信し続けている。ゲイリーさんは何か手がかりをつかむため、世界に訴えているが、なぜゲイリーさんは娘でもないバネッサさんを探すのか。

私がゲイリーさんに出会ったきっかけは世界報道写真展だった。

写真の中の彼は、ギターやベッドが置いてある、ごく普通の部屋に立っていた。その部屋はもう2度と帰ってこない娘のキャリーさんの部屋だった。

キャリーさんは働いていた米軍基地内で性暴力を受け、被害を上部に報告したが、懲戒除隊を受け、実家に戻された。ゲイリーさんは娘が休暇で久しぶりに家に戻ってくるのだと喜んでバス停に迎えにいったという。それから数日後、彼女は自死した。後に遺品の中から日記が見つかり「お父さんには言うべきだったのに、どうしても話せなかった」と基地内での惨劇が記されていた。

そしてその事件の加害者が2年前にも同じような事件を起こしていたことも、後からわかった。しかしそのときも、娘の事件でも、罪に問われることはなかった。

■なぜ娘は死ななければならなかったのか

「もし、そのときに司法の正当な裁きを受けていたら娘は今ここにいた」。なぜ娘は死ななければならなかったのか。彼はずっと考えている。そしてSNS上で「キャリーのお父さん」というアカウントを作り、米軍内での性暴力事件を中心に声を上げるようになったのだ。

ゲイリーさんの投稿を読んでいると、娘を失った深い悲しみを他の人には経験してほしくない、という思いが伝わってくる。今消息がわからないバネッサさんを探すことに、エネルギーを注げているのはそういった背景があるのだ。

性暴力、性犯罪を受けた当事者の苦しみは計り知れない。そして苦しみは当事者家族にも大きく影響する。そのトラウマは時に世代を超えることもある。ゲイリーさんは娘と同じ思いをする人が今後現れないようにと、精一杯「キャリーのお父さん」として世界に対して声を上げ続ける。

*編集部注:報道によると、その後、バネッサさんの遺体が見つかりました。また、バネッサさんの失踪と殺害に関わったみられる男性兵士も自殺しました。

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伊藤 詩織(いとう・しおり)
ジャーナリスト
1989年生まれ。フリーランスとして、エコノミスト、アルジャジーラ、ロイターなど、主に海外メディアで映像ニュースやドキュメンタリーを発信し、国際的な賞を複数受賞。著者『BlackBox』(文藝春秋)が第7回自由報道協会賞大賞を受賞した。

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(ジャーナリスト 伊藤 詩織)

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