「俺が社長だ、文句あるか」そんな経営者たちが日本経済を低迷させている

プレジデントオンライン / 2020年8月8日 9時15分

村上世彰氏 - 写真提供=KADOKAWA

リーマンショック、消費増税、そして新型コロナウイルス……停滞し続ける日本経済はどうすれば復活するのか。投資家の村上世彰氏は昨年6月、N高等学校の「投資部」特別顧問に就任。そこで特別講義を行っている。村上氏は「日本経済低迷の要因のひとつは、お金の流れが病的に滞っているから。内部留保をため込んでばかりの経営者に問題がある。投資家にはそれを動かす力がある」と高校生たちにげきを飛ばす——。

※本稿は、村上世彰『村上世彰、高校生に投資を教える。』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■「皆さんは10年後、日本経済と日本株はどうなると思いますか?」

今回は投資の社会的意義、あるいは投資家の社会的な役割について少し掘り下げて考えていきたいと思います。

投資家は社会の中で重要な役割を担っています。株式投資家がきちんと役割を果たすかどうかによって、日本経済の将来が決まると言っても過言ではありません。私としては投資家の社会的役割というものを強く意識しながら投資活動をしていますし、そのような株式投資家が増えることが日本経済を復活させるカギだと思っています。

ですから、ここでは株式投資の社会的な意義、そして投資家の社会的役割についてぜひ皆さんによく理解していただきたいと思っています。

そこで、皆さんに聞きたいのですが、10年後の日本経済と日本株はどうなっていると思いますか?

今こういう質問をすると、ほとんどの人から暗い見通しが返ってきます。「景気はもっと悪くなっている」とか、「株価はもっと下がっている」というように。

政府は莫大な借金を抱え、少子高齢化が進み、年金など社会保障制度も危ぶまれ、電機や自動車など主要産業の国際競争力が衰え、ITやAIなど先端の産業でも遅れをとっているという状況ですから、日本の将来を悲観的にとらえる人が多いのも仕方ないのかもしれません。

■「日本経済復活のカギは投資家です」

しかし、私は日本経済も日本株も将来的に、かなり状況が良い方向に向かうと思っています。いや、かなり良い方向に向かわせることができると思っています。

なぜかというと日本企業は海外で結構がんばっていますし、日本経済や日本株が停滞している一番の原因も分かっていて、その解決法も分かっているからです。今後その停滞原因が解消されていくにつれ、日本が抱える諸問題も解決に向かっていくだろうと思っています。

問題解決のカギは投資家が握っています。私自身、そのために全精力を注いでいきたいと思っています。できれば皆さんにも、その一翼を担っていただきたいなと思っています。

自分の投資行動が日本経済復活のために役に立ち、その結果自分自身の資産も大きく増えるとしたら、それはとてもハッピーなことではないでしょうか。私はそれが可能だと思っています。そのためにこの講義をしているとさえ言えます。私自身のこれまでの投資活動の実例を交えながら話を進めていきたいと思います。

■「日本経済低迷の原因は『お金の循環の停滞』にあるんです」

繰り返しになりますが、日本経済を停滞させてきた大きな原因というのは、お金の流れが病的なまでに滞っているという問題です。お金というのは社会の血液であり、お金の流れが活発になることによって、人やモノも活発になり経済が活性化します。

しかし、このお金の流れが滞っているために経済の動きが停滞し続けているというのがこれまでの日本経済の状況です。

日本には優秀な技術も人材も豊富にありますし、お金そのものも豊富にあります。それなのに、そのお金の動きが滞っているためにせっかくの技術やノウハウや人材が生かされていない状況が続いています。これはなんとも残念なことです。

日本でお金の流れが滞っている原因となっているのは、

①大企業の内部留保
②個人の預貯金(タンス預金含む)

の2つです。

日本の上場企業には今、400兆円を超える内部留保があります。

また、日本の個人の金融資産は1800兆円を超えていますが、その半分以上が現金・預金で、株式や投資信託に回っている割合は15%程度しかありません。この割合が米国並みに50%近くになれば、650兆円近くのお金が動き出すことになります。

では、これらのお金はどのようにしたら動かすことができるのでしょうか。

■「資本主義経済の肝は何か。それはコーポレート・ガバナンスです」

「企業がお金を大量に滞留させている」という問題については、解決方法がはっきりしています。それは、コーポレート・ガバナンスを浸透させることです。コーポレート・ガバナンスというのは高校生の皆さんには聞きなれない言葉だと思いますので、ここで少し丁寧に説明しておきたいと思います。

コーポレート・ガバナンスというのは日本語では企業統治といいます。コーポレート(corporate)は「企業の」という意味で、ガバナンス(governance)は「統治」とか「管理」という意味です。

株式会社におけるコーポレート・ガバナンスとは、

・企業において健全な経営が行われているか(法令順守など)
・企業価値の最大化を目指す経営がなされているか

など株主が企業を監視・監督するための制度のことです。

そもそも株式会社においては、株を所有している株主がオーナーであり、経営者は株主から経営を負託された人です。そして、経営者は株主の負託を受けて経営のプロとして会社のかじ取りをして、株主はオーナーの立場でそれを監視するというのが本来の役割です。

村上世彰『村上世彰、高校生に投資を教える。』(KADOKAWA)"
村上世彰『村上世彰、高校生に投資を教える。』(KADOKAWA)

これはプロ野球やJリーグのチームを思い浮かべてもらうと理解しやすいかと思います。プロ野球やJリーグの球団・クラブにはまずそのチームを所有するオーナーがいます。オーナーは監督を雇ってそのチームの運営を任せます。しかし、チーム運営が上手くいかずに成績が低迷すると、オーナーは監督のやり方を問いただしたり、注文を入れたり、場合によってはクビにしたりします。

企業における株主と経営者の関係も本来的にはこれと同じです。それは法律でも定められていることです。株主は経営を経営者に任せますが、その経営の在り方を監視し、経営者の能力や経営のやり方に問題があると判断した場合には、株主は株主総会における多数決の決議をもって経営陣を解任することができます。そして、新しい経営陣を選び直すことができます。

■なのに、日本ではコーポレートガバナンスが機能しないのなぜか

このように最終的に経営陣の任命権を持つのは株主総会です。自分たちの負託した経営陣がたくさんの利益を上げればそれを配当として受け取れるのも株主ですし、利益をどんどん再投資して成長を続けて、株価が上昇すれば株主の資産は増加します。逆に、会社が倒産してしまえば投資元本が戻ってこないという形で責任を取らされるのも株主です。

ですから、株主としては、できるだけ優秀で誠実な経営者に経営を託し、高い資本効率を実現して企業価値を高めてくれるかどうか、真剣に監視する必要があるわけです。

このように、株主によるコーポレート・ガバナンスが機能する状態が、本来の株式会社の在り方です。これは、資本主義経済の肝であるとさえ言えると思います。

しかし日本では、株主によるコーポレート・ガバナンスがほとんど働かない状態が続いてきました。株主は黙って株を持っているだけの存在となり、経営者に意見をしてはいけないような雰囲気になっていました。

ですから、私のように株主として経営者にズバズバ意見を言ったり疑問をぶつける株主は「物言う株主」と言われて、異質の存在のように扱われ、経営者からは嫌がられる存在でした。だいぶ環境が変わってきたとはいえ、今でもこうした「物言う株主」を嫌がる企業はたくさんあります。

日本ではどうしてこのようにコーポレート・ガバナンスが機能しなくなってしまったのでしょうか?

■「自社の株価が低くても危機感のない経営者たちがいるんです」

それは、戦後の財閥解体の後に開始した官僚主導の経済再建が行われる中で、外国資本の進出に対する防衛策として、企業と銀行がお互いに株式を発行して引き受けあうような増資を繰り返し、安定株主作りが進められたからです。その結果、大株主には関係金融機関がずらりと並び、あるいは、グループ内の企業や取引のある企業同士で株を持ち合うという構造となり、お互いに意見を言い合うことの無い状況が生まれました。

各席にインカムが置かれた空席の役員室
写真=iStock.com/hxdbzxy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hxdbzxy

株主総会ではこのような身内の株主が大勢を占め、それ以外の株主が声を上げても打ち消されてしまい、多くの上場企業で株主総会が形骸化していました。こうした状況の中で、株主の多くは経営を監視するという役割を放棄していたのです。

このようにして、多くの上場企業でコーポレート・ガバナンスがほとんど不在となる中で、経営陣は自分たちや仲間に都合のよい経営をするようになり、それがまかり通る状況が続いてきました。さらに日本では、一部の創業家を除いて、自らも多くの自社株式を保有し、リスクを取ろうという経営者が非常に少なく推移してきたために、株価が低くても誰も危機感を感じない状態となっていたのです。

その結果として、日本の上場企業の多くでは、資本効率や企業価値の最大化などが意識されることがなく、会社が稼いだ利益の多くを貯め込んで、経営陣がそれを意のままに使えるような状態になってしまっていました。悪質な場合には、それらのお金で私腹を肥やすような経営陣もいました。実際に、私のファンドが大株主となって戦った相手には、そのような経営陣がいました。株主によるコーポレート・ガバナンスが無力化されていますから、経営陣たちはやりたい放題できるわけです。

■上場企業の内部留保は約460兆、うち約200兆を現預金のまま貯め込む

このようにして日本の上場企業のお金の多くは内部留保として滞留し、日本経済と日本株が停滞する大きな原因となってきたのです。

本来、企業が稼いだお金は株主に還元されるべきものです。株主は本来そうしたリターンを求めて投資をしています。しかし、日本の上場企業は稼いだお金を平均して30%程度しか配当していません。自社株取得による株主還元を加味しても、残りの50%近くは内部留保にしてきました。

内部留保は必ずしも悪いものではありません。株主に配当しなくても、将来的に利益を拡大するための投資に使われるのであれば、それは株主の利益にもかなうものです。お金を企業の成長のための投資に回せば、企業が成長するだけでなく、お金は社会を循環することになり、経済全体の成長にもつながります。

そして、投資によって会社の利益が上がればさらに雇用を増やすことができ、従業員の待遇もより良くできます。そして、利益が増えれば配当も増やせて株価も上昇し、さらなる成長投資ができる……という好循環が生まれるのです。

しかし、成長のための投資案件が無ければ、稼いだ利益を内部留保する理由はありません。稼いだ利益は貯め込まず、株主に配当や自己株取得を通じて還元するべきです。そうすることで、株主は一定のリターンを得たり、それによって得た資金でまた新たな投資をすることができ、お金がどんどん動き始めます。

いずれにしても、企業が稼いだお金をきちんと成長投資か株主還元へと回せば、社会の中をお金が巡り、好循環が生まれるのです。株価の上昇につながり、積立金の一部を株式に回している年金なども潤います。また税収も上がり、国の財政再建にも役立ちます。日本経済を活性化させ、年金や財政の問題などの解決にもつながるのです。

ところが、上場企業は約460兆円にまでつみあがった内部留保のうち、約200兆円を現預金のまま貯め込んでしまっています。

投資家の村上世彰氏
写真提供=KADOKAWA
投資家の村上世彰氏 - 写真提供=KADOKAWA

■私が官僚をやめ、自らプレーヤーとなることを決めた理由

官僚時代にこうした問題に気づいた私は、コーポレート・ガバナンスの浸透こそが日本経済を復活させる切り札になると確信し、コーポレート・ガバナンスの研究と、それを上場企業に浸透させるべく働きかけることに心血を注いできました。当初は、一官僚の立場で一生懸命に訴え行動を起こそうとしましたが、事態を打開することができませんでした。

官僚という立場からコーポレート・ガバナンスを浸透させることに限界を感じた私は、官僚を辞めて、自らプレーヤーとなることを決めました。投資家・株主として行動を起こすことにしたのです。そうして作ったファンドが、いわゆる村上ファンドです。私のファンドには立ち上げ当初から理念に賛同してくれた方が多くいて、38億円もの資金を集めてスタートすることができ、最終的には5000億円程度の規模にすることができました。

私は様々な企業の株を取得して株主として働きかけ、敵対的TOB(経営陣の賛同が得られないまま行われる公開買い付け)やプロキシーファイト(株主総会における委任状の争奪戦)などの形で闘い、主張を訴え続けました。

手掛けた数々の案件では、必ずしも当初のシナリオ通りに事が運ぶことばかりではありませんでしたが、結果的にほとんどの企業で遊休資産の活用や株主還元の動きが起こりました。その結果、株価が大幅に上昇するケースに恵まれ、ファンドとしても大きな成果を得ることができました。

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村上 世彰(むらかみ・よしあき)
投資家
1959年大阪府生まれ。東京大学法学部卒業後、83年通商産業省(現・経済産業省」)に入省。コーポレート・ガバナンスの普及に従事する。のちに独立し、99年ファンド会社を設立。現在はシンガポールに拠点を移して投資を行う。2016年には村上財団を創設し、中高生の金融教育や社会支援にも取り組んでいる。19年角川ドワンゴ学園が運営するN高等学校投資部の特別顧問に就任した。著書に『生涯投資家』(文藝春秋)、『いま君に伝えたいお金の話』(幻冬舎)、『村上世彰、高校生に投資を教える。』(KADOKAWA)など。

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(投資家 村上 世彰)

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