「コロナはリーマンを超えない!」これから大型案件がゴロゴロと待ち構えている
プレジデントオンライン / 2020年9月5日 15時15分
■コロナはリーマンを超えない
新型コロナウイルスの影響による2021年3月期の売り上げの減少は、業界全体として5%までには達しないのではないかと見ている。せいぜい2~3%というところだろう。営業利益についても2~3%減か、それよりも低くなるかもしれない。
もちろん各社が楽観的に見ているわけではない。例えば大成建設の村田誉之社長は決算会見で「コロナの影響で営業活動がほとんどできておらず、需要が摑みきれていない」と危機感を露わにしていた。大林組と清水建設は「まだ先行きが見通せない」として業績予想の発表を見送っている。
それでも他業界と比べて建設業界へのコロナの打撃が小さいのには理由がある。すでに工事を受注していて、これから着手する「手持ち工事」分の売り上げが全体の約8割を占めるからだ。営業活動による新規の売り上げ分は1~2割ほどで、直近の決算にコロナの影響が出るのはこの減少分からになる。
ここまで21年3月期の業界全体の業績をどう見ているかを述べてきたが、この数字は各社が発表した業績見通しとは乖離している。例えば大成建設は売上高17%減、鹿島は売上高7%減との見通しを発表した。
建設業界の業績見通しは例年から、今後獲得しうる追加利益を織り込まずに保守的な数字を出すところと、正確に数字を当てようとするところに分かれるのだ。保守的なのが大成建設、当てにいくのが大林組、その中間が清水建設、といった具合だ。鹿島は例年であれば大成建設と同様の傾向なのだが、今回は追加利益を一定程度見込んだ数字を発表した。
■受注環境が悪化すれば価格競争が起きる
こういった傾向からも、大成建設が予想するほどの売り上げの減少は実際には起こらず、コロナによる今期の業績への影響は限定的だと考えられる。ただし、これを長期的な視点で考えれば話は変わる。今期の新規受注が減れば、それは来期以降の売り上げに大きく響く可能性があるからだ。受注環境が悪化すれば価格競争が起きるので、1~2年後の採算が落ちてしまう。他業界であれば「今期は業績が落ち込むが、来期以降に一気に回復する」というシナリオを描ける場合もあるだろうが、建設業界には当てはまらない。
一方で、長期的に見た場合でもリーマンショックほどの大きな影響を受けるかというと、その可能性は低いと言える。現在は高度経済成長期に建てられたインフラや建築物の更新期に突入しており、あらかじめ受注が見込める案件の数がリーマン当時とは大きく異なるのだ。また22年以降にはIR(統合型リゾート)や洋上風力発電、大阪万博の会場建設など、新たな大型案件の着工も見込まれている。特にIRにはオリンピック以上の建設需要が期待できる。
今後の新規受注が増えるかどうかは、景気の動向次第だろう。仮にオリンピックが中止になれば景気後退が2年ほど続く可能性があるので、民間設備投資は落ち込むはずだ。
建設業界の状況を天気で例えると、21年3月期は「曇り」だ。手持ち工事で8割の売り上げはつくれるので、すぐに大きく落ち込むことはない。受注環境がどれだけ悪く働くかによって影響が変わるが、それでも雨とまではいかないか、といった具合だ。
(大和証券 チーフアナリスト 寺岡 秀明 構成=吉田洋平)
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