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香港問題を正面から批判しない安倍首相は、中国政府に見下されている

プレジデントオンライン / 2020年8月17日 19時15分

2020年8月13日、日本語のメッセージを発信した香港の民主活動家の周庭氏(写真=YouTube「周庭チャンネル」より) - YouTube「周庭チャンネル」より

■保釈後、周庭さんは「突然の逮捕で、今回は怖かった」と話した

国家安全維持法(国安法)違反などの疑いで香港警察に逮捕されていた民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)さん(23)や、香港紙「蘋果日報」(アップル・デイリー)創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏(71)ら10人全員が、8月11日深夜から12日未明にかけて保釈された。

香港の刑事手続きでは、推定無罪の原則によって一般的には逮捕から48時間以内に保釈の可否が判断される。強行で唐突な逮捕だったため、早期に保釈されるとは意外だった。中国と香港の両政府には、来年9月に実施される立法会(香港議会)選挙への民主派の動きを封じ込める狙いがある。勾留が長く続いてもおかしくなかった。

保釈後、周さんは「突然の逮捕で、今回は怖かった」と話した。黎氏も「SNSで海外の勢力と結託したと警察から言われたが、(逮捕の理由としては)理解できない」と語った。

早期の保釈は、香港政府を操る中国の習近平(シー・チンピン)政権が、国際世論の反発に一歩退いたといえる。裏を返せば、欧米の抗議にはそれだけの効果があった。

今後の焦点は10人が起訴されるかどうかだ。国際社会は自国のメディアを通じて批判の声をさらに強めるべきである。そうすれば、中国政府が香港の自由を奪い取ることはどんどん難しくなる。

■「国賓来日の中止」は、自民党のレベルで止まっている

日本政府は、菅義偉官房長官が記者会見で「重大な懸念を有している」と述べた。だが、これはいつもの決まり文句だ。世界第2位の経済大国である中国に対し、日本は貿易面での依存が強まっている。常套句しか出てこないのには、そうした背景が影響しているのかもしれない。もしそうだとしたら、これほど情けないことはない。

2019年の日中首脳会談で、習近平国家主席が国賓として来日することに日中は合意した。当初は20年春の来日予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて延期になっている。だが、香港の問題を受け、国賓来日の中止を申し渡すことも検討するべきだろう。

中国には強腰で臨まなければならない。そうすれば、国際社会における日本の地位もかなり向上するだろう。国連安全保障理事会(安保理)の常任理事国のメンバーに入り、国際社会に欠かせない国として活躍する道が開かれる。それは結果的に国益にかなうことになる。

なお自民党はすでに7月7日に、国安法の施行を受け、「(国賓来日の)中止を要請せざるを得ない」との決議を正式に行っている。だが、これも自民党のレベルで止まっており、政府の決定とはなっていない。

■安倍首相は「国民の気持ち」をまったく理解できていない

問題は安倍政権の視野の狭さにある。たとえば「アベノマスク」だ。安倍首相は8月1日、連日着用していた小さい布マスクを止め、鼻から顎まで覆う大きなマスクを着けて首相官邸に入り、記者団を驚かせた。翌週3日の月曜には、その理由をこう語っていた。

「現在、お店でもいろんなマスクが手に入るようになりましたので。これも布製マスク。ぜひ国民の皆さまにも外出時にはマスクを着用していただくなど、感染予防に協力をお願いしたい」

「いろんなマスクが手に入る」ことは、自身のマスクを変更したこととどう結び付くのか。ロジックはよく分からないが、「アベノマスク」が国民から支持されていないことをさとったことは間違いなさそうだ。しかし、それをさとるには遅すぎる。

「アベノマスク」は購入と配達の費用でざっと260億円がかかったという。配布も遅れた。国内だけでなく、海外のメディアからも効果が疑問視された政策だ。そもそも格好の悪い小さなマスクなど、だれが欲しがるのだろう。安倍首相は私たち庶民の気持ちをまったく理解していない。要は世間の事情に疎いし、視野が狭いのである。

■対中外交を強腰に変えるには「首相の決断」が欠かせない

話を中国に戻そう。中国の強権的行動は香港だけではない。東シナ海や新疆(しんきょう)ウイグル自治区でも目に余る行動を続けている。そのうち日本にも波及する。もはや対岸の火事では済まされない。私たち国民の多くもそう感じているだろう。

尖閣諸島の問題を考えれば、その帰結は明らかだ。このあたりで習近平政権にしっかりと釘を刺しておく必要がある。

しかしながら、安倍首相は視野が狭く、国民の気持ちが分からない。中国政府に対し、「香港から自由を奪うのは国際的ルール違反だ」と正面から忠告することなど頭の片隅にもないだろう。そんな安倍首相を中国政府も見下しているに違いない。

これまでの安倍政権の外交は中国に対し、弱腰だった。それを強腰に変えるには、大きなテコがいる。そのテコとは、安倍首相自身の決断である。安倍首相はそこに気付いていない。このまま気付かずに政権を終えるのだろうか。沙鴎一歩は国民のひとりとしてそれが残念でならない。

■「これは『戦車なき天安門事件』の始まりである」

8月12日付の産経新聞の社説(主張)がおもしろい。次の書き出しがいい。

「これは『戦車なき天安門事件』の始まりである。中国は軍隊によらずとも香港国家安全維持法(国安法)を武器に自由を封殺し、民主派を根絶やしにするつもりだ」

見出しも「周庭氏逮捕 『戦車なき天安門事件』だ」である。

沙鴎一歩はこれまで「天安門事件の悲劇だけは避けたい」と主張してきたが、考えてみると、産経社説が指摘するようにいまの中国にとって国安法が戦車代わりなのである。

産経社説は続けて書く。

「香港の自由を求める欧米や日本に対しても明確な挑戦状を突き付けたに等しい。これを看過してはならない。日本の危機でもある」

賛成だ。このまま中国が共産党1党独裁を武器に乱暴な発展を続けていけば、前述したように香港と同じ問題は日本でも起きる。

■安倍政権はアメリカの「旗幟鮮明」を見習うべき

産経社説は日本の対応についてこう指摘する。

「菅義偉官房長官は『重大な懸念を有している』と述べたが、従来の繰り返しにすぎない。中国依存の経済界に気兼ねしてモノが言えぬなら、それはおかしい。旗幟を鮮明にすべきだ」

「旗幟(きし)鮮明」。つまり、対中国外交では日本の立場や主義主張を明らかにして交渉を進めていく必要がある。ましてや香港問題のような大きな国際事件ではなおさらである。

さらに産経社説は書く。

「米国は先に林鄭月娥行政長官を含む政府高官や中国共産党幹部ら11人を制裁対象に指定した。全体主義国家の強権ぶりを見過ごすのは加担するのと同じである。日本政府はそう肝に銘じ、具体的な制裁措置を実行に移してほしい」

産経社説が主張するように、安倍政権はアメリカの「旗幟鮮明」を見習うべきである。

■朝日社説は「言論弾圧に強い抗議を」と訴える

次に8月13日付の朝日新聞の社説を見てみよう。見出しが「香港と国安法 言論弾圧に強い抗議を」で、こう書き出す。

「中国が香港の自由を押しつぶそうとしている。報道を圧し、言論を封じ、批判を許さない取り締まりが強まっている。この露骨な弾圧を、国際社会は看過してはならない」

いまの香港問題は、国際社会の動き次第で大きく変わる。中国が欧米を中心とする国際社会の出方を気にしているからだ。

朝日社説は香港紙「蘋果日報」の黎智英氏の逮捕について指摘していく。

「香港のメディアは『一国二制度』によって自由な報道が認められてきた。だが、近年は中国からの圧力や中国資本の流入が増え、報道の独立性に陰りが見えるとの指摘も出ていた」
「そんななかで、他紙とは一線を画した中国批判を展開し、存在感を示してきたのがリンゴ日報だった。25年前に創刊した黎氏には、中国の民主化運動を支持し、香港の自由を守る信念があると言われている」
「それだけに黎氏の逮捕は、共産党政権が国安法による弾圧を本格化させる動きと受け止められている」

「リンゴ日報」とは「蘋果日報」のことである。多くの市民や民主派の人々の愛読紙だ。

朝日社説は「中国本土のメディアは、共産党の『喉舌』と呼ばれるほど、厳しい統制下にある。中国は、香港メディア全体を同じようにする思惑なのだろう」と書く。

メディアは自由と民主主義を守る砦である。香港のメディアを守ることは、国際社会を構成する世界各国の自由と民主主義を守ることにつながる。

■中国のやり方は国際社会に対する挑戦だ

さらに朝日社説は指摘する。

「国安法をめぐっては、香港警察が米国在住の米国籍の人物を指名手配したことが波紋を広げている。国外であっても体制批判の言論を中国の法で封じようということなら、国際社会に対する挑戦であろう」
「訴追される恐れがある以上、どの国の在住者であれ、香港の人々との会話や通信に慎重になってしまうかもしれない」
「しかし、そのために香港の人々と各国市民との連携が損なわれることがあってはなるまい。むしろ、中国共産党による強権を認めない国際世論のボリュームを増していくべきだ」

この朝日社説が指摘するように、中国のやり方は国際社会に対する挑戦だ。いまこそ、国際社会の力を中国に見せつけるべきである。それができなければ、中国はますます図に乗るばかりだ。

日本も欧米と強調して中国政府に強く抗議すべきなのだ。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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