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「コロナ禍に儲かって申し訳ない」そう言って取材を拒否する中小企業の本音

プレジデントオンライン / 2020年8月19日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Fiers

「自分だけ儲かって申し訳ない」。「日経MJ」で中小企業の経営コラムを連載している竹内謙礼氏は、最近そうした理由で取材を断られることが増えているという。竹内氏は「うしろめたさを感じてしまう心情は非常に理解できる。しかし行き詰まった雰囲気を打開するには、このままではいけない」という——。

■「儲かっている話」が世に出てこない

「日経MJ」という流通業界専門の新聞でコラムを8年間連載している。

タイトルは「竹内謙礼の顧客をキャッチ」。全国の中小企業を毎週1社取り上げて、儲けの秘訣を取材し、それを原稿にまとめている。企業の選定から始まり、取材の申し込み、写真撮影、執筆、担当記者との内容確認、掲載紙の送付等、仕事は思いのほかハードだ。

しかし、それでも連載が続けられているのは、少しでも多くの人に、儲けのノウハウを伝えたいという使命感があるからである。今まで延べ400社近い企業を回り、日本で一番中小企業を取材した経営コンサルタントという自負もある。特にコロナ禍になってからは、できるだけ多くの企業に儲けの秘策を情報発信したいという思いで、今まで以上に必死になって取材を行っている。

しかし、ここ最近、取材のオファーを断られるケースが増えている。

断られる理由で一番多いのが「自分だけ儲かって申し訳ない」という経営者のうしろめたさである。宿泊業や飲食業は新型コロナウイルスの影響で大きな打撃を受けている。そのような中で、自分だけ「儲かってます」とは、心情的に言いにくい。先行きが見えない中で、多くの経営者がもがき苦しんでいる中、自分だけ儲かっているといううしろめたさを感じてしまう心情は非常に理解できる。

もちろん、取材を断る理由として「儲けのノウハウを人に教えたくない」という事情もあるかもしれない。そもそも儲け話は人に言いたがらないのが常であり、コロナ禍前から取材先の選定には苦労するところはあった。

だが、ここ最近は、さらに取材を拒まれる傾向が強くなり、以前よりも儲かっている話が世の中に出づらくなっている気がする。

■「儲かって申し訳ない」雰囲気を変えたい

「儲かって申し訳ない」という後ろめたさを強く感じる風潮は、テレビの影響が大きい。連日、ニュースで疲弊する繁華街の映像が流されて、インタビューではネガティブな街の人の声ばかりが飛び交う。このような放送を毎日のように見せられてしまうと、気持ちがめいってしまう。商売がうまくいっている人でも、余計に「申し訳ない」という気持ちが強くなって、口を閉ざしてしまう。

しかし、このままでは、いつまでたっても情勢は変わらない。景気を急回復させるためには、「儲かって申し訳ない」という雰囲気を大きく変えていく必要がある。メディアは苦しんでいる企業だけではなく、コロナ禍でも儲かっている企業にもフォーカスして、まだまだ中小企業には底力があることを伝えてもらいたい。そして、取材された経営者も胸を張って「儲かっています!」と言えるような、ポジティブな社会に変換していかなければ、日本の中小企業は元気を取り戻すことはできない。

■コロナ禍での「販促ノウハウ」の共有は急務

今、世の中は空前の「商売のノウハウ不足」である。

従来の商売が通用しなくなり、ビジネスの常識はこの半年間で大きく覆された。もう一度ゼロからノウハウを積み上げなくてはいけない状況だが、いかせん、目の前の売り上げを作るのが精いっぱいで、現場では定型だったノウハウが構築されていかない。

また、新型コロナウイルスの感染状況は刻一刻と代わり、昨日まで通用していた販促ノウハウが、今日になったら突然使えなくなることが日常茶飯事で起きている。ソーシャルディスタンスが求められる中、ネットやSNSの活用が肝となるが、専門知識が無いアナログな企業にまで情報が回らないため、今まで以上に商売の勝ち負けの差が開き始めている。

集客方法や販売方法が枯渇している中、中小企業同士の儲けのノウハウの共有は急務といえる。しかし、世の中の「儲かって申し訳ない」という雰囲気があるため、儲けのノウハウは世の中に出づらい状況がずっと続いている。

■「ガンプラ」を売り始めた自動車販売店

行き詰まった雰囲気を打開するためにも、どんな些細なことでもいいので、コロナ禍で売り上げを作れる販促ノウハウを、商売人同士で共有してもらいたい。

例えば、私が日経MJで取材した山形県鶴岡市の自動車販売店「アローズ庄内中央店」は、東日本大震災の際、従業員を励ます思いで、スタッフが好きだったガンプラを仕入れて販売することにした。すると、お客様の中に「懐かしい」とガンプラを買い求める人が出始めて、次第にガンプラだけを買い求めるお客様も増えていった。やがて自分の店のスタッフがガンプラを好きだったように、車好きの人にはガンプラ好きな人が多いことが判明。ガンプラを購入した人が車を購入するケースも多くなった。

ガンプラを販売しているアローズ庄内中央店
画像提供=アローズ庄内中央店
ガンプラを販売しているアローズ庄内中央店 - 画像提供=アローズ庄内中央店

自動車は高額商品のため来店頻度が低くなるが、ガンプラのように車好きと相性の良い気軽に購入できる商品を取り扱うことでお店のファン客を増やした。その仕組みを構築したおかげで、コロナ禍でも大きく来店客数を落とすことなく営業している。

この手法は、コロナ禍でも有効な販促手法といえる。消費サイクルの短い低単価の商品を取り扱うことで、第二、第三の集客の柱を作ることは、高単価を取り扱う商売において、少ない投資で集客力を回復させる手段になる。

■「写真」でスタッフの士気を高めた飲食店

また、鹿児島市内に「さつま海鮮ろばた焼 チキンブラザーズ」など飲食店を3店舗経営するフォーエスでは、アルバイトのシフトを削り、各店舗の体制を縮小したことで、社内の雰囲気が暗くなってしまった。少しでもスタッフに明るくなってもらおうと、アルバイトや社員達の笑顔の写真や、頑張っている写真を集めるイベントを行った。働いている時の写真を毎日社内のグループLINEに流してほしいとスタッフにお願いしたところ、毎日のように写真が送られてくるようになり、3月中に100枚以上の写真が集まった。

社内のグループLINEで共有された写真の一例
社内のグループLINEで共有された写真の一例(画像提供=フォーエス)

この企画を通じて、お互いのいいところを見つける習慣がスタッフに身につき、新しい仕事にチャレンジしている仲間の写真を見て、モチベーションをあげてくれたアルバイトも増えてお店は再び活気を取り戻した。今現在、フォーエスの各店舗では、ランチのお弁当やテイクアウトのオードブルの販売を展開中だが、スタッフの明るい雰囲気が伝わっているのか、持ち帰りの利用者も増えて、地域のお客様にも好評だという。

売り上げを気にするあまり、社員にまで気遣いが回らず、ギスギスした雰囲気になる職場は多い。しかし、この事例のように、従業員のモチベーションを上げることは、お店の雰囲気にも反映されて、集客にも影響を与えていく。ゆくゆくは店舗の売り上げにつながっていくはずなので、このような内部施策はぜひ見習いたいところである。

■SNSで「ファン」をつなぎとめる

東京と伊豆諸島を結ぶ東海汽船では、社員の約半数が添乗員資格を持っている。そのため、おのおので独自のツアーを開催することが可能だ。自分が思いを込めたツアー企画を豊富に組めることもあり、メッセージがお客様に伝わりやすい。SNSで島の情報を拡散することで、それを見た人がツアーに参加。その人達が旅の体験をSNSに投稿することで、さらに他のお客様の共感を呼び、SNSのフォロワーを地道に増やしていった。

今ではツイッターとフェイスブックのフォロワー数は約3万人。コロナ禍で減便が続くが、SNS上で開催した伊豆諸島の動画募集企画では、約2カ月間で500件近い作品の応募があった。旅客船に乗らなくても、SNSでこれだけお客様との距離が近くなっていれば、コロナ禍収束後の利用客の戻りは早いはずだ。

SNSの情報発信ではセールス情報だけではなく、発信する「人」が見える情報のほうが、ファンを作りやすい。そして、そのファンに共感する人が再び仲間を呼び集めるので、フォロワーは加速的に増えていく。そのような共感を得られやすいコンテンツ作りのコツが、この事例からも伺える。

「人」が見えるSNSでの情報発信をしている
画像提供=東海汽船
「人」が見えるSNSでの情報発信をしている - 画像提供=東海汽船

■ビジネスのノウハウが広まりにくくなっている

コロナ禍で取材させてもらった中小企業の成功事例からは、今後の販促のヒントになる話がたくさん詰まっている。そして、このような販促事例は「自分も頑張ってみよう」という気持ちにさせてくれて、前向きに生きていく活力を与えてくれる。

自分以外の人が頑張って、もがいているという事実を多くの中小企業で働く人たちに届けることができれば、少しでもコロナ禍を打開できる社会が作れるのではないか。そんな思いを抱えながら、日本全国の中小企業を駆けずり回って取材している。

今は三密回避の理由で、ビジネス系のセミナーや講演会がほぼ中止になっている。一部のネット系のセミナーはオンラインで開催されているが、実店舗のビジネスを展開している企業や、地方の商工会議所や商工会のセミナーは、オンラインの設備が整っていないこともあって、ビジネスのノウハウが以前よりも経営者に届きにくくなっている。

コンサルタントも現場に足を運びにくいことから、ノウハウも集めづらい日々が続いている。私自身も、感染予防を徹底したスタイルでコンサルティングや取材をさせてもらい、電話やZoomなど非対面のコミュニケーションツールを使い、なんとか最新の販促ノウハウをかき集めている状況である。

■「武器」は多くの企業で共有したほうがいい

しかし、このような状況が長引けば、いずれ企業の持っているノウハウに格差が生まれて、ますます小さな会社が儲けにくい世の中になってしまう。儲かるための“武器”を多くの企業で共有していくことは、今まで以上に積極的に行っていかなければいけない。

「儲かって申し訳ない」という思いを持ち続けることは、巡り巡って自分のところにも儲けのノウハウが回ってこないことになる。そうならないためにも、コロナ禍で儲かっている企業は、胸を張って「こうやったらコロナ禍でも儲かる!」という情報を、表にどんどん出して、多くの経営者と情報を共有してもらいたい。

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竹内 謙礼(たけうち・けんれい)
有限会社いろは代表取締役
大企業、中小企業問わず、販促戦略立案、新規事業、起業アドバイスを行う経営コンサルタント。大学卒業後、雑誌編集者を経て観光牧場の企画広報に携わる。現在は雑誌や新聞に連載を持つ傍ら、全国の商工会議所や企業等でセミナー活動を行い、「タケウチ商売繁盛研究会」の主宰として、多くの経営者や起業家に対して低料金の会員制コンサルティング事業を積極的に行っている。著書に『売り上げがドカンとあがるキャッチコピーの作り方』(日本経済新聞社)、『御社のホームページがダメな理由』(中経出版)ほか多数。

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(有限会社いろは代表取締役 竹内 謙礼)

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