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星付きオーナーシェフがサイゼリヤでバイトを始めたシリアスな理由

プレジデントオンライン / 2020年8月25日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KuzminSemen

東京・目黒のミシュラン一つ星イタリアン「ラッセ」のオーナーシェフ・村山太一氏は、2017年からサイゼリヤ五反田西口店でアルバイトをしている。なぜトップシェフはチェーン店でバイトをしているのか。村山氏は「サイゼリヤは同じイタリアンで世界一。経営の手法や生産性を高める仕組みを知って、現状を打破しようと思った。その成果は想像以上だった」という——。

※本稿は、村山太一『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか? 偏差値37のバカが見つけた必勝法』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

■ぜんぶサイゼリヤに教えてもらっちゃおう

世の中には、僕のようなバカと、秀才がいます。もし、僕が秀才だったら、サイゼリヤじゃなくて二ツ星か三ツ星レストランにバイトに行ったかもしれません。一流から学ぶほうが早く星を増やせそうだし、周りからも「星を獲ってるのに修業に行くなんて、すごいですね」と尊敬されそうです。

なのに、僕が選んだのは街のファミレスの代表格のサイゼリヤ。星持ちの秀才シェフだったら、プライドがジャマしてこんな選択は普通できません。

サイゼリヤを選んだのは、本当にシンプルな理由です。今、僕のレストランは生産性という課題を抱えている。サイゼリヤは、すでにこの課題をクリアしている。しかも同じイタリアンで世界一だ。ぜんぶサイゼリヤに教えてもらおう!

自分でウンウン思い悩んで、チマチマ経営改善するなんて、時間のムダでしかありません。すでにうまくいっているところに飛び込んでいくのが、手っ取り早いのは明らかです。

堂々とショートカットしてしまいましょう。というわけで、僕はアルバイトとしてサイゼリヤに飛び込みました。

僕の店はチェーン店ではないけど、結局、チェーン店の経営の手法や生産性を高める仕組みを知らないことには、現状を打破できないと思いました。いつの間にか「ミシュラン思考」になっていたのを、リセットしなければならなかったのです。

■「経営のノウハウを盗むスパイ」でも快く受け入れてくれた

そこで、僕は店休日や休憩時間にサイゼリヤでバイトしてみることにしました。

村山太一『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか? 偏差値37のバカが見つけた必勝法』(飛鳥新社)
村山太一『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか? 偏差値37のバカが見つけた必勝法』(飛鳥新社)

応募は普通に、WEBサイトから。自宅に近い店舗を選び、面接では経歴や志望動機など、全て包み隠さず伝えました。そして、見事採用。普通なら、経営のノウハウを盗みに行くスパイのようなものだから拒否されてもおかしくないのに、サイゼリヤは温かく迎え入れてくれました。

自分の頭で考えずに、右へならえで動くほうが、ずっと楽です。「上司に言われたから」「予算が決まってるから」「業界での慣習だから」そんな風に、思考停止ポイントはたくさんあります。そこでとどまっていても、誰も責めはしません。100%うまくいく保証なんてないんだから、何もしないほうが安全です。むしろ、とどまってるほうが褒められるかもしれない。

でも、それは他人が決めたことに従ってるだけじゃないですか? その壁は、バカにならないと乗り越えられないんです。

■思考停止から抜け出す3つの問い

ちょっと考えてみてほしいことがあります。

朝になったら起きて、時間になったから出勤する。会社に着いたら仕事をして、終わったら飲みに行く。家に着いたら風呂に入り、寝る。教わった通りに仕事をして、教わった通りに後輩に仕事を教える。

これ、普通にやっていることですよね。でも、

「本当に、それであなたは幸せになれますか?」
「本当に、みんなは幸せになれますか?」
「本当に、稼ぐことができますか?」

この3つの問いをすることで思考停止から抜け出せます。自分の頭で考えることができて、謙虚に人の話も聞けるようになります。

当たり前と思っていることを、そのままやっているだけでは進歩がありません。3つの問いをしたうえで、YESと答えられるなら、そのまま続けてもいいんです。でも、答えがNOだったら、何か行動や変化を起こすべきかもしれません。

■ミシュランの星に縛られて疲弊するレストラン

結局、人間って自分にとって都合のいいことばかり考えちゃうんです。だから、危機感を覆い隠して、なかったことにしてしまう。物事の本質が考えられなくなってしまうんです。

僕たちは、知らず知らず、世の中のルールや仕組みに組み込まれて生きています。飲食業界で多大な影響力を持つ、ミシュランガイドもその一つ。僕の経営するレストランも9年間一ツ星の評価をいただき、恩恵にあずかってきました。

ミシュランは、100年以上前に世界初のレストランの格付けガイドブックを出版して、グルメ界に一種のピラミッドをつくりました。三ツ星を頂点に、二ツ星、一ツ星、ビブグルマン(星はないけれどもガイドブックには載るレストラン)というピラミッド構造を世に提示し、受け入れられ、いまだに最も権威が高く信頼のおける格付けだとみなされています。星付きレストランには、お客様がどんどん集まってきます。

一方で、どんなにおいしい料理をつくっていても、ミシュランの目に留まり評価されるとは限りません。一度星を獲ったら、星を落とすのが怖くて必死で店のレベルを保とうとします。そのため、長時間労働が常態化してスタッフは疲弊。コストがかかりすぎて、廃業しなければならないレストランがあったほどです。

■最優先は星を増やすことじゃない

僕の心も、以前はミシュランの星の数に縛られていました。ミシュランから評価を受けるのは本当に励みになり嬉しいのですが、星の数を増やすことが最優先になってしまっていたんです。

しかし僕自身が疲弊し、「このままじゃヤバい!」という危機感を持つようになると、僕なりのレストランの価値観をつくり上げていく方向に切り替えました。もちろん、味のクオリティを上げる努力は続けながらです。

そうすることでミシュランの価値と共存し、依存心をなくしていくことができました。あのままだったら、遅かれ早かれ店も自分も疲弊してつぶれていたでしょう。

世の中の仕組みやルールから自由になれると、自分にとって本当に大切な価値が見えてくるようになります。

さらに、大きな変化が起こりました。新型コロナの蔓延によって人の行き来が止まり、レストランとお客様をガイドブックで結ぶという仕組み自体が揺らいできています。レストランそのものの価値の根底が、覆されつつあるんです。

レストランもミシュランも、想いは一緒なんです。それは、食で人を幸せにすること。飲食業界が直面している困難に、ともに立ち向かっていかなければならないんです。

■手数料ビジネスから自由なサイゼリヤ

ネットフリックスや定額音楽配信サービスのSpotify、ゲームの定額サービス、ライザップなど、サブスク(サブスクリプションの略:毎月、定額料金を払うサービス)は皆さんも利用しているでしょう。サブスクはサービスを提供している企業がユーザーを囲い込むのを目的としています。

例えば、個人ユーザーがお店を評価する「食べログ」も、掲載される店が毎月支払う料金によってサービスの内容が変わります。だから、店側も「食べログ」に料金を払わないとやっていけないと思ってしまう。

これは思考停止です。手数料をとられることを、当然のこととして受け入れている。だから利益率が上がりません。

サイゼリヤの強いところは、サブスクから自由であることです。もちろん、POSレジのように外部に料金を払って利用しているサービスもありますが、自社で農場や工場があるので、自前のものが多いんです。

それに、サイゼリヤはグルメサイトに手数料を払っていません。そんなことをしなくても、お客様は1年間に1億3000万人以上も訪れます。

僕はサイゼリヤのように、サブスクへ手数料をなるべく支払わない、自由な経営がしたいと思って、グルメサイトに1円も手数料は払っていません。やっぱり仕組みを利用するんじゃなく、つくる側に回らないといけないんだと、ひしひしと感じます。

■サイゼリヤの「エスカルゴのオーブン焼き」は日本一おいしい

サイゼリヤの看板メニューの一つ「エスカルゴのオーブン焼き」はおそらく日本で一番おいしいエスカルゴです。大粒で、香りがあってやわらかくて、もう最高です。

それなのに、値段は、なんと400円。マジで安すぎます。

僕らのような高級レストランは、水煮されたエスカルゴをフランスから輸入するルートしかありません。これがガチガチに硬い。いくら高い技術をもって調理しても、限界があります。

もちろん生のエスカルゴを養殖しているところもありますけど、サイゼリヤみたいに大きくないんです。星付きレストランでエスカルゴのオーブン焼きを注文したら、おそらく2000円はするでしょう。完敗です。

■自前でネットワークをつくるから自由でいられる

なぜこんなことができるのか?

答えは、サイゼリヤ自身が生産者だからです。エスカルゴだけでなく、ハンバーグで使うビーフも全てサイゼリヤが生産しています。オーストラリアに牛の農場があって、農場の隣に加工工場があって、隣に冷凍庫があって、流通も自分でやってるんです。白河の自社農場でつくっている野菜だってギリギリまで低農薬で育てていて、お客様の健康を考えてつくっています。

ワインもイタリアのワイナリーにつくってもらって、直輸入。スパゲッティやオリーブオイル、プロシュート(生ハム)、チーズなどもイタリアのメーカーと組んで開発して輸入しています。お客様を満足させるために、そこまでしているから、サブスクから自由でいられるのでしょう。

僕もサイゼリヤを見習って、全国の農家や漁師、酪農家と自前のネットワークを構築して、なるべく直接取引をするようにしています。高級レストランの味と、サイゼリヤの生産性、両方を兼ね備えた店にするために、現在も研究と改善を継続中です。

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村山 太一(むらやま・たいち)
「レストラン ラッセ」オーナーシェフ
イタリアの三ツ星レストラン「ダル・ペスカトーレ」で修行を積み、東京都目黒区に「レストラン・ラッセ」をオープン、9年連続で一ツ星を獲得。しかしレストラン経営に限界を感じ、2017年よりサイゼリヤ五反田西口店にてアルバイトを開始。その様子を伝えるnote『目黒の星付きイタリアンのオーナーシェフは、サイゼリヤでバイトしながら2億年先の地球を思う。』が26万PVを記録し話題になる。

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(「レストラン ラッセ」オーナーシェフ 村山 太一)

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