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欧州最高の知性が警告「コロナ前なら死ななかった人がこれから死んでいく」

プレジデントオンライン / 2020年11月6日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Marcus Lindstrom

新型コロナウイルスによる影響は経済だけにとどまらない。「欧州最高の知性」と称されるジャック・アタリ氏は「世界中で受診回数が減っている。パンデミックとは別の原因による、未然に防げたはずの死が、近い将来に多発することが予見される」という――。

※本稿は、ジャック・アタリ著、林昌宏・坪子理美訳『命の経済 パンデミック後、新しい世界が始まる』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■瞬時にして、生産と消費が崩壊していった

衣服や自動車を購入する者はほとんどいなくなった。飛行機の座席やホテルの部屋を予約する者はほとんどいなくなった。国内の製造業は、外国からの部品調達が困難になったため、多くの製品の生産を停止した。

瞬時にして生産と消費が同時に崩壊していく様子を、われわれは目撃している。第一に、エネルギー消費だ。4月と5月の世界の石油消費量は、前年同月比で3分の1減少した。中国では20%減、アメリカでは30%減、インドでは70%減だった。

非集団隔離型の戦略を選択した国の生産活動は、それほど大きな影響を受けなかった。たとえば韓国のGDPは、電化製品や石油化学製品などの輸出が落ち込んだためにわずかに減少したのみだった。

ヨーロッパの事情はまったく異なる。EUの第1四半期のGDPは3.8%減だった。最も影響を受けたのは、フランス(5.8%減)、スペイン(5.2%減)、イタリア(4.7%減)だ。

第2四半期はさらに悪化する。最も悲観的な予測では、アメリカ経済の第2四半期は38%減、年率換算では12%減だ。

■2008年とも1929年とも違う「危機」だ

3月、先行きに懸念を抱いた複数の国際機関は景況の見通しを下方修正したが、大半の国際機関はまだ楽観的だった。世界貿易機関(WTO)は、2020年の世界貿易は前年比10%減と予測するが、実際の減少率はおそらくこの倍以上だろう。国際通貨基金(IMF)は、世界のGDPは3%減と予測するが、実際は少なくとも7%減くらいになるのではないか〔IMFは見通しを下方修正している〕。そうでなくても一部の国のGDPは20%減になるはずだ。

2020年を通じて経済活動は眩暈がするほど著しく下落するだろう。ドイツでは6.6%減、ギリシアでは8%減、さらには、スペインでは11.1%減、イタリアでは11.3%減、フランスでは11.4%減が見込まれている。ただし、これは経済協力開発機構(OECD)の楽観的見通しであり、第二波がない場合の予測だ。

これは深刻な危機である。パンデミックが2020年夏に収束に向かうとしても、今回の危機は、2008年の世界金融危機〔2007年からすでに混乱が始まっていた〕とは別物であり、生産活動が4年間落ち込んだ1929年の世界恐慌とも様相が異なる。今回は、わずか3カ月での急落である。

■世界の雇用の「3分の1」以上が脅かされる

この危機は、世界中の雇用に想像を絶する悲惨な影響をおよぼす。

「私は仕事を失った」
写真=iStock.com/NataBene
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NataBene

世界の雇用の3分の1以上が脅かされる。おもに単純労働や中間層の職が失われる。最も影響を受ける産業部門は、自動車産業、宿泊業、飲食業、興行、娯楽、貿易だ。アメリカとヨーロッパでは、自動車産業の雇用者数は産業界で最も多く、民間就業者の5%から15%に相当する。最も職を失う可能性が高いのは、10人未満の零細企業に勤める従業員と若者だ(若者が失業しやすい理由は、熟練した技能をまだ身につけていないためや、最悪の時期に労働市場に参入したため〔日本では新卒者の採用内定取り消しなど〕)。とくに中間層は大打撃を受ける。

中国で失業の脅威にさらされるのは、労働力の25%に相当する2億5000万人〔2019年の統計では2億9000万人、労働人口の約30%〕の出稼ぎ労働者だ。

アメリカでは3月に1300万人の労働者が解雇され、4月には2050万の雇用が失われた。2019年末に3.5%だった失業率は3月末に13%に達し、4月末には14.7%にまで上昇した。アメリカの失業率は、5月(13.3%)と6月(11.1%)に奇跡的に回復したが、2020年末までは10%台で高止まりすると思われる。

フランスでは第1四半期に45万人の雇用が破壊された。2020年末には、あらゆる対策を講じても失業率は再び11%にまで上昇する可能性がある。

ヨーロッパでは雇用の4分の1に相当する6000万人の雇用が脅かされている。

この途方もない事態は、思い描くことさえ困難だ。

■イタリアでは70万人の子供の暮らしが危機に陥った

国際労働機関(ILO)の総括によると、今回の感染症対策の大失敗により2億人の雇用が破壊され、少なくとも20億人の所得が減る見込みだという。

とくに、中間層の労働価値はテレワークの導入によって減価するため、彼らの存在意義は大きく損なわれる。

2020年3月時点で、アメリカ人の4分の3は収入が減っていた。2020年5月末には、アメリカ人の3分の1は請求書の支払いに苦慮した。5月末を乗り越えるだけの貯えをもつアメリカ人は半数にも満たなかった。3月にアメリカ連邦政府が1回限りで給付した〔1人につき最大〕1200ドルの小切手はすぐに使われた。

100万人近くのヨーロッパ人が極貧状態に陥る。イタリアでは都市封鎖と休校によって70万人の子供たちの暮らしが脅かされた〔低所得世帯の子供が給食などの食糧支援を得られなくなったことを指す〕。イギリスでは、4月最初の2週間で100万人近くの成人が「ユニバーサル・クレジット」〔低所得者向けの統合型福祉制度〕の利用を申請した。これは危機発生前の申請数の10倍だ。

2014年以来減少傾向にあった世界の貧困率は、2020年に再び急増するだろう。

■「防げたはずの死」がこれから多発する

こうした状況がおよぼす影響の一つとして、世界中で患者の受診回数が減ったことが挙げられる。数多くのCTスキャン、大腸内視鏡、MRIによる検査が取りやめになったのだ。パンデミックとは別の原因による、未然に防げたはずの死が、近い将来に多発することが予見される。

スキャンマシン
写真=iStock.com/schwartstock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/schwartstock

企業では、顧客だけでなく、事業を維持するための運転資金や資本が不足し、倒産が続発する恐れがある。たとえば、旅行会社、航空会社、クルーズ船の運営会社、ホテル、レストラン、舞台芸術や興行会社が代表的だが、さらには、自動車会社、繊維会社、航空機製造業者、水上レジャー産業の会社、化粧品会社、ぜいたく品の会社など、他にも多くの企業が影響を受けるだろう。

反対に、危機に乗じて売り上げが増えた製品、雇用を増やした産業、業績を伸ばした産業がある。たとえば、一部の治療薬、医療機器、衛生用品、基本的な食料品、宅配業、物流業、視聴覚メディア、オンラインの娯楽、インターネット通販、オンラインチャット、出会い系サイト、オンライン会議用アプリ、家庭用品の修理業、中古品販売業などだ。また、超高級品などの一部の産業も売り上げを伸ばした〔富裕層が自宅で快適に過ごすための環境整備を行うなどしたため〕。

■栄養失調に苦しむアフリカの人口は3倍になる

今回の危機は最貧国にとりわけ深刻な影響をおよぼした。

第一に、都市部の基本食が脅かされた。自宅待機を理由にアフリカの農民は畑で働くことができず、交通や物流も遮断されたため、農業の生産量は減少している。だが、自国の生産不足を輸入で補うことはできない。というのは、農業の輸出大国(ロシア、インド、ベトナム、タイ)が輸出を減らしたからだ。国連世界食糧計画(WFP)の見通しによると、2020年に栄養失調に苦しむアフリカの人口は、前年比3倍の2億人を突破する可能性があるという。とくに懸念されるのは、新型コロナウイルス感染症による物流供給網の分断に加え、バッタの大群と洪水による被害を受けたアフリカ東部だ。

■新興国で起きている「失業」の深刻な影響

新興国では、社会保障制度の枠組みから漏れた人々に失業が大きな影響をおよぼす。

インドでは就業者の3分の2は労働契約を結んでおらず、政府が保護するのは4億7000万人の就業者のうちの19%でしかない。インドの失業率は3カ月間で8%から26%に跳ね上がった。1億4000万人以上の出稼ぎ労働者は、雇用を失い極貧状態に陥る恐れがある。6月初め、パンデミックが収束状態には程遠いにもかかわらず、インド政府は外出制限措置の解除を強いられた。

バングラデシュでは、貧困地区や農村部における最貧層の平均収入は、2月から5月にかけて80%以上減少した。バングラデシュ政府のデータによると、貧困線〔生活必需品を購入できる最低限の収入〕以下で暮らす人口の割合は、20%から40%へと倍増する可能性があり、非公式経済で働く人口の85%は深刻な影響を受けるだろうという。

■アフリカでは「雇用の半分」が脅かされる

アフリカでは今回の危機によって雇用の半分が脅かされる。

ジャック・アタリ著、林昌宏・坪子理美訳『命の経済 パンデミック後、新しい世界が始まる』(プレジデント社)
ジャック・アタリ著、林昌宏・坪子理美訳『命の経済 パンデミック後、新しい世界が始まる』(プレジデント社)

しかも、外国に居住するアフリカ人労働者の祖国への送金(在外国民の送金がGDPに占める割合は、レソト王国で16%、セネガルで10%、ナイジェリアで6%)は、セネガルで30%減、ナイジェリアで50%減の見込みだ。

総括すると、これまで微増あるいは微減を経てきたアフリカ人の平均的な生活費の水準は、2020年に少なくとも5%減になるだろう。

これまでに紹介した以外の新興国の状況も芳しくない。2015年と2016年の歴史的な不況からいまだに回復していないブラジルは、2020年のGDPが9%減になる恐れがある。ブラジルの失業率は11%から24%に上昇するだろう。とくに、非公式経済で働く3000万人の労働者に対する影響は甚大だろう。

また、この間もアマゾン熱帯雨林の森林破壊は進行しており、2020年に入ってからの4カ月間、前年同期比で55%増という記録的なペースで加速した。1月上旬から4月末にかけて、1202平方キロメートルの森林が破壊されたのだ。

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ジャック・アタリ(Jacques Attali)
経済学者
1943年アルジェリア生まれ。フランス国立行政学院(ENA)卒業、81年フランソワ・ミッテラン大統領顧問、91年欧州復興開発銀行の初代総裁などの、要職を歴任。政治・経済・文化に精通することから、ソ連の崩壊、金融危機の勃発やテロの脅威などを予測し、2016年の米大統領選挙におけるトランプの勝利など的中させた。林昌宏氏の翻訳で、「2030年ジャック・アタリの未来予測』(小社刊)、『新世界秩序』『21世紀の歴史』、『金融危機後の世界』、『国家債務危機一ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?」、『危機とサバイバルー21世紀を生き抜くための(7つの原則)』(いずれも作品社)、『アタリの文明論講義:未来は予測できるか」(筑摩書房)など、著書は多数ある。

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(経済学者 ジャック・アタリ)

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