京都の「八つ橋」は心配だが、中華料理店は心配ないと言えるワケ
プレジデントオンライン / 2020年11月18日 11時15分
※本稿は、成毛眞『アフターコロナの生存戦略』(KADOKAWA)を再編集したものです。
■世界「全滅」ではなく個別具体的に考える必要がある
コロナの影響で世界は一変してしまった。IMFは2020年のGDP成長率はマイナス4.4%と予測。2021年以降どのようになるかは誰にもわからないが、経済学者やエコノミストがリーマン・ショックの比ではないというように、予断は許さないだろう。
2つシナリオがあるとすると、ひとつは柔軟な生活者の視点ともいえる「意外に早く戻る」という考え方。もうひとつはグローバルな政治経済構造をベースにした視点で「元には戻らない」とする考えだ。
いずれにしても、全世界が全滅するという話ではなく、国や地域だけでなく、業種業界によっても回復の速さや度合い、また今後の成長率の違いは出てくるため、個別具体的に考える必要がある。
■JALやANAは生き残ってもLCCは全滅する可能性
たとえば航空産業。JAL、ANAあたりは、国民の足としてなんとかがんばるだろうが、LCCは全滅する可能性だってある。そもそもインバウンドの需要が見込めないとなると、Airbnb系の民泊ビジネスがダメになって、たとえLCCで旅行客が来ても泊まる場所がなくなってしまう。
彼らには、ホテルオークラに1泊するのに5万円を出す理由もキャッシュもない。そうすると、来日客が減るという負の循環が生まれるだろう。
もちろん、日本だけの話ではない。航空機の製造に関わる労働者人口が何十万人といるアメリカにとっても、受け入れがたい状況だ。製造ではなく、運用側である航空会社従業員と関連企業で100万人くらいいるとして、彼らが長期的に失業する可能性は大いにある。つまり、全世界の航空産業が今危機にあるということだ。
こうしたことがそこらじゅうで起こり、その予想も対策も個別にやっていくしかない。
■インバウンド頼みだけでは生き残れない
国内航空各社の予約率が前年比10%前後になったり、減便率も一時5割に達したように、航空業界が厳しくなれば、旅行産業、観光産業も厳しくなる。
2020年6月の日本の主要旅行会社の取扱額が、日本から海外への旅行、海外から日本への旅行がともに100%近い減少率となったことからも明らかなように、壊滅的な影響を受けている。
さらに、酷なことをいうようだが、インバウンドを頼みにしていた観光地は地域ごと地盤沈下してしまう可能性が高い。もちろん、現場レベルでは知恵を絞って対策をするだろうし、政府のGo To トラベル政策なども一定の効果はあるだろう。
しかし、新型コロナが消え去らない限り、昔、隆盛を極めた三井三池炭鉱がダメになってしまったように、世の趨勢に抗うのは難しい。
■“地元”の需要が取り込めていれば回復は早い
ただ、別の需要があったり、その需要をこれからつくり出せるなら話は別だ。
たとえば、京都の八つ橋のように、観光客に依存していた商売は難しいかもしれない。京都の人は日常的には八つ橋を食べないという。国内旅行客の需要は少しずつ戻ってくるだろうが、インバウンド需要が短期間に復活するとは考えないほうがいい。
逆に、国内旅行客に加え、地元の需要を取り込めている飲食店などは、比較的早く回復するはずだ。京都人はパンと牛肉をよく食べることで有名で、そういった店はこれからも繁盛するに違いない。
ちなみに私は、実は京都は日本一中華料理がおいしい地域だと思っている。九条にある中華料理店などは、常連客でも予約がとれないといわれるくらい人気がある。日本で一番おいしいと思う。他にも二条城近くの京都ブライトンホテルのランチの焼きそばもレベルが高く、京都以外の人がブライトンに泊まる理由の何割かがそこの中華を食べることだと聞いたことがある。
また、大きな声ではいえないが、東京都内でも常連がしっかりといるような店はコロナ禍でも繁盛している。常連が「潰れては困る」といって、押しかけているのだ。店主は「繁盛しすぎて休めない」とぼやくほどだが、こういう店はコロナだろうが潰れない。
■一等地が空き、小売は新規参入も増える
小売はコロナに関係なく厳しい状況が続いている。多くの小売がEC化するのは目に見えているからだ。よって、体力のない企業は残念ながら撤退せざるを得ないが、それは見方を変えれば、新規参入者にとっては一等地が安く手に入ることを意味している。
一等地でなくても、自分の店を持ちたいと思っている人たちはたくさんいて、家賃が下がったり、居抜きで使用できる物件が増えたりすると、テナントコストが下がるから、新規出店者もそれなりに発生する。
ミクロで見たら厳しいのは間違いないが、マーケット全体で見れば、結局は需給のバランスであり、残った企業の残存者利益は相当大きく、強い企業になるに違いない。これはコロナにかかわらず、どんな時代でも同じことだ。
地方にあるような大型ショッピングセンターも大丈夫だろう。以前、出雲大社を訪れた際、近くのイオンモールに寄ったが、あまりの大きさに驚いた。敷地面積4万5000平方メートル、延床面積6万7000平方メートル、駐車台数約2000台。
冗談ではなく、1週間ここに住んでいられるのではないかというくらいのインパクトだった。しかも出雲のイオンモールは決して大きなほうではないらしく、全国の地方にはもっと大きなモールが多数存在していることになる。
そうしたモールでは、たいていのものが揃ってしまうため、地方の人にとっては他の場所に行く必要がないし、他に行く場所もない。もちろん、コロナなどの影響を受けて、テナントは入れ替わるだろうが、モールとしては生き残るのではないか。
■駅間が遠い“JR中央線”が期待できる理由
東京に目を移すと、人数が多いこともあって新陳代謝が激しくはなるが、需要が半減するようなことはなさそうだ。
ただ、駅によっての盛衰はあるだろう。その際、ポイントになるのが、駅と駅の間隔だ。たとえば、中央線は駅と駅の間隔が広いため、ひとつの駅が抱えている人口が多い。そのため、駅前の需要は大きい。
一方、私が住む井の頭線のように、駅から隣の駅が見える距離、500メートルくらい(長くても1キロメートルくらい)しか駅と駅が離れていない路線の場合、ひとつの駅が抱える人口がどうしても少なくなる。
そうすると、駅前という好立地にもかかわらず、需要はあまり見込めない。だから、駅前に店を開いてもすぐに潰れる。
いくら人口が多い東京といっても、ピンポイントで生き残るところ、ダメなところ、全滅するところといったように明暗がはっきりしてくるのだ。
■もう「東京全体」「日本全体」では語れない
2020年夏はコロナで東京への転入者数が急減したことが話題になったが、この傾向が今後も続くかはわからない。当面の間はわざわざ用もないのに東京へ引っ越す人は少なかろうが、それがそのまま地方在住者の「東京に行く必要はない」「ずっと地元で暮らそう」という気分につながるかといえば、そこまでではないかもしれない。
東京一極集中を軽減させる芽があるとすれば、東京への流入減よりも、在宅勤務やリモートワークを経験した人々の「別に東京にいなくてもいい」「地方に移住してみたい」という新たな感情のほうであるような気がする。
いずれにせよ、都内でも駅単位、都市単位で優勝劣敗が決まっていくわけで、これからは東京全体で考えるとか、日本全体で考えるというのはだんだん難しくなるだろう。
地球の歴史においても、全部がダメになるとか、全部が栄えることはなかったように、モザイク状に盛衰が決まっていくだろう。
経済やビジネスをマクロではなく、個別に考えていくには、世界の政治経済という視点に加え、地域や町の知識が必要になる。
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HONZ代表
1955年、北海道生まれ。中央大学商学部卒業。自動車部品メーカー、アスキーなどを経て、1986年、日本マイクロソフト入社。1991年、同社代表取締役社長就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社インスパイア設立。2010年、書評サイト「HONZ」を開設、代表を務める。
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(HONZ代表 成毛 眞)
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