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「日本の"宿題"を終わらせる」高校中退で金髪のIT起業家がコロナ禍に上場した理由

プレジデントオンライン / 2020年11月25日 11時15分

サンアスタリスクCEOの小林泰平氏 - 撮影=西田香織

社会全体が静まり返るコロナ禍、サンアスタリスクCEOの小林泰平氏は金髪に革ジャン姿で東京証券取引所に足を運んでいた。ベトナムで創業してから8年、現在1500人規模になる同社が東証マザーズに上場を果たしたのだ。なぜ、この時期に勝負に出るのか。小林氏に聞いた——。

■無意味だから辞めた高校「思考停止から抜け出したかった」

16歳で高校中退、ホームレスに。IT人材の雇用のためベトナムで起業。先の読めないコロナ禍に上場——。サンアスタリスクCEO・小林泰平の歩んできた道は一見突飛にうつるかもしれない。だが、本人に気負いはみられない。いずれも「思考停止」しないように選んできた道にすぎないからだろう。

「高校は無意味だから辞めて、ふつうにホームレスやっていただけですよ」

インタビューでは開口一番、そう笑いながら話す。高校中退のきっかけは当時通っていた早稲田実業の「去華就実(きょかしゅうじつ)」という校是だった。これは「華やかなものを去り、実に就く」、つまりは「外見ではなく中身を大切にしなさい」という意味だ。

「去華就実は、その裏を返せば“実があれば、見た目はどうでもいい”という意味だと僕は理解しました。それなのに生徒たちみんなの見た目はなぜ一緒なのか? 金髪でも別にいいじゃん、と。しかも、その疑問を教師に聞いても誰も答えを教えてくれない。ああ、これが教育なのかって思いました」

ルールで決められていないのに、みんなと同じ見た目があたりまえだとされる学校生活。そのことが次第に怖くなっていった。それに、生活の中心は中学からはじめた音楽活動だ。高校に通う意味がいよいよわからなくなった。

「今思うと、思考停止を迫られる高校生活から抜け出したかったんでしょうね」

■1年半のホームレス生活→クラブ勤務→26歳でエンジニアへ

父親に高校を辞めたいと相談すると、その決断を尊重されながらも「好きなことをやりたいなら一人でやれ」と家を追い出される。それからはレコードのせどりで日銭を稼いでバンド活動をしながら新宿や渋谷の公園でホームレス生活を1年半続けた。

新宿のクラブに拾われると、ライブの音響を担当したりバーカウンターに立ったりしながら、好きな音楽と気の合う仲間に囲まれる生活を送った。睡眠時間は短くハードな生活だったが、「最高に楽しかった」と振り返る。

しかし、そんな楽しい生活も長くは続けられない。連日連夜のハードワークで身体を壊さないうちに就職しようと決断。履歴書を事前提出しなくて済むIT企業に応募し、エンジニアとして採用される。26歳で初めて就いたエンジニアの仕事は楽しく、のめり込んでいった。

■日本で抱いた危機感、ベトナムで見つけた商機

サンアスタリスクは2020年7月31日、東証マザーズに上場。オフィスのエントランスには「祝上場」の文字を引っ下げた「サンベアー」の姿も
撮影=西田香織
サンアスタリスクは2020年7月31日、東証マザーズに上場。オフィスのエントランスには「祝上場」の文字を引っ下げた「サンベアー」の姿も - 撮影=西田香織

転機は出向先の企業で案件を外注したことで実感した、日本のIT人材が圧倒的に不足している、という気づきだ。アジアを見わたすとベトナムに優秀なエンジニアがいることを知る。それで仕事をつくりベトナムを訪れると、現地のエンジニアの能力の高さを目の当たりにした。さらなるポテンシャルがあるとも感じ、2012年、29歳のときにサンアスタリスクの前身となるフランジアに創業メンバーとして参画する。

それ以来、同社は大企業やスタートアップにソフトウエア開発、コンサルティング、デザインの機能、さらにはIT人材までをワンストップで提供し、DX(デジタルトランスフォーメーション)などの事業創造を伴走する「デジタル・クリエイティブスタジオ」として右肩上がりの成長を遂げてきた。

現在、子会社を含めた国内拠点に約200名、ベトナムをはじめとする東南アジアの6拠点に約1300名のエンジニアやクリエーターをかかえる。売上高は2019年12月期で45億円と前年比2倍以上の成長となる。

株式市場でも期待値は高い。今年7月31日に上場すると、公開価格700円に対して初日の終値は1509円。9月3日には4756円まで上伸した。乱高下を繰り返した後に、現在は3000円前後で推移する(11月19日時点)。

■「DXとコロナって似ている」

同社がユニークなのは、コロナ禍で加速する企業のDXを「業務プロセスのデジタル化」と「事業のデジタル化」という2つの側面のほか、企業や事業のビジョン創造から組織カルチャーの醸成までを一手に行い、さらには日本のエンジニア不足を解決するために国内外の教育機関と提携しIT人材の育成まで引き受けていることだ。

「DXとコロナって似ている。誰もが知る国民的キーワードになったのに、本当は何なのかをちゃんと分かっている人が少ない。でも、コロナでいえばそれが広く知られることで感染対策にマスクをすることが当たり前になりましたよね。同じように、正しく理解されてなくてもキーワードが当たり前になることで、DXがあらゆる企業で進むなら僕はそれでいいと思っています」

日頃、オフィスではオープンスペースで仕事をする。社内の雰囲気はフラットで経営層と社員の距離はちかい
撮影=西田香織
日頃、オフィスではオープンスペースで仕事をする。社内の雰囲気はフラットで経営層と社員の距離はちかい - 撮影=西田香織

DXの正しい意味は何かと小林に聞くと、その定義は「何かをデジタル化するのではなく、テクノロジーが社会に実装されていくことで人々の生活が豊かになること」だという。日本企業では、手段であるDXが目的になるという逆転現象が往々にして起こる。こうした認識のズレがあるからこそ、同社がDXを導入する際にはビジョンの創造から関わることを大前提にしている。

「DXで最も重要なのは、企業の理念、あるいはミッション・ビジョンが今の時代にあっているかどうか。それらのアップデートが必要なのは、社会状況が変わっているなかで当然のことです。具体的な内容を掲げている企業ほど、それが100年先まで通用するのかを検証したほうがいい。僕たちも、お客さんから『アプリを作りたい』という依頼があっても、『何のために作るのか』を問いかけることから始まることも多いですね。それで、『じゃあ今は作るのをやめようか』となることもある」

■人間本来の姿に早く戻るために

DXはあらゆる日本企業が急いで取り組まなければならない共通の課題だ。2018年に経産省が発表したDXレポートでは、既存システムの老巧化がもたらす最悪シナリオを「2025年の崖」と表現した。これは、2025年にはIT人材不足が約43万人まで拡大し、デジタルシフトが進まないと2025年以降は毎年12兆円の経済損失が発生することを意味する。

「僕らのビジョンは『誰もが価値創造に夢中になれる世界』。これが人間本来の姿だと思うんですよね。でも、『価値創造に夢中になれる世界』にはDXという課題に追われているうちはたどり着かない。その課題を解決するためのアセットが僕らにはある。だから上場して、パブリックな立場で勝負しようと思った。ライバルとかは一切いないし、日本の宿題なんだからみんなも一緒になって2025年までにDXを終わらせようよ、それで早く楽しい仕事に戻ろうよって伝えたいですね」

アナログでも快適な社会を築いた日本は世界で進む急速なデジタル化に大きな後れをとった。今はようやく焦りはじめた。「まるで8月30日。夏休みの宿題なんもやってない状態」だという
撮影=西田香織
アナログでも快適な社会を築いた日本は世界で進む急速なデジタル化に大きな後れをとった。今はようやく焦りはじめた。「まるで8月30日。夏休みの宿題なんもやってない状態」という - 撮影=西田香織

■思考停止ワード「ただの○○じゃん」は禁止に!

「2025年の崖」を乗り越えるためには、企業活動だけでは立ち行かない。企業がDXを力強く推し進めても国民がその価値を感じないと定着しないからだ。つまりはユーザー側が「新しいサービスを体験してみよう」と小さな一歩を踏み出せるかどうかにかかっている。

「うちの母親も『ネットショッピングなんて無理』と最初は言っていましたが、一、二回使ってみたら今ではヘビーユーザーになっています(笑)」

だが、ここで立ちはだかるのが、変化を嫌う傾向にある日本社会の風習だ。

「デジタル庁の創設にしても、みんなすぐに“そんなのムリだ”とかたたき出すじゃないですか。これでは挑戦しづらいから、社会はもっと寛容にならなければダメですよ。僕が一番嫌いなのは『ただの○○じゃん』って言葉ですが、これも禁止にしたほうがいい。iPhoneは『ただの携帯電話』、テスラは『ただの車』じゃないですよね。でも、そうやってカテゴライズすると新しいものを受け入れられなくなる。この言葉を使った瞬間に思考停止するし、挑戦する人が減って進化が止まってしまうんです」

■人類の完成形である子供に、大人はもっと学ぶべきだ

10代の頃から小林が向き合ってきた「思考停止」。この状態に陥ると、正しいこと、価値があることに気づけなくなる。自分はどうありたいか、自分にとって何が必要かを判断できなくなり、次第にその人にとって必要なことなのにそれに挑戦することさえできなくなる。すると、挑戦する人をたたくようになり、2025年までのDXが夢物語で終わる。この悪循環を断ち切らなければならないが、思考停止状態から抜け出すにはどうすればいいのか。

「僕もそうですが、思考停止は誰にでも起こります。違和感をスルーせず、常識や慣習を疑い続けるしかない。たとえば高校や大学に行くのは『なんで?』と問いかけてみる。それで自分なりの答えを納得いくまで調べたり考えたりしてみる。僕の中での答えは、高校や大学は機能にすぎない。進むべき道が決まっていてその機能を使う必要がないと思えば、無理に行かなくてもいいや、ということだった。偏差値の高い学校だって人によっては行く必要もないですから、今の若い人もそこは考え直した方がいいんじゃないかな」

最後にこう付けくわえた。

「子供って“なんでなんで”と繰り返しますよね。大人は“常識だから”“みんなそうだから”とかごまかしますが、それでは答えになっていない。ビジネスの現場でそう答えたらアウトですよね、顧客の信頼を得られない(笑)。その意味で子供は人類にとって一番の完成形だと思っていて。まずこの国ならご飯は食べれるからお腹も空かない。あらゆることが初めてなのに恐れずに挑戦し続けているし、未来に希望をもって生きている。大人は子供に倣って生きたほうが面白い社会になるんじゃないかな」

「義務教育やルールは大事。社会生活を最適化するために考えられたものなので。ただ、違和感をもったらそれを変える行動をするべきだと思う」
撮影=西田香織
「義務教育やルールは大事。社会生活を最適化するために考えられたものなので。ただ、違和感をもったらそれを変える行動をするべきだと思う」 - 撮影=西田香織

(敬称略)

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小林 泰平(こばやし・たいへい)
サンアスタリスクCEO
早稲田実業高校を中退後、ホームレスをしながらのバンド活動を経て新宿のクラブに勤務。その後、ITエンジニアとなりソフトウェア開発会社に就職。ソーシャルアプリの開発プロジェクトにて中国、ベトナムのエンジニアとのグローバル開発を経験。アジアの若い才能が未来を創っていくと確信、2012年7月よりフランジア(現・サンアスタリスク)の立ち上げのため、ベトナムに移住しCOOとして従事。2017年12月より現職。

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(サンアスタリスクCEO 小林 泰平 構成=向山 勇)

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