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アマゾンに対抗できる小売業はウォルマートだけと言える理由

プレジデントオンライン / 2020年12月15日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Andrei Stanescu

世界一のスーパーであるウォルマートは、コロナ禍でも着実に売り上げを伸ばしている。ベンチャーキャピタリストの山本康正氏は「ウォルマートは歴史ある世界的な大企業でありながら、経営感覚は今どきで動きも速い。それはアマゾンと同じく、小売業に固執していないからだ」という――。

※本稿は、山本康正『2025年を制覇する破壊的企業』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

■GAFAの経営手法を真似た「老舗スーパーマーケット」

新型コロナウイルスの影響で、小売業界は、営業時間の短縮、ソーシャルディスタンスを意識した利用者の人数制限などにより、ほとんどの店舗や企業で売上減、厳しい経営を強いられています。

そんな中、小売業界にありながら売上が問題なく、株価まで上げている企業があります。

ウォルマートです。ウォルマートのすごいところは、歴史も規模もある世界的な大企業でありながら、経営感覚はTikTokへの出資に大きな意欲を持つほど最先端で動きも速いことです。

ネットスーパー事業に着手したのは、アマゾンが急成長していた2006年ごろでした。シリコンバレーにオフィスを構え、データ分析やeコマース事業に強い人材やベンチャーを次々と買収、手を組んでいきました。

GAFAが自分たちの苦手分野をM&Aによって取り込んでいく経営手法を、老舗でありながら実行していったのです。その結果、大手老舗でありながら、その実はGAFAのような最先端企業のテクノロジーならびにサービスを備えていきました。

一方で他の小売事業者は、eコマースに進出するとリアル店舗と競合してしまう。店舗にお客さんが来なくなってしまうのでは、そのように考え、進出に二の足を踏んでいたのでしょう。

■アマゾンがベンチマーク

しかしウォルマートは違いました。リアル店舗も活かした、新たなサービスを提供すればよいのだと。まさに固定観念を取り払う、業界を越える、成功していく企業の典型です。

テネシー州を走るウォルマートの配送トラック
写真=iStock.com/WendellandCarolyn
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/WendellandCarolyn

ウォルマートの経営スタイルはアマゾンと似ています。実際、アマゾンをベンチマークとしています。物を仕入れ販売するのが、小売業のビジネス。このような考えに固執せず、どのようにしたら客が満足するかを真剣に考え、実際の施策として愚直に行っています。

サブスクリプションサービスを展開しているのはまさにその証しです。年会費98ドルを払えば、ふだんの割引はもちろん、さまざまなサービスや買い物を通じた楽しい体験を得ることができます。

ロッカーサービスはいい例です。アメリカでウォルマートの店舗に行くと、入り口にロッカーが設けてあります。このロッカーの中には、ネットで注文された商品が入っていて、客は店に入ることなく、望む品を家に持ち帰ることができます。

アマゾンの配送は倉庫からですが、ウォルマートは各地に実店舗があります。この実店舗から客の元に配送したら、アマゾンに勝てるだろう。という考えです。

■成功の理由は「小売りに固執しない姿勢」

小売りに固執していないことは、今回のコロナ禍でも強烈にメッセージとして打ち出されました。ドライブインシアターです。コロナ禍の影響で、映画館に行くことができない状況が続いている。それならばとソーシャルディスタンスを保ちながら映画を楽しむことができる、ドライブインシアターを行おうと考えたわけです。店舗の駐車場を使って行うようです。

ウォルマートのビジョンは明確です。自分たちのことを支持してくれる顧客に、最高の体験を届けること。言い方はシンプルですか、そこさえできていれば、お客さんを囲い込めることが分かっているからです。アマゾンと同じです。

私も実際にウォルマートを利用することがありますが、アプリにおいては老舗企業とは思えない洗練されたUIで、とても使いやすい。ネットスーパーでありながら生鮮食品などを購入することもできます。受け取りに関しては先のとおり、アマゾンよりもスピーディーに、簡便に行えます。

■今後も続く、業界の壁を越える動き

正直、老舗の小売事業者がここまでやるのか、できるのかと、最初にサービスを利用したときは大きな衝撃を受けました。老舗企業でDXを大成功させた、デジタル化による価値上昇を最も体現している企業と言えるでしょう。

山本康正『2025年を制覇する破壊的企業』(SBクリエイティブ)
山本康正『2025年を制覇する破壊的企業』(SBクリエイティブ)

ウォルマートのサービスの拡充、業界の壁を越えていく動きは、これからも続くと見ています。たとえば先のロッカーサービスは、ロッカーではなく、乗り入れた自動車のトランクに、店舗のスタッフが詰めてくれるような。あるいはアマゾンが現在テスト段階にある、自宅前に停めてある自動車のトランクに配送してくれる、といった発展です。

アマゾンがベンチマークですから、同社がすでに提供しているサービスに近いことは、今後もまだまだ手がけてくると思いますし、どのようなせめぎ合いをしながらアマゾンと戦っていくのか、この流れはしばらく続くでしょう。

流れとしては、アマゾンがオフラインからオンラインに。ウォルマートもオフラインからオンラインに。顧客ファーストという共通の理念を掲げながら、2つの巨大企業が今後どのように戦っていくのか。2025年のフェーズでは、それなりの結果が出ていることは間違いありません。

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山本 康正(やまもと・やすまさ)
ベンチャー企業投資家
1981年、大阪府生まれ。東京大学で修士号取得後、米ニューヨークの金融機関に就職。ハーバード大学大学院で理学修士号を取得。修士課程修了後グーグルに入社し、フィンテックや人工知能(AI)ほかで日本企業のデジタル活用を推進。日米のリーダー間にネットワークを構築するプログラム 「US Japan Leadership program」フェローなどを経て、2018年よりDNX Ventures インダストリーパートナー。自身がベンチャーキャピタリストでありながら、シリコンバレーのベンチャーキャピタルへのアドバイスなども行う。ハーバード大学客員研究員、京都大学大学院総合生存学館特任准教授も務める。著書に『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』(講談社)、『シリコンバレーのVC=ベンチャーキャピタリストは何を見ているのか』(東洋経済新報社)がある。

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(ベンチャー企業投資家 山本 康正)

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