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茂木健一郎「ストレスコントロールのためのランニングのすすめ」

プレジデントオンライン / 2020年12月19日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BartekSzewczyk

脳科学者の茂木健一郎さんは毎朝10キロのランニングを習慣にしている。茂木さんは「ランニングは、脳のバランスを取り、記憶や思考を整理し、精神のメンテナンスも行ってくれる。まさに理想の運動といえる」という――。

※本稿は、茂木健一郎『最強メンタルをつくる前頭葉トレーニング』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■この世のすべての情報を知ろうとする必要はない

戦争や大規模な自然災害などの非常事態時には、私たちは情報を求めてテレビや新聞、ネットにアクセスします。しかし、今回のコロナ禍のように長期化する場合、日々大量の情報を仕入れすぎて、メンタルがやられてしまうケースも続出しています。

テレビのワイドショーでコロナウイルスの恐ろしさを知り、ツイッターでさらなる情報の深掘りをする。極端な人だと、深夜ベッドにもぐり込んでもなお、スマホ画面を見つめながら詳細な情報を摂取し続けているようです。その結果、気分が滅入ってしまい体調を崩してしまう人も多いと聞きます。

自分にとって一番や二番目に興味があることは調べるが、それ以外はさっと目を通すくらいに留める。それくらいの感覚でいいのではないでしょうか。新聞の見出しは確認しながらも、すべての項目を厳密に知る必要はありません。

■「情報の切り分け」を試してみよう

それでは情報が偏ってしまうのではないか、という意見もあるかもしれませんが、メンタルがやられてしまったら元も子もありません。

「私は小さな人間だから、世界で起こっているすべてを引き受けられるわけじゃない」
「私が関われるのはこの領域まで。そこにあることを一生懸命やるだけ」

このように、自分である程度のラインを引くのも、一つの考え方です。

提言したいのは「情報の遮断」ではなく、「情報の切り分け」です。世の中に溢れる情報のうち、「自分がコントロールできること」と「できないこと」を切り分けるのです。

コントロールできることにはベストを尽くす。でも、できないことは潔く諦める。これがストレスをなくす思考の整理法です。

■大変な状況でも明るくいられる人は何が違うか

お笑いコンビ、キングコングの西野亮廣さんを見ていて、情報の切り分けがうまいなと感心しました。西野さんに限らず芸人の方々は、今回の新型コロナウイルスで、活動が制限されるという事態に陥っています。ところが西野さんときたら、いつもとまったく変わらぬハイテンションで、楽しそうに話していたのです。

「いや~、俺、今暇なんですよ。ほら今、こんな状況じゃないですか。僕が描いた絵本の展示会とかもなくなっちゃうし、外に出てやる仕事もほとんどなくなっちゃったんでね」

内容だけ聞くと大変そうなのに、その話しぶりが面白くてつい笑ってしまいました。彼は自分で描いた絵本『えんとつ町のプペル』を原作とした映画の公開に向けて、子ども達にムビチケをプレゼントするためにクラウドファンディングで資金集めの活動もしていました。

「コロナで困ったことになりましたね……」と、連絡を取る人のほとんどが、暗い声でヒソヒソ話している時期に、彼の明るさにはホッとこちらの心も明るくなったものです。

■「自分がやりたいこと、やるべきこと」に意識を向ける

もちろん、彼とて現在の状況を理解していないわけではありません。さまざまな情報には接しつつ、それでもあえて自分がやりたいことや興味のあることに意識を向けて情報を取り入れている姿勢を持つ。これこそが「情報の切り分け」です。

これは西野さんのように「自分がやりたいこと、やるべきこと」がはっきりわかっていないとできないことかもしれません。そこに意識を集中できる何かがないと、なんとなく世間の情報に吞まれていってしまうからです。情報の洪水に呑み込まれずに、自分のメンタルを守れる人は、案外「自分のやりたいこと」をしっかり持てている人なのかもしれません。

■ストレスコントロールのためのランニングのすすめ

そうは言っても、日々の情報の洪水に呑み込まれてストレス過多になってしまう人もいるでしょう。

私は朝、仕事に出かける前に近所の公園などのコースを10キロ走ることを、もう長いこと続けています。「なぜ、走るんですか?」。たまに真顔で尋ねられますが、そう聞かれても困ってしまいます。何しろ子どもの頃からずっと走ってきましたから。ランニングは私にとって、生活の一部なのです。

走っている人
写真=iStock.com/nazar_ab
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nazar_ab

基本的に毎朝走っていますが、真面目になりすぎないよう、三日坊主を受け入れる「ゆるさ」をモットーにしてきたのが、結果的に長く続けられた秘訣かもしれません。

仕事柄出張が多いため、地方や海外など旅先でランニングする「旅ラン」もよくします。旅先ではいつもと違う景色や、自然、観光名所などを、一人楽しみながら走っています。

先ほど、子どもの頃からずっと走ってきたといいましたが、実は本格的に長距離を走り始めたのは、中年と呼ばれる年を過ぎてからです。私が初めてフルマラソンを(途中から歩かずに)完走したのが、2015年の東京マラソンですから、52歳の時です。決して早いスタートとはいえませんが、シューズさえあればいつでも始められる手軽さが、ランニングのいいところです。

■定期的に走る人は認知症にもなりにくい

ある研究データによると、定期的に走っている人はストレスレベルが低く、認知症の発症率も低いそうです。脳科学的にみても、記憶が整理されて頭がすっきりして、発想力が高まるなどいいことだらけ。私自身、健康面でのベネフィットを感じています。

一つには身体的なメリットがあります。ランニングはウォーキング以上に、身体の新陳代謝を良くします。必要な物質を取り入れ、古くなった物質を外に排出する。新陳代謝が活発であればあるほど、メンタルも強くなります。

ただ、身体的なメリット以上に、精神的なアプローチでもかなりの効果があることがわかっています。それは無心になれるということです。

走っている時、皆さんは何を考えていますか?

走り始めこそ仕事の案件などを考えてしまうことがあっても、ある一定時間が経過すると、だんだんと「無心」になっていませんか?

これは、集中しているけれどリラックスしている「フロー状態」です。部屋に一人でこもっている時には、グチャグチャと出口のない悩みのスパイラルに落ち込んでしまっても、ひとたび外に出て走り始めてしばらくすれば、どんどんと脳は解放されていく。その意味では、走ることは、脳のなかの情報を整理し、ストレスを軽減する行為といえるでしょう。

■走ることで放出されるさまなまな脳内物質

走っている時の脳は、どのような状態になっているのでしょう。

実は「無心」状態では、さまざまな脳内物質が放出されています。フロー状態とは、いわゆる「ランナーズ・ハイ」と呼ばれる状態に近いのです。つまり、見た目は汗ダラダラで呼吸が激しくても、内面は爽快感に溢れている。脳内では、高揚感や幸福感を得られるエンドルフィンや、向精神作用のあるフェネチルアミンなど脳内物質が生み出されています。

茂木健一郎『最強メンタルをつくる前頭葉トレーニング』(PHP研究所)
茂木健一郎『最強メンタルをつくる前頭葉トレーニング』(PHP研究所

さらに、太陽の光を浴びながら一定のリズムを繰り返す運動では、幸福を感じるセロトニンが出やすくなります。走ることで快感を得られるため、ドーパミンも放出されます。

つまり、ただただ走るという極めてシンプルな行為が、エンドルフィンやフェネチルアミン、セロトニン、ドーパミンといった脳内物質を多く生み出すのです。特にドーパミンは、ストレス耐性があるため、ストレスが多い環境にも強くなれます。

メンタルを安定させ、考え方もポジティブに持っていきたいのであれば、まず走るべし。ランニングは、脳のバランスを取り、記憶や思考を整理し、精神のメンテナンスも行ってくれる。まさに理想の運動といえるでしょう。

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茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞。『幸せとは、気づくことである』(プレジデント社)など著書多数。

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(脳科学者 茂木 健一郎)

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