日本の教育でガラ空きの「未就学段階」でいますぐやるべき3つのチェンジ
プレジデントオンライン / 2021年1月3日 9時15分
※本稿は、貞松成『AI保育革命』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■今の保育園児は「100の能力のうち20しか使えていない」
2007年1月に創業した当社は、2020年度で丸13年を迎えました。これまでの過程は必ずしも平坦ではなかったものの、着実に成長を果たし、会社の規模も徐々に大きくなってきました。それでもまだ、私が理想とする保育の実現は道半ばです。
私の夢は、「保育の個別最適化」です。その実現は決して容易ではなくさまざまな施策を講じながら、現在でも「どうすれば実現できるのか」と試行錯誤を続けています。
多くの人は、自分の才能になかなか気づくことができません。社会に出ていろいろな仕事に向き合う中で、「自分にはこれが向いているのかもしれない」などと、徐々に気づいていくのが普通でしょう。
子どもの時期は、それこそ才能の芽が無限に存在しているように感じられます。そのうちどれが開花するのかわからないまま、小学校、中学校、高校と教育を受け続けていくわけです。しかし、それでも社会に出るまでわかりません。
私の性格的な問題もありますが、無駄は好きではありません。「能力が100あるなら100使え」という発想を好んでいるため、子どもが100の能力のうち20しか使えていない現状を問題だと感じてしまいます。そして、それは現状の園児に関する教育に原因があると考えているのです。
■子どもたちの能力が2倍になれば、人口問題を解決できる
極端な話ですが、働きたいけど働けていない100万人の雇用を生み出すことができても、社会に与えるインパクトは100万人分に過ぎません。しかし、一方で、もし100万人の子どもの能力を2倍に引き上げることができたら、その影響は200万人分になります。
つまり、より最適な教育を提供することによって子どもたちの能力を2倍3倍へと高めることができれば、結果的に、日本の人口問題を解決することにつながると思うのです。働き手の「数」ではなく、「質」の面からのアプローチです。
ただ、それをどのように実現すればいいのかについては、明確な方法論がありません。10人の子どもがいれば、10とおりの最適な手法があるかもしれません。しかもそれを、教える側も、教えられる本人もわかっていないのです。
保育の現場で長年にわたって働いている人も、そのための解はもっていません。そこで園児が遊んでいるところを観察し、記録をとり、保育園の運営システム「CCS」や保育ロボット「VEVO」など先進的なシステムも導入しながら、現在でも試行錯誤を続けています。
■園児一人ひとりの才能を伸ばす教育が必要
ひとつの方向性としては、データベースのつくり込みが重要であると考えています。教育という観点からも、保育園にはさまざまな情報が飛び交っています。それらを適切に収集し、蓄積していくことが、教育の最適化に寄与すると思います。
たとえば、身体的な部分に関しても、発達に関しても、それぞれの児童で違いがあります。それなのに一律の教育をしていては、個性を十分に伸ばすことはできません。少なくとも、本人の能力を2倍3倍にすることはできないでしょう。
また、子どもにより、好きなことも違えば、興味関心の方向性も異なります。協調性を育むことはもちろん大事ですが、一方で「どのような違いがあるのか」を教育する側の大人が理解したうえで、子どもごとに才能を伸ばすための施策を講じることも大切なはずです。
たとえば、「数学のノーベル賞」とも言うべき国際的な賞であるフィールズ賞を取れるような才能のある子どもがいた場合、その子に対し、みんなと同じようなレベルで小学校のかけ算から教えるのはもったいない話です。一方で、まだ発達が追いついていない状態で、次のことを与えてしまうことももったいないと思います。
■観察と分析で、保育の個別最適化を追求する
もちろん、一定のカリキュラムを用意することにも意義はあるのですが、そうだとすれば、日本の教育過程でチャンスがあるのは未就学の段階だけです。そこに一定の指標を提示できるかどうかは、今後の活動次第だと思います。
「保育の個別最適化」は、すぐに答えが出ることではありません。3年、5年、あるいは10年以上かかるかもしれません。それでも私たちは、日々の活動を通じて、何らかの答えを提示していきたいと考えています。事業としての中間目標はまさに、そこにあります。
その前提となるのは、子どもをよく見て、子どもを知ること。つまり、子どもに対する観察力と分析力が必要となります。それは、保育の原点とも言える活動でしょう。私たちはこれからも、保育の個別最適化を追求していきます。
■日本の保育政策における3つの提言
次に、保育事業者である私から、現在の日本の保育政策について3つの提言をしたいと思います。提案したい内容は実はたくさんありますが、今回は3つに絞らせていただきました。
1 保育所の利用条件の緩和について
現在、幼稚園にも保育園にも通っていない未就園児数は全国で約14万人と推計されています。
3歳以降の未就園児は、低所得、多子、外国籍など社会経済的に不利な家庭や、発達や健康の問題(早産、先天性疾患)を抱えた子どもに多い傾向があります。
さらに、コロナの影響で地域のつながりや経済が弱くなっている現代社会の中では、保育園がこうした未就園児のセーフティネットとなることは、重要な役割の一つであると考えます。
そのためには、現在の教育無償化に加えて、「親が働くことで通うことができる保育園、親が授業料を払うことで通うことができる幼稚園」といった従来の垣根を越えて、利用条件をなくし、未就学児童(3歳が望ましく、遅くとも世界標準である5歳)への教育を義務化するなどの対策が望ましいと考えます。
2 保育園の保護者への教育費の徴収について
保育園から小学校へ就学する児童数が、幼稚園から小学校へ就学する児童数を上回りつつある現在(令和元年版『少子化社会対策白書』p.68 内閣府)において、保育園は幼稚園同様に就学支援の役割が求められています。
しかし、幼稚園とは違い、保育園が教材を要する授業を提供したとしても、児童福祉の観点から保護者から教材費を徴収することは原則として認められておらず、教育環境に差が生じます。
したがって、民間保育事業者に利用者への教材費徴収の裁量権を与えることで、就学に向けた保育園教育に特色が生まれ、公立と民間、さらには民間保育事業者間の棲み分けが整理されていくものと考えます。
■保育士の適切な配置も必要だ
3 保育士の個別最適配置について
教育の個別最適化について注目が集まっている中、個別最適化された保育が提供されるためには、まずは保育士の最適配置が重要です。特に、保育中の怪我や午睡中の死亡事故などは保育士の配置、すなわち役割が不明確な保育者の配置が原因となっています。
その結果、児童福祉法に照らした必要最低限の保育士数が時間帯別に配置されていない可能性がありますが、デジタル化及びICT技術が遅れている教育業界ということもあり、それらを的確に確認する方法がありません。子どもの人数に合わせた保育士を配置するために、保育事業者に対して在園児数に合わせた保育士の最適配置数を時間帯別に紙面上やモニター画面上に表示させ、記録して保管するなどの対策が必要です。
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global bridge HOLDINGS 代表取締役社長兼CEO
1981年長崎県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了。大阪総合保育大学児童保育研究科博士後期課程。2007年に千葉県にて無認可保育園(のちに認可保育園へ転換)を開園。2014年、保育園運営管理システム「CCS(Child Care System)」をリリースし、ICT事業を開始。同年、障害児(者)事業を開始し、認可保育園や通所介護施設との複合施設を開始。2017年、保育ロボット「VEVO」の開発に着手。同年、東京証券取引所に上場。
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(global bridge HOLDINGS 代表取締役社長兼CEO 貞松 成)
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