「下手をすると人事部に通報も…」イマドキ若者に"注意したい"とき絶対してはいけないこと
プレジデントオンライン / 2020年12月28日 8時15分
■Z世代のキーワード「チル&ミー」
Z世代の若者たちは、少子化による超人手不足やアベノミクス景気の中、比較的不安や競争の少ない環境で育ってきました。進学もバイトも就活も、基本的には売り手市場であり、「落ちる」という経験をほとんどしてこなかった世代。これは、その前に生まれた「ゆとり世代」と決定的に違う部分でもあります。
コロナ禍は、Z世代のこうした特徴をあらためて浮き彫りにしたと思います。現在広がりつつある買い手市場は、彼らにしてみれば初めての経験。実際、僕の知り合いの男子大学生は先日、人生で初めてバイトの面接に落ち、「バイトって落ちるなんてことがあるんだ」と衝撃を受けていました。
こうした環境下で育ったZ世代を理解するためのキーワードとしては、「チル」と「ミー」の2つが挙げられるでしょう。「チル」は「まったりする」といった意味で、ガツガツしない、競争しない彼らの特徴を表すものです。
またZ世代は、インスタやTikTokの流行を見てもわかるように、自己承認欲求や発信欲求が高いのも大きな特徴。こうした面を表すのが「ミー(私を見て)」というキーワードであり、これはZ世代と人間関係を築く上で忘れてはならないポイントでもあります。
■「叱る」という概念はすでに消滅
では、この「チル&ミー」なZ世代が部下になった時、昭和生まれの上司たちはどう接すればいいのでしょうか。一般的に、昭和世代は「時には叱るのも愛」と考える傾向にあります。自身も先輩や上司から叱咤激励されて育ってきたため、部下を伸ばすには愛の鞭も必要ではないかと思うわけですね。かく言う僕自身も、長い間そうした考え方をしていました。
ところがここ10年ほどは、若者を伸ばすには「ホメる9割、改善提案1割」と言われるようになってきています。ただ叱るのではなく「君はすばらしい、でもここをこうしたらもっとすばらしくなる」という言い方をすべきだと。
僕が最近Z世代の若者や企業の方々と話していて思うのは、「叱る」という概念すらもう消滅しているのではないかということ。Z世代の若者は叱られた経験がほとんどないためか、叱っても気が引き締まったりやる気が出たりすることはないのだそうです。彼らのモチベーションが上がるのは気持ちよくしてもらえた時、つまり自己承認欲求や発信欲求が満たされた時なのです。
■人事部に「通報」する若者も
プロ野球の野村克也監督は、人を育てるための極意を「無視・賞賛・批難」という言葉で表しました。選手のうち三流は無視し、二流は賞賛し、一流は批難して伸ばすのだと。僕も深く共感している言葉ですが、今の若者には無視と批難は通用しません。若者からすればその2つはあってはならないことで、中には人事部に「通報」する子もいると聞きます。
僕がアルバイトを頼んでいる大学生の中には、得意先とのミーティングをすっぽかしてしまう子もいます。周りにも迷惑がかかるため厳しく注意したいところですが、彼らに対して「怒る」「叱る」はNG。さらに言えば、パワハラの証拠として使われるリスクがあるので、LINEやメールでの批難も避けるようにしています。
ですから、「そういうことをしてはいけない」と教えたい場合は、口頭で丁寧に注意するか、LINEやメールなら必ず敬語で、こんこんと説明するのが得策。新人にそこまで気を使わなきゃいけないなんて……と思う人も多いでしょうが、僕の実感から言うと、良いと思ったことも許せないと思ったこともすぐシェアする、それがZ世代です。
■深い人間関係を知らないZ世代
これは人間関係を築こうとする時も同じです。例えば最近、あだ名で呼ぶことを禁止した小学校が話題になりました。昭和世代からすれば、あだ名は親しみを表したり距離を縮めたりするものですが、今はベンチャー企業でもあだ名禁止のところがあります。また一般企業でも、部下をあだ名で呼んでいた上司が、人事部から注意されたという話も聞きます。
「それでは深い関係が築けない」と思う人もいるでしょう。でも、Z世代にとっては人間関係=広く浅くが当たり前。SNSでたくさんの友人とつながっていても、いつも一緒に行動したり本音を言い合ったり、時にはケンカしたりという関係はほとんど結びません。そもそも「深い人間関係」が存在すること自体知らないのでは、と思うことさえあります。
■「飲めば理解し合える」は通用しない
そのため、昭和世代の上司がZ世代の部下と深い関係を築こうとしても、部下にとってはその姿勢自体が意味不明。昔は「立場が違ってもとりあえず飲めば理解し合える」と言われたものでしたが、今の若者はそもそもお酒を飲みたがりませんし、上司と理解し合いたい、仲を深めたいとも思っていないのです。
その反面、Z世代には浅いつながりを求める傾向が顕著です。例えば2020年は、コロナ禍による外出自粛以降、人と対面で会えないストレスを解消する「実際に会っているかのような感覚を味わえるツール」が、若者の間で多数流行しました。
離れた場所にいる友人とNetflixの作品を同時に視聴することは「ネトフリパーティー」、オンライン飲み会用のアプリは「飲みアプ」などと呼ばれています。これらはいずれも、オンラインでの対面をリアルで会っている感覚に近づけるもの。コロナによってZ世代の中に生まれたニーズのひとつで、その感覚を表すキーワードとしては「ニアリアル」「0密(ゼロみつ)遊び」などが挙げられます。
■昭和世代との決定的な違い
特に「ニアリアル」という言葉は、僕たち大人とZ世代との考え方の違いをよく表していると思います。外出自粛を経て、大人の中には仕事をすべてリモートワークに切り替えて移住する人も出てきました。これは、オンラインがリアルの代替になり得ると考えているためで、ある意味ネットに夢を抱いている証とも言えるでしょう。
しかし、Z世代では「オンラインはリアルの代替にはならない」「直接会えるならそのほうがいいに決まっている」という考え方が主流です。子どもの頃からネットに親しんで育ったためか、オンラインはどんなにリアルに近く見えても「ニアリアル」でしかないと、肌で知っているのです。
■意外と出社したがる若者たち
今はリモートワークを導入している企業も多いと思いますが、在宅勤務を歓迎しているのはどちらかというと昭和世代のほうで、若者はむしろ出社したがっていると聞きます。当社でも、僕はずっと在宅勤務したいぐらいなのに、若手たちの意見は「週3ぐらいは出社したい」「リアルで会いたい」。
だからと言って、僕ら上司と仲を深めたいわけでもなさそうなので、リアルで会うことが「つながり」だと思っているのかもしれません。一見、新世代に歓迎されそうなリモートワークも、実は彼らには「つながり」を断つものとして映っている可能性があるのです。
■ポイントは「浅くつながる」「とにかくほめる」
では、Z世代部下のモチベーションを上げ、能力を伸ばしていくためには、昭和上司はどうすればいいのでしょうか。まず、ZoomやLINEでZ世代の部下とやりとりをする際は、彼らが求める「つながり感」や自己承認欲求を満たしてあげる必要があります。
Zoomなら表情をグンとにこやかにする、LINEなら一文で終わらせず優しい言葉を付け加えるなど、昭和世代に対する時とは違う心遣いが必要でしょう。そして、最も大事なのは「とにかくほめる」こと。とは言え、深く関わろうとする姿勢は彼らにとっては意味不明なので、あくまで「浅く」がポイントです。
昭和世代、特に僕を含めた男性陣にとって、これは非常に難しいですね(笑)。ただでさえ人をほめるのが苦手なのに、まだ成果も出していない新人をほめなきゃいけないわけですから、半端なく気を使わなければなりません。今の管理職は世の中で最も気を使う職業なのでは、とさえ思います。
それでも、Z世代はこれから日本の中核を担っていく世代。優秀な子も多く、やる気と情熱さえキープできれば、きっと新しい価値を生み出していってくれるはずです。Z世代の特徴をつかみ、接し方を工夫しながら、上手に力を伸ばしていっていただけたらと思います。
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マーケティングアナリスト
1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年よりマーケティングアナリストとして活動。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。著書に『平成トレンド史』『それ、なんで流行ってるの?』『新・オタク経済』などがある。2019年1月より渡辺プロダクションに所属し、現在、TBS「ひるおび」、フジテレビ「新週刊フジテレビ批評」「Live News it!」、日本テレビ「バンキシャ」等に出演中。「原田曜平若者研究所」のYouTubeチャンネルでは、コロナ禍において若者の間で流行っていることを紹介中。
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(マーケティングアナリスト 原田 曜平 構成=辻村 洋子)
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